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第9話 星菓子の花
6 妖精あらわる
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「ゆいり様に、なにかを持っていきたいのですって?」
やけに明るい声がして、二人が振り向くと、開いた部屋の扉のそばに世話係の「みつみ」が立っていた。
みつみは〝精霊に近しい人間〟とも言われる「妖精」の生まれで、ゆいりと同じくらいの年齢の女性に見えるが、前の前の王の代から王宮に仕えているという。
天候や五感でわかることに関しても、あるいは料理や人付き合いに関しても、とても鋭い勘を持ちあわせ、存在感を放つことも気配を隠すことも得意だと言っていた。
るりなみは毎日、朝の挨拶から夜の眠りの用意までのあいだ、みつみに何度も顔を合わせて世話になっているが、彼女は時々、気配を消してるりなみの様子をうかがっていることがある。
慣れっこではあるのだが、ノックもしてくれないし、物音ひとつ立てないし、隠しごとがあるときにはとても困る。
るりなみはおずおずとみつみを迎えた。
「みつみさん、ええと、実は……」
「見てもいいですか? 珍しい植物ですねぇ」
るりなみが「どうぞ」と招くのに応じて、みつみは興味津々に植物の茂みを眺めながら、部屋に入ってくる。
ゆめづきは、時計をさっと服の内にしまっていた。
しげしげと、ふしぎな花をつついて観察するみつみに、るりなみは説明した。
「こうやって割ると、とっても美味しい蜜が出てきて」
るりなみにならって、みつみも花の中央の星形の殻を割って、蜜を味わう。
ふむふむ、と味をたしかめながら、みつみが言った。
「それなら、この花の蜜で、お菓子をつくってみませんか? 会議のあいまのお茶菓子として、ゆいり様やみなさんに差し入れたら、お喜びになると思いますよ」
じっと黙っていたゆめづきが、わぁ、と目をいっぱいに見開いた。
「私がつくってもいいんですか、お菓子!」
「もちろんですよ」
わぁ……、とゆめづきは感極まったように頬を手で包む。
「小さい頃に教わったきりで、ずうっとやりたかったんです、お菓子づくり!」
「ゆめづき様もるりなみ様も、普段はお勉強やお勤めで根を詰めておられるのですし、みんなで楽しくつくりましょう!」
ゆめづきとみつみは、二人で手を叩き合わせそうなほどはしゃいでいる。
るりなみは、目をぱちぱちとさせていた。
「お菓子って、そんなにすぐに、僕でも、つくれるものなの?」
るりなみはなにもつくり方を知らないらしい……、と気づいたゆめづきが「もう!」とわざとらしい怒り顔になった。
「魔法の呪文でつくるわけじゃありませんからね、兄様」
「では、みんなで花を集めたら、厨房に行きましょう!」
そうやってあっというまに話は進んで、三人はたっぷりと花を摘むと、みつみがそばの部屋から持ってきたかごに入れた。
るんるん、と厨房へ向かうゆめづきとみつみを追って、るりなみも部屋を出る。
バルコニーや天窓の外には、ずっとひらひらと銀の粉雪が舞っていた。
* * *
やけに明るい声がして、二人が振り向くと、開いた部屋の扉のそばに世話係の「みつみ」が立っていた。
みつみは〝精霊に近しい人間〟とも言われる「妖精」の生まれで、ゆいりと同じくらいの年齢の女性に見えるが、前の前の王の代から王宮に仕えているという。
天候や五感でわかることに関しても、あるいは料理や人付き合いに関しても、とても鋭い勘を持ちあわせ、存在感を放つことも気配を隠すことも得意だと言っていた。
るりなみは毎日、朝の挨拶から夜の眠りの用意までのあいだ、みつみに何度も顔を合わせて世話になっているが、彼女は時々、気配を消してるりなみの様子をうかがっていることがある。
慣れっこではあるのだが、ノックもしてくれないし、物音ひとつ立てないし、隠しごとがあるときにはとても困る。
るりなみはおずおずとみつみを迎えた。
「みつみさん、ええと、実は……」
「見てもいいですか? 珍しい植物ですねぇ」
るりなみが「どうぞ」と招くのに応じて、みつみは興味津々に植物の茂みを眺めながら、部屋に入ってくる。
ゆめづきは、時計をさっと服の内にしまっていた。
しげしげと、ふしぎな花をつついて観察するみつみに、るりなみは説明した。
「こうやって割ると、とっても美味しい蜜が出てきて」
るりなみにならって、みつみも花の中央の星形の殻を割って、蜜を味わう。
ふむふむ、と味をたしかめながら、みつみが言った。
「それなら、この花の蜜で、お菓子をつくってみませんか? 会議のあいまのお茶菓子として、ゆいり様やみなさんに差し入れたら、お喜びになると思いますよ」
じっと黙っていたゆめづきが、わぁ、と目をいっぱいに見開いた。
「私がつくってもいいんですか、お菓子!」
「もちろんですよ」
わぁ……、とゆめづきは感極まったように頬を手で包む。
「小さい頃に教わったきりで、ずうっとやりたかったんです、お菓子づくり!」
「ゆめづき様もるりなみ様も、普段はお勉強やお勤めで根を詰めておられるのですし、みんなで楽しくつくりましょう!」
ゆめづきとみつみは、二人で手を叩き合わせそうなほどはしゃいでいる。
るりなみは、目をぱちぱちとさせていた。
「お菓子って、そんなにすぐに、僕でも、つくれるものなの?」
るりなみはなにもつくり方を知らないらしい……、と気づいたゆめづきが「もう!」とわざとらしい怒り顔になった。
「魔法の呪文でつくるわけじゃありませんからね、兄様」
「では、みんなで花を集めたら、厨房に行きましょう!」
そうやってあっというまに話は進んで、三人はたっぷりと花を摘むと、みつみがそばの部屋から持ってきたかごに入れた。
るんるん、と厨房へ向かうゆめづきとみつみを追って、るりなみも部屋を出る。
バルコニーや天窓の外には、ずっとひらひらと銀の粉雪が舞っていた。
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