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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
幸運の羽根①
しおりを挟むリヒトの登場にルイとセオドアは一瞬驚くが、リヒトが人差し指で「しー」と静かにするように指示したことで、お忍びで来ていることを察し平静を装った。
リヒトは片膝をついてフィンをお姫様抱っこし様子を見る。幸い、観客の目があまり届かない場所でフラついたためあまり騒ぎにならずに済んだが、ルイとセオドアは心配した様子でそれを見守った。
傍では小さくなったシルフクイーンが腕を組んで飛び回る。
「ネているだけダ。ハナビラをくわせたからすぐヨくなるだろう」
シルフクイーンの言葉に、ルイとセオドアはホッと胸を撫で下ろす。
「んー……おなかすいた……むにゃむにゃ」
フィンの表情は穏やかで、シルフクイーンの言った通り寝言を言いながら気持ちよく眠っている様子だったため、リヒトもまた安心した様子でそのまま会場の裏へと連れて行くため立ち上がった。
「特級精霊の召喚、上級精霊魔法、特級精霊魔法の使用で一気に疲れが生じた様だな。少しベッドで寝かせてくる」
「はい」
リヒトはルイの返事を聞いてからそのまま歩くと、思い出した様に足を止め、少し振り返って口を開く。
「知っているだろうが、灼熱地獄に出場するガーネット・フレイベルは“炎の神子”と呼ばれている。お前とて“炎帝の再来”と呼ばれているからには、その名に恥じぬよう戦え」
リヒトがそう言い終えると、ルイは小さく頷き頭を下げる。
「承知しております。……師であるシュヴァリエ公爵の名も汚さぬ様、この私が勝利を収めましょう」
ルイがそう言い終えると、フィンが少し目を覚ます。なんとなく聞こえていたのか、ルイとセオドアに向かって手を伸ばして小さく笑みを浮かべた。
「ルイ、くん……セオくん、これ……」
フィンはうとうとしながらもポケットから何かを取り出す。二人は慌てて駆け寄って手を伸ばすと、フィンは二人に完全体であるシルフクイーンの羽をそれぞれに手渡した。
「フィンにタのまれてクレテやった。カンゼンタイのワタシのハネだ、ありがたがれ」
シルフクイーンはえっへん、と偉そうな表情でそう言い放つ。精霊の羽が幸運を呼び込むことは周知の事実であり、二人はその羽を見てから目を合わせた。
「がんばって……ね」
フィンは小さくそう言うと再びすやすやと寝息を立てて睡眠に入り、ルイとセオドアはフィンの頭を優しく撫でた。
「ありがとう、フィン」
「フィンちゃんありがとー」
暖かい気持ちになった二人は、フィンの純粋な寝顔を眺めながら薄ら笑みを浮かべる。
「なっ、ワタシにもレイをいわぬか!」
シルフクイーンは手足をバタつかせながら頬を膨らませてそう言うと、二人は笑いながらぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございますシルフクイーン」
「貴重な羽、嬉しいっす」
二人の言葉に満足げになったシルフクイーンは腕を組んだ。
「ふん、ワタシがハネをわざわざもぐことなぞナイのだからな」
シルフクイーン・アルストロメリアの羽は貴重だ、と言いたげなシルフクイーンに、二人は苦笑しながら頷く。
リヒトはそのまま無言で歩き出すと、フィンを抱えながら救護室へと向かっていった。
『風はミネルウァが制し、気になるのは次の種目……!さぁ、次の種目を決めるボールを副学長に取ってもらいましょう~!』
会場の盛り上がりを聞いた二人は、表に戻るために歩き始める。
「フィンは凄かったな」
ルイがセオドアにそう言うとセオドアも大きく頷く。
「だな!イデアルの過激派のアホ面みたかよ、庶民のくせにって馬鹿にしてたのに、シルフクイーンが出てきてから呆気に取られてたよなぁ」
「あぁ。あの学園は本当に古臭い考えが蔓延ってる、入らなくてよかったってつくづく思うな」
ルイは鼻で笑いながら返答する。歩くたびに、盛り上がりを見せる会場の声がどんどん大きくなるり、視界に入る外の光が強くなってきた。
表に出た二人は、野外アリーナでボールを点高く上げるエリオットを見る。
ボールは天高く待った後、すぐに弾けて真っ赤な炎が渦巻き、そこから火の下位精霊が姿を現した。
『次の四大元素種目は火!灼熱地獄です!!!!』
「俺か」
ルイは緊張することなく平然とした顔でそう呟く。
「ぶちかませよ!」
セオドアはグーの手をルイに差し出すと、ルイは口角を上げながら同じようにグーとの手を見せて拳と拳をぶつかり合わせた。
「あぁ。んじゃ行ってくるわ」
ルイはセオドアに背を向けながら歩き手を振ると、来賓席にいる父であるルーベンを一瞬睨みつけて口を開く。
「見てろよ、クソ親父」
ルイはポケットに忍び込ませたシルフクイーンの羽をぎゅっと握りしめると、堂々とした表情で壇上にあがった。
壇上にはすでにイデアルの代表であるガーネット、そしてスレクトゥの代表のキランが登っており、ルイが登場したことにより声援が瞬く間に膨れ上がる。
ルイ自体が有名人なのか、はたまたその整った容姿にときめいた者の黄色い声援なのかは分からないが、ルイは過剰に愛想を振り撒くわけでもなく少し笑みを見せてから特設ステージへと飛んでいった。
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