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「ああ、すまない、椿様――てっきりあの女狐の件で妬いてくれているのかと期待したんだが……」
「妬いて……?」
「ああ」
椿はうつむいたまま返した。
「そんな、ただの愛人の立場でそんなこと思えるはずがないでしょう……」
「そうか……それもそうですね……」
それだけ言うと、清一郎は庭の方向へと視線を移した。
彼の反応に椿の心臓がズキンとする。
(やっぱり私のことは愛人としか思っていないのね……)
その時――。
「椿様」
「はい」
呼ばれたので振り向くと、彼の綺麗な横顔が見える。
日本人離れした鼻筋が、異国の血が混じっているのだとまざまざと理解させられる。
彼の指が私の頬に触れた。
「あの女性と俺が結婚することは絶対にあり得ない。安心してほしい」
そう聞いて、胸の詰まりがすうっと溶けていくような感覚になる。
「そう……ですか……」
椿は再び俯いた。
そんな彼女の様子を見て、清一郎が寂しそうに微笑んだ。
「もし、貴女は――俺が貴女の家への復讐のためではなく――」
椿は清一郎の顔を見上げる。
「何のしがらみもなく、貴女に求婚していたとしたら、俺の妻になってくれていたんだろうか――?」
「それは……そんなの……」
椿の漆黒の睫毛がフルフルと震えた。
「当たり前に……決まって……」
そこまで言うと、椿の瞳が涙で潤む。
彼の唇が彼女の涙へと触れた後、長い指が彼女の黒髪をそっとかき上げる。
「猪俣家への復讐だなどと馬鹿な妄念に囚われてしまって――俺は本当に大切な何かを見失いそうだった――」
そうして、耳元で彼が甘く囁く。
「今までのことを謝って許してもらえるのか分からないけれど――どうか貴女に聞いてもらいたいことがある……」
「は……い」
椿はそっと彼の背に手を添わせる。
二人の影がゆっくりと重なったのだった。
***
それから数日後のこと――。
屋敷で繕い物をして、椿は清一郎の帰りを待っていた。
先日とは違って、心なしか気持ちは弾んでいる。
今日が彼から想いを伝えてもらう約束の日なのだ。
「まだかしら……?」
その時、障子が開かれる。
(清一郎……?)
そう思ったのだが――。
「椿……!」
現れたのは――。
「忍さん……?」
黒髪に黒縁眼鏡の神経質そうな男――元婚約者の忍だったのだ。
「妬いて……?」
「ああ」
椿はうつむいたまま返した。
「そんな、ただの愛人の立場でそんなこと思えるはずがないでしょう……」
「そうか……それもそうですね……」
それだけ言うと、清一郎は庭の方向へと視線を移した。
彼の反応に椿の心臓がズキンとする。
(やっぱり私のことは愛人としか思っていないのね……)
その時――。
「椿様」
「はい」
呼ばれたので振り向くと、彼の綺麗な横顔が見える。
日本人離れした鼻筋が、異国の血が混じっているのだとまざまざと理解させられる。
彼の指が私の頬に触れた。
「あの女性と俺が結婚することは絶対にあり得ない。安心してほしい」
そう聞いて、胸の詰まりがすうっと溶けていくような感覚になる。
「そう……ですか……」
椿は再び俯いた。
そんな彼女の様子を見て、清一郎が寂しそうに微笑んだ。
「もし、貴女は――俺が貴女の家への復讐のためではなく――」
椿は清一郎の顔を見上げる。
「何のしがらみもなく、貴女に求婚していたとしたら、俺の妻になってくれていたんだろうか――?」
「それは……そんなの……」
椿の漆黒の睫毛がフルフルと震えた。
「当たり前に……決まって……」
そこまで言うと、椿の瞳が涙で潤む。
彼の唇が彼女の涙へと触れた後、長い指が彼女の黒髪をそっとかき上げる。
「猪俣家への復讐だなどと馬鹿な妄念に囚われてしまって――俺は本当に大切な何かを見失いそうだった――」
そうして、耳元で彼が甘く囁く。
「今までのことを謝って許してもらえるのか分からないけれど――どうか貴女に聞いてもらいたいことがある……」
「は……い」
椿はそっと彼の背に手を添わせる。
二人の影がゆっくりと重なったのだった。
***
それから数日後のこと――。
屋敷で繕い物をして、椿は清一郎の帰りを待っていた。
先日とは違って、心なしか気持ちは弾んでいる。
今日が彼から想いを伝えてもらう約束の日なのだ。
「まだかしら……?」
その時、障子が開かれる。
(清一郎……?)
そう思ったのだが――。
「椿……!」
現れたのは――。
「忍さん……?」
黒髪に黒縁眼鏡の神経質そうな男――元婚約者の忍だったのだ。
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