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第3章
第3話(5)
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「どう? 生莉音ちゃん、可愛いやろ。言うちょくけんど、いまん会話、全部まる聞こえやったけん」
『なっ……、やめろちゃマジじ。なにやっちょんちゃ!』
真っ赤になって言ったあとで、口調と表情をあらためた。
『あ、いや、その、なんかすみません。いろいろお見苦しいところを』
「あ、いえ、全然」
莉音もあわてて首を振った。突然の展開に、お互いどうしていいかわからない。
『えっと、その、はじめまし……てじゃなくて、おひさしぶりです? でいいんか? えっと、俺、達哉ですけど、憶えてます? かね?』
「あ、はい。莉音です。あの、小さいときに遊んでもらったって。正直、さっきまではうろ覚えで怪しかったんですけど、いまこうしてお顔を見たら、面影があるのではっきり思い出しました。僕、ひとりっ子だったので、いっぱいいろんな遊び教えてもらって、お兄ちゃんができたみたいで嬉しかったなって」
『いや、全然、全然。なんもない田舎なんで、野山駆け回るぐらいしかできんくて』
達哉は照れ笑いした。イントネーションは大分のものだが、より、標準語に近いかたちで話そうとしてくれているのがわかる。その気遣いがありがたかった。
『なんかまた、こんなふうに話ができるなんて思ってなかったんで嬉しい反面、照れますね。っていうか、うちんおふくろがご迷惑おかけしたみたいで、ほんと申し訳ないっていうか』
「あ、いえ、全然。僕もいろいろお話しできて、とても楽しいです」
「『うちんおふくろ』だって。莉音ちゃんのまえやけんってカッコつけちょんよ、いっちょまえに!」
莉音の横で、優子がすかさず夫や義父母たちに実況する態で茶々を入れる。達哉は途端に「うるせえ、ババア!」と目を剥き、莉音を気にして気まずそうに口籠もった。
『いや、あの、ほんとすみません。うち、いつもこんな感じで……。引きますよね?』
「いいえ、仲がよさそうで羨ましいです」
莉音はクスクスと笑った。それを見た達哉の表情が、不意にあらたまった。
『なんか、無神経で申し訳ないです。その、お母さんンこと、聞きました。莉音くんも突然のことで大変だったと思うし、さぞつらかったやろうなって』
「あ、いえ……」
お悔やみを申し上げますと丁寧に頭を下げられて、莉音も礼を返した。
「ご丁寧にありがとうございます。母が安心できるように、僕も頑張ろうと思います」
当たり障りのない型に嵌まった返しをながら、莉音は途方に暮れる。なにもかもが中途半端なこの状況で、いったい、なにをどう頑張ればいいというのだろうか。
莉音のその頭を、優子は自分のほうへ引き寄せた。
「いいんよ、頑張らんで。頑張る必要なんてひとっつんねえん。ただ莉音ちゃんが元気でいてくれて、幸せになってくれたら、お母さんなそれだけで充分やと思うちゃ」
言いながら、子供にするように頭を撫でる。
『なっ……、やめろちゃマジじ。なにやっちょんちゃ!』
真っ赤になって言ったあとで、口調と表情をあらためた。
『あ、いや、その、なんかすみません。いろいろお見苦しいところを』
「あ、いえ、全然」
莉音もあわてて首を振った。突然の展開に、お互いどうしていいかわからない。
『えっと、その、はじめまし……てじゃなくて、おひさしぶりです? でいいんか? えっと、俺、達哉ですけど、憶えてます? かね?』
「あ、はい。莉音です。あの、小さいときに遊んでもらったって。正直、さっきまではうろ覚えで怪しかったんですけど、いまこうしてお顔を見たら、面影があるのではっきり思い出しました。僕、ひとりっ子だったので、いっぱいいろんな遊び教えてもらって、お兄ちゃんができたみたいで嬉しかったなって」
『いや、全然、全然。なんもない田舎なんで、野山駆け回るぐらいしかできんくて』
達哉は照れ笑いした。イントネーションは大分のものだが、より、標準語に近いかたちで話そうとしてくれているのがわかる。その気遣いがありがたかった。
『なんかまた、こんなふうに話ができるなんて思ってなかったんで嬉しい反面、照れますね。っていうか、うちんおふくろがご迷惑おかけしたみたいで、ほんと申し訳ないっていうか』
「あ、いえ、全然。僕もいろいろお話しできて、とても楽しいです」
「『うちんおふくろ』だって。莉音ちゃんのまえやけんってカッコつけちょんよ、いっちょまえに!」
莉音の横で、優子がすかさず夫や義父母たちに実況する態で茶々を入れる。達哉は途端に「うるせえ、ババア!」と目を剥き、莉音を気にして気まずそうに口籠もった。
『いや、あの、ほんとすみません。うち、いつもこんな感じで……。引きますよね?』
「いいえ、仲がよさそうで羨ましいです」
莉音はクスクスと笑った。それを見た達哉の表情が、不意にあらたまった。
『なんか、無神経で申し訳ないです。その、お母さんンこと、聞きました。莉音くんも突然のことで大変だったと思うし、さぞつらかったやろうなって』
「あ、いえ……」
お悔やみを申し上げますと丁寧に頭を下げられて、莉音も礼を返した。
「ご丁寧にありがとうございます。母が安心できるように、僕も頑張ろうと思います」
当たり障りのない型に嵌まった返しをながら、莉音は途方に暮れる。なにもかもが中途半端なこの状況で、いったい、なにをどう頑張ればいいというのだろうか。
莉音のその頭を、優子は自分のほうへ引き寄せた。
「いいんよ、頑張らんで。頑張る必要なんてひとっつんねえん。ただ莉音ちゃんが元気でいてくれて、幸せになってくれたら、お母さんなそれだけで充分やと思うちゃ」
言いながら、子供にするように頭を撫でる。
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