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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
疾風走(テンペスター)⑥
しおりを挟む「”最速の精霊“を味方につけた以上、この種目では誰も太刀打ちできないだろう。あの気難しいシルフクイーンを手懐けるなんてな……」
ライトニングは腕を組みながらそう呟くと、#映像水晶__
フォトクリスタル__#に映るフィンの姿を見て珍しく感心したようにそう語った。
シルフクイーンは本来上級の位置に属する精霊だが、シルフクイーン・アルストロメリアは情報が乏しく、未知数の力を秘めている。
リリアナは召喚士としての頭を働かせこの状況を飲み込むと、小さく口を開いた。
「あれは上級じゃないですぅ……完全体であるアルストロメリアは最早“特級”と言われてもおかしくないぐらいの知能、そして凄まじい風の魔力を持っていますー」
リリアナは都市伝説として語られていたシルフクイーンの完全体が出現したことによって、興奮混じりの声色になりながらそう語る。
たまたま近くにいたリカルドは、ミラと瓜二つのフィンが活躍する姿を見て、過去にミラがこの競技で勝利を納めたことを思い出しながら小さく笑みを浮かべていた。
「(やはり、あの子はミラの子なんだな……いや、ミラよりも緻密で綺麗な魔法陣かも知れない)」
フィンに圧倒されたリーヴェスとライノアは、各々苦悶の状況を浮かべながらも乱された魔力回路を修復していた。
圧倒的魔力による風魔法の直撃を受け、防ぎ切れず体の回路が壊れては再生していく。二人は鉛のような体に鞭を打つようにして必死に魔力を放出させていた。
「はぁっ……こんな圧迫感のある風を受けたのは初めてだ」
ライノアは箒にぶら下ったままロードランスの風に乗って器用に飛ぶが、大量に魔力を消費しているからか、その表情に疲れが見えている。
「フィン君……あんな虫も殺さないような顔をして、完全にしてやられたよ」
ライノアは悔しそうに笑みを浮かべそう呟くと、大きく溜息を吐いて空を仰ぎ、自分が如何に力不足かを思い知って諦めたように笑みを見せた。
「ゴールだ!」
フィンは二人を置いてまるでレーザービームのように一気に駆け抜けると、視界にはゴールが飛び込み、それをみたフィンは目を輝かせる。
圧倒的な差を見せつけてゴールへと辿り着いたフィンに、会場は大盛り上がりを見せた。
『エスペランス祭最初の種目疾風走、一位はミネルウァ・エクラ高等魔法学院、フィン・ステラだー!!!
こんな圧倒的勝利があるだろうか!?美しきシルフクイーンを携えたミネルウァの第一位、フィン・ステラはまさしく疾風の王と呼ばれるに相応しい勝利を収めましたー!!』
フィンがゴールに到着すると、スタッフの興奮混じりのレポートとともに祝砲が上がる。ミネルウァが勝ったことを意味する青色の祝砲が空を舞い、キラキラと輝いた。
リーヴェスはプライドが傷付き顔を歪めながらも遅れて二番手でゴールし、ライノアはタッチの差で三位でゴールする。
「勝った……」
フィンは祝砲の音を聞いて安心し小さく笑みを浮かべ、シルフクイーンに抱き着いて涙を浮かべた。シルフクイーンは花弁を散らせながら手のひらサイズに変化すると、花弁を掴んでフィンに差し出した。
「すこしムリをしたなフィン。これをタベテやすめ」
シルフクイーンは花弁をフィンの口に押し付けると、フィンはそれを食べて笑みを見せる。
「ありがとうシルフクイーン。ちょっとフラフラするけど、何とか大丈夫」
フィンは凱旋のようにメインの野外アリーナまで戻ると手を振りながら飛んでみせた。
観客やミネルウァの生徒の大歓声、そして他校の生徒ですらシルフクイーンに感動して拍手をする状況に、フィンは目を潤ませる。
フィンから招待を受け観客として見に来ていたリラとカインも、フィンがここまで注目を受ける展開になることを予期できず呆気に取られた表情でそれを眺めた。
「フィンはとんでもない子だったな、母さん」
カインが驚きの表情でそう呟くと、リラも流石に目を見開いて呆然としている。
王都民でもない北部の中流階級が、アリーナの観客席に座れることは滅多にない。フィンからの招待を受けて迷っていたリラだったが、そんな経験を棒に振る訳にもいかず王都まで足を運んだ。しかし、まさかここまでフィンが有能だったことに驚きを隠せない様子だった。
「やっぱり、あの子はミラの子供だわ」
リラはそう言って客席にぺたんと座ると、よりミラにそっくりに育ったフィンを見てそう呟いた。
ミラは過去、同じ競技で一位を取り観客から注目されていた。当時はそれを妬み祝福をすることはなかったが、リラは今回フィンに対して無意識に拍手をしており、それを横目に見ていたカインも安心した様に笑って大きく拍手をする。
フィンはしばらく勝者の顔見せとしている観客の前を飛びながら、自分の観客席へと戻ろうとするが、やはり消耗が激しかったのか一瞬目眩がしバランスを大きく崩す。
それに気付いたリヒトだが、より近くにいたルイとセオドアがいち早く飛んでフィンの元へと飛ぶ。
「フィン!」
「フィンちゃん!」
二人はフィンが落ちないように体を支えつつ地面に降り立つと、そこにフードを深く被ったリヒトが現れフィンの元へ駆け寄る。
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