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遺体争奪編
忠臣たちの演武
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首輪から、セスとシルヴェンヌが結界に入ったことが伝わってくる。鉄甲船を含む船団も無事に回収したようだ。結界の外での戦闘ならともかく、結界内では船のように多数の人で操る武器はほぼ意味をなさない。黒は空気と同じ。船の中にも満ちて、一人一人を襲う。時には分断し、時にはまとめて。空気と同じだが、セスの手のひらの中と同じ。大勢で扱う武器よりも、勇者一行のような個人の武勇の方がセスの脅威になる世界。
メゼスの弱い分身体が後方に置き去りにされている人間たちに襲い掛かった。
「突撃せよ」
ナギサの言葉に応じて、セスの残した傀儡たちが二十二人を素通りするように走り出す。
「広がって止めよ。足元を狙え」
ウェルズの指示が飛ぶ。
「メルクリウス殿。降りてきてもらえますね」
首魁が降りるとなれば、安全は確保しなくてはいけない。
翼人族の攻撃が一時的に二十二人に集中し、封じ込めた。その隙に傀儡たちが横を抜ける。
「ナギサさん。アレは同胞の仇。私に一騎討の申し出を受けさせてください」
翼を畳んだメルクリウスが、弓矢をすぐ近くに降りた従者に渡した。
「ウェルズの申し出は陛下に対するもの。ならば代理は私かメゼスが適任だろう」
「義兄上なら、私に機会をくださると思います」
「私は陛下に被害少なくお返しする義務がある」
「人間なんかに遅れはとりません」
「そう思っているから不安なのだ」
「流れる血を少なくしたいなどという見え見えの詭弁を弄する愚物に私が遅れを取ると思っているのですか!」
「その言葉で、ますますメルクリウス殿が一騎討に応じるのを反対する意思を固めました」
「同じことを死の縁でも言えるのか、試してやりたいのです」
怒りを無理矢理押さえつけたかのように、歯を食いしばりながらメルクリウスが言った。
「なりません」
「みっともなく命乞いをさせてやりたいのです!」
「メルクリウス殿」
メルクリウスがわずかに口を尖らせ、ナギサから目を外した。
ため息を堪えて、ナギサはメゼスに目をやった。メゼスが、こてん、と首を傾げる。
(どういう状況でバリエンテとウェルズが接敵するのが最善か)
乱戦? 一騎討? それとも大勢がどちらかに傾いている時?
様々な可能性を考慮し、一番プロディエルがまた牙を剥きそうな時を考える。あれは癌だ。陛下のために生かしてはおけない。
何としても、この場で牙を剥かせなくては。
「メゼス、準備だけをしておいてくれ」
「りょーかいー」
軽い声を聴きつつ、ナギサはメルクリウスに目を向けた。ゆっくりとメルクリウスの目がナギサに合う。
直後に、魔力の高まり。
ウェルズを先頭に、再び二十二人が駆けだしてきた。
「上にいる者は全て奥に当たらせてくれ。あっちを近づけない方が大事だ」
ナギサの言葉を受けて、メルクリウスが手で従者に指示を出す。
降りてきた翼人族の一人が鏑矢を間隔を変えて三度放った。
走ってきた二十二人のうち、後方の十人が足を緩めて上空の警戒に当たる。次いで七人が止まり、ナギサたちに対して威嚇らしき攻撃。
「雷よ」
全てがナギサの雷で楽に霧散するほど、威力がない。
いや、ないわけではなく、ナギサが基準を勇者一行にしていたがゆえに、あっけなく霧散したのだ。
ウェルズが剣を上段に構えた。残りの四人も、メルクリウスと共に降りてきた三人にそれぞれ一人ずつ向かう。ウェルズの傍に一人。
「急に、如何されました?」
魔力の流れは、ウェルズがナギサに、もう一人はメルクリウスとナギサの間か。
「何。随分と人がよろしいみたいなので。魔王の右腕の首を狙えるのは、今しかないかもしれませんからね」
メルクリウスがウェルズを狙ってはいたが、魔力の方向をもう一人の方に変えた。
「変化」
ナギサは刀を持つ右手の爪は伸ばさず、左手の爪だけを伸ばして雷獣の尻尾を生やした。
ウェルズを援護するかのように、後方の七人が海水をくみ上げ、押し出してくる。
ナギサが爪に電気を宿す。
「精製」
ウェルズが作りだした魔法陣をくぐった海水と、ナギサの雷が激突。
雷は爪に留まり続け、勢いのついたままの真水がナギサとメルクリウスも巻き込んで押し流した。
メルクリウスについていた人間は、波に乗るかのようにして体勢を保ったまま背後に回っている。
「対策されているんじゃないですか?」
メルクリウスがうずうずとした様子で言った。
ナギサは、目に入りかねない濡れた前髪をよかしながら返す。
「まだ時機じゃない」
ナギサの真意を感じ取ってくれたのか、渋々と言った空気を出しつつもメルクリウスが背後に向かった。
前方からはウェルズ。各鎧の力も開放して、放出されている魔力量が跳ね上がっている。
ナギサは、ウェルズが踏み込む前に神速で近づいた。
「最初から狙いは私という認識でも?」
左爪と剣が押し合う。
「戦略上のことは答えられませんが、貴女は最警戒人物の一人ですので」
魔法による強化も含めた膂力の差で、ナギサが押し切られる。退く間際に刀の切っ先を見せ、ウェルズの踏み込みを甘くした。雷獣特有の素早さをもって、距離を取ることに成功する。
ウェルズを飛び越えてくる援護射撃に対しては雷撃で。
逆に言えば、援護射撃がある間はウェルズも距離を詰められない。
再び、海水が持ち上がり、今度は巨大な球形を模した。霧の中でも影ができるほどに、大きく空を埋め尽くす。
「精製」
魔法陣が展開された。
例え、アレが全てを真水に精製できなかったとしても、雷撃が意味をなさなくなる可能性があるだけで見せた意味がある。衝撃で幾分か押し返せたとしても、根本的に真水は電気を通さない。しかも向こうは脇からいくらでも海水を取ってくることができる。魔力量の差で押し切るのは不可能だ。
(綺麗な戦い方とは言えないが)
ナギサは刀をしまった。影が濃くなる。
「解放、変化」
自ら水球に近づくように視線が変わる。手は前足と呼ぶにふさわしく地面を掴み、ナギサの目からも自分の鼻先がしっかりと見えるようになった。どちらかと言えば見上げていたウェルズも、完全に見下す形になる。巨大な、八尾の狐の姿だ。
「炎よ」
精製の魔法陣ごと、八本の尻尾から放った業炎が打ち砕き、大分嵩の減った海水が八尾の狐に変貌したナギサと地面に降り注ぐ。
威力も何もなく、押し流せもしない。ただの水浴びのようである。
魔力の高まりを感じて、ナギサは後衛に炎を放った。ウェルズがしゃがみ、避けていく。だが、ウェルズの巻き込みこそ叶わなかったものの、後衛の魔力を飲みこんで、炎が人を蹴散らした。
「肉体強化・速」
ウェルズがナギサの視界から消える。
前足で地面ごと削るように後ろに蹴り上げる。ウェルズが大柄になったナギサの足をかわして、後ろ足に近づいた。ナギサが跳びあがる。ウェルズの剣が宙を斬る。ナギサが炎を放つ。だが、ウェルズはナギサの炎に当たることなく、ナギサの着地地点に来た。
再び魔力と強制的に巻き起こる潮の声。精製の魔法陣は展開されていない。
ナギサが左の爪をウェルズに叩きつけるように先に落とす。ウェルズが身を翻し、爪が横を過ぎた。剣が振るわれ、横からは海水が迫る。
「解放変化」
巨体を矮躯に。尻尾に蒼白い炎を灯した小柄な白狐にナギサが変化し、海水に飛ばされるように宙を舞う。ウェルズの剣は空を切り、海水をもろに被った。
ナギサは着地のために空中で体を回転させ、雷獣の力を前面に出した形態に戻る。
「雷よ!」
「精製」
ウェルズが自身の魔法陣を頭から被った。足元まで行ったあと、ナギサの雷撃が彼を貫く。衝撃で吹き飛ぶウェルズに、回復魔法が飛び、身体強化らしき魔法が地面に叩きつけられたウェルズに付加された。
起き上がる前にナギサが距離を詰める。爪の突き。剣で流され、もう片手は内側に手を入れられて防がれた。そのまま外側に両手を押しやられたが、ナギサはその間にウェルズの胸を蹴飛ばして宙で半回転した。
「雷よ」
ウェルズが何時の間にやら手に持っていた何かを砕いた音がした。
地面に突き刺さるように棘が四本現れ、雷を地面に流しながら砕けていった。ウェルズは無事に立ち上がり、剣を構えている。ナギサも着地した。
「貴殿に対する考察は、ヘクセ・カルカサールの書置きで学びました」
どこまでに対する揺さぶりかを、ナギサは考える。
置いておかれた七人で魔力が練られており、さらに後ろの十人が七人を守るように戦っている。メゼスと傀儡たちの方は優勢の様だ。
「だからと言って、ヘクセを陛下の傍から引き離す理由にはならないな」
生きていると思っているなら裏切りの核心を。死んでいると思っているのなら、優秀な傀儡は使うという意思表示に。
ウェルズが口元を緩めた。
「完全解放、しなくてよいのですか?」
対策は十分だ、と。
対策したうえで上回った形態になってみろと。
そう解釈し、ナギサはウェルズを鋭く睨んだ。
「させてみろ」
ウェルズの後ろの海水が持ち上がる。今度は広範囲に。そのまま一気に陸へ。
翼人族も人間も押し流しながら、波が荒れる。
その波の中を、ウェルズが素早く思いのままであるかのように泳いだ。注意を周りに向ければ、他の四人の人間も泳ぎ始めている。船に乗る可能性がある者の、必須魔法なのだろうか。
刀を合わせ、剣戟を交えて致命傷は防ぐ。地に足が付いておらず、自在に動けないナギサではされるがまま、ただ攻撃を受けないようにするので精一杯だ。
(解放、変化)
刀をしまって、再度八尾になる。
尻尾を操って海水に巻き込まれた翼人族を救い出し、残りの四本の尻尾と口から炎を吐き出して海水に叩きつける。
同時に、バリエンテの巨大な魔力。
ナギサは翼人族を放すと、後ろに向いた。振り下ろされたバリエンテの斧を噛みついて受け止めるが、そのまま頭を地面に叩きつけられた。バリエンテの脚が伸びてくる。体を持ち上げて、拘束は防ぐ。糸。右前足を掴まれ、そのまま引っ張られた。斧は左爪で防いだが、後ろの貨物にぶつけられる。貨物が崩れて道が潰れた。
メゼスの弱い分身体が後方に置き去りにされている人間たちに襲い掛かった。
「突撃せよ」
ナギサの言葉に応じて、セスの残した傀儡たちが二十二人を素通りするように走り出す。
「広がって止めよ。足元を狙え」
ウェルズの指示が飛ぶ。
「メルクリウス殿。降りてきてもらえますね」
首魁が降りるとなれば、安全は確保しなくてはいけない。
翼人族の攻撃が一時的に二十二人に集中し、封じ込めた。その隙に傀儡たちが横を抜ける。
「ナギサさん。アレは同胞の仇。私に一騎討の申し出を受けさせてください」
翼を畳んだメルクリウスが、弓矢をすぐ近くに降りた従者に渡した。
「ウェルズの申し出は陛下に対するもの。ならば代理は私かメゼスが適任だろう」
「義兄上なら、私に機会をくださると思います」
「私は陛下に被害少なくお返しする義務がある」
「人間なんかに遅れはとりません」
「そう思っているから不安なのだ」
「流れる血を少なくしたいなどという見え見えの詭弁を弄する愚物に私が遅れを取ると思っているのですか!」
「その言葉で、ますますメルクリウス殿が一騎討に応じるのを反対する意思を固めました」
「同じことを死の縁でも言えるのか、試してやりたいのです」
怒りを無理矢理押さえつけたかのように、歯を食いしばりながらメルクリウスが言った。
「なりません」
「みっともなく命乞いをさせてやりたいのです!」
「メルクリウス殿」
メルクリウスがわずかに口を尖らせ、ナギサから目を外した。
ため息を堪えて、ナギサはメゼスに目をやった。メゼスが、こてん、と首を傾げる。
(どういう状況でバリエンテとウェルズが接敵するのが最善か)
乱戦? 一騎討? それとも大勢がどちらかに傾いている時?
様々な可能性を考慮し、一番プロディエルがまた牙を剥きそうな時を考える。あれは癌だ。陛下のために生かしてはおけない。
何としても、この場で牙を剥かせなくては。
「メゼス、準備だけをしておいてくれ」
「りょーかいー」
軽い声を聴きつつ、ナギサはメルクリウスに目を向けた。ゆっくりとメルクリウスの目がナギサに合う。
直後に、魔力の高まり。
ウェルズを先頭に、再び二十二人が駆けだしてきた。
「上にいる者は全て奥に当たらせてくれ。あっちを近づけない方が大事だ」
ナギサの言葉を受けて、メルクリウスが手で従者に指示を出す。
降りてきた翼人族の一人が鏑矢を間隔を変えて三度放った。
走ってきた二十二人のうち、後方の十人が足を緩めて上空の警戒に当たる。次いで七人が止まり、ナギサたちに対して威嚇らしき攻撃。
「雷よ」
全てがナギサの雷で楽に霧散するほど、威力がない。
いや、ないわけではなく、ナギサが基準を勇者一行にしていたがゆえに、あっけなく霧散したのだ。
ウェルズが剣を上段に構えた。残りの四人も、メルクリウスと共に降りてきた三人にそれぞれ一人ずつ向かう。ウェルズの傍に一人。
「急に、如何されました?」
魔力の流れは、ウェルズがナギサに、もう一人はメルクリウスとナギサの間か。
「何。随分と人がよろしいみたいなので。魔王の右腕の首を狙えるのは、今しかないかもしれませんからね」
メルクリウスがウェルズを狙ってはいたが、魔力の方向をもう一人の方に変えた。
「変化」
ナギサは刀を持つ右手の爪は伸ばさず、左手の爪だけを伸ばして雷獣の尻尾を生やした。
ウェルズを援護するかのように、後方の七人が海水をくみ上げ、押し出してくる。
ナギサが爪に電気を宿す。
「精製」
ウェルズが作りだした魔法陣をくぐった海水と、ナギサの雷が激突。
雷は爪に留まり続け、勢いのついたままの真水がナギサとメルクリウスも巻き込んで押し流した。
メルクリウスについていた人間は、波に乗るかのようにして体勢を保ったまま背後に回っている。
「対策されているんじゃないですか?」
メルクリウスがうずうずとした様子で言った。
ナギサは、目に入りかねない濡れた前髪をよかしながら返す。
「まだ時機じゃない」
ナギサの真意を感じ取ってくれたのか、渋々と言った空気を出しつつもメルクリウスが背後に向かった。
前方からはウェルズ。各鎧の力も開放して、放出されている魔力量が跳ね上がっている。
ナギサは、ウェルズが踏み込む前に神速で近づいた。
「最初から狙いは私という認識でも?」
左爪と剣が押し合う。
「戦略上のことは答えられませんが、貴女は最警戒人物の一人ですので」
魔法による強化も含めた膂力の差で、ナギサが押し切られる。退く間際に刀の切っ先を見せ、ウェルズの踏み込みを甘くした。雷獣特有の素早さをもって、距離を取ることに成功する。
ウェルズを飛び越えてくる援護射撃に対しては雷撃で。
逆に言えば、援護射撃がある間はウェルズも距離を詰められない。
再び、海水が持ち上がり、今度は巨大な球形を模した。霧の中でも影ができるほどに、大きく空を埋め尽くす。
「精製」
魔法陣が展開された。
例え、アレが全てを真水に精製できなかったとしても、雷撃が意味をなさなくなる可能性があるだけで見せた意味がある。衝撃で幾分か押し返せたとしても、根本的に真水は電気を通さない。しかも向こうは脇からいくらでも海水を取ってくることができる。魔力量の差で押し切るのは不可能だ。
(綺麗な戦い方とは言えないが)
ナギサは刀をしまった。影が濃くなる。
「解放、変化」
自ら水球に近づくように視線が変わる。手は前足と呼ぶにふさわしく地面を掴み、ナギサの目からも自分の鼻先がしっかりと見えるようになった。どちらかと言えば見上げていたウェルズも、完全に見下す形になる。巨大な、八尾の狐の姿だ。
「炎よ」
精製の魔法陣ごと、八本の尻尾から放った業炎が打ち砕き、大分嵩の減った海水が八尾の狐に変貌したナギサと地面に降り注ぐ。
威力も何もなく、押し流せもしない。ただの水浴びのようである。
魔力の高まりを感じて、ナギサは後衛に炎を放った。ウェルズがしゃがみ、避けていく。だが、ウェルズの巻き込みこそ叶わなかったものの、後衛の魔力を飲みこんで、炎が人を蹴散らした。
「肉体強化・速」
ウェルズがナギサの視界から消える。
前足で地面ごと削るように後ろに蹴り上げる。ウェルズが大柄になったナギサの足をかわして、後ろ足に近づいた。ナギサが跳びあがる。ウェルズの剣が宙を斬る。ナギサが炎を放つ。だが、ウェルズはナギサの炎に当たることなく、ナギサの着地地点に来た。
再び魔力と強制的に巻き起こる潮の声。精製の魔法陣は展開されていない。
ナギサが左の爪をウェルズに叩きつけるように先に落とす。ウェルズが身を翻し、爪が横を過ぎた。剣が振るわれ、横からは海水が迫る。
「解放変化」
巨体を矮躯に。尻尾に蒼白い炎を灯した小柄な白狐にナギサが変化し、海水に飛ばされるように宙を舞う。ウェルズの剣は空を切り、海水をもろに被った。
ナギサは着地のために空中で体を回転させ、雷獣の力を前面に出した形態に戻る。
「雷よ!」
「精製」
ウェルズが自身の魔法陣を頭から被った。足元まで行ったあと、ナギサの雷撃が彼を貫く。衝撃で吹き飛ぶウェルズに、回復魔法が飛び、身体強化らしき魔法が地面に叩きつけられたウェルズに付加された。
起き上がる前にナギサが距離を詰める。爪の突き。剣で流され、もう片手は内側に手を入れられて防がれた。そのまま外側に両手を押しやられたが、ナギサはその間にウェルズの胸を蹴飛ばして宙で半回転した。
「雷よ」
ウェルズが何時の間にやら手に持っていた何かを砕いた音がした。
地面に突き刺さるように棘が四本現れ、雷を地面に流しながら砕けていった。ウェルズは無事に立ち上がり、剣を構えている。ナギサも着地した。
「貴殿に対する考察は、ヘクセ・カルカサールの書置きで学びました」
どこまでに対する揺さぶりかを、ナギサは考える。
置いておかれた七人で魔力が練られており、さらに後ろの十人が七人を守るように戦っている。メゼスと傀儡たちの方は優勢の様だ。
「だからと言って、ヘクセを陛下の傍から引き離す理由にはならないな」
生きていると思っているなら裏切りの核心を。死んでいると思っているのなら、優秀な傀儡は使うという意思表示に。
ウェルズが口元を緩めた。
「完全解放、しなくてよいのですか?」
対策は十分だ、と。
対策したうえで上回った形態になってみろと。
そう解釈し、ナギサはウェルズを鋭く睨んだ。
「させてみろ」
ウェルズの後ろの海水が持ち上がる。今度は広範囲に。そのまま一気に陸へ。
翼人族も人間も押し流しながら、波が荒れる。
その波の中を、ウェルズが素早く思いのままであるかのように泳いだ。注意を周りに向ければ、他の四人の人間も泳ぎ始めている。船に乗る可能性がある者の、必須魔法なのだろうか。
刀を合わせ、剣戟を交えて致命傷は防ぐ。地に足が付いておらず、自在に動けないナギサではされるがまま、ただ攻撃を受けないようにするので精一杯だ。
(解放、変化)
刀をしまって、再度八尾になる。
尻尾を操って海水に巻き込まれた翼人族を救い出し、残りの四本の尻尾と口から炎を吐き出して海水に叩きつける。
同時に、バリエンテの巨大な魔力。
ナギサは翼人族を放すと、後ろに向いた。振り下ろされたバリエンテの斧を噛みついて受け止めるが、そのまま頭を地面に叩きつけられた。バリエンテの脚が伸びてくる。体を持ち上げて、拘束は防ぐ。糸。右前足を掴まれ、そのまま引っ張られた。斧は左爪で防いだが、後ろの貨物にぶつけられる。貨物が崩れて道が潰れた。
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