103 / 116
第三章 欲望顕現
第九十三話 爆弾からの貴族対策
しおりを挟む
タマさんと一緒になって喜ぶラビくんに、ついジト目を向けてしまう。
すると、視線に気付いたのか焦りながら弁明を始めた。
「ち、違うんだよ! 【霊王】の気持ちになって答えただけだよ!」
「……分かってるよ。でも、タマさんがやろうとしていることのおまけでしょ? メインの方が心配なんだよ。何をさせられるのかという不安がね……」
「邪魔せず途中で投げ出すことなく、全力で手伝うことを誓えば教えてあげるわよー! 手伝わなくてもあたしだけでもやるから変わりはないけどねー!」
何それ……。怖っ!
途中下車禁止って、何やらせるつもりだよ……。これは知らないで通して、ノータッチが最善だな。
「ちなみに今契約すれば、契約特典として【霊王】の姿形を教えてあげるわよー?」
「「え!?」」
タマさんから爆弾発言が飛び出した。
何故かラビくんも立ち上がり、驚愕と焦燥の両方を合わせた顔色をしている。
「ラビくん、どうしたの? ラビくんは【霊王】様の姿を知っているんじゃなかったっけ?」
「……ぼく、そんなこと言ったかなー? でも……知ってたとしても、許可なく広めるのは良くないと思うなーー!」
正論を言いながらタマさんの方を睨むラビくん。
だが、タマさんに正論を言っても無駄なのは理解しているはずだ。
その証拠に、光る板から鼻唄が聞こえて来る。
「……タマさん、本当に教えてくれるんですか? 強いとか、大きいとか、抽象的で適当な言葉ではなく!?」
「もちろんよー! 今まで誰も教えてくれなかったことを教えてあげるわよ!」
「タマさぁぁぁん! 勝手に教えてもいいのかな!?」
「確認しようにも、【霊王】が行方不明なんだもの! それに、姿を知らなければ捜せないでしょ?」
「――くっ!」
「あれ? ラビくんは【霊王】様に会いたくないの?」
「あ……会いたいよ……? 会えるなら……」
顔を歪めて項垂れてしまったラビくんには悪いが、どうせやらされることになる地獄の刑務作業の契約をするだけで、ずっと知りたかった【霊王】様の姿を知ることができるのだ。
契約しないわけがない。
「契約します!」
「よろしい! それでは教えて進ぜよう!」
「ありがとうございます!」
「うむ! 心して聞くが良い! それは『巨大な狼』である!」
「……狼……。色は……?」
「キラキラしてるわよ!」
「――いや! それは色じゃないし!」
「しょうがないじゃない! いろんな色になるんだから! ただ、常にキラキラしてるわよ! アルテア様を思い出してみなさい! キラキラしてたでしょ? あんな感じよ!」
そう言われれば……キラキラしてたな。
アルテア様と【霊王】様は親子だから、アルテア様のような狼を想像すればいいのか?
「それにしても……狼か……」
「ど、どうかした?」
ふとラビくんに視線を向けると、ラビくんも俺を見ていた。
「……狼って聞くと、最有力候補にラビくんが浮上してくるんだけど……」
「な、何で!? 巨大って言ったよ!?」
「いろいろ怪しいことがあったし、リムくんみたいに大きさ変えられるかもしれないじゃん!」
「そ……それは……」
「アーク、よく考えてみなさい! あんたが最初に会ったラビくんはどんな姿だったかしら? 力を失ったときや、体に制限があるときは基本的に元の姿になるのよ! リムくんも毎回召喚直後は元の姿でしょ? つまり、ラビくんは今の大きさが本当の姿よ。【霊王】は親分も乗せられるくらい大きいし、本当の姿は【始原竜】くらいあるわよ!」
「そう! その通りだよ! ぼくはこれでも大きくなった方なんだよ! 一緒に成長をしたところを見てきたでしょ!?」
「うーん……なるほど。ちなみに、大きさがリセットするくらい消耗すると手乗りまで縮むってことはない?」
ラビくんが目を見開き驚いている。その可能性を考慮してなかったのかな?
「はぁ……。やれやれ」
「タマさん、どうしました?」
「お馬鹿さんすぎて……」
ムカつく……。誰でも考えることだと思うけどな。
「いい? 前提として【霊王】は、『巨大な狼』である。これはいいわよね?」
「もちろん!」
「ラビくんは姿を変えられるけど、この大きさが最大であるということも理解してるわね?」
「はい!」
「でも不審な行動が多々あったから、ラビくんに疑惑が向いている。というところかしら?」
「そうですね」
「まぁあながち間違いではないわ!」
「――え!? じゃあ!」
ラビくんも言葉こそ発していなかったが、すごく驚いた顔をして光る板を見ていた。
「あっ! 期待しているところ悪いけど、あたしが言おうとしていることは違うわよー!」
じゃあ何よ!?
「不審な行動は、【霊王】の情報をラビくんなりに隠そうとしての行動よ。ラビくんにとって【霊王】は、一心同体と言っても過言ではないくらい大切な存在だからね! そうでしょ!?」
「うん! 情報漏洩はダメだと思って……!」
「確かに……俺も親分の名前を言わないのは、真名を使って悪事を働けるって知ったからだけど……」
「でしょ? それと、体が縮むほど消耗するってことは、姿を変える術は切れてるわよ? ラビくんが【霊王】なら、初めて会ったときの姿は四足歩行の狼になってなければいけないの! あのときは神薬がなければ助からないほど消耗してたんだから! それで、あんたは何でラビくんって名付けたんだっけ?」
――そうだったぁぁぁぁ!!!
兎にしか見えなくて、ラビくんに訂正されるまでずっと兎だと思ってたんだった。
じゃああれか?
ラビくんは本来の姿は四足歩行の狼で、スキルで二足歩行にしてるんだよと言っていた。
スキルを使えるほど消耗していなかったか、元々二足歩行の兎似の狼で見栄を張っているか。
つまり、どちらであったとしても【霊王】様である条件が揃わないということだ。
「……ごめんね、ラビくん! なんか誤解してたみたい!」
「――アーク! いいんだよ!!!」
喧嘩してたわけではないけど、ラビくんと仲直りの抱擁をする。相変わらずモフモフモチモチの至極ボディだ。
「じゃあこれから『巨大な狼』や『不思議な狼』の情報を集めていけば、いずれ【霊王】様に会えるということですね?」
「大正解! 使命達成のための素晴らしい情報でしょ!? あんたも誠意を持って契約の履行を行うようにッ!!!」
「はっ!!!」
左手にラビくんを抱いたまま、右手で敬礼をする。
気分は、地獄の刑務所に視察に訪れた法務大臣と模範囚の関係だ。司法取引を行ったような気がしないでもない。
ラビくんの立場は地獄の刑務所長かな。
勝利の女神降臨とは、法務大臣のゴリ押しってことだもんな。
そこにモフモフの国王陛下を追加しようとするラビくんに、恐れを抱かずにはいられない。
降船の準備をしながら今後の刑務作業について考えていると、ローワンさんが俺たちを呼びに来た。
このあとアナド商会の倉庫に行って素材を引き渡し、その後【一の島】行きの船に案内してもらうためだ。
ついでに、煩わしい商人たちに対する壁にもなってもらう予定である。
「さぁこちらに」
ローワンさんの後ろにカーさんが続き、その後ろにリムくんが続く。俺はラビくんを抱いて最後尾を歩いている。
船室を出て甲板に行くと、ピュールロンヒ辺境伯領の港とは違い、すごく賑やかな景色が目に飛び込んできた。
船の数も人の数も違い、目がチカチカするほどの混雑具合だ。
長い間、森に引きこもっていた俺には刺激が強すぎる。すでに森に帰りたくなっていた。
反対に、ラビくんとリムくんは興奮気味に辺りをキョロキョロと見回していた。
好奇心旺盛なモフモフたちは、どう楽しもうかと考えているのだろう。……楽しめないことを忘れて。
「そういえば、曳航してきた船について情報が入っていますよ。【総合職業組合】の商業部が率先して情報収集していましたので、かなり大きな商会みたいですね」
「持ち物を見る限り貴族が関係してそうだぞ? だから商業部にも働きかけれたんじゃないか?」
「そのようです。しかも【九天王国】の伯爵家で、最新の魔導船らしいですね。最新式の魔導船であれば、あの速力と持続力は納得できますね」
「マジか! アーク、当たりを引いたな!」
「よしッ!」
「……当たり?」
カーさんと俺が魔具がついてない船について当たりと言っているのを聞いて、ローワンさんが口元に手を当てて何やら考え始めてしまった。
「――まさかッ!」
そして気づいてしまったらしい。
「どうした?」
「あ……あの……魔具は、海の底に沈んだのでは……?」
「オレはそんなこと言ってないぞ? 船から外れただけだ。そのあとアスピドケロンを解体してたら出てきたから、他の素材同様もらったけどな。何も問題ないだろ。壊れてたし」
「えぇーー……。魔具の所在を聞かれたら困ります……。【九天王国】の魔導伯爵ですよ?」
「おっ! 結構大物じゃん!」
「結構ではありません! かなりです!」
「うーーん……タイム! タマさん、どうするんだ?」
さすがに可哀想になったのか、回収した俺ではなく、一番欲しそうにしていたタマさんに許可を取っている。
この集団のヒエラルキーおかしくないかと思わないでもない。
「【九天王国】は、これから行く場所以外に用はないし……」
「いやいやいや! 面倒を押しつけるようなことになるだろ!? 可哀想だろ!」
「じゃあ……船を沈めればよくない?」
「もう大衆の目に晒したのに!?」
「……アーク、考えなさい!」
面倒事が回ってきた。
「目を逸らせばいいんじゃないですか? アスピドケロンに喰われた際、魔具が外れたのは事実です。確かに俺たちがもらいましたが、落ちていた物をもらっても罪にはなりません。ですが、【九天王国】籍の船はなすりつけをした者たちです。多くの者が目撃していたので言い逃れはできません。魔具のことを指摘してきたらその話をして逸らしましょう」
「話の通じない貴族だったらどうするの?」
「そこでタマさんの出番ですよ。タマさんが得意にしている根回しで証明書みたいなものを出せませんか?」
「んーー……法神並みの権限が必要ないなら、あたしの権限で発行できるわよ?」
「それで十分です。ローワンさんの行いが間違っていないことを保証できればいいんです」
内容は二つ。
一つ目は、アスピドケロンを討伐した者に素材及び拾得物の権利を全て譲り、それとは別に報酬を払い緊急依頼を請け負ってもらった。
私欲よりも人命救助を優先した対処の保証だ。
二つ目は、なすりつけ行為をしようと【聖獣王国】に向けて船を進めた犯罪者の亡骸を運搬したこと。
殺されそうになったにもかかわらず、船乗りの模範となる人道的な行動をしたという保証である。
天界の者に認められる行為をしたローワンさんに対し、魔導伯爵なる人物が粗略な扱いをしたならば、様々なところから非難囂々だろう。
この案はすぐに採用され、タマさんが書いた書類がカーさん経由でローワンさんに手渡された。
「――こッ!」
と言ったまま固まってしまったローワンさんを、早く船から降りたいなと思いながら見つめるのだった。
すると、視線に気付いたのか焦りながら弁明を始めた。
「ち、違うんだよ! 【霊王】の気持ちになって答えただけだよ!」
「……分かってるよ。でも、タマさんがやろうとしていることのおまけでしょ? メインの方が心配なんだよ。何をさせられるのかという不安がね……」
「邪魔せず途中で投げ出すことなく、全力で手伝うことを誓えば教えてあげるわよー! 手伝わなくてもあたしだけでもやるから変わりはないけどねー!」
何それ……。怖っ!
途中下車禁止って、何やらせるつもりだよ……。これは知らないで通して、ノータッチが最善だな。
「ちなみに今契約すれば、契約特典として【霊王】の姿形を教えてあげるわよー?」
「「え!?」」
タマさんから爆弾発言が飛び出した。
何故かラビくんも立ち上がり、驚愕と焦燥の両方を合わせた顔色をしている。
「ラビくん、どうしたの? ラビくんは【霊王】様の姿を知っているんじゃなかったっけ?」
「……ぼく、そんなこと言ったかなー? でも……知ってたとしても、許可なく広めるのは良くないと思うなーー!」
正論を言いながらタマさんの方を睨むラビくん。
だが、タマさんに正論を言っても無駄なのは理解しているはずだ。
その証拠に、光る板から鼻唄が聞こえて来る。
「……タマさん、本当に教えてくれるんですか? 強いとか、大きいとか、抽象的で適当な言葉ではなく!?」
「もちろんよー! 今まで誰も教えてくれなかったことを教えてあげるわよ!」
「タマさぁぁぁん! 勝手に教えてもいいのかな!?」
「確認しようにも、【霊王】が行方不明なんだもの! それに、姿を知らなければ捜せないでしょ?」
「――くっ!」
「あれ? ラビくんは【霊王】様に会いたくないの?」
「あ……会いたいよ……? 会えるなら……」
顔を歪めて項垂れてしまったラビくんには悪いが、どうせやらされることになる地獄の刑務作業の契約をするだけで、ずっと知りたかった【霊王】様の姿を知ることができるのだ。
契約しないわけがない。
「契約します!」
「よろしい! それでは教えて進ぜよう!」
「ありがとうございます!」
「うむ! 心して聞くが良い! それは『巨大な狼』である!」
「……狼……。色は……?」
「キラキラしてるわよ!」
「――いや! それは色じゃないし!」
「しょうがないじゃない! いろんな色になるんだから! ただ、常にキラキラしてるわよ! アルテア様を思い出してみなさい! キラキラしてたでしょ? あんな感じよ!」
そう言われれば……キラキラしてたな。
アルテア様と【霊王】様は親子だから、アルテア様のような狼を想像すればいいのか?
「それにしても……狼か……」
「ど、どうかした?」
ふとラビくんに視線を向けると、ラビくんも俺を見ていた。
「……狼って聞くと、最有力候補にラビくんが浮上してくるんだけど……」
「な、何で!? 巨大って言ったよ!?」
「いろいろ怪しいことがあったし、リムくんみたいに大きさ変えられるかもしれないじゃん!」
「そ……それは……」
「アーク、よく考えてみなさい! あんたが最初に会ったラビくんはどんな姿だったかしら? 力を失ったときや、体に制限があるときは基本的に元の姿になるのよ! リムくんも毎回召喚直後は元の姿でしょ? つまり、ラビくんは今の大きさが本当の姿よ。【霊王】は親分も乗せられるくらい大きいし、本当の姿は【始原竜】くらいあるわよ!」
「そう! その通りだよ! ぼくはこれでも大きくなった方なんだよ! 一緒に成長をしたところを見てきたでしょ!?」
「うーん……なるほど。ちなみに、大きさがリセットするくらい消耗すると手乗りまで縮むってことはない?」
ラビくんが目を見開き驚いている。その可能性を考慮してなかったのかな?
「はぁ……。やれやれ」
「タマさん、どうしました?」
「お馬鹿さんすぎて……」
ムカつく……。誰でも考えることだと思うけどな。
「いい? 前提として【霊王】は、『巨大な狼』である。これはいいわよね?」
「もちろん!」
「ラビくんは姿を変えられるけど、この大きさが最大であるということも理解してるわね?」
「はい!」
「でも不審な行動が多々あったから、ラビくんに疑惑が向いている。というところかしら?」
「そうですね」
「まぁあながち間違いではないわ!」
「――え!? じゃあ!」
ラビくんも言葉こそ発していなかったが、すごく驚いた顔をして光る板を見ていた。
「あっ! 期待しているところ悪いけど、あたしが言おうとしていることは違うわよー!」
じゃあ何よ!?
「不審な行動は、【霊王】の情報をラビくんなりに隠そうとしての行動よ。ラビくんにとって【霊王】は、一心同体と言っても過言ではないくらい大切な存在だからね! そうでしょ!?」
「うん! 情報漏洩はダメだと思って……!」
「確かに……俺も親分の名前を言わないのは、真名を使って悪事を働けるって知ったからだけど……」
「でしょ? それと、体が縮むほど消耗するってことは、姿を変える術は切れてるわよ? ラビくんが【霊王】なら、初めて会ったときの姿は四足歩行の狼になってなければいけないの! あのときは神薬がなければ助からないほど消耗してたんだから! それで、あんたは何でラビくんって名付けたんだっけ?」
――そうだったぁぁぁぁ!!!
兎にしか見えなくて、ラビくんに訂正されるまでずっと兎だと思ってたんだった。
じゃああれか?
ラビくんは本来の姿は四足歩行の狼で、スキルで二足歩行にしてるんだよと言っていた。
スキルを使えるほど消耗していなかったか、元々二足歩行の兎似の狼で見栄を張っているか。
つまり、どちらであったとしても【霊王】様である条件が揃わないということだ。
「……ごめんね、ラビくん! なんか誤解してたみたい!」
「――アーク! いいんだよ!!!」
喧嘩してたわけではないけど、ラビくんと仲直りの抱擁をする。相変わらずモフモフモチモチの至極ボディだ。
「じゃあこれから『巨大な狼』や『不思議な狼』の情報を集めていけば、いずれ【霊王】様に会えるということですね?」
「大正解! 使命達成のための素晴らしい情報でしょ!? あんたも誠意を持って契約の履行を行うようにッ!!!」
「はっ!!!」
左手にラビくんを抱いたまま、右手で敬礼をする。
気分は、地獄の刑務所に視察に訪れた法務大臣と模範囚の関係だ。司法取引を行ったような気がしないでもない。
ラビくんの立場は地獄の刑務所長かな。
勝利の女神降臨とは、法務大臣のゴリ押しってことだもんな。
そこにモフモフの国王陛下を追加しようとするラビくんに、恐れを抱かずにはいられない。
降船の準備をしながら今後の刑務作業について考えていると、ローワンさんが俺たちを呼びに来た。
このあとアナド商会の倉庫に行って素材を引き渡し、その後【一の島】行きの船に案内してもらうためだ。
ついでに、煩わしい商人たちに対する壁にもなってもらう予定である。
「さぁこちらに」
ローワンさんの後ろにカーさんが続き、その後ろにリムくんが続く。俺はラビくんを抱いて最後尾を歩いている。
船室を出て甲板に行くと、ピュールロンヒ辺境伯領の港とは違い、すごく賑やかな景色が目に飛び込んできた。
船の数も人の数も違い、目がチカチカするほどの混雑具合だ。
長い間、森に引きこもっていた俺には刺激が強すぎる。すでに森に帰りたくなっていた。
反対に、ラビくんとリムくんは興奮気味に辺りをキョロキョロと見回していた。
好奇心旺盛なモフモフたちは、どう楽しもうかと考えているのだろう。……楽しめないことを忘れて。
「そういえば、曳航してきた船について情報が入っていますよ。【総合職業組合】の商業部が率先して情報収集していましたので、かなり大きな商会みたいですね」
「持ち物を見る限り貴族が関係してそうだぞ? だから商業部にも働きかけれたんじゃないか?」
「そのようです。しかも【九天王国】の伯爵家で、最新の魔導船らしいですね。最新式の魔導船であれば、あの速力と持続力は納得できますね」
「マジか! アーク、当たりを引いたな!」
「よしッ!」
「……当たり?」
カーさんと俺が魔具がついてない船について当たりと言っているのを聞いて、ローワンさんが口元に手を当てて何やら考え始めてしまった。
「――まさかッ!」
そして気づいてしまったらしい。
「どうした?」
「あ……あの……魔具は、海の底に沈んだのでは……?」
「オレはそんなこと言ってないぞ? 船から外れただけだ。そのあとアスピドケロンを解体してたら出てきたから、他の素材同様もらったけどな。何も問題ないだろ。壊れてたし」
「えぇーー……。魔具の所在を聞かれたら困ります……。【九天王国】の魔導伯爵ですよ?」
「おっ! 結構大物じゃん!」
「結構ではありません! かなりです!」
「うーーん……タイム! タマさん、どうするんだ?」
さすがに可哀想になったのか、回収した俺ではなく、一番欲しそうにしていたタマさんに許可を取っている。
この集団のヒエラルキーおかしくないかと思わないでもない。
「【九天王国】は、これから行く場所以外に用はないし……」
「いやいやいや! 面倒を押しつけるようなことになるだろ!? 可哀想だろ!」
「じゃあ……船を沈めればよくない?」
「もう大衆の目に晒したのに!?」
「……アーク、考えなさい!」
面倒事が回ってきた。
「目を逸らせばいいんじゃないですか? アスピドケロンに喰われた際、魔具が外れたのは事実です。確かに俺たちがもらいましたが、落ちていた物をもらっても罪にはなりません。ですが、【九天王国】籍の船はなすりつけをした者たちです。多くの者が目撃していたので言い逃れはできません。魔具のことを指摘してきたらその話をして逸らしましょう」
「話の通じない貴族だったらどうするの?」
「そこでタマさんの出番ですよ。タマさんが得意にしている根回しで証明書みたいなものを出せませんか?」
「んーー……法神並みの権限が必要ないなら、あたしの権限で発行できるわよ?」
「それで十分です。ローワンさんの行いが間違っていないことを保証できればいいんです」
内容は二つ。
一つ目は、アスピドケロンを討伐した者に素材及び拾得物の権利を全て譲り、それとは別に報酬を払い緊急依頼を請け負ってもらった。
私欲よりも人命救助を優先した対処の保証だ。
二つ目は、なすりつけ行為をしようと【聖獣王国】に向けて船を進めた犯罪者の亡骸を運搬したこと。
殺されそうになったにもかかわらず、船乗りの模範となる人道的な行動をしたという保証である。
天界の者に認められる行為をしたローワンさんに対し、魔導伯爵なる人物が粗略な扱いをしたならば、様々なところから非難囂々だろう。
この案はすぐに採用され、タマさんが書いた書類がカーさん経由でローワンさんに手渡された。
「――こッ!」
と言ったまま固まってしまったローワンさんを、早く船から降りたいなと思いながら見つめるのだった。
0
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します
風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。
そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。
しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。
これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。
※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。
※小説家になろうでも投稿しています。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる