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将軍艦隊編・急

ep339 全ての黒幕と対峙することになった。

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 船体上部の装備を見ると、そこかしこに機銃や大砲が配備されている。まるでハリネズミのようだ。
 そんな物騒な装備に囲まれた甲板にいるのは、この空中戦艦と化したコメットノアを現実に顕在させた張本人。アタシにとってはヒーロー制定法から続く因縁の間柄、固厳首相だ。
 テレビで見るような人当たりのいい姿ではなく、どこか本性とも言える様子が垣間見える。

「他の乗組員が見当たらないけど、まさか固厳首相一人だけ?」
「その通りだァ。コメットノアを制御AIとすることができれば、余計な乗組員なんざいらねェ。本当は捨て駒のヒーローどもで時間稼ぎできりゃァよかったんだが、テメェも介入してくれたおかげでスムーズに戦艦ごとコメットノアを起動させることができたなァ。感謝するぜェ」

 フクロウさんもガンシップの高度を落とし、固厳首相と話ができる位置で滞空してくれる。
 それにしても、固厳首相はまさかこうなることを読んでたってこと? 新人ヒーロー達を無謀にも将軍艦隊ジェネラルフリートに突撃させてたのも、要するに時間稼ぎができればよかったってこと?

将軍艦隊ジェネラルフリートが起動用に置いていった白陽炉を機関部に設置し、こうしてオレがその全てを手にするだけの時間は稼げたなァ。どいつもこいつも、オレの思惑通りに動いてくれて本当に助かったぜェ」
「……その言い方だと、固厳首相がこれまで裏であれこれやってたのも、全ては『完全な力を持ったコメットノアを手に入れるため』ってことだったんだね? 宇神君達についても、本当に最初から捨て駒だったってことか」
「国民の目を欺くためには、これぐらい大々的にやらねェとなァ。テメェも――空色の魔女も、オレの計画のために動いてくれてありがとよォ……!」

 なんともしてやられたって気分だ。固厳首相からしてみれば、ヒーロー制定法でさえもコメットノアを手に入れるための誘導に過ぎなかったってことか。
 将軍艦隊ジェネラルフリートと手を組んだのも、白陽炉という膨大なエネルギーシステムを自らの手中に収め、コメットノア本体である戦艦を浮上させるための布石だった。

 ――全部が全部、固厳首相の手の平で踊らされたってことか。これは流石に腹が立ってくる。
 仮にも内閣総理大臣が国民全員を騙し、こんな巨大空中戦艦を操ってるってどういうことよ?

「……固厳首相。あんたの本当の目的は何なのさ? 『誰でもヒーローになれる』みたいな謳い文句でみんなを騙し、将軍艦隊ジェネラルフリートを敵に回す危険まで冒して、その空中戦艦で何をするつもりさ? 世界征服でもするつもり?」
「ダハハハ……! 正義のヒーローなんて呼ばれていても、所詮はヒヨッコの思考しかできねェかァ。そもそも、オレは『誰でもヒーローになれる』って件について、嘘とするつもりはねェなァ」
「ん? どういうことさ?」
「そこを懇切丁寧に語るつもりもねェよ。どうせテメェは用済みだァ。今ここでコメットノアの真の力を使い、葬り去ってやるよォ」

 アタシの文句など知らんとばかりに、固厳首相は話を切り上げて艦橋の中へと姿を消していく。
 思えばアタシに嫌がらせをして、ヒーローの座から引きずり降ろそうとはしてたよね? ヒーローという存在そのものには固執してるってこと?
 疑問はあるけど、今は眼前の敵に注意するべきだ。どっちみち、固厳首相はこの場でアタシを打ち倒すつもりではある。

 ――ヒーローの椅子にどんな意味があるのか知らないけど、そこに居座ってるアタシの存在は邪魔ってことか。

「なんだか、アタシの方がフクロウさんを巻き込んじゃったみたいでごめんね」
「気にすんなって。オレッチだってコメットノアのために、こうしてソラッチャンに協力してもらってんだからさ。……まさか、そのコメットノアと一戦交えることになるとは思わなかったがな」

 こちらもコメットノアとの戦いに備えつつ、フクロウさんと小話を交える。
 将軍艦隊ジェネラルフリートとの海上戦は避けられたのに、まさか空の上で戦艦と戦うことになるとは思わなんだ。
 てか、どうやって戦えばいいんだろ? フクロウさんもコメットノアの正面でガンシップを滞空させてるけど、とりあえずフレイムと戦った時みたいにアタシが防御すればいいのかな?


 ガコンッ ガコンッ


「いいぃ!? 砲門が全部こっちに向いてきたぁ!?」
「くっ!? 流石に数が多いな!? オレッチも回避はするが、ソラッチャンも防御を頼む!」

 案の定、基本戦術はフレイムとの空中戦と変わらない。フクロウさんがガンシップで移動を担い、アタシが防御を行う。
 ただ、そのスケールはフレイム戦以上だ。敵が巨大なだけでなく、攻撃の手数が多すぎる。
 フレイムでも人間が相手できるレベルを超えてたのに、ハリネズミのような機銃や大砲による攻撃が相手では、防御とか以前の話になってくる。


 ビビュンッ! バシュンッ!


「し、しかもこの攻撃って、アタシのビームライフルや電撃魔術玉と同じ性質……!?」

 さらに厄介なのはコメットノアの攻撃の性質が、アタシ自身がよく使う技に近い性質を持つこと。
 機銃による対空射撃はビームライフル。大砲による砲撃は電撃魔術玉。
 自分で扱う技に酷似しているだけに、その脅威は誰よりも理解できる。威力に関してはアタシの比ではない。
 同じ電気エネルギーが相手となると、勝負を分けるのは出力となる。それについても、アタシなんかよりコメットノアの方がはるかに上だ。
 電磁フィールドで防御することも、トラクタービームで弾道をずらすこともできない。
 アタシも体内で核融合エネルギーを生み出せるけど、向こうはもっと大型だ。限りなく本物に近い太陽が相手では、アタシの生体コイルなんて豆電球にしかならない。

「ソラッチャンでも防御できないだと!? ひとまずはオレッチの技量で避けるしかないか!?」
「ごめん、フクロウさん!」

 これではアタシがいても役に立てない。反撃を行おうにも、コメットノアの弾幕が激しすぎてその機会すらない。
 フクロウさんが巧みにガンシップを操縦して攻撃を躱してくれるけど、それも限界が近い。


 ドガァンッ!!


「し、しまった!? エンジンをやられたか!?」

 白陽炉という強大なエネルギー炉を使った、行きつく暇もない弾幕の嵐。その一発がついにガンシップを捉え、こちらの動きを止めてしまった。
 分かってはいたけど、相手が規格外すぎる。いくら超人ヒーローと梟雄パイロットが揃っても、巨大空中戦艦が相手では歯が立たない。

「フ、フクロウさん!? 大丈夫!?」
「くそっ!? ガンシップもここまでか!? せっかく時音の分身に手が届きそうなのに……!?」

 フクロウさんもどうにか立て直そうと奮闘するも、エンジンそのものがやれられてしまっては無理な話だ。
 高度も落ち始め、このまま海に落下してしまう未来しか見えない。

 ――アタシだって、もう一人の星皇社長を助け出すことを目前にしてリタイアなんてしたくない。
 だけど、本当にどうすることもできない。固厳首相が手にした圧倒的な絶望を与える力を前に、このまま何もできずに終わるってこと?



「……こうなったら仕方ない。ソラッチャンだけでもガンシップから脱出しろ! そして……オレッチの最後の願いを叶えてくれ!」
「フ、フクロウさん!? 何をさせるつもり!?」



 そんな絶望の最中、フクロウさんはアタシの方に向き直りながら何かを願い出てくる。
 表情からも覚悟が滲み出ているし、何か最後の手段が残っているような気配はする。
 だけど、今更アタシに何を願って――



「ソラッチャンの手で……コメットノアの記憶領域を破壊してくれ! もうあいつを――時音の分身を止めてやってくれぇええ!!」
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