妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ

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44 ロセウムの呪い

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「つまり端的に言えば『ロセウムの女』は『繁殖したい種』の奴隷だ」

そう話を切り出したロサは落ち着いている。

様に見える。

そんなはずない事はクースとトースそしてシアンも分かっている。

「子を宿す為男を性交に誘う魅了を放つ。
母はそんな『ロセウムの女』の先祖返り。
29年前のロセウム王国周辺が男達が繁殖を放棄した太古の昔と似た状態だったせいで母はピンクの髪と瞳を持って生まれたのだろう…が、母は『ロセウムの女』としては不完全だった」

不完全?という疑問が総勢7名が座す応接室を満たす。

「昔の『ロセウムの女』は無邪気で愛嬌があり誰とでも性交し誰の子供でも産んだ。
彼女達にとってそれは当たり前だった…だが母は心は普通の王女だった。だからロセウム王国に周辺国が連合を組んで乗り込み各島国の王達に『我が子を産む栄誉を授けよう』と迫られた時泣いて拒否した。かつての『ロセウムの女』なら『喜んで』と笑顔を見せ王達全員を自分の閨に引き入れただろうが…王達はその気にさせておいて拒否するのかと激怒した。ただ仕方なしに挨拶しただけの母にとって…小さな島国で慈しまれ育っている最中の12才にとって生まれて初めて大人達に囲まれて怒られしかも各国の王の子を順番に産んでもらうと言われては――絶対自分を守ってくれるはずの一番偉いはずの両親が蒼白な顔で他国の兵に押さえ付けられているのを見た瞬間に絶望を知った――そこへ父トニトルス陛下が現れ王達から母を救った。ロセウム王が父に他国の不穏な動きを心配する手紙を送っていたのだ。王達をそれぞれの島に強制転移させた後、泣いて喜ぶロセウム王夫妻に父は提案した。フランマ帝国で母を保護しようと。それしかないとなり母は泣く泣くフランマへ」
「…その話だとトニトルス陛下はクフェア妃殿下と恋に落ちたのではない?」

シアンが問う。

ロサは無表情で頷き…

「そう…母はただ保護されただけ。父には既に2人の妃が居て母でなくとも新たに妃を迎える気などまるで無かったらしい。…だから…謎だったのだ…なぜ私が生まれることになったのか――なぜ父が『過ち』を犯すことになったのか」
「ロサ殿下?!『過ち』って‥トニトルス陛下はそんな事をする男では‥!」

グラキエス王ヒエムスが困惑の声を上げる。

「父には熱狂的ファンが大勢居たそうですね」
「彼は美し過ぎたから…私が帝国に留学していた学生の頃も大変なものだったが結婚後も変わらず女性に追い回されておられた…ご本人が堅物と言っていいほど真面目な御方なので随分とお心を擦り減らしておられた様だ…そんな彼が『過ち』など…」

父の為に意見してくれるヒエムスにロサは柔らかに微笑む。

頬を染め胸を押さえて黙る父をシアンが絶対零度の視線で刺す。

「そうですか…私は母と共に隔離された場所で暮らしていて普段の父の様子は知らなかったのですがやはり父は苦労していたのですね」
「モテ過ぎるのも大変なのだなぁ」

――と言ったのがシアンなので(イケメンだらけなので誰が言っても同様だろうがシアンの場合特に)一斉にガン見される。

現在『世界一美しい男』と言われているシアン・グラキエスがソレ言う!?

と、みんな言いたい。

「その様だな…そのファンの中でもたちが悪く公爵令嬢と立場も高かったネブラ…ここグラキエスではカルミアの侍女長だった女が卑怯な作戦を実行した。父がロセウム王国から少女を連れ帰って来た事が許せないというそれだけの理由で…」

現在間違いなく『世界一美しい女』だけは普通に相槌を打ち話を続ける。

うん、まぁ、そうか…と無自覚達を薄い笑いを浮かべて眺める面々。

シアンが強い口調で怒りを露わにする。

「あの女は人間じゃない!自分と既成事実を作る為トニトルス陛下に強力な媚薬を飲ませ同時にクフェア妃殿下が匿われていた離宮に男達を差し向けて輪姦させて殺すという最低な計画を実行に移すとは…だが侍女長はトニトルス陛下に逃げられ…」

昨日侍女長本人から聞かされた17年前の侍女長のあまりにも酷い行為にシアンは怒りと吐き気でそれ以上言葉が発せなくなる。

話の酷さもさることながらヒエムスは息子の見た事の無い激しさに目を瞠り、カクタスとパキラは子供の頃のシアンを思い出す。

カルミアとの結婚で失っていた人間らしさをロサ姫との出会いで取り戻されたと。

そのロサがシアンの言葉を引き取る。

「父上が逃げた先で母上が男達に襲われかけていた――父上は母上を助けた後――『過ち』を犯した…父上も母上も記憶が無いのも頷ける。母上はショックで…まだ12才だったのだから。父上は強力な媚薬とロセウムの力の影響で…父上は激しく自分を責めておられたが父上にとっても不幸な事故の様なものだったのだと思う…それを知れたのだけは侍女長と話して良かった事だな…」
「…………」

シンとして誰も口を開けない。

ロサも出来れば開きたくない。

だが。

(私には説明責任がある。私の身に起こるかもしれない呪いをあやふやなままにするのは卑怯だ)

何度も挫けそうになる心を奮い立たせてもう一度覚悟を新たにしてロサは説明を続ける。

「一番悲惨だったのは母だ。…母は私を身籠った後、不思議な感覚になったという。心が満たされ、そんなはずないのに幸福感すらあったと。それは私を産み、産んだ後も3ヶ月ほどは続いたがある日突如終わって…暴力的なまでの欲情に襲われた。体が妊娠する事を求めているのだと分かったがそれには男と性交しなければならない。母になったとは言えまだ13才で…性交に嫌悪感がある。それでも絶え間なく襲い続ける欲情に耐え切れず父を呼んで欲しいと頼んだのだが周囲にそれは出来ないと断られた。フランマでは1妃が持てる子は1人と決まっているから。権力が集中しないためとか幾つかの理由でそう決まっている。父でなければ無理だと母は耐える事にしたがいつまで経っても欲情は収まらない。妊娠するまで収まらないのだと絶望しながらも耐え続ける母の精神を母の体が壊し始める。正気を失った母はある日体調の優れない侍女を迎えに来た彼女の夫を閨に引き入れ――年配の心臓が弱い男性に続けざまの性交は大変な負担だったのだろう。その老人は最高に幸せそうな顔でこと切れていた。老人の子を妊娠した母の体は満たされ、心は正気を取り戻した。そして自分の体の恐ろしさを分析しまとめ上げ父に書き送った…『ロセウムの呪い』として」

ロサは伏せていたローズレッドの瞳を上げ真っ直ぐにシアンを見つめた。
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