小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

文字の大きさ
70 / 464
友宮の守護者編

撃拳

しおりを挟む
 アテナは右手を頭へ持っていき、ティアラ状の兜を掴んで取った。それを自身の真横にかざし、指を解いて放す。兜は重力に従って落ち、床を転がると思われたが、地に到達すると同時に轟音を立ててクレーターを穿った。
 その様子を見た原木本は目を疑った。兜はそれほど大きい物ではない。しかし、どう考えても大きさと重さの釣り合いが取れていない。
「何なの? ソレ」
「兵士百人分の重さを持つ兜です」
 超重の武具を外したアテナは、すっきりしたと言わんばかりに首を軽く鳴らしている。
「……戦いの女神様ってそんなバトル漫画の主人公みたいなことするもんなの?」
「古代ギリシャの時代より前ですから、むしろ私が最初と言っても過言ではありませんね」
 少し自慢げに語るアテナに、原木本は感心していいのか呆れていいのか複雑な気分になった。日本の神々にも割りとエキセントリックな存在が多いが、目の前にいる女神もその類なのかもしれない。
 さらにアテナは腰の雑嚢からキッチンペーパーに包まれた物体を取り出した。掌に収まるほどの大きさのそれを、アテナは丁寧に包みを解いていくが、
「……ソレ、何?」
 露になった中身を見て、原木本は先の兜の件と合わせて困惑気味な表情をした。
「不死屋のチーズケーキ(ショートサイズ)です。ここまでの闘いで少々形が崩れてしまいましたが、食べる分には問題ありません」
 女神の掌に乗るショートのチーズケーキは、確かに前半分が潰れてしまっている。しかし、アテナは特に気にする様子もなく、一口、また一口とケーキを齧り、咀嚼して喉の奥に通していった。
「それがあんたにとっての増強剤ドーピングざいってこと? ボクが使った『羅刹天の霊符』と同じように」
「いいえ、まったく」
「!?」
「ただの好物です」
 アテナのあっさりした解答に、原木本は余計に当惑した。この戦いの女神を名乗る者は一体なんなのか。冷静沈着のようでいて自由奔放。華奢に見えて剛力。大人びた美しさを持つ割になぜか子どもっぽさを感じる。それなりに長く生きて様々な敵と相見えてきたが、ここまで戦いにマイペースを貫く相手はいなかった。
「フゥ、クキからの供物というのが残念ですね。どうせならユウキからの供物であれば、もう少し力を出せるのですが……」
(クキって誰だよ)
 この上まるで関係のない人物の名を出され、原木本は心の中でツッコミを入れた。
「これで気合は入りました」
 チーズケーキを平らげたアテナが向けてきた眼を見て、原木本はわずかに足を退いた。背中に薄ら寒いものを感じ、一瞬その場から飛び退こうとしてしまった。それまでとは違うアテナの雰囲気に気圧されたのだ。
 原木本の抱いていたアテナの奇抜な行動への戸惑いは、その時には跡形も無く消し飛んでいた。
 チーズは古代ギリシャにおいて、神々への供物とされてきた食べ物である。それを摂ることで精神の高揚を図った戦いの女神は、胸の前に右拳をかざし、支えるように左手を添えた。
「ハアアアァ!」
 アテナが纏っていた気迫がさらに増し、周囲の空気が震え始める。単に雰囲気だけでのことではない。闘場となっている大食堂の空気が、パチパチと小さく音を立てて弾けていた。アテナの右拳から発せられる、電撃の瞬きによって。
「……雷の力?」
「そう、我が父より譲り受けた、あらゆる物を破壊せしめる力……」
 世界さえも滅することができるゼウス伝来の雷槍ケラウノス。全盛期よりも力が落ちてしまった今のアテナでは、結城との融合なしに雷槍として使うことはできない。だが、本来の用途でなくとも、その一端を雷撃の力として拳に纏わせることはできる。全身全霊をかけた右ストレートに、雷槍の力を織り交ぜたフィニッシュブロー。現時点でアテナが単体で引き出せる最大の力だ。
「これが私からの返礼です。あとはあなたの拳と私の拳、どちらが強いか競うのみ!」
「へぇ、心得てるね女神様。鬼ってさ、そーゆー分かりやすいのが大好きなんだよ!」
 準備を終えた両者の拳が腰だめに構えられる。互いに使うのは右拳のみ。かたや全ての妖気を純粋な力に換えて込めた鬼の拳。かたや全能の神より賜った万物破壊の力を込めた戦女神の拳。間違いなく、どんな強者の追随も許さない、最強の力のぶつかりあいだった。
 どちらが最後に立っているか、もはや天さえも結末は分からない。
(イザ―――)
(勝負―――)
 アテナと原木本、双方の右足が瓦礫を跳ね飛ばし、標的へ向かって一直線に突進する。狙いをつける必要はない。ただ相手に拳を突き出せばいい。行き着く先は互いに同じ。自身の持てる最大最強の二つの攻撃が、まるで示し合わせたかのように一点で交錯する。
 その時、友宮邸全体が文字通り『震えた』。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...