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2章: リンドウの花に、口づけを
2-6 思い出、紫煙と共に
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一仕事終えたコウは家に戻り、無表情で薄暗い部屋に立ち尽くした。別に、何があったというわけではない。ただ、美優が死んでから彼はこうする時間が増えた。自分が何をしているのか、時々わからなくなるのだ。言い知れぬ虚無感が彼の心に抱えきれぬ穴を開けていた。
そうして暫く突っ立ったあと、思い出した様に力無くポケットから煙草を取り出し、口に咥えて火をつけた。その穴を埋める様に、彼は冷えた煙を体に流し込む。
彼が煙草を吸う度に思い出す光景がある。
彼女の長く影を落とした睫毛、陶器の様な白い肌、果肉の様な唇、傾げた首、はだけた肩に刻まれた青い痣。
部屋の窓から入り込む街の明かりで、彼女の顔の輪郭は幻の様にぼうっと浮かび上がっている。
そして、そこには咥えられた一本の白い煙草。果肉に添えられた一本の白百合。
静寂に満たされた部屋の中、彼は熱を帯びる花の先端を彼女の花弁にゆっくりと近づける。罪悪感と少しの背徳感を抱えながら、彼女の瞳を見つめ、汗ばんだ首筋に指を走らせ、彼女の花に熱を移していく。
彼が今も時々見る幻想。もう、熱に行き場は無い。
コウはゆっくりと煙を吐いた。腕の幻肢痛も、思い出の彼女も、紫煙と共にゆっくりと霧散していく。
燻らせた紫煙の行方には、帰らずの影がひとつ。
壁に寄りかかり、ずるずると床に座り込んだ。煙草から落ちる灰が床に落ちることも厭わない。コウはただ虚空を見つめて煙草を吸い続ける。彼女の後を追う様に増えた、散乱した空き缶と煙草の吸い殻だけが、彼のいる部屋を静かに満たしていた。
そうして暫く突っ立ったあと、思い出した様に力無くポケットから煙草を取り出し、口に咥えて火をつけた。その穴を埋める様に、彼は冷えた煙を体に流し込む。
彼が煙草を吸う度に思い出す光景がある。
彼女の長く影を落とした睫毛、陶器の様な白い肌、果肉の様な唇、傾げた首、はだけた肩に刻まれた青い痣。
部屋の窓から入り込む街の明かりで、彼女の顔の輪郭は幻の様にぼうっと浮かび上がっている。
そして、そこには咥えられた一本の白い煙草。果肉に添えられた一本の白百合。
静寂に満たされた部屋の中、彼は熱を帯びる花の先端を彼女の花弁にゆっくりと近づける。罪悪感と少しの背徳感を抱えながら、彼女の瞳を見つめ、汗ばんだ首筋に指を走らせ、彼女の花に熱を移していく。
彼が今も時々見る幻想。もう、熱に行き場は無い。
コウはゆっくりと煙を吐いた。腕の幻肢痛も、思い出の彼女も、紫煙と共にゆっくりと霧散していく。
燻らせた紫煙の行方には、帰らずの影がひとつ。
壁に寄りかかり、ずるずると床に座り込んだ。煙草から落ちる灰が床に落ちることも厭わない。コウはただ虚空を見つめて煙草を吸い続ける。彼女の後を追う様に増えた、散乱した空き缶と煙草の吸い殻だけが、彼のいる部屋を静かに満たしていた。
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