21 / 25
21
しおりを挟む屋敷に唐突に現れた忍の姿を見て、椿は愕然とした。
「忍さん、どうして、こんな場所に……」
血相を変えた忍が、彼女の手首をガッと掴んでくる。
「椿、ここを出るぞ」
「出るも何も、ここは私の屋敷で……」
「そんなことは知っている! 良いから出るんだ!」
話を聞かない元婚約者に対して、椿はきっぱりと告げる。
「先日もそうです! 勝手に屋敷に来たかと思えば、私を娼館に売りつけようとしてきて……」
「だか、それが誤解だと言っている! 俺はお前を――!」
「何を言われても信じられません!」
頑なに拒む椿に対して、ギリギリと歯をくいしばっていた忍だが、一度深呼吸をして態勢を整えた。
「椿」
忍がまっすぐに椿を見据えた。
「お前は清一郎に騙されているんだ」
「え?」
唐突にそんなことを言いはじめた元婚約者に対して、椿はきっと眦をあげて抗議した。
「私を売ろうとした男の言うことなど、信じません!」
「だから、そもそもそれが誤解だと言っている!」
ビリビリと障子が震えるほどの大音声だった。
椿に動揺が走ったが、なんとか口を戦慄かせながら、忍へと返す。
「――貴方が何を言おうと、私が信じているのは清一郎です。彼はいつでも私に真実を伝えてくれていた……もし私を騙そうとしているのなら、わざわざ私の家に恨みがあることを話してなどこないはず……だって、彼にとって不利になる情報ですもの……」
なんだか心臓が落ち着かなかったが、椿は胸の前でぎゅっと手を握って耐えようとする。
(そうよ、最初から私を騙すつもりなら、恨みがあることを隠したはずですもの……)
目の前の忍が首を横に振ると、羽織っていたマントも一緒に震えた。
「お前の屋敷に恨みがあるくだりは、そもそもの問題ではない」
「だったら、何の問題があるというのですか?」
意を決したように忍が口を開く。
「お前の父親が若い頃に独逸に留学していたことは知っているな?」
「ええ、それがいったいどうしたのです」
忍がイライラした調子で告げた。
「早くいかないといけないが――お前が納得しないのなら仕方がない……お前の父親が留学していた頃、交際していた相手が――」
その時――。
13
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
執着系狼獣人が子犬のような伴侶をみつけると
真木
恋愛
獣人の里で他の男の狼獣人に怯えていた、子犬のような狼獣人、ロシェ。彼女は海の向こうの狼獣人、ジェイドに奪われるように伴侶にされるが、彼は穏やかそうに見えて殊更執着の強い獣人で……。
図書館の秘密事〜公爵様が好きになったのは、国王陛下の側妃候補の令嬢〜
狭山雪菜
恋愛
ディーナ・グリゼルダ・アチェールは、ヴィラン公国の宰相として働くアチェール公爵の次女として生まれた。
姉は王子の婚約者候補となっていたが生まれつき身体が弱く、姉が王族へ嫁ぐのに不安となっていた公爵家は、次女であるディーナが姉の代わりが務まるように、王子の第二婚約者候補として成人を迎えた。
いつからか新たな婚約者が出ないディーナに、もしかしたら王子の側妃になるんじゃないかと噂が立った。
王妃教育の他にも家庭教師をつけられ、勉強が好きになったディーナは、毎日のように図書館へと運んでいた。その時に出会ったトロッツィ公爵当主のルキアーノと出会って、いつからか彼の事を好きとなっていた…
こちらの作品は「小説家になろう」にも、掲載されています。
日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。
そんな彼に見事に捕まる主人公。
そんなお話です。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
お見合い相手はお医者さん!ゆっくり触れる指先は私を狂わせる。
すずなり。
恋愛
母に仕組まれた『お見合い』。非の打ち所がない相手には言えない秘密が私にはあった。「俺なら・・・守れる。」終わらせてくれる気のない相手に・・私は折れるしかない!?
「こんな溢れさせて・・・期待した・・?」
(こんなの・・・初めてっ・・!)
ぐずぐずに溶かされる夜。
焦らされ・・焦らされ・・・早く欲しくてたまらない気持ちにさせられる。
「うぁ・・・気持ちイイっ・・!」
「いぁぁっ!・・あぁっ・・!」
何度登りつめても終わらない。
終わるのは・・・私が気を失う時だった。
ーーーーーーーーーー
「・・・赤ちゃん・・?」
「堕ろすよな?」
「私は産みたい。」
「医者として許可はできない・・!」
食い違う想い。
「でも・・・」
※お話はすべて想像の世界です。出てくる病名、治療法、薬など、現実世界とはなんら関係ありません。
※ただただ楽しんでいただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
それでは、お楽しみください。
【初回完結日2020.05.25】
【修正開始2023.05.08】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる