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友宮の守護者編
本気
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再霊視によって甲冑のゴーレムの構造を改めて確認した佐権院は、事態の深刻さに静かに歯噛みした。友宮が用意していた動くフルプレートアーマー、ゴーレムは単に泥の肉体に甲冑を纏わせているだけだと考えていた。それだけなら佐権院の能力を使えば、特別な難敵ではなかったはずだった。だが、目の前で戦闘を繰り広げている甲冑の正体は、通常タイプの泥ゴーレムに、鉄製ゴーレムの術式を施した鎧を纏わせた二重ゴーレムだったのだ。
本来、二つのゴーレムを一体として稼動させるには、術式が競合しないように調整し、同期させる必要がある。二つ分の擬似生命を同期させて操るのは非常に難度の高い技術であり、大抵の場合は動作がぎこちなくなり、一体分のゴーレムより性能が劣ってしまう。
だが、もしも高い水準で同期が成功したならば、基本材質の異なる二体のゴーレムの力を何乗にも引き上げることが可能となる。運動能力はもちろん、防御能力から索敵能力まで桁違いに向上する。完全な死角から仕掛けたにも関わらず、佐権院の攻撃に反応し、人間の自由度を無視した動作でこれを回避せしめたのも、二重ゴーレムの成せる業だった。
それだけではなく、ゴーレムの弱点である『emeth』の文字が二つ存在している以上、その二つの文字からそれぞれ『e』を取らなければ、死滅させることはできない。味方であるならまだしも、敵に回れば厄介極まりない存在だった。
しかし、佐権院が深刻に感じたのは、目の前のゴーレムの性能だけではない。友宮に二重ゴーレムを作る力があったとは思えない。そして、これだけ高性能のゴーレムが、日本でおいそれと手に入るはずもない。ならば、友宮にゴーレムを卸した何者かがいるということだ。
(どこかの組織が禁止条約に違反する戦闘用ゴーレムを持ち込んだのか!? 一体どこの……いや、それよりも)
「先に行け、小林くん! このゴーレムは私が食い止める!」
壁も調度品も一切合財が瓦礫と化した大食堂の真ん中で、二つの影が組み合うように立っていた。粉塵が晴れると、そこにはクロスカウンターを極めたアテナと原木本の姿があった。
「くぅっ!」
「うぉっ!」
互いの重い拳が脳髄を揺さぶり、よろめきながら二人は組み合いを解いた。人間を超えた膂力で繰り広げられる肉弾戦は、周囲のあらゆる物を粉砕すれど、未だ目の前の敵を沈めるに至らない。それぞれの攻撃力もさることながら、防御力も並外れているため、互いに決定打を与えられずにいるのだ。ただ、呼吸が荒くなり、体力と精神力を消耗しながらも、アテナと原木本の眼には闘志が爛々と燃えていた。
原木本はアテナに最上級の敬意を禁じえなかった。武器を持っていなかった自分に対し、槍と盾を置いて素手で闘いに臨むアテナの精神性に、原木本は心から感動していた。こうなると『羅刹天の霊符』で力を増強したことを慙愧に感じてしまいそうになるが、それでもこの闘いに巡り合えた歓喜に比べれば瑣末なことに思えた。
アテナは原木本の実力に驚嘆を覚えていた。全盛期の10分の1以下に力が落ちているとはいえ、自分と純粋にここまで闘える者はそういるわけではない。たとえ、霊符による力の増強があったにせよ、それは原木本の潜在能力があったればこそだ。これほど手こずる相手はティタン神族との戦いでも、トロイア戦争でもいなかった。力が落ちたことは大変遺憾だが、千夏や原木本のような好敵手に巡り合えたなら、悪くはないとさえ思えた。
だが、あまり闘いを長引かせるわけにいかないのは、二人とも同じだった。
「悪いんだけどさ、そろそろボクがキメさせてもらうよ、女神様」
「?」
「はあああぁ!」
原木本の身体から、これまでにない程の妖気が立ち上った。鬼は自身の妖気を純粋な力に変換する妖力を有する。妖気さえ潤沢ならば、いくらでも力に換えて闘うことが可能だった。
いま、原木本は戦いの女神を倒すため、持てる全ての妖気をただの一撃に注ぎ込もうとしていた。
「バラキモト・ケイザブロー。力を失っているとはいえ、私とここまで渡り合ったことに敬意を表し、私の力の一端を見せて差し上げましょう」
本来、二つのゴーレムを一体として稼動させるには、術式が競合しないように調整し、同期させる必要がある。二つ分の擬似生命を同期させて操るのは非常に難度の高い技術であり、大抵の場合は動作がぎこちなくなり、一体分のゴーレムより性能が劣ってしまう。
だが、もしも高い水準で同期が成功したならば、基本材質の異なる二体のゴーレムの力を何乗にも引き上げることが可能となる。運動能力はもちろん、防御能力から索敵能力まで桁違いに向上する。完全な死角から仕掛けたにも関わらず、佐権院の攻撃に反応し、人間の自由度を無視した動作でこれを回避せしめたのも、二重ゴーレムの成せる業だった。
それだけではなく、ゴーレムの弱点である『emeth』の文字が二つ存在している以上、その二つの文字からそれぞれ『e』を取らなければ、死滅させることはできない。味方であるならまだしも、敵に回れば厄介極まりない存在だった。
しかし、佐権院が深刻に感じたのは、目の前のゴーレムの性能だけではない。友宮に二重ゴーレムを作る力があったとは思えない。そして、これだけ高性能のゴーレムが、日本でおいそれと手に入るはずもない。ならば、友宮にゴーレムを卸した何者かがいるということだ。
(どこかの組織が禁止条約に違反する戦闘用ゴーレムを持ち込んだのか!? 一体どこの……いや、それよりも)
「先に行け、小林くん! このゴーレムは私が食い止める!」
壁も調度品も一切合財が瓦礫と化した大食堂の真ん中で、二つの影が組み合うように立っていた。粉塵が晴れると、そこにはクロスカウンターを極めたアテナと原木本の姿があった。
「くぅっ!」
「うぉっ!」
互いの重い拳が脳髄を揺さぶり、よろめきながら二人は組み合いを解いた。人間を超えた膂力で繰り広げられる肉弾戦は、周囲のあらゆる物を粉砕すれど、未だ目の前の敵を沈めるに至らない。それぞれの攻撃力もさることながら、防御力も並外れているため、互いに決定打を与えられずにいるのだ。ただ、呼吸が荒くなり、体力と精神力を消耗しながらも、アテナと原木本の眼には闘志が爛々と燃えていた。
原木本はアテナに最上級の敬意を禁じえなかった。武器を持っていなかった自分に対し、槍と盾を置いて素手で闘いに臨むアテナの精神性に、原木本は心から感動していた。こうなると『羅刹天の霊符』で力を増強したことを慙愧に感じてしまいそうになるが、それでもこの闘いに巡り合えた歓喜に比べれば瑣末なことに思えた。
アテナは原木本の実力に驚嘆を覚えていた。全盛期の10分の1以下に力が落ちているとはいえ、自分と純粋にここまで闘える者はそういるわけではない。たとえ、霊符による力の増強があったにせよ、それは原木本の潜在能力があったればこそだ。これほど手こずる相手はティタン神族との戦いでも、トロイア戦争でもいなかった。力が落ちたことは大変遺憾だが、千夏や原木本のような好敵手に巡り合えたなら、悪くはないとさえ思えた。
だが、あまり闘いを長引かせるわけにいかないのは、二人とも同じだった。
「悪いんだけどさ、そろそろボクがキメさせてもらうよ、女神様」
「?」
「はあああぁ!」
原木本の身体から、これまでにない程の妖気が立ち上った。鬼は自身の妖気を純粋な力に変換する妖力を有する。妖気さえ潤沢ならば、いくらでも力に換えて闘うことが可能だった。
いま、原木本は戦いの女神を倒すため、持てる全ての妖気をただの一撃に注ぎ込もうとしていた。
「バラキモト・ケイザブロー。力を失っているとはいえ、私とここまで渡り合ったことに敬意を表し、私の力の一端を見せて差し上げましょう」
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