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むりょく(1)
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薄暗い洞穴の奥、普通の人には立ち入ることなど許されない禁忌の地にて、一つの儀式がなされようとしている。
祭壇の上の一つの大きな緑岩を囲むように屈強な男たちが立ち並んでおり、服をつけていない彼らの体にはところどころ緑色の線で描かれた奇妙な紋様が見られる。
彼らは声を揃えて祝詞を詠みあげ、声を大にして祈りを捧げる。
「我らが神
我らが王
我らが主
我らが番人
その名を【緑】
願いをここに、祈りを胸に
我らに快を
我らに悦を
我らに繁を
我らに楽を
我らに安寧を授けるものよ
その名を【緑】
弱き我らに技を、幼き我らに力を
与えたまえ、与えたまえ」
繰り返される男たちの声は洞穴の中を何度も何度も反響し、やがて意味を成さないただの音へと変化していく。
音の響きが強まっていく度に中心の緑岩はその輝きを増していき、その光は小さな部屋を満たしていく。
そうして広がった光は次の瞬間、刹那の間にその煌めきを集約し消えていった。
急なフラッシュに目を閉じた男たちは一人、また一人とその目を開けていく。
目の前にあるのは先程までの輝きなど嘘偽りなのではないかと考えてしまうほどに黒ずんだ大きな岩と、先程までの光を全て凝縮したかのような明かりを放つ小さな輝石であった。
並び立っていた男たちの間を縫うように一人の老夫が入ってきて、転がる小さな輝石を観察し、鑑定していく。
そして数分経った頃に彼は固唾を飲んで見守る男たちの方を振り返って歓喜の色を滲ませた声で叫び上げた。
「おおぉぉおおぉ、此度もまた【緑】は我らが願いを聞きととげてくれたぞ。これで我らは安泰だ。これで我らは安定だ。【緑】は我らを見捨てないでいてくれてるぞ!!」
「うおぉぉぉおおぉおおぉぉおおお!!!!!」
割れんばかりの歓声を轟かせて、男たちは跳んだり跳ねたりと思い思いの方法でその喜びを表現している。
そんな幸福な様子を眺めながら老父もまた笑い、内なる感情を独り吐露する。
「これさえあれば、この【鍵石】さえあれば我らは一生食いっぱぐれない。永遠の繁栄さえも夢物語ではない。すでに我らが楽園の完成は確約されたも同然よな」
ほんの少しの意地汚さが垣間見えるにやけ顔を、しかし数秒で消し去ると、老父は次の指示を喜びに更ける男たちに出していくのだった。
今更ながらで誠に恐縮なのだが、ここで少しばかりこの物語の舞台について説明をさせてもらいたいと思う。もちろんこんな形で物語の作者が作品に対して介入すると言う行為がどれほど異質で異常なものなのかを理解した上での行動でもあるので、常識知らずの烙印をどうか押さないでいただきたい。
私が誰なのかと言う質問に対しては残念ながら適切で端的な解を持ち合わせていないので、誤解無く正しい情報を伝えられるような高等なことは出来はしない。
最も分かりやすく、且つ最も相応しい名称を解答するならばそれはおそらく【観測者】だ。
私は全ての世界を観察して、全ての時間を眺めている者だ。一つの漏れもなく、一つの抜けもなく全てを見てそれを記録している。
故に私が先程までに書いていた駄文と呼ぶべきクオリティの文は私の創作ではなく、私の空想でもない。あれは私が見たとある世界のとある物語の一部分、その一端である。つまり言うに及ばずなことではあるが、あれはフィクションではなく事実を私なりの解釈のもとに書き連ねているものである。
そのためどうも言い訳がましく聞こえてしまうが、物語の展開や結末にはどうか文句を言わないでほしい。それがたとえどれほどご都合主義の下らないB級ラブコメのようなものであったとしても、たとえどれほど報われないモノの悲劇と怨嗟の連鎖に彩られていたとしても。
何故なら私は【観測者】だからだ。史実と違う虚飾に溢れたハッピーエンドを書くのは私の仕事ではない。
長くなってしまったが、私の定義だなんてそんなものはどうだっていい。大切なのは私がここに綴る物語の方なのだから。
ここは君達の住まう地球とは違う場所にある、そもそも君達の生けるこの銀河 の中には存在しない場所での物語である。
この地では代々【緑】と呼ばれるエメラルドに色形が酷似した、けれどその実 全く違う不思議な力のこもった宝石が祀られていた。この地に住まうグレエン族の人間は【緑】に祈りを捧げることで、その力の一端が凝縮された【鍵石】を授かり、これを加工することで彼らはあらゆる繁栄を手にしていた。【緑】はおおよそ数ヵ月でその力を最大まで高めて、【鍵石】を作ることでその力を一時的に全て使い果たし、再びまた力を溜めるという周期を繰り返していた。グレエン族の人間もまた、その周期に合わせる形で【緑】に祈りを捧げ【鍵石】を適切なタイミングで賜っていた。
さて、それではそんな彼らの行く末を君たちにも見届けてもらおう。グレエン族と【緑】、この二つは如何な関係性を築いていくのか君たちにも最後まで見てほしい。
つづく
祭壇の上の一つの大きな緑岩を囲むように屈強な男たちが立ち並んでおり、服をつけていない彼らの体にはところどころ緑色の線で描かれた奇妙な紋様が見られる。
彼らは声を揃えて祝詞を詠みあげ、声を大にして祈りを捧げる。
「我らが神
我らが王
我らが主
我らが番人
その名を【緑】
願いをここに、祈りを胸に
我らに快を
我らに悦を
我らに繁を
我らに楽を
我らに安寧を授けるものよ
その名を【緑】
弱き我らに技を、幼き我らに力を
与えたまえ、与えたまえ」
繰り返される男たちの声は洞穴の中を何度も何度も反響し、やがて意味を成さないただの音へと変化していく。
音の響きが強まっていく度に中心の緑岩はその輝きを増していき、その光は小さな部屋を満たしていく。
そうして広がった光は次の瞬間、刹那の間にその煌めきを集約し消えていった。
急なフラッシュに目を閉じた男たちは一人、また一人とその目を開けていく。
目の前にあるのは先程までの輝きなど嘘偽りなのではないかと考えてしまうほどに黒ずんだ大きな岩と、先程までの光を全て凝縮したかのような明かりを放つ小さな輝石であった。
並び立っていた男たちの間を縫うように一人の老夫が入ってきて、転がる小さな輝石を観察し、鑑定していく。
そして数分経った頃に彼は固唾を飲んで見守る男たちの方を振り返って歓喜の色を滲ませた声で叫び上げた。
「おおぉぉおおぉ、此度もまた【緑】は我らが願いを聞きととげてくれたぞ。これで我らは安泰だ。これで我らは安定だ。【緑】は我らを見捨てないでいてくれてるぞ!!」
「うおぉぉぉおおぉおおぉぉおおお!!!!!」
割れんばかりの歓声を轟かせて、男たちは跳んだり跳ねたりと思い思いの方法でその喜びを表現している。
そんな幸福な様子を眺めながら老父もまた笑い、内なる感情を独り吐露する。
「これさえあれば、この【鍵石】さえあれば我らは一生食いっぱぐれない。永遠の繁栄さえも夢物語ではない。すでに我らが楽園の完成は確約されたも同然よな」
ほんの少しの意地汚さが垣間見えるにやけ顔を、しかし数秒で消し去ると、老父は次の指示を喜びに更ける男たちに出していくのだった。
今更ながらで誠に恐縮なのだが、ここで少しばかりこの物語の舞台について説明をさせてもらいたいと思う。もちろんこんな形で物語の作者が作品に対して介入すると言う行為がどれほど異質で異常なものなのかを理解した上での行動でもあるので、常識知らずの烙印をどうか押さないでいただきたい。
私が誰なのかと言う質問に対しては残念ながら適切で端的な解を持ち合わせていないので、誤解無く正しい情報を伝えられるような高等なことは出来はしない。
最も分かりやすく、且つ最も相応しい名称を解答するならばそれはおそらく【観測者】だ。
私は全ての世界を観察して、全ての時間を眺めている者だ。一つの漏れもなく、一つの抜けもなく全てを見てそれを記録している。
故に私が先程までに書いていた駄文と呼ぶべきクオリティの文は私の創作ではなく、私の空想でもない。あれは私が見たとある世界のとある物語の一部分、その一端である。つまり言うに及ばずなことではあるが、あれはフィクションではなく事実を私なりの解釈のもとに書き連ねているものである。
そのためどうも言い訳がましく聞こえてしまうが、物語の展開や結末にはどうか文句を言わないでほしい。それがたとえどれほどご都合主義の下らないB級ラブコメのようなものであったとしても、たとえどれほど報われないモノの悲劇と怨嗟の連鎖に彩られていたとしても。
何故なら私は【観測者】だからだ。史実と違う虚飾に溢れたハッピーエンドを書くのは私の仕事ではない。
長くなってしまったが、私の定義だなんてそんなものはどうだっていい。大切なのは私がここに綴る物語の方なのだから。
ここは君達の住まう地球とは違う場所にある、そもそも君達の生けるこの銀河 の中には存在しない場所での物語である。
この地では代々【緑】と呼ばれるエメラルドに色形が酷似した、けれどその実 全く違う不思議な力のこもった宝石が祀られていた。この地に住まうグレエン族の人間は【緑】に祈りを捧げることで、その力の一端が凝縮された【鍵石】を授かり、これを加工することで彼らはあらゆる繁栄を手にしていた。【緑】はおおよそ数ヵ月でその力を最大まで高めて、【鍵石】を作ることでその力を一時的に全て使い果たし、再びまた力を溜めるという周期を繰り返していた。グレエン族の人間もまた、その周期に合わせる形で【緑】に祈りを捧げ【鍵石】を適切なタイミングで賜っていた。
さて、それではそんな彼らの行く末を君たちにも見届けてもらおう。グレエン族と【緑】、この二つは如何な関係性を築いていくのか君たちにも最後まで見てほしい。
つづく
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