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第9話 星菓子の花

5 星の蜜

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 二人はそのままって、るりなみの部屋に行き、さっそくからはちえに土をって、いくつかの星形ほしがたたねをまいた。

 るりなみがじっと見守る中、ゆめづきは服の中から時計を取り出して、鉢植えの上にかざした。
 ゆめづきの首からくさりでさげられ、金銀きんぎん細工さいくが組まれた、羅針盤らしんばんのような懐中かいちゅう時計どけい
 その中ではゆらゆらとはりれている。

 ゆめづきはじっとそれを見つめながら、側面そくめんのねじをまわした。

 すると……二回、三回とまくうちに、鉢植えから、ぽん、とが出て双葉ふたばが生え、しゅるしゅるとくきやつるがびて、いくつもの葉がついていった。

「すごい!」

 るりなみがおどろきの声をあげるうちにも、ゆめづきがねじをまいている高さも追い抜いて、植物しょくぶつは大きくそだち、やがてあちこちにたくさんのつぼみがついた。

 かち……、と音がするところまで、ゆめづきがねじを回しきった。

「ここまでしか、ねじをまけないみたいですが」

 ゆめづきが首をかしげたとき、ぽんぽんぽんっ、と音がした。

 たくさんのつぼみが、いっせいに花をかせたのだった。

 ──それは見たことのない、星のような花だった。

 花、であるはずなのに、実のようでもある。種のときのような立体の星形がいくえにもはなひらいて、その中にまた星形のかく宿やどしている。
 そのすべては、ガラス細工ざいくのようにきとおり、かさなり合っていろいろな色に見えるのだった。

「きれい……」

 ゆめづきが手でれて揺らすと、ぱきっ、と星形の核の透明とうめいからのようなものがれてしまった。
 その中から、とろりとした液体えきたいが流れ出す。

「大丈夫? けがはない?」
「甘いです!」

 心配してのぞきこんだるりなみに、ゆめづきは指先ゆびさきをなめながら、かがやいた顔を向けた。

兄様にいさまあじわってください、ほら!」

 ゆめづきは、今度はそうっと花をつまみあげてむと、るりなみの手の上で、ぱきりと中の殻を割った。

 とろりと流れ落ちたのは、花のみつだった。

「わぁ……!」

 るりなみはそれを口にふくんで思わず声をあげる。

 その蜜は、どんな花の蜜ともちが風味ふうみだった。
 ハーブのような独特どくとくさわやかなかおりとともに、蜂蜜はちみつのような深い味わいを持っている。

 そうしているうちにも──もう時計のねじはまいていないにもかかわらず、植物は次々つぎつぎにしゅるしゅると新しい葉を出して、群生ぐんせいするつぼみをつけていった。
 見るに、こんもりとしたしげみができて、どっさりと花がつく。

 二人は夢中むちゅうで、いくつもの花の殻を割って、蜜を味わった。

しあわせな味ですね……」
「ゆいりにも持っていってあげたいなぁ」

 幸せにつつまれたまま、るりなみがそう言うと、ゆめづきは真顔まがおになった。

「兄様は、本当にゆいりさんのことが好きなのですね……うらやましいです、そんな素敵すてきな先生がいるなんて」
「そ、それは……」

 るりなみは思わず、言葉をさぐって目をおよがせてしまう。

「もちろん、好きだし、ずっと先生でいてほしいけど……今、ゆいりはとてもいそがしくて……いつまで先生でいてくれるか、わからない」

 そう言ってみて、るりなみは急に泣きたくなった。
 うつむいて涙をこらえるるりなみに、ゆめづきがなにか言葉をかけようとしたとき。

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