上 下
109 / 318
一年生・秋の章 <エスペランス祭>

疾風走(テンペスター)⑥

しおりを挟む



「”最速の精霊“を味方につけた以上、この種目では誰も太刀打ちできないだろう。あの気難しいシルフクイーンを手懐けるなんてな……」


 ライトニングは腕を組みながらそう呟くと、#映像水晶__
フォトクリスタル__#に映るフィンの姿を見て珍しく感心したようにそう語った。

 シルフクイーンは本来上級の位置に属する精霊だが、シルフクイーン・アルストロメリアは情報が乏しく、未知数の力を秘めている。
 リリアナは召喚士としての頭を働かせこの状況を飲み込むと、小さく口を開いた。


「あれは上級じゃないですぅ……完全体であるアルストロメリアは最早“特級”と言われてもおかしくないぐらいの知能、そして凄まじい風の魔力を持っていますー」


 リリアナは都市伝説として語られていたシルフクイーンの完全体が出現したことによって、興奮混じりの声色になりながらそう語る。
 たまたま近くにいたリカルドは、ミラと瓜二つのフィンが活躍する姿を見て、過去にミラがこの競技で勝利を納めたことを思い出しながら小さく笑みを浮かべていた。


「(やはり、あの子はミラの子なんだな……いや、ミラよりも緻密で綺麗な魔法陣かも知れない)」


 フィンに圧倒されたリーヴェスとライノアは、各々苦悶の状況を浮かべながらも乱された魔力回路を修復していた。
 圧倒的魔力による風魔法の直撃を受け、防ぎ切れず体の回路が壊れては再生していく。二人は鉛のような体に鞭を打つようにして必死に魔力を放出させていた。


「はぁっ……こんな圧迫感のある風を受けたのは初めてだ」


 ライノアは箒にぶら下ったままロードランスの風に乗って器用に飛ぶが、大量に魔力を消費しているからか、その表情に疲れが見えている。


「フィン君……あんな虫も殺さないような顔をして、完全にしてやられたよ」


 ライノアは悔しそうに笑みを浮かべそう呟くと、大きく溜息を吐いて空を仰ぎ、自分が如何に力不足かを思い知って諦めたように笑みを見せた。


「ゴールだ!」


 フィンは二人を置いてまるでレーザービームのように一気に駆け抜けると、視界にはゴールが飛び込み、それをみたフィンは目を輝かせる。
 圧倒的な差を見せつけてゴールへと辿り着いたフィンに、会場は大盛り上がりを見せた。


『エスペランス祭最初の種目疾風走テンペスター、一位はミネルウァ・エクラ高等魔法学院、フィン・ステラだー!!!
こんな圧倒的勝利があるだろうか!?美しきシルフクイーンを携えたミネルウァの第一位、フィン・ステラはまさしく疾風の王テンペスターと呼ばれるに相応しい勝利を収めましたー!!』


 フィンがゴールに到着すると、スタッフの興奮混じりのレポートとともに祝砲が上がる。ミネルウァが勝ったことを意味する青色の祝砲が空を舞い、キラキラと輝いた。
 リーヴェスはプライドが傷付き顔を歪めながらも遅れて二番手でゴールし、ライノアはタッチの差で三位でゴールする。


「勝った……」


 フィンは祝砲の音を聞いて安心し小さく笑みを浮かべ、シルフクイーンに抱き着いて涙を浮かべた。シルフクイーンは花弁を散らせながら手のひらサイズに変化すると、花弁を掴んでフィンに差し出した。


「すこしムリをしたなフィン。これをタベテやすめ」


 シルフクイーンは花弁をフィンの口に押し付けると、フィンはそれを食べて笑みを見せる。


「ありがとうシルフクイーン。ちょっとフラフラするけど、何とか大丈夫」


 フィンは凱旋のようにメインの野外アリーナまで戻ると手を振りながら飛んでみせた。
 観客やミネルウァの生徒の大歓声、そして他校の生徒ですらシルフクイーンに感動して拍手をする状況に、フィンは目を潤ませる。

 フィンから招待を受け観客として見に来ていたリラとカインも、フィンがここまで注目を受ける展開になることを予期できず呆気に取られた表情でそれを眺めた。


「フィンはとんでもない子だったな、母さん」


 カインが驚きの表情でそう呟くと、リラも流石に目を見開いて呆然としている。
 王都民でもない北部の中流階級が、アリーナの観客席に座れることは滅多にない。フィンからの招待を受けて迷っていたリラだったが、そんな経験を棒に振る訳にもいかず王都まで足を運んだ。しかし、まさかここまでフィンが有能だったことに驚きを隠せない様子だった。


「やっぱり、あの子はミラの子供だわ」


 リラはそう言って客席にぺたんと座ると、よりミラにそっくりに育ったフィンを見てそう呟いた。
 ミラは過去、同じ競技で一位を取り観客から注目されていた。当時はそれを妬み祝福をすることはなかったが、リラは今回フィンに対して無意識に拍手をしており、それを横目に見ていたカインも安心した様に笑って大きく拍手をする。

 フィンはしばらく勝者の顔見せとしている観客の前を飛びながら、自分の観客席へと戻ろうとするが、やはり消耗が激しかったのか一瞬目眩がしバランスを大きく崩す。
 それに気付いたリヒトだが、より近くにいたルイとセオドアがいち早く飛んでフィンの元へと飛ぶ。


「フィン!」

「フィンちゃん!」


 二人はフィンが落ちないように体を支えつつ地面に降り立つと、そこにフードを深く被ったリヒトが現れフィンの元へ駆け寄る。
しおりを挟む
感想 153

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

処理中です...