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生まれきたる者

今すぐ手を打たねえと

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健雅に毎日十万円を渡し、探偵達への心づけに一万五千円、さらに探偵事務所に依頼料として三百万円を支払っていたことで、蓮華の一ヶ月の支出は六百数十万円にのぼっていた。

いくら年間数千万円の収入があるといっても決して少ない支出ではない。むしろ、このまま払い続ければ数年とか掛からず蓄えも尽きるレベルである。

「おいおい、マジかよ……」

蓮華の外出中に彼女の部屋を漁り、クローゼットにしまわれていた預金通帳を見た健雅は、入金額の数倍の出金があり、預金残高が凄まじい勢いで減っている状況に苦々しく顔を歪めた。

「何だあの女。経済観念ってもんがあんのか? 家にゃ大して使ってねえクセに何だよこの出費はよ。ホストにでも貢いでやがんのかあ?」

自身の非常識な金の使い方は棚に上げ、忌々しげに呟く。

「こりゃ、今すぐ手を打たねえとあのババアと心中だな。やってられるか……!」

ニヤアと、その中にある醜く歪んだ黒いものがそのまま形になったかのような邪悪な笑みを浮かべ、言った。



「……」

子供達の命を救う活動を引き継いでくれた獅子倉ししくらと会っていた蓮華は、家に帰って自分の部屋に入った瞬間、違和感を覚えた。ドレッサーに置かれたスキンケア用品の位置が微妙に変わっていたからだ。ドレッサーの鏡の下にある引き出しを開けるためにはどかさないといけないはずだったのが、どかさなくても引き出しが開けられる位置にずれていた。

それで状況を察した彼女は、クローゼットの引き出しにしまっていた通帳を確認する。

銀行印とキャッシュカードはポーチに入れて身に付けているのですぐに引き出される心配はなかったものの、引き出しの中の通帳の位置も明らかに変わっていた。

『思ったよりは遅かったけど、まあ、来るものが来たって感じね……』

健雅が通帳を漁ったことを悟り、蓮華はむしろホッとしていた。

狙いをこちらに付けてくれたことを確認できたからだ。

なお、有価証券の類は電子化しているので、勝手に持ち出されることもない。家の権利書も銀行の貸金庫の中だ。

もっとも、それでも別に構わなかったが。健雅が満足してくれて他人に害を及ぼさずにいてくれるなら。

しかし、これからが本番だ。いよいよ健雅が自身の欲望を剥き出しにして、いや、今までも十分に欲望剥き出しだったが、さらにそれを先鋭化させて動き出すだろう。監視も強化しなければいけない。

玄関前を映し出す監視カメラだけでなく、吹き抜けになった玄関ホールを映す監視カメラの調子を、蓮華は再度確認したのだった。

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