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地下都市編

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「な、何やっているんだ!? あいつらは!」

 こちらに気づく様子はなく、彼らは談笑しながら食事をしている。

 確かここでの食事はしない方がいいんじゃないのか?

 サラは彼らの行動を止めるべく慌てて店へ入った。

 すると香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

 店長らしきおじさんが「へいらっしゃい!」と勢いのある声で迎え入れてくれ、そこは多くの人でにぎわっていた。

「……」

 闇堕ちしている都市なのに、こんなにも人々が日常生活を送っている。

 なんとも拭えない違和感はあったが、そんな困惑しているサラに気づいた三人がこっちこっちと手招きする。

「あ、サラちゃん! 戻ってきてたんだ!! こっちだよ! 美味しいよ、これ」

「先輩も食べます?」

「美味しいっすよ」

「……」

 疑心暗鬼のサラはテーブルの方へ行き、肝心の料理を確認した。

 お皿に盛り付けられているのは色鮮やかな料理だ。

 あっさりレモンで味付けした若鳥のフィレ肉。

 魚介がふんだんに詰め込まれ、トマトやオリーブで色鮮やかに着飾ったアクアパッツァ。

 チーズがふんだんに入れられている新鮮そうなグリーンサラダ。

 バターの添えられたこんがり焼けた丸い形のパン。

 生クリームでお化粧したコクのありそうなカボチャスープ。

 どれも美味しそうだが、かなりの量が盛りつけされている。

 三人はそれぞれ口に運び、顔をほころばせていた。

 ここは浄化されているから大丈夫なのだろうか?

 サラは食べ物と三人とを交互に見る。

 食べない方がいいのだろうが、特に彼らに異常がなさそうなので食べても大丈夫なのかもしれない。

 そういえば、最近任務で走り回っていたため、きちんと時間を取って食事をしていない。

 スカルと戦う前にこの場で腹ごしらえをしてもいいのかもしれない、そう思いサラは席に座って取り皿に食べ物を盛る。

 かなりいい香りが漂ってきた。

 その香りをかいだ直後、ぐう、とお腹が鳴った。

「頂きます」

 一口食べた、その瞬間。

 まっっっっっっっっっず!!

 口の中に広がる不快な触感と、漂う異臭。

 サラ一人だけ激しくむせ込み、酷い吐き気に襲われた。

 とりあえずトイレに駆け込んで吐き出しても、冷や汗が止まらない。

 額から流れ落ちるのを拭って深呼吸を繰り返した。

 彼らがなぜこんなものを食べれるのか正直わからなかった。

 しばらくトイレに篭っていれば症状が落ち着いたので、サラは彼らの食事を止めるべく店内に戻った。

 すると先ほど見ていた光景とは明らかに違ったのだ。

 店内は鬱々とした雰囲気が漂っており、薄暗い。

 先ほどまでは照明が明るく、人々が談笑しながら食事していたが、今食事を取っている人など誰一人いない。

 それでも三人はまだ食事を続けていた。

 もしかして……今まで見ていたのは、幻覚だったのか? やられた!

 テーブルに近づいて気づいた。

 お皿に盛られているのは先ほど目に見えていた食べ物ではない。

 異臭のするおぞましい黒い物体なのだ。

 一体何を口に入れたのか考えたくはないが、食べていい物ではないだろう。

 それでも、彼らは美味しい、美味しいと食べているのだ。サラは血の気が引いた。

「おい! 目を覚ませ!!」

 体を揺らしても三人は聞く耳を持たない。

 なぜだ? 彼らは今も幻覚を見続けているということか?

 なぜ、私だけ目が覚めたのだろうか? もしかして、王族だからだろうか?

 つまり、光の力が強いから、なのか?

 ならばここを浄化してみるか……! そしたら正気に戻るかもしれない!

 サラがこの場を浄化したら、おぞましい食べ物は消え去っていた。

「……っは! 俺ら、ここで何をしていたんだっけ?」とウィルソンが正気に戻る。

「……えーっと、スカルを探してましたよね」

「それで……確か延々同じ道を歩き回って……どうなったんすかね?」

 リリナとザグジーも正気に戻り、経緯を思い出そうとする。

「包帯を巻いた亡霊のようなものを見かけなかったか?」

「見かけた! それで追いかけてたら……いい匂いがしてきて、お腹が減ったからこのお店でご飯食べてたんだ……」

 あれは本当に美味しかったなあ、もっと食べたかったけど残念、となぜか悔しがるウィルソン。

 死にたいのか?

 というかあんなおぞましいものを食べてなぜ平気なんだ。

 不思議に思ったサラは彼らに問う。

「……あんたら体は平気なのか?」

「え? どうして?」

「……いや、何でもない」

 どうやら体調に問題はなさそうなので、あのおぞましいものを食べていたからだとは言わない方がいいだろう。

 というか頑丈すぎるだろ。なんだよ、ヘドロ食べてお腹壊さないって。

「まあいい。話を戻そう……おそらく、私たちは包帯を巻いたあの亡霊について行っていた間に、知らず知らずのうちに幻覚を見せられていたようだな」

「幻覚!?」

「ああ」

 ちらりと視線を動かせば、店の外から亡霊がこちらをじっと見つめているではないか。

「……店から出るのを待っているのか?」

「あいつっすね!」

「よし、みんなで追いかけよう!」

「いや、待て!! 追いかけてもまた幻覚にかかる可能性は否定できない」

「そうだけど……でもスカルに繋がる手がかりは今のところあの亡霊だけだよ……?」

「そうだな……」

 ではどうすれば幻覚にかからないよう追いかけられるのか。そこでサラはふと気づく。

 アンジェリカは幻覚を見たとは言っていなかった。

 彼女たち祈祷師は常に微量の光の力を使っているからだろう。

 けれどサラもギルに教えてもらったように力を常に使っていた。

 しかし、幻覚を見るということは、恐らく私が常に出している力よりも闇の力の方が強かったから幻覚を見たのかもしれない。

 つまり。

「守るように自分で自分を浄化し続ける、もしくは少し多めの光の力を放出し続ければ、幻覚は見ないんじゃないのか?」

「え? それ、無理じゃないっすか?」とザグジーが眉間に皴を寄せる。

「騎士は基本的に特殊攻撃をした後に、光の力でスカルを浄化しますよね? でも、自分を浄化なんてどうやるんですか?」

「自分で自分を攻撃するの?」とウィルソンが首を捻る。「それって、超絶マゾじゃね?」とラルクが笑っているが。

「そんなことをしなくてもできる。特殊攻撃を使うほどの力ではなく、調整した光の力で常に周囲に力を放出すれば、それで浄化になる」

「いや、でも急にそんなこと言われてもできないよ!」とウィルソンに最もなことを言われた。

「……まあ、そうか」

 彼らは王族でもなければ、光脈もない。

 力を常に使うという訓練もしていない。ならば出来なくても仕方ない。

 それにここで彼らに力を使わせすぎてしまえば、スカルと対峙する際に力を使い果たした状態になってしまうかもしれない。

 そうなったら、元も子もない。

 万全の状態でスカルに臨んでもらわなければ困るのだ。

 この先に現れるスカルがどのようなスカルかは分からないが、戦えない仲間を全員戦場で守り切ることなど到底出来ない。

「じゃあ、私が行動範囲を浄化をし続ける」

「……サラちゃんはできるの?」

「やる」

 できる、できないじゃない。やるんだ。でなければスカルに辿り着くことができない。

 サラは集中した。

 祈りと、感謝の気持ちを込めて、自分の周りの感覚を研ぎ澄ます。

 冷たく重い空気を柔らかく温かい空気へと変える。

 そんなイメージで自身の光の力を放出した。

 すると光の輪がサラを中心に出来上がった。

 それは半径一メートルほどの輪だ。力を維持しながら、行動することを考えるとこれが限界か。

「……ここまでだな」

「すごいっすね……」

「……本当に」

 リリナとザグジーが感嘆の声を上げる。

「よし、みんなこの輪の中に入ろう! でも、サラちゃん、なんでこんなこと出来るようになったの?」

「今初めてやった」

「え? そうなの?」

「そうだ。……まあ、力の使い方が上手くなったってことかな。ま、それよりも早く行こう」
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