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2章: リンドウの花に、口づけを
2-5 捕獲作戦会議
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「あら、良いタイミングね。ちょうど私も電話をかけようとしていたところなの。」
感情の起伏を感じさせない、無機質な声が電話越しから聞こえてくる。やっぱりユズキさんとは正反対だ。先程まで会話をしていたから、なおさらそれが浮き彫りになる。
「そらよかった。報告だけど、犯人の能力の発動条件がほぼ確定した。あとはそいつの居場所の特定、もしくはおびきよせる方法だけ。そこでお前の出番ってわけで今電話をかけてる。」
「そう、それよ。それについて何だけど、以前貴方が視た記憶の話が気になったの。列車の警笛音と列車が近づく音。それに青いライト。これってホームへの飛び込み自殺を連想させると思わない?」
彼女もまた死に敏感な者だ。これだけの条件が揃っていて、それを連想しないわけがなかった。
「それで被害者達の学校を調べてみたら、というか警察が調べていた情報をそのまま盗み見ただけだけど、この一連の事件が発生する1ヶ月ほど前にとある女子生徒がホームに飛び込み自殺をしていることがわかったの。関係者の聞き込みによると、彼女はいじめを受けていたらしいわ。そして今回の一連の被害者はみんなそのいじめに関与したと思われていた生徒。しかも、それと同時期にその学校の男性教師1名が休職しているの。なんでも、その男性教師はその女子生徒と親しい間柄だったとか。」
それはかなり核心に迫った情報だ。
「それはそれは、怪しいねえ。それでその男性教師はなんて理由で休職したの?今はどこに?」
「怪我が理由らしいわね。ただその怪我の詳細は不明。居場所に関しても不明よ。消息不明で、警察も今捜査中。」
「これはもうほぼクロだな。その怪我ってのも怪しいね。腕でも怪我したんじゃないのか。ただ肝心の居場所がわからないんじゃ捕まえようがないよな。警察が居場所特定して捕まえたって、証拠不十分で不起訴処分になるだろうし。まぁつまり・・・」
「私達がおびき寄せて捕まえるしかないわね。」
「うん『私達』じゃなくて『僕とユズキさん』がね。」
お前は高みの見物決め込むだけだろ、と心の中で付け足す。
「でもどうするよ。狙われてるのがそのいじめに関与してた女子生徒なら、そのリストとかないのか?あるなら残りのまだ生きてる女子生徒を尾行して犯人が来るのを待つとかしかないと思うけど。」
「リストはあるわ。ただ多いのよね。主犯格グループに絞っても、まだあと4人はいるわ。その作戦だと残りの3人に手を出された時に何もできない。」
「4人、ね。じゃあ4分の1か。誰にする?」
些末なことなのでそのまま僕は話を続けようとする。
神永は呆れた声で吐き捨てるように言った。
「・・・貴方って本っ当に倫理観無いわね。」
「お前が言うなよ。」
すかさず僕は言い返す。本当に、どの口が言っているんだろう。
「何故?能力者達の凶行を止めようとしている私は、間違いなく倫理観が高く正義感のある人間だと思うのだけど。貴方とは正反対じゃないかしら。」
「あぁ、そうだったそうだったー。そういやそんなこと言ってたなー。でも倫理観が高いと思うのなら、それをもっと僕に対する接し方にも活かして欲しいな。その倫理とやらが僕には適応されてないように感じるんだけど。」
「善処するわ。」
「確実にそうしろよ。」
「まぁそれはそれとして、警察も馬鹿じゃ無いからいじめに関与してた生徒が狙われていることにはもう気づいてる。次に狙われそうな子の通学路を一応、パトロールしたりはしてるわ。私は気休め程度にしか思ってないけど、残りの3人が100%危険に晒されているというわけではないということよ。どちらにせよ他に方法は無いし。良いわ。貴方の作戦に賛成よ。4人のうちのどれかに、ヤマを張りましょう。」
それを決めるのは、もちろん彼女の方がいいだろう。これらの情報を直接仕入れているのは神永なのだ。彼女が最も客観的に、そして正確に、1番確率の高い候補を選べるだろう。
「じゃあ誰にするかはお前に任せるぞ。1番いじめてたっぽい復讐されそうなやつを適当に選んでくれ。」
「ええ。じゃあ決めたらすぐに連絡するわ。彼女たちは、いつ殺されてもおかしくないからね。」
そこで神永との通話は終了した。
しかし、4分の1作戦にケチをつけられるとは思わなかった。彼女にも人並み程度の感覚が備わっていることに僕は冗談でなく驚いた。僕はずっと、彼女のことを人では無いと思っていたから。僕と同じ、人でなしの部類だと。
それはそうと、これからまた重労働になりそうだ。犯行が起きているペースを考えると、おそらく1、2週間は尾行を続けなくてはならない。ハズレであればさらにまた1、2週間。3人ともハズレなら計1ヶ月から1ヶ月半はかかる計算になる。しかもその間下手な尾行はできない。バレれば犯人をおびき出せないし、最悪パトロールしている警官に捕まってしまうかもしれない。暫くは美術部に顔を出すことができなさそうだ。というか、何よりそれに付き合わせるユズキさんにも申し訳ない。
これはかかる期間によっては、神永に報酬を弾んでもらわなければなるまい、と僕はほくそ笑む。ユズキさんという強力な助っ人を得ている僕は、少し余裕を持てていた。
僕はちょうど今、家庭の事情で一人暮らしをしたいと考えていたところなのだ。その頭金ぐらいにはなってもらわねば。
感情の起伏を感じさせない、無機質な声が電話越しから聞こえてくる。やっぱりユズキさんとは正反対だ。先程まで会話をしていたから、なおさらそれが浮き彫りになる。
「そらよかった。報告だけど、犯人の能力の発動条件がほぼ確定した。あとはそいつの居場所の特定、もしくはおびきよせる方法だけ。そこでお前の出番ってわけで今電話をかけてる。」
「そう、それよ。それについて何だけど、以前貴方が視た記憶の話が気になったの。列車の警笛音と列車が近づく音。それに青いライト。これってホームへの飛び込み自殺を連想させると思わない?」
彼女もまた死に敏感な者だ。これだけの条件が揃っていて、それを連想しないわけがなかった。
「それで被害者達の学校を調べてみたら、というか警察が調べていた情報をそのまま盗み見ただけだけど、この一連の事件が発生する1ヶ月ほど前にとある女子生徒がホームに飛び込み自殺をしていることがわかったの。関係者の聞き込みによると、彼女はいじめを受けていたらしいわ。そして今回の一連の被害者はみんなそのいじめに関与したと思われていた生徒。しかも、それと同時期にその学校の男性教師1名が休職しているの。なんでも、その男性教師はその女子生徒と親しい間柄だったとか。」
それはかなり核心に迫った情報だ。
「それはそれは、怪しいねえ。それでその男性教師はなんて理由で休職したの?今はどこに?」
「怪我が理由らしいわね。ただその怪我の詳細は不明。居場所に関しても不明よ。消息不明で、警察も今捜査中。」
「これはもうほぼクロだな。その怪我ってのも怪しいね。腕でも怪我したんじゃないのか。ただ肝心の居場所がわからないんじゃ捕まえようがないよな。警察が居場所特定して捕まえたって、証拠不十分で不起訴処分になるだろうし。まぁつまり・・・」
「私達がおびき寄せて捕まえるしかないわね。」
「うん『私達』じゃなくて『僕とユズキさん』がね。」
お前は高みの見物決め込むだけだろ、と心の中で付け足す。
「でもどうするよ。狙われてるのがそのいじめに関与してた女子生徒なら、そのリストとかないのか?あるなら残りのまだ生きてる女子生徒を尾行して犯人が来るのを待つとかしかないと思うけど。」
「リストはあるわ。ただ多いのよね。主犯格グループに絞っても、まだあと4人はいるわ。その作戦だと残りの3人に手を出された時に何もできない。」
「4人、ね。じゃあ4分の1か。誰にする?」
些末なことなのでそのまま僕は話を続けようとする。
神永は呆れた声で吐き捨てるように言った。
「・・・貴方って本っ当に倫理観無いわね。」
「お前が言うなよ。」
すかさず僕は言い返す。本当に、どの口が言っているんだろう。
「何故?能力者達の凶行を止めようとしている私は、間違いなく倫理観が高く正義感のある人間だと思うのだけど。貴方とは正反対じゃないかしら。」
「あぁ、そうだったそうだったー。そういやそんなこと言ってたなー。でも倫理観が高いと思うのなら、それをもっと僕に対する接し方にも活かして欲しいな。その倫理とやらが僕には適応されてないように感じるんだけど。」
「善処するわ。」
「確実にそうしろよ。」
「まぁそれはそれとして、警察も馬鹿じゃ無いからいじめに関与してた生徒が狙われていることにはもう気づいてる。次に狙われそうな子の通学路を一応、パトロールしたりはしてるわ。私は気休め程度にしか思ってないけど、残りの3人が100%危険に晒されているというわけではないということよ。どちらにせよ他に方法は無いし。良いわ。貴方の作戦に賛成よ。4人のうちのどれかに、ヤマを張りましょう。」
それを決めるのは、もちろん彼女の方がいいだろう。これらの情報を直接仕入れているのは神永なのだ。彼女が最も客観的に、そして正確に、1番確率の高い候補を選べるだろう。
「じゃあ誰にするかはお前に任せるぞ。1番いじめてたっぽい復讐されそうなやつを適当に選んでくれ。」
「ええ。じゃあ決めたらすぐに連絡するわ。彼女たちは、いつ殺されてもおかしくないからね。」
そこで神永との通話は終了した。
しかし、4分の1作戦にケチをつけられるとは思わなかった。彼女にも人並み程度の感覚が備わっていることに僕は冗談でなく驚いた。僕はずっと、彼女のことを人では無いと思っていたから。僕と同じ、人でなしの部類だと。
それはそうと、これからまた重労働になりそうだ。犯行が起きているペースを考えると、おそらく1、2週間は尾行を続けなくてはならない。ハズレであればさらにまた1、2週間。3人ともハズレなら計1ヶ月から1ヶ月半はかかる計算になる。しかもその間下手な尾行はできない。バレれば犯人をおびき出せないし、最悪パトロールしている警官に捕まってしまうかもしれない。暫くは美術部に顔を出すことができなさそうだ。というか、何よりそれに付き合わせるユズキさんにも申し訳ない。
これはかかる期間によっては、神永に報酬を弾んでもらわなければなるまい、と僕はほくそ笑む。ユズキさんという強力な助っ人を得ている僕は、少し余裕を持てていた。
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