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4章
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次の日から通夜だ葬式だと続いた。
妹のクラスメイト達やお世話になった先輩と後輩達、学校関係者、保護者達、近所の人達、妹の習い事の先生達など……結構来た。
私には損得勘定や内申点稼ぎのためとよく言っていたが、妹を偲んでくれる人達が沢山いることが改めて分かった。
それは今でも感謝するばかりである。
通夜の日は夕暮れ時とそろそろ暗くなりそうになる境目だった。
やたら天気がよく風が心地よかったのを覚えている。
最前列の家族席に座る私は神妙な顔になっていた。
妹の死が受け入れられなかった。
ご焼香の最中、読経の声を遮らないように保護者席からヒソヒソ声が聞こえた。
「なにあれ……嘘でしょ?」
「あれ、田丸くんとこじゃない?」
父親は青、田丸は赤のジャージにクロックス、母親は黒のジャケットにやたら短いスカート。靴もヒールではなくぺたんこものだ。
ヘラヘラとやってきて一番うしろの席に座る田丸家。
私は一番顔をあわせたくないやつが来たと顔をしかめた。
田丸家のご焼香の順番が来た。
「しーちゃんの写真おっきいねー! 僕ほしい! ねっ、しーちゃんはどこ?」
「これなーにー? あっ、しーちゃんがねてるー」
「おーい! しーちゃん! おきてー! 一緒にあそぼー!」
田丸は棺の窓をドンドン叩き大きい声で妹を呼ぶ。
「うるせぇ、黙ってろ! お前は席に戻れ」
隣でご焼香をしていた田丸の父が怒鳴りながら田丸を席に引きずるように戻った。
しかし田丸はヘラヘラしている。
列席者の中には眉をひそめる人、小声で「あの人誰?」と聞きあう人たち。
しかもご焼香後に田丸家はだれも私達家族に頭を下げなかった。
ご焼香全員終わるまで、田丸は読経の声に負けないぐらいの声で「まだなのー」とか「つまんなーい!」と喚く。
父は葬儀スタッフにあの家族を入らせないようにしてくれと頼む。
葬儀スタッフが田丸家に「外の空気吸いにいってはいかがですか」と提案しても「大丈夫です」と断った。
遠回しに出てけと言われてるのに気づかない家族が哀れだと思った。
段々田丸一家の周りの席に人がいなくなった。
多分うるさかったのだと思う。
厳粛な雰囲気を見事にぶち壊してくれた。
妹を死に追いやった張本人が。
謝りにくるのかとおもえば、通夜で冷やかしに来ただけだった。
「あーちゃんだ!」
精進落しに田丸家がやってきた。しかも馴れ馴れしく私のあだ名で呼んできた。
「亜津紗ちゃーん! あーちゃん! 来たよ!」
何で私の名前知ってるんだ、こいつ。
教えた覚えない。
話しかけてきても他人のフリに徹する。
葬儀スタッフが全員に案内していたから仕方ないとはいえ、正直来てほしくなかった。
出席者のほとんどが私達家族及び親族、そして家族ぐるみで付き合っている人ばかりだ。
「ほらいくぞ、あっちあいてんぞ」
田丸一家は一番奥の席に座った。
私の父が葬儀スタッフを呼び「今来た家族を注意して見て欲しい。多分なんかやらかすだろうから、その時は追い出していいから」と耳打ちしていた。
父は全員揃ったのを見て喪主として挨拶を始めた。
「本日は娘の通夜に出席して頂きありがとうございます……」
声がだんだん小さくなる父の姿に私はじっと耳を傾けた。
必死に言葉にしようとする父。言葉が続かない。
「おい声ちいせーぞ!!」
田丸の父のヤジが響く。
「おとーさーんーお腹すいたー!」
「とっとと話終わらせろよ。なげーんだよ!」
「早くたべたーい」
机をドンドン叩く音が響く。
「……すみません。少し静かにして頂けますか?」
私は静かに立ち上がって田丸一家に注意する。
冷めた声で。
「うわーん! 怒られたー!」
田丸は癇癪を起こし、精進料理をぶちまけた。
「なんだこのアマ、生意気な! うちの息子に偉そーに!」
「そうよ!」
田丸の父と母がづかづかと歩いて私に寄ってくる。
私を睨みつけるような目。
他の列席者の視線が集まる。
田丸はコップを勢いよく投げ捨てた。
パリンとコップが割れる音。
「あなた達一体何しに来たんですか? 大声出すわ、癇癪でコップ割るわ、冷やかしですか?」
「あの子は病気だから仕方ないの。ねっ? 理解して」
出た、この言い訳。そんなの理由にならない。
「病気だったら何してもいいんですか? お悔やみの言葉言わなくていいんです? 通夜を妨害されても目をつぶれと?」
「うるせーこのアマ殴るぞ」
田丸の父が拳をあげようとした瞬間――葬儀スタッフが私達のもとへ来た。
「申し訳ございませんが、これ以上は……お引き取り頂けますか。でないと警察呼びます。あなた達は出禁です」
ピシャリという葬儀スタッフに田丸の父は「ちっ、帰んぞー」と癇癪起こして暴れる田丸を連れ帰った。
家族揃ってお詫びの言葉なしだった。
田丸の父を止めた葬儀スタッフはかなりガタイがよく、目つきが少々怖かった覚えがある。
仕切り直しの精進落としはかなり精神的なダメージがきた。
列席者は私達にお悔やみの言葉をいうが、なんと言えばいいかわからない様子だった。
頑張って妹の思い出話に花を咲かせようとするがなんとも言葉にし難い雰囲気だった。
妹のクラスメイト達やお世話になった先輩と後輩達、学校関係者、保護者達、近所の人達、妹の習い事の先生達など……結構来た。
私には損得勘定や内申点稼ぎのためとよく言っていたが、妹を偲んでくれる人達が沢山いることが改めて分かった。
それは今でも感謝するばかりである。
通夜の日は夕暮れ時とそろそろ暗くなりそうになる境目だった。
やたら天気がよく風が心地よかったのを覚えている。
最前列の家族席に座る私は神妙な顔になっていた。
妹の死が受け入れられなかった。
ご焼香の最中、読経の声を遮らないように保護者席からヒソヒソ声が聞こえた。
「なにあれ……嘘でしょ?」
「あれ、田丸くんとこじゃない?」
父親は青、田丸は赤のジャージにクロックス、母親は黒のジャケットにやたら短いスカート。靴もヒールではなくぺたんこものだ。
ヘラヘラとやってきて一番うしろの席に座る田丸家。
私は一番顔をあわせたくないやつが来たと顔をしかめた。
田丸家のご焼香の順番が来た。
「しーちゃんの写真おっきいねー! 僕ほしい! ねっ、しーちゃんはどこ?」
「これなーにー? あっ、しーちゃんがねてるー」
「おーい! しーちゃん! おきてー! 一緒にあそぼー!」
田丸は棺の窓をドンドン叩き大きい声で妹を呼ぶ。
「うるせぇ、黙ってろ! お前は席に戻れ」
隣でご焼香をしていた田丸の父が怒鳴りながら田丸を席に引きずるように戻った。
しかし田丸はヘラヘラしている。
列席者の中には眉をひそめる人、小声で「あの人誰?」と聞きあう人たち。
しかもご焼香後に田丸家はだれも私達家族に頭を下げなかった。
ご焼香全員終わるまで、田丸は読経の声に負けないぐらいの声で「まだなのー」とか「つまんなーい!」と喚く。
父は葬儀スタッフにあの家族を入らせないようにしてくれと頼む。
葬儀スタッフが田丸家に「外の空気吸いにいってはいかがですか」と提案しても「大丈夫です」と断った。
遠回しに出てけと言われてるのに気づかない家族が哀れだと思った。
段々田丸一家の周りの席に人がいなくなった。
多分うるさかったのだと思う。
厳粛な雰囲気を見事にぶち壊してくれた。
妹を死に追いやった張本人が。
謝りにくるのかとおもえば、通夜で冷やかしに来ただけだった。
「あーちゃんだ!」
精進落しに田丸家がやってきた。しかも馴れ馴れしく私のあだ名で呼んできた。
「亜津紗ちゃーん! あーちゃん! 来たよ!」
何で私の名前知ってるんだ、こいつ。
教えた覚えない。
話しかけてきても他人のフリに徹する。
葬儀スタッフが全員に案内していたから仕方ないとはいえ、正直来てほしくなかった。
出席者のほとんどが私達家族及び親族、そして家族ぐるみで付き合っている人ばかりだ。
「ほらいくぞ、あっちあいてんぞ」
田丸一家は一番奥の席に座った。
私の父が葬儀スタッフを呼び「今来た家族を注意して見て欲しい。多分なんかやらかすだろうから、その時は追い出していいから」と耳打ちしていた。
父は全員揃ったのを見て喪主として挨拶を始めた。
「本日は娘の通夜に出席して頂きありがとうございます……」
声がだんだん小さくなる父の姿に私はじっと耳を傾けた。
必死に言葉にしようとする父。言葉が続かない。
「おい声ちいせーぞ!!」
田丸の父のヤジが響く。
「おとーさーんーお腹すいたー!」
「とっとと話終わらせろよ。なげーんだよ!」
「早くたべたーい」
机をドンドン叩く音が響く。
「……すみません。少し静かにして頂けますか?」
私は静かに立ち上がって田丸一家に注意する。
冷めた声で。
「うわーん! 怒られたー!」
田丸は癇癪を起こし、精進料理をぶちまけた。
「なんだこのアマ、生意気な! うちの息子に偉そーに!」
「そうよ!」
田丸の父と母がづかづかと歩いて私に寄ってくる。
私を睨みつけるような目。
他の列席者の視線が集まる。
田丸はコップを勢いよく投げ捨てた。
パリンとコップが割れる音。
「あなた達一体何しに来たんですか? 大声出すわ、癇癪でコップ割るわ、冷やかしですか?」
「あの子は病気だから仕方ないの。ねっ? 理解して」
出た、この言い訳。そんなの理由にならない。
「病気だったら何してもいいんですか? お悔やみの言葉言わなくていいんです? 通夜を妨害されても目をつぶれと?」
「うるせーこのアマ殴るぞ」
田丸の父が拳をあげようとした瞬間――葬儀スタッフが私達のもとへ来た。
「申し訳ございませんが、これ以上は……お引き取り頂けますか。でないと警察呼びます。あなた達は出禁です」
ピシャリという葬儀スタッフに田丸の父は「ちっ、帰んぞー」と癇癪起こして暴れる田丸を連れ帰った。
家族揃ってお詫びの言葉なしだった。
田丸の父を止めた葬儀スタッフはかなりガタイがよく、目つきが少々怖かった覚えがある。
仕切り直しの精進落としはかなり精神的なダメージがきた。
列席者は私達にお悔やみの言葉をいうが、なんと言えばいいかわからない様子だった。
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