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地下都市編

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 亡霊を追いかけてたどり着いたのは古く寂れた神殿。

 建物を支えている柱は何本か崩れており、今にも倒壊しそうな神殿だったが、どうやらここがノルバスクの聖域のようだ。

 けれど闇に堕ちているためか、聖域自体機能しているような感じは受け取れないし、もしかすればここがスカルの住処になってしまっているのかもしれない。

 あの亡霊がスカルでもそうでなくとも、この場所に何かがあるのは間違いないだろう。

 サラたちは神殿へ足を踏み入れた。

「とりあえず、浄化を解く」

「サラちゃん、ありがとう」

 暫く中を歩くも、建物が崩れかけている以外に特に何もない。

 ただただ、空気が悪いというだけで。

「何もないな……」

「でも、闇が濃くて気持ち悪いね……」

「スカルはどこかに隠れて、こちらの様子を窺っているのかもしれませんね」

 リリナが辺りをきょろきょろと見渡している。

「そうだな……」

 最奥にいく通路を進めば、サラは何かを感じた。

 何だ? ここ……。一度、来たことがあるぞ……?

 確か、父ローレンスが小さい頃私は母と来たことがあると言っていた。

 それで来たことがあると感じているのかもしれないが、なぜかここでひどく姉に叱られたような気がする。

 一体、何で姉に叱られたのかは思い出せないが。

 そんな引っかかりを感じながら進んでいけば、開けた場所に出た。

 天井が高く壁や柱に飾り彫りがされている。

 闇堕ちしていなければ、さぞ美しい神殿だったのではないのだろうか。

「何もないね……」

「そうっすね……」

 ウィルソンたちが呟くのを背に聞きながら、サラが一人奥へ進んでゆく。

「これは……」

 最奥には何かが飾られていた。黒い破片に、その破片がはまっていただろう縁。

 ああ。そうだ。これ……。

「誰カ……誰カ……」

 サラがそれに触れようとした瞬間、広場の入り口をふさぐようにスカルが現れた。

 傷だらけの体を黒い包帯で巻いている姿は、まるでゾンビ。

 至る所から黒い液体が流れ出ている。

 殺気が放たれているあたり、先程の亡霊とは似ても似つかない。

「逃ガサナイ……」

 スカルがす、と手をこちらに向けた瞬間。

「来るぞ!」

 包帯が意思を持っているかのように、サラたちを拘束しようと伸びてきた。

 サラたちは武器を手に包帯を切り裂き避けるが、切っても切っても伸びてくる。

「剛・岩・飛・翔!!」

 ザグジーが拳を地面に叩きつければ、地面は悲鳴を上げるように爆裂。粉砕された岩のような破片が無数に浮かんでは、流れ星の如くスカルを狙う。

 けれど壁や地面からも包帯が伸びてきて岩は全て弾かれ、ザグジー自身に向かって弾き返された。

「ふん!」

 しかしザグジーは拳で爆砕してゆく。

 その間がら空きな本体に向かって、床や壁を蹴り、包帯を潜り抜けて、リリナが撃鉄を叩く。

 発砲の連続音が響くが、包帯が銃弾の軌道を少しずつずらしたため、地面に火花を飛ばすだけだった。

金糸雀カナリアの――」

 リリナが特殊攻撃を打ち込もうとした瞬間、包帯がリリナの体に巻き付いてきた。目を隠し、動きを封じ、首を絞める。

「う……!」

「リリナ!」

 サラは跳躍し、皮膚一枚を薄く切るように高速でリリナの包帯を切り裂いてゆく。

 抵抗するように自分にも巻き付いて来ようとする包帯も同時に切り刻んだ。

 風圧で飛び散る破片は、まるで紙吹雪だ。

 サラは地面に着地する前に、体を捻りながら剣を思いっきり振り抜いた。

月光の刃ムーンライト・ブレイド!!」

 まばゆい光はスカルへ一直線に進んだが、スカルの前で弾かれるように霧散してしまった。

 なぜだと考える前に、サラは地面に着地した直後スカルの方へ飛翔。

 入り口から一歩も動かないスカルに向かって刃を煌めかせた。

 スカルを守るように包帯がいくつも盾になるが、全てを切ってゆく。

 吸い込まれるように、スカルの首に剣がめり込んだ。

「イタイ……。包帯……アリガトウ……」

「……?」

 意味のわからない言葉を呟くスカルに、サラは剣に力を込める――が。

「アアアアアアアアアアアアア!!」

 スカルが叫ぶと同時に音波のような風圧にサラは吹き飛ばされてしまった。

 包帯が一気に暴れ出して、スカルに飛び掛かろうとしたザグジーが包帯に捕まってしまう。

 解こうと包帯に向かって撃つリリナもだ。

龍清の螺旋ドラゴン・スパイラル!」

 スカルの動きを止めようとウィルソンが技を放ち、激流がスカルを呑み込んだ。

 しかし包帯がウィルソンの足を引っ張って、ウィルソンは抵抗虚しく渦の中へ引きずり込まれてしまった。

「うわあああ……!?」

 溺れたウィルソンは、床に倒れてゴホゴホと咳き込んでいる。

「ドコニモ……行カナイデ」

 スカルはなぜか攻撃を受けていない。

 ウィルソンを絡めとった包帯がゆっくりと宙に舞う。

「ミンナ、ミンナ……一緒ダヨ」

 スカルが不気味に笑うと、ゴゴゴゴ……と床が揺れた。

 何かと思えば壁に穴がいくつも開いてゆく。

 それは人が一人入れるような大きさで、穴というか棺と言った方が合っているのではないか。

 しかも、開いた壁には、もうすでに人間が何人か入っている。

 一体どういうことだろうかと見れば、それは包帯に巻かれたリオとコーネリア、その他ここへ来たのであろう騎士たちだった。

 まるで人間コレクションだ。

 なるほど。

 調査に行った騎士が全滅していたのだ。

 おそらく報告できたのは逃げ切れた騎士がいたからだろう。

 王族がコレクションの中にいないのはこの場へ来なかったかからに違いない。

 首を絞められて意識を失ったリリナとザグジー、ウィルソンが岩の棺に次々入れられる。

「やめろ!」

 サラがスカルに向かって剣を振るい斬撃を放つも、包帯が盾となり斬撃は弾け飛んだ。

 余波で包帯はなびくがスカルはびくともしない。

「タ……スケ、テ」

 そう呟くスカルから黒い涙が零れ落ちた。

 このスカル、もしかして自身の中で何か葛藤があるのかもしれない。

 ならば、浄化する……!

 特殊攻撃が包帯で阻まれるのならば、肉体へ直接光の力を打ち込むまでだ。

 サラはスカルに肉薄し、物凄い速さで切り上げようとするが、その剣は包帯で巻かれた手に掴まれてしまった。

 スカルのあまりの反応の速さに虚を突かれたサラは、あっという間に包帯に捕まってしまう。

「くそ……!」

 すると目の前のスカルの真っ黒い口がかっぽりと開いた。

「誰カ、ガ……来ルノ……待ッテタヨ」

 黒い包帯が、サラの目を覆った。

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