199 / 201
地下都市編
3
しおりを挟む亡霊を追いかけてたどり着いたのは古く寂れた神殿。
建物を支えている柱は何本か崩れており、今にも倒壊しそうな神殿だったが、どうやらここがノルバスクの聖域のようだ。
けれど闇に堕ちているためか、聖域自体機能しているような感じは受け取れないし、もしかすればここがスカルの住処になってしまっているのかもしれない。
あの亡霊がスカルでもそうでなくとも、この場所に何かがあるのは間違いないだろう。
サラたちは神殿へ足を踏み入れた。
「とりあえず、浄化を解く」
「サラちゃん、ありがとう」
暫く中を歩くも、建物が崩れかけている以外に特に何もない。
ただただ、空気が悪いというだけで。
「何もないな……」
「でも、闇が濃くて気持ち悪いね……」
「スカルはどこかに隠れて、こちらの様子を窺っているのかもしれませんね」
リリナが辺りをきょろきょろと見渡している。
「そうだな……」
最奥にいく通路を進めば、サラは何かを感じた。
何だ? ここ……。一度、来たことがあるぞ……?
確か、父ローレンスが小さい頃私は母と来たことがあると言っていた。
それで来たことがあると感じているのかもしれないが、なぜかここでひどく姉に叱られたような気がする。
一体、何で姉に叱られたのかは思い出せないが。
そんな引っかかりを感じながら進んでいけば、開けた場所に出た。
天井が高く壁や柱に飾り彫りがされている。
闇堕ちしていなければ、さぞ美しい神殿だったのではないのだろうか。
「何もないね……」
「そうっすね……」
ウィルソンたちが呟くのを背に聞きながら、サラが一人奥へ進んでゆく。
「これは……」
最奥には何かが飾られていた。黒い破片に、その破片がはまっていただろう縁。
ああ。そうだ。これ……。
「誰カ……誰カ……」
サラがそれに触れようとした瞬間、広場の入り口をふさぐようにスカルが現れた。
傷だらけの体を黒い包帯で巻いている姿は、まるでゾンビ。
至る所から黒い液体が流れ出ている。
殺気が放たれているあたり、先程の亡霊とは似ても似つかない。
「逃ガサナイ……」
スカルがす、と手をこちらに向けた瞬間。
「来るぞ!」
包帯が意思を持っているかのように、サラたちを拘束しようと伸びてきた。
サラたちは武器を手に包帯を切り裂き避けるが、切っても切っても伸びてくる。
「剛・岩・飛・翔!!」
ザグジーが拳を地面に叩きつければ、地面は悲鳴を上げるように爆裂。粉砕された岩のような破片が無数に浮かんでは、流れ星の如くスカルを狙う。
けれど壁や地面からも包帯が伸びてきて岩は全て弾かれ、ザグジー自身に向かって弾き返された。
「ふん!」
しかしザグジーは拳で爆砕してゆく。
その間がら空きな本体に向かって、床や壁を蹴り、包帯を潜り抜けて、リリナが撃鉄を叩く。
発砲の連続音が響くが、包帯が銃弾の軌道を少しずつずらしたため、地面に火花を飛ばすだけだった。
「金糸雀の――」
リリナが特殊攻撃を打ち込もうとした瞬間、包帯がリリナの体に巻き付いてきた。目を隠し、動きを封じ、首を絞める。
「う……!」
「リリナ!」
サラは跳躍し、皮膚一枚を薄く切るように高速でリリナの包帯を切り裂いてゆく。
抵抗するように自分にも巻き付いて来ようとする包帯も同時に切り刻んだ。
風圧で飛び散る破片は、まるで紙吹雪だ。
サラは地面に着地する前に、体を捻りながら剣を思いっきり振り抜いた。
「月光の刃!!」
まばゆい光はスカルへ一直線に進んだが、スカルの前で弾かれるように霧散してしまった。
なぜだと考える前に、サラは地面に着地した直後スカルの方へ飛翔。
入り口から一歩も動かないスカルに向かって刃を煌めかせた。
スカルを守るように包帯がいくつも盾になるが、全てを切ってゆく。
吸い込まれるように、スカルの首に剣がめり込んだ。
「イタイ……。包帯……アリガトウ……」
「……?」
意味のわからない言葉を呟くスカルに、サラは剣に力を込める――が。
「アアアアアアアアアアアアア!!」
スカルが叫ぶと同時に音波のような風圧にサラは吹き飛ばされてしまった。
包帯が一気に暴れ出して、スカルに飛び掛かろうとしたザグジーが包帯に捕まってしまう。
解こうと包帯に向かって撃つリリナもだ。
「龍清の螺旋!」
スカルの動きを止めようとウィルソンが技を放ち、激流がスカルを呑み込んだ。
しかし包帯がウィルソンの足を引っ張って、ウィルソンは抵抗虚しく渦の中へ引きずり込まれてしまった。
「うわあああ……!?」
溺れたウィルソンは、床に倒れてゴホゴホと咳き込んでいる。
「ドコニモ……行カナイデ」
スカルはなぜか攻撃を受けていない。
ウィルソンを絡めとった包帯がゆっくりと宙に舞う。
「ミンナ、ミンナ……一緒ダヨ」
スカルが不気味に笑うと、ゴゴゴゴ……と床が揺れた。
何かと思えば壁に穴がいくつも開いてゆく。
それは人が一人入れるような大きさで、穴というか棺と言った方が合っているのではないか。
しかも、開いた壁には、もうすでに人間が何人か入っている。
一体どういうことだろうかと見れば、それは包帯に巻かれたリオとコーネリア、その他ここへ来たのであろう騎士たちだった。
まるで人間コレクションだ。
なるほど。
調査に行った騎士が全滅していたのだ。
おそらく報告できたのは逃げ切れた騎士がいたからだろう。
王族がコレクションの中にいないのはこの場へ来なかったかからに違いない。
首を絞められて意識を失ったリリナとザグジー、ウィルソンが岩の棺に次々入れられる。
「やめろ!」
サラがスカルに向かって剣を振るい斬撃を放つも、包帯が盾となり斬撃は弾け飛んだ。
余波で包帯はなびくがスカルはびくともしない。
「タ……スケ、テ」
そう呟くスカルから黒い涙が零れ落ちた。
このスカル、もしかして自身の中で何か葛藤があるのかもしれない。
ならば、浄化する……!
特殊攻撃が包帯で阻まれるのならば、肉体へ直接光の力を打ち込むまでだ。
サラはスカルに肉薄し、物凄い速さで切り上げようとするが、その剣は包帯で巻かれた手に掴まれてしまった。
スカルのあまりの反応の速さに虚を突かれたサラは、あっという間に包帯に捕まってしまう。
「くそ……!」
すると目の前のスカルの真っ黒い口がかっぽりと開いた。
「誰カ、ガ……来ルノ……待ッテタヨ」
黒い包帯が、サラの目を覆った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
婚約破棄? ではここで本領発揮させていただきます!
昼から山猫
ファンタジー
王子との婚約を当然のように受け入れ、幼い頃から厳格な礼法や淑女教育を叩き込まれてきた公爵令嬢セリーナ。しかし、王子が他の令嬢に心を移し、「君とは合わない」と言い放ったその瞬間、すべてが崩れ去った。嘆き悲しむ間もなく、セリーナの周りでは「大人しすぎ」「派手さがない」と陰口が飛び交い、一夜にして王都での居場所を失ってしまう。
ところが、塞ぎ込んだセリーナはふと思い出す。長年の教育で身につけた「管理能力」や「記録魔法」が、周りには地味に見えても、実はとてつもない汎用性を秘めているのでは――。落胆している場合じゃない。彼女は深呼吸をして、こっそりと王宮の図書館にこもり始める。学問の記録や政治資料を整理し、さらに独自に新たな魔法式を編み出す作業をスタートしたのだ。
この行動はやがて、とんでもない成果を生む。王宮の混乱した政治体制や不正を資料から暴き、魔物対策や食糧不足対策までも「地味スキル」で立て直せると証明する。誰もが見向きもしなかった“婚約破棄令嬢”が、実は国の根幹を救う可能性を持つ人材だと知られたとき、王子は愕然として「戻ってきてほしい」と懇願するが、セリーナは果たして……。
------------------------------------
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる