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生まれきたる者
一緒に飲まねえか?
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健雅が蓮華の部屋を漁ってこの家の収支を確認して数日後、
「なあ、たまには一緒に飲まねえか?」
そう言って健雅が、ビールを手に蓮華に声を掛けてくる。いかにも人懐っこい表情で。
これだ。これがこの男の特長だった。いかにも悪そうな普段の様子の中で時折見せるこの表情に人は騙される。
とは言え、蓮華はそういう人間も何人も見てきているので、それで騙されることはない。
「そうね、いただくわ」
蓮華が渡した金で買ったビールで抜け抜けと言う健雅に対しても彼女は穏やかに応えた。
こうして二人だけで飲み始めたのだが、蓮華は基本的に普段は酒は飲まない。子供のようなその体は、アルコールへの耐性も子供のそれと変わらなかった。
缶ビールを一口飲んだだけで顔が真っ赤になる。
しかしそんな蓮華に構わず、健雅は言った。
「俺らが散々っぱら苦労してる時に本家のお前らは馬鹿みたいに金を使いまくっていい暮らししてたんだよな? 不公平じゃねーか。俺もお前も同じ人間なんだろ? なんで差があるんだよ。人間は平等じゃないのかよ?」
典型的な、<不公平><平等>という言葉を盾にした見当違いの難癖だった。
自分達が苦労してきたのは、他人に疎まれる生き方をしてきたからだ。困ってる時に力を貸してあげたいと思ってもらえるような生き方をしてこなかったからだ。
困ってたらそれこそ『ざまあみろ』『いい気味だ』『自業自得だ』と石を投げられるような生き方をしてきたから、自分の周りにも同じようなタイプしか集まらず、<困ってる時にこそ助けてくれる仲間>を作れなかったのだ。
それを棚に上げ、今、こうしてロクでもない自分を見捨てずに毎日十万円も出してくれる蓮華にそれを言う神経は、もはや逆に天晴と言えるかもしれない。
なのに蓮華は、なおも怒りをあらわにするでもなく、健雅の言葉に耳を傾けた。すると健雅は、
「謝罪しろ。今ここで。『心から反省してます。私が間違ってました』って一筆入れろ。それで勘弁してやる」
とまで言い放ったのだ。
もはや無茶苦茶である。道理も何もあったものではない。難癖もここまで来るとすごいものだろう。
それでも蓮華は、
「分かった……」
と口にしながら、健雅が差し出したメモ用紙に、
『私が間違ってました。心よりお詫び申し上げます』
書き込んだのであった。
それを見た健雅の貌。
悪魔もかくやという、邪悪そのものと言うべきそれ。
この男は心底腐ってしまっているのだと、百人が見れば百人が思うであろうおぞましい姿。
本当に<救い>などどこにあるというのだろうか?
「なあ、たまには一緒に飲まねえか?」
そう言って健雅が、ビールを手に蓮華に声を掛けてくる。いかにも人懐っこい表情で。
これだ。これがこの男の特長だった。いかにも悪そうな普段の様子の中で時折見せるこの表情に人は騙される。
とは言え、蓮華はそういう人間も何人も見てきているので、それで騙されることはない。
「そうね、いただくわ」
蓮華が渡した金で買ったビールで抜け抜けと言う健雅に対しても彼女は穏やかに応えた。
こうして二人だけで飲み始めたのだが、蓮華は基本的に普段は酒は飲まない。子供のようなその体は、アルコールへの耐性も子供のそれと変わらなかった。
缶ビールを一口飲んだだけで顔が真っ赤になる。
しかしそんな蓮華に構わず、健雅は言った。
「俺らが散々っぱら苦労してる時に本家のお前らは馬鹿みたいに金を使いまくっていい暮らししてたんだよな? 不公平じゃねーか。俺もお前も同じ人間なんだろ? なんで差があるんだよ。人間は平等じゃないのかよ?」
典型的な、<不公平><平等>という言葉を盾にした見当違いの難癖だった。
自分達が苦労してきたのは、他人に疎まれる生き方をしてきたからだ。困ってる時に力を貸してあげたいと思ってもらえるような生き方をしてこなかったからだ。
困ってたらそれこそ『ざまあみろ』『いい気味だ』『自業自得だ』と石を投げられるような生き方をしてきたから、自分の周りにも同じようなタイプしか集まらず、<困ってる時にこそ助けてくれる仲間>を作れなかったのだ。
それを棚に上げ、今、こうしてロクでもない自分を見捨てずに毎日十万円も出してくれる蓮華にそれを言う神経は、もはや逆に天晴と言えるかもしれない。
なのに蓮華は、なおも怒りをあらわにするでもなく、健雅の言葉に耳を傾けた。すると健雅は、
「謝罪しろ。今ここで。『心から反省してます。私が間違ってました』って一筆入れろ。それで勘弁してやる」
とまで言い放ったのだ。
もはや無茶苦茶である。道理も何もあったものではない。難癖もここまで来るとすごいものだろう。
それでも蓮華は、
「分かった……」
と口にしながら、健雅が差し出したメモ用紙に、
『私が間違ってました。心よりお詫び申し上げます』
書き込んだのであった。
それを見た健雅の貌。
悪魔もかくやという、邪悪そのものと言うべきそれ。
この男は心底腐ってしまっているのだと、百人が見れば百人が思うであろうおぞましい姿。
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