上 下
14 / 36
4章

4

しおりを挟む
 葬儀の日も列席者は結構いた。
 席は半分くらい埋まってたと思う。
 さあそろそろ出棺しようかという時に外で暴れてる声が聞こえた。
 皆が棺に囲むように集まってる中、列席者達が何かしらと顔を見合わせる。
 声の主がだんだんホールへ近づいてくる。
 そして中に入ってきた。
 ――田丸家だった。
 通夜と同様家族そろって場所にそぐわない格好で来た。
「あれ、昨日の……」
「止めれなかったの?」
 ざわつくホールに気にもせず、田丸の父は「おい来たぞ! 辛気くせーなー」とヤジを飛ばす。
「あっ、お花だーちょーだいー」
 田丸は祭壇にある花を乱暴に引きちぎる。
「す、すみません! 止めれなくて!」
 女性の葬儀スタッフが申し訳無さそうに会場の人達に頭を下げる。
「申し訳ございませんが、ご家族様と近い友人だけなので本日は……」と女性スタッフが田丸一家に声をかける。
「あん? この女は息子の友人だぞ。出て悪いんか?」
 田丸の父は女性スタッフに凄む。
「それとも差別する気? 息子が病気だからって」
 「いえ、そういうつもりではなく、ご遺族の意向で……」
 スタッフの声のが弱々しくなる。
 田丸父と母は私達家族に近づいてきた。
「あんた達差別するの? うちの息子と同級生だったから出てもいいでしょ! 来てやったというのに……」
 田丸の母が喚く。
 ホールの雰囲気が凍りつく。
 来てやったって、むしろこちらはお断りしたいわ!
 田丸は棺に行ってドンドンと叩く。
 しかも勝手に棺の窓を開ける。
「ねーしーちゃんー、おきてよー! 朝だよ!」
 祭壇の花は引きちぎられ、あちこち床に落ちていた。
「お客様、棺に触るのはご遠慮頂けますか?」
 スタッフに注意された瞬間、田丸は大きな声でギャーと叫びながらひつぎを叩く。
 まるで邪魔されたといわんばかりに。
 精進落とし終了後に、葬儀スタッフにあの家族を入らせるなと父が強く言っていた。
 対応したのが女性スタッフで押しのけて力づくで中に入ろうとしたのだろう。
「来てやったって、何ですか? 頼むから邪魔しないで下さい! おたくらのせいで……」
 母が唇を震わせながら訴える。
「えっ? うちの息子さんが何したってのよ? 勝手に死んだんでしょ。息子の要望聞かなかったあんたの娘が悪いのよ。ブスの癖にうちのかわいい息子のお気に入りになってもらっただけでありがたく思いなさいよ!」
 田丸の母の心ない言葉に母は泣き崩れる。
 私達家族、列席者達何も返せないこの無力感。
「妹がブスですって? 聞き捨てならないですね」 
「ブスは事実じゃない。うちの息子は純粋で天使みたいなものよ。そんな息子の言うことを聞けないお前の妹に天罰が下ったのよ!」
 吐き捨てるように田丸の母が妹を侮辱ぶじょくする。
 「どこが天使? 悪魔の間違いでしょ? あなたの息子さんがやったことぜーんぶ知ってますよ。カエルの子はカエルって言いますけど、見事に息子さん引き継いでますね」
「さすが近所で有名人なだけありまして肝がすわってますねー。まともな人なら、出禁を言われた時点でここに来ないですよー」
「息子さんが癇癪おこしても、暴力ふっても何も対処しない時点で差別もなにもあるか! 自分達の身を守るために避けてるだけです。それが何か?」
「これ以上妹の最期さいごを邪魔するなら容赦なく叩き潰します!」
 自慢の妹をこれ以上侮辱されてたまるか。
「亜津紗、もういいから、これ以上言うな」
 父に止められた私は、呼吸が荒くなっていた。
 セレモニースーツに悪い汗が染み付いていた。
 例のガタイいい男性スタッフが「申し訳ございませんが、あなた達は出禁です。これ以上台無しにされるなら警察呼びます。それでもよろしいですか?」
 「はぁ? 警察だと?  この田丸様に逆らう気か? 俺の鶴の一声でお前たちを潰すことができるんだぜ。ここの葬儀会社は障害者差別するってな」
「障害者だろうが病気だろうが、ご遺族の意向で式を台無しにする方は入場禁止にして欲しいと。私達スタッフはそれに応えるまでです――もう一度言います、あなたがたは出禁です」
「この方達をお連れしなさい」
 男性スタッフ達が力づくで田丸家を追い出す。
「……俺の力でこの会社を潰してやる! 覚えとけ!」
  田丸の父は捨て台詞を吐いてホールを追い出された。
 仕切り直して、妹の最期を送ることができた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

結婚式の日取りに変更はありません。

ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。 私の専属侍女、リース。 2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。 色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。 2023/03/13 番外編追加

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

【完結】悪女のなみだ

じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」 双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。 カレン、私の妹。 私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。 一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。 「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」 私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。 「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」 罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。 本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

処理中です...