28 / 90
第3章
第3話(4)
しおりを挟む
「なにバカ言いよん。結婚せんかったら赤ん他人やろうが。おおかた、おまえみてえなやかましいおばさんの相手、莉音くんみたいな上品な子に務まるかいな。莉音くんにだって選ぶ権利っつうもんがあるわ」
遠慮のない達彦の物言いに、優子は目を剥いた。早口で声高なふたりのやりとりは、莉音には喧嘩腰に聞こえる。夫婦仲に亀裂が入るのではとハラハラした。だが、そんな心配も束の間。優子は突如、豪快に笑い転げた。
「そりゃそうやわ。たしかに莉音ちゃんにも選ぶ権利があるよねえ!」
あっはっはっ!と大口を開けて笑う優子に、達彦はやれやれと嘆息した。その隣で、義父の達夫もあきれたように苦笑いしている。
「選ぶ権利がどうん言うまえに、まずは都会ん人に田舎ん暮らしは合わんやろ。田舎ん人間だって、若え者はみんな、都会に出ち行くんやけん」
達夫の言葉に、優子は「あ~、そりゃたしかに」と同意した。
「莉音ちゃんなんてとくに、東京生まれ東京育ちん生粋ん都会人やけんねえ。田舎ん水は合わんか」
「え、いいえ、そんな……」
優子は「いいけん、いいけん」と笑った。
「そもそも莉音ちゃんみたいな素敵な子、周りがほたっちょかんよねえ。田舎に埋もれさするにはもったいなさすぎる。あ、でもね、そんぐらい莉音ちゃんのこと、気に入ったっちゅうとは本心やけん――あ、達哉や」
莉音がなにかを言うまえに着信音が鳴って、優子は電話に出た。
「もしもしぃ? なにぃ、あんたから電話なんてめずらしい。っちゅうか、仕事中やねえん?」
『いま外回り中ちゃ。ってか母ちゃん、あん写真、なに!?』
スピーカーにしているため、相手の声が莉音たちにも筒抜けである。優子は携帯をテーブルに置いたまま通話をつづけた。
「あ、見た見たぁ? へっへっへっ、いいやろう。いま、タケ爺んとこお呼ばれして、夕飯ご馳走になっちょんのやけど、すっごいうめえっちゃが。これね、全部莉音ちゃんが作ってくれたんやって。あ、莉音ちゃん、あんた憶えちょる? タケ爺んお孫さん。あんたん小学生んときん初恋ん相手」
『ちょっ……、母ちゃんっっっ!!』
通話相手、優子の息子氏は、母の言葉にあわてふためく。莉音は少し、気の毒になった。
「莉音ちゃんねえ、いま大分に遊びに来ちょんのちゃ。小せえころもお人形さんのごつ可愛らしかったけんど、ひさしぶりに会うたら腰が抜くるような美人さんになっちょって。オマケにこげな料理上手! 男ん子でんいいけん、うちにお嫁に来ん?って勧誘しちょったところ」
『はあっ? なんやそれ。そげなん失礼やし、言われてん迷惑やろ』
「そうなんちゃね。なによりもまず、あんたにはもったいねえっちゅうことで撤回することにしたわ」
『ふざけんな、クソババア! 俺にも失礼やわっ』
怒鳴ったタイミングでスマホを手にとった優子が、莉音に身を寄せて画面を向ける。どうやらビデオ通話だったらしく、まともにお互いの目が合ってしまった。
『あ……っ』
さらに母に暴言を吐こうとしていたらしい相手の顔が固まる。莉音もどうしたらいいのかわからず、オロオロとしてしまった。その横で、一緒にワイプに入りこんでいる優子が勝ち誇ったようにほくそ笑んだ。
遠慮のない達彦の物言いに、優子は目を剥いた。早口で声高なふたりのやりとりは、莉音には喧嘩腰に聞こえる。夫婦仲に亀裂が入るのではとハラハラした。だが、そんな心配も束の間。優子は突如、豪快に笑い転げた。
「そりゃそうやわ。たしかに莉音ちゃんにも選ぶ権利があるよねえ!」
あっはっはっ!と大口を開けて笑う優子に、達彦はやれやれと嘆息した。その隣で、義父の達夫もあきれたように苦笑いしている。
「選ぶ権利がどうん言うまえに、まずは都会ん人に田舎ん暮らしは合わんやろ。田舎ん人間だって、若え者はみんな、都会に出ち行くんやけん」
達夫の言葉に、優子は「あ~、そりゃたしかに」と同意した。
「莉音ちゃんなんてとくに、東京生まれ東京育ちん生粋ん都会人やけんねえ。田舎ん水は合わんか」
「え、いいえ、そんな……」
優子は「いいけん、いいけん」と笑った。
「そもそも莉音ちゃんみたいな素敵な子、周りがほたっちょかんよねえ。田舎に埋もれさするにはもったいなさすぎる。あ、でもね、そんぐらい莉音ちゃんのこと、気に入ったっちゅうとは本心やけん――あ、達哉や」
莉音がなにかを言うまえに着信音が鳴って、優子は電話に出た。
「もしもしぃ? なにぃ、あんたから電話なんてめずらしい。っちゅうか、仕事中やねえん?」
『いま外回り中ちゃ。ってか母ちゃん、あん写真、なに!?』
スピーカーにしているため、相手の声が莉音たちにも筒抜けである。優子は携帯をテーブルに置いたまま通話をつづけた。
「あ、見た見たぁ? へっへっへっ、いいやろう。いま、タケ爺んとこお呼ばれして、夕飯ご馳走になっちょんのやけど、すっごいうめえっちゃが。これね、全部莉音ちゃんが作ってくれたんやって。あ、莉音ちゃん、あんた憶えちょる? タケ爺んお孫さん。あんたん小学生んときん初恋ん相手」
『ちょっ……、母ちゃんっっっ!!』
通話相手、優子の息子氏は、母の言葉にあわてふためく。莉音は少し、気の毒になった。
「莉音ちゃんねえ、いま大分に遊びに来ちょんのちゃ。小せえころもお人形さんのごつ可愛らしかったけんど、ひさしぶりに会うたら腰が抜くるような美人さんになっちょって。オマケにこげな料理上手! 男ん子でんいいけん、うちにお嫁に来ん?って勧誘しちょったところ」
『はあっ? なんやそれ。そげなん失礼やし、言われてん迷惑やろ』
「そうなんちゃね。なによりもまず、あんたにはもったいねえっちゅうことで撤回することにしたわ」
『ふざけんな、クソババア! 俺にも失礼やわっ』
怒鳴ったタイミングでスマホを手にとった優子が、莉音に身を寄せて画面を向ける。どうやらビデオ通話だったらしく、まともにお互いの目が合ってしまった。
『あ……っ』
さらに母に暴言を吐こうとしていたらしい相手の顔が固まる。莉音もどうしたらいいのかわからず、オロオロとしてしまった。その横で、一緒にワイプに入りこんでいる優子が勝ち誇ったようにほくそ笑んだ。
40
あなたにおすすめの小説
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
36.8℃
月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。
ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。
近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。
制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。
転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。
36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。
香りと距離、運命、そして選択の物語。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる