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1 この世界に不満はない
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私は、この世界に転生して不満はない。
私が住んでいる国は、この世界の経済大国にして軍事大国でもあり、この世界の中心と言えるユニレグニカ帝国。そして、父はアリスター侯爵という爵位で、広大な領地を持っている。つまり、貴族様、という身分である。そして、アリスター侯爵というのは、帝国の中でも5本の指に入るほどの格式と伝統と実質を伴う貴族である。
もし、世界の富豪ランキングというものがあれば、まぁ、余裕で20位にはランキングする家柄である。
そのアリスター家で、花よ、蝶よ、と育てられております。
私は10才になっていた。
ステファンとニコルという、7才と5才の可愛い弟たちもアリスター家に生まれた。父母の中も睦まじく、“幸せ”を体現したような家である。
なにより、魔法がある世界ってワクワクしない?
私は、侯爵家令嬢にふさわしく、英才教育を受けていた。
「イアーゴー。さっき、家庭教師が教えてくれたところなのだけど、うまく理解ができなかったのだけど」と、私は復習をしながらイアーゴーに尋ねる。
魔法や薬学など以外にも、領地経営に必要な実務的な知識を早くから教えられている。
「つまり、こう言うことですよ」とイアーゴーは解説してくれるのだ。
イアーゴーは、家庭教師が教えても、私がわからないところは噛み砕いて分かりやすく教えてくれる。そしてさらに、発展的なことなども教えてくれた。
座学だけでなく、社交会のダンスやお茶会での礼儀作法でも細かいことを指摘し、直してくれる。
魔法の練習も楽しい。私がもっとも適正のある魔法は、氷魔法であるようだ。
頭にイメージしながら、両手に魔力を込める。すると、体からふっと力というか魔力が抜けて、私の2メートル先に、氷の彫像が現れる。等身大のお母さま像を制作した。
一応、古代ギリシャ時代の彫像、ラオコーン像くらいに精緻なものができた。ミケランジェロのダビデ像とか、サモトラケのニケ像とか、ミロのヴィーナスとか、それくらいのクオリティーである。氷だから数時間したら溶けてしまうけれど、一瞬にして魔力によって出来上がるのは、魔法世界ならではなのだろう。
『イアーゴー、どうかしら?』
魔力で作った氷の彫像に対する感想を求めた。
『そうですね。バランスは悪くないですが、もう少し髪の毛一本一本が溶けないように魔力を精緻に練り上げる必要がありますね。地獄の絶対零度レベルが魔力を練り上げましょう』
氷魔法を地獄の絶対零度の水準まで魔力を練り上げることができる魔術師は、帝国でも2本の手で数えるほどだ。
10才でその域に手が届きそうになっている私は、間違いなく魔法の才能があるのだろう。
『さて、魔力の消費が激しいようです。これ以上使ってしまうとお体に触るので、これからティータイムまでは剣の素振りでもしましょうか』
私の訓練メニューはイアーゴーが決めてくれる。最適な訓練メニューであるのだろう。だが、魔力は若い時に消費すればするほど、筋肉の超回復のように、体内に保有できる魔力量は上がっていく。
ある時から、イアーゴーは、私の魔力量が伸びることをそれとなく避けるようになった。
『ねぇ。そもそも、氷で作るより、土魔法で彫像を作ったほうが良くないかしら? 圧縮すれば、この辺りの土でも固い大理石の彫像くらいの強度になるわ?」
『土魔法の出来不出来は、“本編”で影響してきません。別に、練習しなくても問題ないですよ』
『そうなんだ。でも、お皿とかコップを自分で作れたらキャンプに行ったときとか便利じゃない? 練習しておこうかな』
また、“本編”かぁ。
ときどきイアーゴーは、 “本編”という、聞いても説明してくれない単語を言う。今は、“予告編”なのだろうか?
『それならいいわ。じゃあ、素振りね。でも、女が剣を使うのかって、お父様とお母様は渋い顔をされているわ』
『護身用だと言ったら納得したでしょう?』
父と母が私のわがままに折れた形だ。さすがに長剣はダメだということで、ナイフなど短剣を私は学んでいる。
『家庭教師をつけてくれるくらいには納得してくださったわ。でも、お転婆だと思われてしまったわ』
この世界で10年という月日を過ごした私でも理解できる常識はある。それは、貴族の令嬢は剣術などの勉強はしない、ということだ。だが、イアーゴーは私に、剣術の練習を勧めた。
『ですが、いずれ必要になりますよ』
きっとイアーゴーの言う、“本編”というので必要となるのでしょうね。
ティータイムの時間となった。私の専属メイドのアンナが紅茶を淹れてくれる。
『エリザベス、今、あのメイドが紅茶を蒸らす時間だが、2秒ほど長かった。これは紅茶が苦くなったに違いないぞ。一口飲んで、その後、その紅茶をメイドにかけて叱責するべきだ。こんな不味い紅茶は飲めないと』とイアーゴーが囁く。
『そんなことをしたら、アンナが火傷してしまうでしょう?』
というか、人として、してはならないことだ。
『あのメイドが粗相したのだよ? アリスター侯爵家のメイドたるもの、一分の隙もあってはいけないと思う』
『イアーゴー、よく聞いて。“あのメイド”ではなく、彼女はアンナよ。何回名前を言ったら憶えてくれるの? それに、私はそんなに細かく紅茶の味なんてわからないから気にしないわ。アンナが淹れてくれた紅茶は全部美味しいもの』
『じゃあ、罰として鞭で痛めつけるべきだ』
そっちのほうがもっと無理……。
「アンナの紅茶は本当に美味しいわ。いつもありがとうね」
「エリザベス様、もったいなきお言葉です!」と、アンナは深々とお辞儀をする。
10才の少女に、22才のアンナが
時々、イアーゴーは、突飛なことを言い出したりもする。
私は、確信をしている。
イアーゴーは、私を教育しつつ、だが、一定の方向性がある。それも、明確な方向性がある。
イアーゴーは、必要なことは、私が聞かなくても懇切丁寧に教えてくれる。
だが、イアーゴーにとって不必要だと思われることに関しては消極的である。自分から質問しないと最低限しか教えてくれない。自分で調べて勉強、練習するしかない。
私はこの転生に不満はない。お父様やお母様は私を愛し、甘やかしてくださる。弟たちも私を慕ってくれる。欲しいものだって、なんでも手に入る。
この世界は、私のためにある。そんな気さえするのだ。
私が住んでいる国は、この世界の経済大国にして軍事大国でもあり、この世界の中心と言えるユニレグニカ帝国。そして、父はアリスター侯爵という爵位で、広大な領地を持っている。つまり、貴族様、という身分である。そして、アリスター侯爵というのは、帝国の中でも5本の指に入るほどの格式と伝統と実質を伴う貴族である。
もし、世界の富豪ランキングというものがあれば、まぁ、余裕で20位にはランキングする家柄である。
そのアリスター家で、花よ、蝶よ、と育てられております。
私は10才になっていた。
ステファンとニコルという、7才と5才の可愛い弟たちもアリスター家に生まれた。父母の中も睦まじく、“幸せ”を体現したような家である。
なにより、魔法がある世界ってワクワクしない?
私は、侯爵家令嬢にふさわしく、英才教育を受けていた。
「イアーゴー。さっき、家庭教師が教えてくれたところなのだけど、うまく理解ができなかったのだけど」と、私は復習をしながらイアーゴーに尋ねる。
魔法や薬学など以外にも、領地経営に必要な実務的な知識を早くから教えられている。
「つまり、こう言うことですよ」とイアーゴーは解説してくれるのだ。
イアーゴーは、家庭教師が教えても、私がわからないところは噛み砕いて分かりやすく教えてくれる。そしてさらに、発展的なことなども教えてくれた。
座学だけでなく、社交会のダンスやお茶会での礼儀作法でも細かいことを指摘し、直してくれる。
魔法の練習も楽しい。私がもっとも適正のある魔法は、氷魔法であるようだ。
頭にイメージしながら、両手に魔力を込める。すると、体からふっと力というか魔力が抜けて、私の2メートル先に、氷の彫像が現れる。等身大のお母さま像を制作した。
一応、古代ギリシャ時代の彫像、ラオコーン像くらいに精緻なものができた。ミケランジェロのダビデ像とか、サモトラケのニケ像とか、ミロのヴィーナスとか、それくらいのクオリティーである。氷だから数時間したら溶けてしまうけれど、一瞬にして魔力によって出来上がるのは、魔法世界ならではなのだろう。
『イアーゴー、どうかしら?』
魔力で作った氷の彫像に対する感想を求めた。
『そうですね。バランスは悪くないですが、もう少し髪の毛一本一本が溶けないように魔力を精緻に練り上げる必要がありますね。地獄の絶対零度レベルが魔力を練り上げましょう』
氷魔法を地獄の絶対零度の水準まで魔力を練り上げることができる魔術師は、帝国でも2本の手で数えるほどだ。
10才でその域に手が届きそうになっている私は、間違いなく魔法の才能があるのだろう。
『さて、魔力の消費が激しいようです。これ以上使ってしまうとお体に触るので、これからティータイムまでは剣の素振りでもしましょうか』
私の訓練メニューはイアーゴーが決めてくれる。最適な訓練メニューであるのだろう。だが、魔力は若い時に消費すればするほど、筋肉の超回復のように、体内に保有できる魔力量は上がっていく。
ある時から、イアーゴーは、私の魔力量が伸びることをそれとなく避けるようになった。
『ねぇ。そもそも、氷で作るより、土魔法で彫像を作ったほうが良くないかしら? 圧縮すれば、この辺りの土でも固い大理石の彫像くらいの強度になるわ?」
『土魔法の出来不出来は、“本編”で影響してきません。別に、練習しなくても問題ないですよ』
『そうなんだ。でも、お皿とかコップを自分で作れたらキャンプに行ったときとか便利じゃない? 練習しておこうかな』
また、“本編”かぁ。
ときどきイアーゴーは、 “本編”という、聞いても説明してくれない単語を言う。今は、“予告編”なのだろうか?
『それならいいわ。じゃあ、素振りね。でも、女が剣を使うのかって、お父様とお母様は渋い顔をされているわ』
『護身用だと言ったら納得したでしょう?』
父と母が私のわがままに折れた形だ。さすがに長剣はダメだということで、ナイフなど短剣を私は学んでいる。
『家庭教師をつけてくれるくらいには納得してくださったわ。でも、お転婆だと思われてしまったわ』
この世界で10年という月日を過ごした私でも理解できる常識はある。それは、貴族の令嬢は剣術などの勉強はしない、ということだ。だが、イアーゴーは私に、剣術の練習を勧めた。
『ですが、いずれ必要になりますよ』
きっとイアーゴーの言う、“本編”というので必要となるのでしょうね。
ティータイムの時間となった。私の専属メイドのアンナが紅茶を淹れてくれる。
『エリザベス、今、あのメイドが紅茶を蒸らす時間だが、2秒ほど長かった。これは紅茶が苦くなったに違いないぞ。一口飲んで、その後、その紅茶をメイドにかけて叱責するべきだ。こんな不味い紅茶は飲めないと』とイアーゴーが囁く。
『そんなことをしたら、アンナが火傷してしまうでしょう?』
というか、人として、してはならないことだ。
『あのメイドが粗相したのだよ? アリスター侯爵家のメイドたるもの、一分の隙もあってはいけないと思う』
『イアーゴー、よく聞いて。“あのメイド”ではなく、彼女はアンナよ。何回名前を言ったら憶えてくれるの? それに、私はそんなに細かく紅茶の味なんてわからないから気にしないわ。アンナが淹れてくれた紅茶は全部美味しいもの』
『じゃあ、罰として鞭で痛めつけるべきだ』
そっちのほうがもっと無理……。
「アンナの紅茶は本当に美味しいわ。いつもありがとうね」
「エリザベス様、もったいなきお言葉です!」と、アンナは深々とお辞儀をする。
10才の少女に、22才のアンナが
時々、イアーゴーは、突飛なことを言い出したりもする。
私は、確信をしている。
イアーゴーは、私を教育しつつ、だが、一定の方向性がある。それも、明確な方向性がある。
イアーゴーは、必要なことは、私が聞かなくても懇切丁寧に教えてくれる。
だが、イアーゴーにとって不必要だと思われることに関しては消極的である。自分から質問しないと最低限しか教えてくれない。自分で調べて勉強、練習するしかない。
私はこの転生に不満はない。お父様やお母様は私を愛し、甘やかしてくださる。弟たちも私を慕ってくれる。欲しいものだって、なんでも手に入る。
この世界は、私のためにある。そんな気さえするのだ。
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