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リリア・ツヴァイの章
湖アシカ
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CLSに感染した湖アシカをそのままにはしておけなかったことで、リリアテレサは念の為に持ってきていたハンドガンを構え、私を狙って陸に上がってきたCLSアシカの頭に狙いを定め、引き金を引いた。
今回は三十八口径のハンドガンでも事足りて、ぱたりと力なく地面に突っ伏した。
「埋めてあげようか…?」
横たわる湖アシカの死体を見て私はリリアテレサにそう尋ねてた。CLSバッファローは体重が一トン以上あってリリアテレサにもどうすることもできなかったからそのままにしてきたけど、この湖アシカなら体重も百キロもなさそうだし、何とかできそうだって思ったんだ。
「…分かった」
リリアテレサもそう応えてくれた。
リアカーからシャベルを取ってきてそれで砂浜に穴を掘り、湖アシカの死体を引っ張ってそこに収め、砂を掛けて埋めた。
さすがに墓標までは立てなかったけど、簡単なお墓になった。
湖アシカの体は微生物によって分解され、やがて土に還る。生命の循環にこの湖アシカも還って行くということだ。恐ろしい病をもたらすCLSウイルスも、宿主が活動を停止し、食べることができなくなれば宿主そのものを食べてでも生き延びようとして、最終的には宿主の体を塵に変えて自分達も滅ぶ。でも、それより先に他の微生物に宿主の体を食べられてしまってやっぱり滅ぶ。
さすがのCLSウイルスも、条件が整わないと休眠状態に入って長い期間を宿主なしでも生き延びられるようにはならないらしい。また、宿主を介してでしかエネルギー補給ができないのも分かってる。
CLSウイルスを倒すには、とにかく宿主の活動を停止させるしかないんだよね。
本当に厄介なウイルスだ。
ただこれで、この湖アシカも救われるだろう。
…救われる……?
何から? CLSウイルスから…?
もうこの湖アシカ自身は本来の<脳>を失って何も分からないのに?
それどころか、既に別種の<新しい生き物>として生きてたとも言えるかもしれないのに?
CLSウイルス自体は何者かによって意図的に生み出されたものかもしれなくても、それがこうして完全にこの惑星に定着してしまっているということは、それ自体が生命の循環の一部になってるってことなんじゃないかな。
それを、人間にとって都合の悪いものだからって<悪>のように断じて否定するって、おかしくないかな。
…なんてことを考えてしまうのも、人間的な思考かもしれない。だって完全なロボットであるリリアテレサはそんなことを考えないから。
湖アシカの体が埋まってる分盛り上がった小さな砂の山を見て、私はぼんやりと思考してたのだった。
今回は三十八口径のハンドガンでも事足りて、ぱたりと力なく地面に突っ伏した。
「埋めてあげようか…?」
横たわる湖アシカの死体を見て私はリリアテレサにそう尋ねてた。CLSバッファローは体重が一トン以上あってリリアテレサにもどうすることもできなかったからそのままにしてきたけど、この湖アシカなら体重も百キロもなさそうだし、何とかできそうだって思ったんだ。
「…分かった」
リリアテレサもそう応えてくれた。
リアカーからシャベルを取ってきてそれで砂浜に穴を掘り、湖アシカの死体を引っ張ってそこに収め、砂を掛けて埋めた。
さすがに墓標までは立てなかったけど、簡単なお墓になった。
湖アシカの体は微生物によって分解され、やがて土に還る。生命の循環にこの湖アシカも還って行くということだ。恐ろしい病をもたらすCLSウイルスも、宿主が活動を停止し、食べることができなくなれば宿主そのものを食べてでも生き延びようとして、最終的には宿主の体を塵に変えて自分達も滅ぶ。でも、それより先に他の微生物に宿主の体を食べられてしまってやっぱり滅ぶ。
さすがのCLSウイルスも、条件が整わないと休眠状態に入って長い期間を宿主なしでも生き延びられるようにはならないらしい。また、宿主を介してでしかエネルギー補給ができないのも分かってる。
CLSウイルスを倒すには、とにかく宿主の活動を停止させるしかないんだよね。
本当に厄介なウイルスだ。
ただこれで、この湖アシカも救われるだろう。
…救われる……?
何から? CLSウイルスから…?
もうこの湖アシカ自身は本来の<脳>を失って何も分からないのに?
それどころか、既に別種の<新しい生き物>として生きてたとも言えるかもしれないのに?
CLSウイルス自体は何者かによって意図的に生み出されたものかもしれなくても、それがこうして完全にこの惑星に定着してしまっているということは、それ自体が生命の循環の一部になってるってことなんじゃないかな。
それを、人間にとって都合の悪いものだからって<悪>のように断じて否定するって、おかしくないかな。
…なんてことを考えてしまうのも、人間的な思考かもしれない。だって完全なロボットであるリリアテレサはそんなことを考えないから。
湖アシカの体が埋まってる分盛り上がった小さな砂の山を見て、私はぼんやりと思考してたのだった。
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