ロリっ子Jkは平穏を愛す

赤オニ

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「美味しいクレープ屋知ってるんだ。よかったら六花も行かない?」


 授業が終わり、帰り支度をしていたら凛に声をかけられた。
 学校帰りに、友達と買い食い。物凄く高校生って感じがする! わたしの小中学生は幽体であやかし退治などという非日常に明け暮れていたので、友達と買い食いなんて初めて。これぞ平和といった感じがする。
 嬉しくて、頷いて席から立ち上がると、鞄を持ってにこにこ顔の木葉ちゃんと不機嫌顔の紅葉君が立っている。


 女子3人で楽しく喋りながら歩き、紅葉君は黙りこくったまま。
 クレープ屋に着くと、結構な人数が並んでいる。女子のグループだったり、カップルだったり。若い人がわたしたちと同じく、学生が多い。
 4人で列に並ぶ。3人で喋っているとあっという間に順番がきた。メニュー表を見てどれにしようか悩んでいると、凛と木葉ちゃんはすぐに決まったみたいでそれぞれ頼んでいる。


 悩んだ末、ツナコーンのクレープにする。わたしが指さしたメニューの写真に、誰かの指が被る。
 見上げると、潰れた虫を見てしまったような顔をした紅葉君がいたので、どうやら被ったのは紅葉君のようだ。
 そこで店員さんが余計な一言を。


「仲良いね! カップル?」
「ちがっ」
「誰がこんなチビとカップルだ!」


 否定の声がハモったのが店員さんの顔を更ににやけさせる。が、わたしはそれどころじゃない。


「誰がチビだって!?」
「はぁ? どう見てもチビだろ! 胸だってーー」
「男を再起不能にしてやろうかっ」
「ちょっと、2人とも落ち着きなよ~。とりあえずクレープ決まったんだから、列離れよ~」


 木葉ちゃんが間に入って、4人分の注文を終えて紅葉君の背中を押して連れていく。
 わたしは凛と一緒に列から離れたけど、紅葉君を鬼の形相で睨んでいたようで、凛が申し訳なさそうに眉を下げる。


「ホントごめん……紅葉が……」
「凛が謝ることないよ。……わたしも熱くなっちゃったな。ごめんね」
「紅葉がごめんね~。蹴っておいたから、クレープ焼ける頃には頭冷えると思う」


 暗い雰囲気になってしまったわたしと凛の間に入って、マイナスイオンを発しながらさらりとすごいことを言う木葉ちゃん。
 紅葉君の方をチラ見すると、痛そうにすねの辺りをさすっている。


 ……やっぱり木葉ちゃんの方が立場強いなぁ。しかもすねを狙って蹴るあたり、結構容赦ない。


 クレープを店員さんから受け取って、雰囲気を変えるためか明るい声で凛が写真を撮ろうと言ってくれたので、女子3人でベンチに座り写真を撮る。
 撮った写真を送って貰って、保存してからクレープを食べる。


 ほんのり甘い生地と、おかず系の具がよく合っていて美味しい。
 クレープだとバナナチョコとかいちごカスタードとか、甘い系が多いけど、わたしはどちらかといえばおかず系の方が好き。


 凛はいちごチョコのバニラアイスのクレープ。木葉ちゃんはいちごカスタードのクレープを頬張っている。
 自分のクレープにかじりつきながら、少し離れたところで同じクレープを一人食べている紅葉君に視線を向ける。どうしてあんなにもわたしに対して警戒しているのか、キチンと話をしたい。口を動かしながら、1人考えた。


「おはよ、六花」
「おはよ~、2人とも」
「おはよう! 凛、木葉ちゃん。……紅葉君」


 わたしの挨拶に、紅葉君からの返事はない。
放課後話が出来るか考えながら、席について授業が終わるのを待つ。放課後、帰り支度を素早く済ませ紅葉君の元へ行こうとしたら、目の前に一枚の紙が降ってくる。
 紙から声が聞こえてきた。


<やぁ六花ちゃん。悪いけど学校が終わったら僕の事務所へ来てくれないかい? 式神を飛ばしたから、着いてきてくれたらいいよ。よろしくねー。犬飼より>


 勝手に伝え、紙が鳥の形に姿を変え飛んでいく。


 ……なんてタイミングの悪い犬飼さん。嫌がらせでやってないだろうな!? もう、行くよ行きますよ! 行かなかったら後で雨城さん経由で文句がきそうだし。


 紅葉君のところへ行くのを諦めて、ピィピィと五月蝿く鳴いて急かしてくる鳥の式神の後を追って学校を出た。
 路地裏をうねうねと曲がって、見上げると首が痛くなるほど高いマンションにたどり着く。
 鳥の案内に従って番号を押してエレベーターで上がっていく。一室の部屋の前で立ち止まると、式神は役目を終えたようで小さな煙とともに消えた。


「よく来たね、いらっしゃい六花ちゃん」
「犬飼さん。とりあえず一発殴らせて」
「え? 何で!?」


 問答無用で腹に頭突きを食らわせ、玄関先でうずくまる部屋の主を無視して勝手に上がり込む。部屋の中は、モノトーンでとってもシンプルだった。オシャレだ。悔しいかなオシャレである。


 テーブルの上にカップに入ったココアが置かれた。見ると、口元だけ笑みを浮かべた儚げな女の人が立っていた。
 女の人はココアを置いた場所の真向かいにコーヒーの入ったカップを置いて、静かに部屋を出ていった。


 あやかしのような雰囲気のする女の人だなぁ。あやかしかなぁ。わたしじゃ区別つかないからな。
 ううむ、と考えていると、ようやく痛みから復活した犬飼さんが涙目でソファに腰掛ける。コーヒーを一口飲んで、息を吐き出す。
 わたしもソファに座ることにした。ココアを飲んで、真正面に座る相手を睨みつける。


「それで? なんの用」
「不機嫌だね……。だからって会うなり頭突きしなくても」
「……式神使って呼び出すなんて、随分と祓い人らしくなったねぇ、犬飼さん」
「まぁね。それで、依頼なんだけど。この写真の女性、ストーカー被害に合っているみたいなんだ。その女性のストーカー相手から、依頼があったのさ。被害を受けている女性と、ストーカー相手の2人からだね」


 すました顔で嫌味を受け流す態度に内心舌打ちしながらも、おかしな依頼だと首を傾げる。
 女の人と、男の人の写真がそれぞれ一枚ずつテーブルの上に並べられる。
 ストーカー被害なら警察の出番だ。こんな胡散臭い情報屋兼祓い人に助けを求めている場合じゃないと思う。
 でも、ストーカーしている相手からの依頼はなんだろう? わたしに依頼してくるから、あやかしや怪異、幽霊関係なのは確かだけど……。


 被害を受けている女の人の写真とストーカーの男の人の写真を見て、2人の写真にそれぞれ影のようなものが写っているのがわかる。
 写真越しではあやかしなのか判別はつかないけど、とりあえず2人に会って話を聞いた方が早そう。


「まずは女の人の話を聞きに行く。呑気にコーヒー飲んでないで、行くよ!」
「わかったよ。あちち」


 猫舌なのに何で毎回熱々のコーヒー飲んで舌火傷してるんだろう……バカなのかな。熱い熱い言いながらなんとかコーヒーを飲み干した犬飼さんを半目で見ながら、ココアを飲み干す。
 唇についたココアを舐めとって、女の人の写真に視線を向ける。


「えっと……?」
「初めまして、杠六花と言います。犬飼さんからの依頼でお話を聞きに来ました」


 ファミレスの席に3人で座る。女の人が、何か言いたげな視線を犬飼さんに向けるけど、当の本人は熱々のコーヒーと格闘中である。
 ストローをくわえオレンジジュースを喉に流してから、笑顔で問いかける。


「みきさん。あなたを守っているのは悪いモノではありません。祓う必要はないです。なので、こんな胡散臭い情報屋兼祓い人なんかに相談せずに、ストーカーの被害届を警察に出した方が早いですよ」
「胡散臭いなんて酷いなぁ。僕は人当たりもいいし、六花ちゃんみたいに口も悪くないよ?」
「あの、犬飼さん。この子は一体……?」


 戸惑いを隠せない様子の女の人の隣には、こちらを睨みつける幼い男の子が立っていて、その手は庇うように広げられている。
 ストーカーから女の人を守っていたのは、この男の子で間違いなさそう。
 テーブルに並んだハンバーグを一口サイズに切り分け、小皿に置いてフォークと一緒に男の子の前に置く。びっくりした顔でわたしの顔を見る小さな守護霊に、笑みを向ける。


「食べてごらん。味も食感も分かるよ。それとも、ハンバーグは嫌いかな?」


 自分の隣に話しかけるわたしに、明らかに怯える女の人。
 それを見なかったことにして、男の子の目を真っ直ぐ見る。
 フォークを握り、つついてから、警戒しながらもハンバーグを口に運ぶ。少しして、まん丸の目から大粒の涙をこぼして、男の子が声を抑えて泣く。もぐもぐしながら、味と食感を噛み締めている。


 頭上で女の人と犬飼さんが会話しているのを聞きながら、泣き止んだ男の子が真っ赤にした目で、訴えてくる。


<いもうとを、たすけてあげて>
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