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第1章
第2話 王国の懐刀
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東西南北の4つに分かれた大陸が存在する世界。
最大の大きさを誇る東大陸の北部に、アデマス王国と呼ばれる巨大な国家がある。
そのアデマス王国の東には、敷島と呼ばれる小さな島が存在している。
そこには王国の懐刀と呼ばれる一族が住んでいた。
「おいっ! 魔無し!」
「お前、目障りなんだよ!」
「くらえ!」
ある道場の片隅で、1人の少年が数人の少年に暴行を受けている。
彼らが暴行している理由は、完全に憂さ晴らしだ。
この島では強さを求められる。
実力のある者がいれば、中にはそうでもない者も出てくる。
そのため、訓練で良い成績を出せない者を対象としたいじめが、毎年発生しているのが現状だ。
「うっ! ぐっ!」
暴行を受けている少年は、懸命に耐える。
彼は同年代、というよりもこの島の中で最底辺にいると言って良い。
何故なら、この世界の生物なら絶対に保有している魔力と呼ばれるものを、彼は持っていないからだ。
持っていないというより、感じるのが極めて困難なほど極々僅かしかないと言うべきだろう。
生まれた赤ん坊が10だと仮定するならば、彼は0.001ほどしかない。
魔力は戦闘において重要な要素、この島でこの数値は絶望的だ。
抵抗しようにも、返り討ちが関の山。
魔無しと呼ばれた少年は、いつものように彼らの気が済むまでただ耐えるくらいしかできない。
「おいっ! やめろ!」
「「「っ!?」」」
少年が懸命に暴行に耐えていると、いつの間に現れた少年が暴行している3人を止めた。
「か、奏多!?」
「お前ら、限に構ってる暇があるなら訓練に力を入れろよ。何なら俺が相手してやろうか?」
3人を止めたのは、暴行を受けていた少年である限と同い年の少年、奏太だった。
背も同年代の中では高い方で、かなりのイケメン。
上の世代でも通用する程の戦闘能力の持ち主で、女子だけでなく島の幹部たちからも期待されている程のホープだ。
「うるせぇ!」
「もう、気が済んだよ!」
「行こうぜ!」
奏太に睨まれただけで、3人は腰が引ける。
実力差は歴然のため、憎まれ口をたたきながら3人は逃げて行った。
強さが求められるのは、この島の頭領を選ぶのにも反映している。
現当主には子がいないため、次の頭領は必然とその側近たちの誰かということになる。
その頭領候補の3家のうちの1つである五十嵐家の生まれの奏太と、同じく頭領候補の1つである斎藤家の生まれの限とは月とすっぽんだ。
「た、助かったよ。奏多」
「……別に、俺はお前を助けたわけじゃない。あいつらがいつも訓練で手を抜いているのに、こんなことをしているのが気に入らなかっただけだ」
「それでもありがとう」
奏太の表情は言葉の通り無表情。
しかし、理由は何であれ、奏太のお陰で暴行はいつもより早く終わった。
そのため、限は奏太に感謝し、小さく頭を下げた。
「お前も訓練に力を入れろ。あんな奴らにやられて悔しくないのか?」
「…………、僕は魔無しだから……」
奏太は天才だ。
魔力の量も半端じゃない。
だから分からない。
人よりも頑張っているのに強くなれないでいるという限の苦悩を……。
訓練でどうにかなるような訳ではない特殊な体質のことを知っているはずなのに、平然と努力不足といってくる奏太に、限は自虐的に返すしか逃げ道がなかった。
「奏多! ……限?」
「やぁ、奈美子……」
限が自分の言葉で気持ちが沈んだところに、1人の少女が話しかけてきた。
厳密に言えば、奏太に声をかけたついでと言った方が正しいかもしれない。
奏太は軽く手を上げ、限は土まみれの自分の姿を見られてバツの悪い表情をしながら返事をする。
頭領候補の1つ、菱山家の娘で、綺麗な黒髪のスレンダースタイルをした美少女だ。
この島の人間は、男性だけでなく女性も訓練を課せられる。
王族には男性だけではなく女性もいるのだから当然だ。
女性だけのエリート部隊も存在しており、実力のある奈美子もその部隊に入る事を目指している。
「……また誰かにやられたの?」
「う、うん。ま、まぁ……」
案の定、限の姿を見た奈美子は原因を聞いてくる。
質問の仕方からいって、どうやらこれまでも何度か見られていたらしい。
そのため、余計に恥ずかしくなった限は、どもって俯くしかなかった。
「訓練でもして頑張んなさいよ」
「う、うん……」
奏太と同じことを言われた。
奈美子もとなると、わざと言われているようで不快な気になる。
「じゃあな」
「じゃあね」
「あぁ……」
挨拶が終わったらもう用はなかったらしく、2人は限を置いてすぐにその場から去っていった。
返事をして見送ったが、限はそれで気が付いた。
2人にとって自分は路傍の石ころ。
そんなのに何の興味も関心もないのだ。
一応は限の許嫁ということになっているのに、奈美子の態度には結構心に来るものがある。
許嫁とは言っても、頭領が占いで決めたことなので親同士は納得していない。
特に菱山家の方は嫌だろう。
こんな魔無しを押し付けられることになりそうなのだから……。
そんなことを考えると、さらに気持ちが凹んだ限は、さっさと家へと帰ることにした。
「ただいま、母さん」
「おかえり、限!」
限が家に帰ると、母の葵がいつものように笑顔で出迎えてくれた。
「……もしかして、また誰かにやられたの?」
「大丈夫。大したことないよ」
ほとんど毎日のようにイジメられていれば、当然バレる。
いつも服を汚して帰ってくるのは母に悪いと思うが、限は言葉通り気にしていない。
何故なら、味方がいるからだ。
「イジメている奴らなんかに負けちゃだめよ! いつかきっとあなたにも道は開かれるわ!」
「……うん、我慢だけは誰にも負けないよ」
いつものやり取りをする。
魔無しと分かっても、母だけはいつも自分を励ましてくれる。
そんな母がいるから限は頑張れる。
母の言う通り、魔力がなくても役に立てる道がきっとある。
いつかその道が見つかる日まで、懸命に耐えて頑張るだけだ。
最大の大きさを誇る東大陸の北部に、アデマス王国と呼ばれる巨大な国家がある。
そのアデマス王国の東には、敷島と呼ばれる小さな島が存在している。
そこには王国の懐刀と呼ばれる一族が住んでいた。
「おいっ! 魔無し!」
「お前、目障りなんだよ!」
「くらえ!」
ある道場の片隅で、1人の少年が数人の少年に暴行を受けている。
彼らが暴行している理由は、完全に憂さ晴らしだ。
この島では強さを求められる。
実力のある者がいれば、中にはそうでもない者も出てくる。
そのため、訓練で良い成績を出せない者を対象としたいじめが、毎年発生しているのが現状だ。
「うっ! ぐっ!」
暴行を受けている少年は、懸命に耐える。
彼は同年代、というよりもこの島の中で最底辺にいると言って良い。
何故なら、この世界の生物なら絶対に保有している魔力と呼ばれるものを、彼は持っていないからだ。
持っていないというより、感じるのが極めて困難なほど極々僅かしかないと言うべきだろう。
生まれた赤ん坊が10だと仮定するならば、彼は0.001ほどしかない。
魔力は戦闘において重要な要素、この島でこの数値は絶望的だ。
抵抗しようにも、返り討ちが関の山。
魔無しと呼ばれた少年は、いつものように彼らの気が済むまでただ耐えるくらいしかできない。
「おいっ! やめろ!」
「「「っ!?」」」
少年が懸命に暴行に耐えていると、いつの間に現れた少年が暴行している3人を止めた。
「か、奏多!?」
「お前ら、限に構ってる暇があるなら訓練に力を入れろよ。何なら俺が相手してやろうか?」
3人を止めたのは、暴行を受けていた少年である限と同い年の少年、奏太だった。
背も同年代の中では高い方で、かなりのイケメン。
上の世代でも通用する程の戦闘能力の持ち主で、女子だけでなく島の幹部たちからも期待されている程のホープだ。
「うるせぇ!」
「もう、気が済んだよ!」
「行こうぜ!」
奏太に睨まれただけで、3人は腰が引ける。
実力差は歴然のため、憎まれ口をたたきながら3人は逃げて行った。
強さが求められるのは、この島の頭領を選ぶのにも反映している。
現当主には子がいないため、次の頭領は必然とその側近たちの誰かということになる。
その頭領候補の3家のうちの1つである五十嵐家の生まれの奏太と、同じく頭領候補の1つである斎藤家の生まれの限とは月とすっぽんだ。
「た、助かったよ。奏多」
「……別に、俺はお前を助けたわけじゃない。あいつらがいつも訓練で手を抜いているのに、こんなことをしているのが気に入らなかっただけだ」
「それでもありがとう」
奏太の表情は言葉の通り無表情。
しかし、理由は何であれ、奏太のお陰で暴行はいつもより早く終わった。
そのため、限は奏太に感謝し、小さく頭を下げた。
「お前も訓練に力を入れろ。あんな奴らにやられて悔しくないのか?」
「…………、僕は魔無しだから……」
奏太は天才だ。
魔力の量も半端じゃない。
だから分からない。
人よりも頑張っているのに強くなれないでいるという限の苦悩を……。
訓練でどうにかなるような訳ではない特殊な体質のことを知っているはずなのに、平然と努力不足といってくる奏太に、限は自虐的に返すしか逃げ道がなかった。
「奏多! ……限?」
「やぁ、奈美子……」
限が自分の言葉で気持ちが沈んだところに、1人の少女が話しかけてきた。
厳密に言えば、奏太に声をかけたついでと言った方が正しいかもしれない。
奏太は軽く手を上げ、限は土まみれの自分の姿を見られてバツの悪い表情をしながら返事をする。
頭領候補の1つ、菱山家の娘で、綺麗な黒髪のスレンダースタイルをした美少女だ。
この島の人間は、男性だけでなく女性も訓練を課せられる。
王族には男性だけではなく女性もいるのだから当然だ。
女性だけのエリート部隊も存在しており、実力のある奈美子もその部隊に入る事を目指している。
「……また誰かにやられたの?」
「う、うん。ま、まぁ……」
案の定、限の姿を見た奈美子は原因を聞いてくる。
質問の仕方からいって、どうやらこれまでも何度か見られていたらしい。
そのため、余計に恥ずかしくなった限は、どもって俯くしかなかった。
「訓練でもして頑張んなさいよ」
「う、うん……」
奏太と同じことを言われた。
奈美子もとなると、わざと言われているようで不快な気になる。
「じゃあな」
「じゃあね」
「あぁ……」
挨拶が終わったらもう用はなかったらしく、2人は限を置いてすぐにその場から去っていった。
返事をして見送ったが、限はそれで気が付いた。
2人にとって自分は路傍の石ころ。
そんなのに何の興味も関心もないのだ。
一応は限の許嫁ということになっているのに、奈美子の態度には結構心に来るものがある。
許嫁とは言っても、頭領が占いで決めたことなので親同士は納得していない。
特に菱山家の方は嫌だろう。
こんな魔無しを押し付けられることになりそうなのだから……。
そんなことを考えると、さらに気持ちが凹んだ限は、さっさと家へと帰ることにした。
「ただいま、母さん」
「おかえり、限!」
限が家に帰ると、母の葵がいつものように笑顔で出迎えてくれた。
「……もしかして、また誰かにやられたの?」
「大丈夫。大したことないよ」
ほとんど毎日のようにイジメられていれば、当然バレる。
いつも服を汚して帰ってくるのは母に悪いと思うが、限は言葉通り気にしていない。
何故なら、味方がいるからだ。
「イジメている奴らなんかに負けちゃだめよ! いつかきっとあなたにも道は開かれるわ!」
「……うん、我慢だけは誰にも負けないよ」
いつものやり取りをする。
魔無しと分かっても、母だけはいつも自分を励ましてくれる。
そんな母がいるから限は頑張れる。
母の言う通り、魔力がなくても役に立てる道がきっとある。
いつかその道が見つかる日まで、懸命に耐えて頑張るだけだ。
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