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4章 三国鼎立

槃瓠の真実

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 義賢が董白と産まれたばかりの娘、牝愛。それに息子である劉白を伴って、戻ってきたのはつい先日であった。帰ってきて、早々に憎き李杏と襄陽城で会ったのだ。険悪になるかと思われたが、、、、
 李杏「槃李杏と申します。一年前は、私のせいで申し訳ありません。でも、劉丁様が心を痛める必要はありません。彼らを容赦なくゴミのように排除して惨殺したのは私たちなのですから。同じ命なのに私は何と愚かなことを。うっうっ」
 義賢「どうされたのです?そのように泣く必要はありません。確かに当時、槃瓠族に対して憎しみが無かったといえば嘘になります。俺も大事な戦友とも言える大事な人を失いましたから」
 李杏「申し訳ありません。そうですよね友人の1人や2人いましたよね。私のせいで。うっうっ」
 義賢「そんなに泣かないでください。大事な人というのは愛馬です。名前を黝廉と言うんですが俺のことを守って亡くなりました。そりゃ当時は俺も死にたいってぐらい絶望に襲われていました。そんな俺を立ち直らせてくれたのは、無くなったものよりも今あるものを大事にしろって言葉でした。当時は、その言葉の意味なんてわからなかった。でも俺には俺のことを心配して、黝廉と同じ馬を探してくれる仲間たちと俺の身をいつも案じてくれる妻の董白。大事な物がたくさんあったんです」
 李杏「そうなのですね。良い言葉ですね。私も、1年前は自分の犯した罪を自覚できませんでした。攻めてきた相手が悪い。魏延を取ろうとした奴らが悪い。そんな私だから慚戯のことも山賊たちのことも信じてしまった。その結果、桂陽の民や零陵の民を傷付けていることなんてこれっぽっちも考えていませんでした。私は何も知らない。山に籠る裸の王様だったんです」
 義賢「今の貴方は随分と蛮族らしさが抜けまるで英雄のように見えます」
 李杏「今の私には1番嬉しい言葉です。今日は、諸葛亮様に1年前に言われたことを聞きにきたんです」
 義賢「そうでしたか。俺はこの後、この馬を連れてきてくれた友たちにその時のことを聞きに行くのです」
 李杏「そうでしたか。では、私と会うと辛いことを思い出させてしまうかも知れませんが」
 義賢「そんなことはありません。もう過去のことはお互い水に流しましょう。お互い己の罪と向き合いながらですが。そういう意味では、俺と李杏殿は罪友ですね」
 李杏「なんか嫌な感じですねそれ。フフッ」
 義賢「戦をしていれば多くの者が死にます。ですが彼らの想いを無駄にせず次代に繋ぐことが大事なのです。偶にはこうして思い出してやらないと彼らに申し訳が立たないのですよ」
 劉備が襄陽城から出てくる。
 劉備「城の前で大声で民同士が話すとはな」
 義賢「兄上!」
 劉備「董白に劉白とこの可愛いのは誰だ?叔父ちゃんだぞ~」
 董白「義兄上、御無沙汰してしまい申し訳ありません。このように無事戻ってまいりました。夫にもう一度、機会を与えてくださり感謝いたします。こちらは娘の牝愛と言います」
 劉白「叔父上」
 牝愛「バブ~」
 劉備「おーやちよち。美人ちゃんでちゅね~」
 義賢「俺だってまだ抱かせてもらってないのに」
 董白「義兄上に先を越されちゃいましたね」
 義賢「良いさ。久々にあんな笑顔の兄上を見た。俺に民への降格処分を言い渡した時の兄上の顔はとても悲しそうだったからな。牝愛が幸せを運んでくれたのかもな」
 董白「そうね。義賢との愛も再認識したし、前よりも生き生きとしてるように見えるわ」
 義賢「あぁ。もう変に片意地を張るつもりはないからな。董白との時間も今以上に優先するつもりさ」
 董白「もう。私にかまけて、自分のことを疎かにするのだけはダメよ」
 劉白「父上も母上もあまり見せつけないで貰えると」
 義賢「ごめんごめん、では兄上」
 劉備「どこに行くのだ。丁、お前が帰ってくるのを待っていたんだ。李杏、お前の聞きたい件について孔明は丁にも同席をとのことだ。構わないか?」
 義賢「了解しました。董白、すまないが士仁たちに今日の予定を断っておいてくれ」
 董白「わかったわ。ほら、帰るわよ牝愛・劉白」
 劉白「はい」
 義賢は李杏と共に孔明の待つところに連れて来られる。
 諸葛亮「及び立てして申し訳ありません劉丁殿」
 義賢「いえ、民の俺が聞いても良いことなのでしょうか?」
 諸葛亮「槃瓠族と関わったものとして知る権利はあるかと思いまして」
 李杏「1年前にも思ったのですがどうして諸葛亮様が槃瓠様のことをご存知なのでしょうか?」
 諸葛亮「槃瓠公のことについてですね。槃瓠公は、かつて夏王朝時代に帝嚳に仕えた奴隷兵でした」
 李杏「!?どうして、そのことを。我ら槃瓠族以外は知らない情報です」
 諸葛亮「私は昔の書物を読み漁るのが趣味でして、その反応。どうやら本当だったみたいですね」
 李杏「ハッタリだったんですか?」
 諸葛亮「ハッタリとは違います。知り得る書物を読んで推測したと言ったところです」
 李杏「全く、狸老や狐娘が警戒していた理由がよくわかりました。貴方は、私から私しか知らない情報を聞きたいのですね」
 諸葛亮「えぇ、私は真実の歴史を知りたいのです」
 李杏「そうですか。諸葛亮様の言う通り槃瓠様は、帝嚳という帝に仕える奴隷兵士でした。ある日犬戎族が攻めてきて、その大将を討ったものに1番末の綺麗な娘を与えると宣言したのです。これに名乗りを挙げたのが槃瓠様でした。槃瓠様は、威勢よく飛び出すと。一瞬で犬戎の将軍の首を挙げたのです。ですが帝嚳は奴隷兵士に娘を与えるなどもってのほかとこれを拒否しました。ですが1番末の娘は、帝国の思惑と違い槃瓠様のことを愛してしまったのです。彼女は、約束は約束だと槃瓠様に嫁ぐと大衆の前で宣言。これに怒り狂った帝嚳は、槃瓠様追討の兵を挙げます。槃瓠様と帝嚳の末の娘は争うことを嫌い山奥へと逃げ、ついに帝嚳は消息を掴めなかったのです。ですが帝嚳の怒りはおさまらない。帝嚳はあろうことか槃瓠様を犬とし、伝承の話とすることで、騒動を無理やり収束させたのです」
 諸葛亮「成程、恐らくその後すぐに夏王朝は突如として終わりを迎えています。数多くの奴隷兵たちが一斉蜂起したのでしょう。そして夏王朝は多くの伝承の中へと埋もれました。ですが確かにそこに存在していた。それを知れただけでも大きな収穫といえます。話してくださりありがとう」
 李杏「このような信憑性のない話を信じると言うのですか?」
 諸葛亮「信憑性はないかもしれませんが民間伝承という有益なものです」
 李杏「話を聞いてもらい私も何だか晴々としています。こちらこそありがとうございます」
 諸葛亮「いえいえ」
 義賢はこの話を俺が聞く意味はあったのだろうかと思うのであった。
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