上 下
148 / 233
聖杯争奪戦編

魑魅魍魎の四国ーその⑧

しおりを挟む
昌原の悔しそうな顔が見られるという事実は、絵里子からすれば、まさに至高の喜びと言っても良いだろう。
「やめなさい! そんな罰当たりな事をしてはいかんぞ! イエス・キリストは必ず死後にお前たちを地獄に落とすだろう! 」
昌原は震える手で、孝太郎と絵里子の二人を指差す。
「罰当たりはどっちだよ、勝手にイエス・キリストの名前を語りやがって、死後に地獄に堕ちるのは、お前の方だろう?」
孝太郎の言葉に昌原は完全に堪忍袋の尾が切れたらしい。極度に人差し指を震わせて、あらんばかりの罵声を二人に浴びせていた。
だが、孝太郎の顔は和かその物だ。昌原と葵が疑問に思って、首を傾げていると、
「そうやって、怒っていられるのも今だけだろうしな、大方、お前さんは四国の支部に警察の強制捜査が及んだから、急遽東信徒庁から、ヘリか何かで、端角を呼び寄せて、ここにやって来たんだろ?抜け目のない奴だ……」
丁寧に自分の推理を説明してくれた。しかも、その推理は、昌原がここに来るまでの経緯を全て表したもので、たった一つの事を除けば、殆ど合っていた。そう、端角が自分の代わりにトニー・クレメンテに撃ち殺されてしまったという事以外は……。
だが、昌原はそんなたった一つの違う点を指摘する事なく、プルプルと全身を震わせている。
「うるさい! とにかく、お前らの聖杯をワシに寄越せ! 早くしろ、ワシに二つの聖杯を壊されてもいいのか! 」
孝太郎はここで認識を改める。よく考えれば、聖杯の欠片が壊れようが、紛失しようが、自分たちにとっては全く縁のない世界なのだ。つまり、壊れてしまっても何の問題もない……。
孝太郎は口元を緩めて言った。
「壊せよ、その代わりにこちらの欠片も壊しちまうからな」
昌原はどうすればいいのか分からなくなってしまう。壊されてしまっては、自分のロボットの帝国を築き上げる夢が完全に消え去ってしまう。荒い息を荒げ、それを落ち着かせてから、昌原は武器保存ワーペン・セーブから、45口径オート拳銃を取り出し、その銃口を葵に向ける。
「こ、この女がどうなってもいいのか! この女を殺されたくなければ、ワシの言うことに従え! 」
「か、会長?」
葵は信じられないと言うような顔で、昌原を見つめていた。これは、きっとこれは何かのパフォーマンスなのだろうと。
だが、昌原はパーフォマンスを行ったつもりなどない。葵に銃口を向けたままだ。
「いいか、貴様らッ!この女を生かしておきたければ、ワシの言うことに従え! ワシに残りの聖杯の欠片を渡すんだッ!」
葵はその言葉に心底失望したらしい。気丈な彼女らしかねない涙を浮かべていた。
その光景は敵として対峙した孝太郎と絵里子も同情したくなってしまう。今まで信じていた教祖が、自分を人質に取って、目的のものを奪い取ろうしているのだ。どんな洗脳も容易に溶けてしまうだろう。
孝太郎はそれと同時に、昌原道明という男に心から怒っていた。
弟子を駒扱いし、自分の保身を図るためならば、毒殺すら厭わない、残酷なカルト教団の教祖に。
「どうした、お前たち! この女が死んでもいいのか! ワシに残りの聖杯を寄越せ! 」
孝太郎がどうやってこの男の頭に銃弾を撃ち込んでやろうかと考えていた時だ。
突然、葵が泣き喚くのをやめ、昌原に向かって突進していく。
葵の容赦ない突進を受けた、昌原はバランスを崩し、その場に倒れ込んでしまう。
起き上がろうとした、昌原に葵は昌原が元々持っていたオート拳銃を拾い上げ、その銃口を向ける。
「ふざけないでよ……あなたを今まで信じていた、あたしはどうなるの!?あたしは両親からも捨てられて、縋る人はあなたしかいなかった……あなたこそが、あたしを天国に連れて行ってくれるんだと思っていたのに! 」
葵は昌原の胸ぐらを掴みながら、今まで慕っていた教祖に向かって、ものすごい剣幕で迫る。
「や、やめろ、あれは言葉の綾だ……警察の目をかいくぐるためのな、ワシはお前の義理の父親になるんだぞ、第一ワシを殺したところで、お前の死刑は確定だぞ……」
「あなたがそうさせたんでしょ?土方くんも、村西さんも……赤川さんもあなたがいなければ、死刑にならなかったわ! 」
葵は昌原の頭に銃口を突きつけながら、叫ぶ。
「死刑?ワシは死刑になる事は何もやっていないぞ、宇宙に返せとは言ったが、殺せと命令した事は一度もない……お前たちが勝手に解釈して、殺しただけだッ!わたしは何もやってない、潔白そのものだ! 」
葵は昌原の「潔白」という言葉を聞くなり、昌原の頭から銃口を離す。その目には全てを悟ったような悲しげな光が見えた。
「そうね……何で、こんな簡単な事に気が付かなかったのかしら! あたしはあなたに騙されていた! 自分がバカみたいだわ……アハハハハハハハ~!!! 」
二人が見ていても、いられない痛ましい光景だった。葵は左手で両目を覆い隠し、狂ったように笑っている。
だが、それ以上に二人が見苦しいと考えたのは、
「刑事さんたち聞いてくれ! この件は全てあの女を中心とする弟子の暴走だったんだ! ワシはこの件には一切関知していない! 逮捕するのなら、あの女を逮捕してくれ! 」
孝太郎が身勝手な教祖を殴ろうと近付いた時だ。ドンッ!という大きな音が聞こえ、気が付けば、昌原は腹から大きな血を流し、「グフッ 」という言葉を呟いた後に、その場に倒れ込む。
「あんた、何を!?」
孝太郎は銃の発砲主に思わず尋ねてしまう。それくらい、予想だにしない事だったのだが、肝心の発砲主は、
「あいつが……あいつが……」
虚ろな目で狂ったように呟くばかりだった。いや、もう既に狂っていたかもしれない。何にせよ、見ていられない状況だ。その時にタイミングを見計らったかのように聡子と明美の二人が武装した信者を捕らえて、こっちに向かってくる。
「お疲れ様~あれ、孝太郎さんどうしたの?あと、その女の人は?」
孝太郎は満面の笑みで尋ねる聡子に目を合わせる事もできない。やはり、一部始終を知っているものと、知らないものでは感覚が違うのだ。
孝太郎は安心させるかのように「何でもない」と言い放ち、応援のパトカーと救急車を呼ぶように指示を出す。
向こうでも、明美と姉が何やら意見を交換し合っているのが確認できた。
孝太郎は呆然とした顔で、深夜の空を眺めていた。



10分後にやって来た、応援の警察に石川葵を引き渡し、救急車に昌原を引き渡したのだが、
「これは、ダメですね。出血が酷すぎて……恐らく、死んでいます」
この医師の言葉に孝太郎は昌原道明を永遠に法律で裁けない事を悟る。今頃は、彼はあの世で裁きを受けているのだろうか。
そんな疑問が孝太郎の頭の中をよぎっていた。そんな時だ。
「孝ちゃん! 」
姉が声をかけて来た。悩んでいる自分を心配しての事だろう。孝太郎は何とか作り笑いを浮かべ、応対する。
「今回の件は仕方がないよ、石川葵があんな行動を取るなんて、誰も予想していなかったんだもの……」
姉の言葉に孝太郎は「そうだな」と呟くしかない。
と、ここで孝太郎の気分を変えさせるためなのか、絵里子が聖杯の欠片を取り出す。
「そうだわ、あの聖杯が繋がれば、どんな事が起きるか、どうか試してみない! 聡子と明美も混ぜて……」
孝太郎も命がけでロシア人の過激派やカルト教団が欠片を集めて、どんな事をしたかったのかという好奇心があったので、溜息を吐きながらも許可を出す。




白籠市のアンタッチャブル立ち会いのもとに聖杯の欠片を集めれば、どうなるのかという実験が行われた。
まず、孝太郎が、穴だらけの聖杯に欠片をはめる。ピッタリだ。次に聡子が聖杯の欠片を別の場所にはめる。これも驚くほどにピッタリとはまる。3個。4個。5個。6個。次々と当てはめていく。いよいよ、最後の欠片になった。
「さてと、どんな結果になるのかなぁ~」
この欠片を当てはめる役割は聡子に割り当てられた。聡子は何のためらいもなく、好奇心だけで、動いていた。
いよいよだ。最後の欠片がはまる。すると、次の瞬間に真っ白な光が現れ、気が付いた時には、その場には誰もいなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イカアバター

安岐ルオウ
SF
この星には、奇妙な生態を持つ生物がたくさんいます。 中でもイカは、まるでこの星で進化した生き物ではないような、とびぬけて不思議な特徴を持っています。 このお話は、ひょんなことから、イカと一心同体になり、全方位の視野と鋭敏な感覚の世界に没入することになった、とある男が遭遇する、思いもよらぬ危機、冒険、出会い、そして数奇な運命の物語です。 イカの生態に関するさまざまなトリビアと併せて、焙ったゲソでもしゃぶりながら、軟体動物のようにだらりとくつろいで、この、なぜかシリアスな装いの法螺話を、ゆっくりお楽しみください。

♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼
ファンタジー
痴情のもつれ(?)であっさり29歳の命を散らした高遠瑞希(♀)は、これまたあっさりと異世界転生を果たす。生まれたばかりの超絶美形の赤ん坊・シュリ(♂)として。 チートらしきスキルをもらったはいいが、どうも様子がおかしい。 [年上キラー]という高威力&変てこなそのスキルは、彼女を助けてくれもするが厄介ごとも大いに運んでくれるスキルだった。 その名の通り、年上との縁を多大に結んでくれるスキルのおかげで、たくさんのお姉様方に過剰に愛される日々を送るシュリ。 変なスキルばかり手に入る日々にへこたれそうになりつつも、健全で平凡な生活を夢見る元女の非凡な少年が、持ち前の性格で毎日をのほほんと生きていく、そんなお話です。 どんなに変てこなお話か、それは読んでみてのお楽しみです。 感想・ブックマーク・評価などなど、気が向いたらぜひお願いします♪ 頂いた感想はいつも楽しみに読ませていただいています!!! ※ほんのりHな表現もあるので、一応R18とさせていただいてます。 ※前世の話に関しては少々百合百合しい内容も入ると思います。苦手な方はご注意下さい。 ※他に小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しています。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』の初陣

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる  地球人が初めて出会った地球外生命体『リャオ』の住む惑星遼州。 理系脳の多趣味で気弱な『リャオ』の若者、神前(しんぜん)誠(まこと)がどう考えても罠としか思えない経緯を経て機動兵器『シュツルム・パンツァー』のパイロットに任命された。 彼は『もんじゃ焼き製造マシン』のあだ名で呼ばれるほどの乗り物酔いをしやすい体質でそもそもパイロット向きではなかった。 そんな彼がようやく配属されたのは遼州同盟司法局実働部隊と呼ばれる武装警察風味の『特殊な部隊』だった。 そこに案内するのはどう見ても八歳女児にしか見えない敗戦国のエースパイロット、クバルカ・ラン中佐だった。 さらに部隊長は誠を嵌(は)めた『駄目人間』の見た目は二十代、中身は四十代の女好きの中年男、嵯峨惟基の駄目っぷりに絶望する誠。しかも、そこにこれまで配属になった五人の先輩はすべて一週間で尻尾を撒いて逃げ帰ったという。 司法局実動部隊にはパイロットとして銃を愛するサイボーグ西園寺かなめ、無表情な戦闘用人造人間カウラ・ベルガーの二人が居た。運用艦のブリッジクルーは全員女性の戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』で構成され、彼女達を率いるのは長身で糸目の多趣味なアメリア・クラウゼだった。そして技術担当の気のいいヤンキー島田正人に医務室にはぽわぽわな詩を愛する看護師神前ひよこ等の個性的な面々で構成されていた。 その個性的な面々に戸惑う誠だが妙になじんでくる先輩達に次第に心を開いていく。 そんな個性的な『特殊な部隊』の前には『力あるものの支配する世界』を実現しようとする『廃帝ハド』、自国民の平和のみを志向し文明の進化を押しとどめている謎の存在『ビックブラザー』、そして貴族主義者を扇動し宇宙秩序の再編成をもくろむネオナチが立ちはだかった。 そんな戦いの中、誠に眠っていた『力』が世界を変える存在となる。 その宿命に誠は耐えられるか? SFお仕事ギャグロマン小説。

異世界で等価交換~文明の力で冒険者として生き抜く

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とし、愛犬ルナと共に異世界に転生したタケル。神から授かった『等価交換』スキルで、現代のアイテムを異世界で取引し、商売人として成功を目指す。商業ギルドとの取引や店舗経営、そして冒険者としての活動を通じて仲間を増やしながら、タケルは異世界での新たな人生を切り開いていく。商売と冒険、二つの顔を持つ異世界ライフを描く、笑いあり、感動ありの成長ファンタジー!

ラストフライト スペースシャトル エンデバー号のラスト・ミッショ

のせ しげる
SF
2017年9月、11年ぶりに大規模は太陽フレアが発生した。幸い地球には大きな被害はなかったが、バーストは7日間に及び、第24期太陽活動期中、最大級とされた。 同じころ、NASAの、若い宇宙物理学者ロジャーは、自身が開発したシミレーションプログラムの完成を急いでいた。2018年、新型のスパコン「エイトケン」が導入されテストプログラムが実行された。その結果は、2021年の夏に、黒点が合体成長し超巨大黒点となり、人類史上最大級の「フレア・バースト」が発生するとの結果を出した。このバーストは、地球に正対し発生し、地球の生物を滅ぼし地球の大気と水を宇宙空間へ持ち去ってしまう。地球の存続に係る重大な問題だった。 アメリカ政府は、人工衛星の打ち上げコストを削減する為、老朽化した衛星の回収にスペースシャトルを利用するとして、2018年の年の暮れに、アメリカ各地で展示していた「スペースシャトル」4機を搬出した。ロシアは、旧ソ連時代に開発し中断していた、ソ連版シャトル「ブラン」を再整備し、ISSへの大型資材の運搬に使用すると発表した。中国は、自国の宇宙ステイションの建設の為シャトル「天空」を打ち上げると発表した。 2020年の春から夏にかけ、シャトル七機が次々と打ち上げられた。実は、無人シャトル六機には核弾頭が搭載され、太陽黒点にシャトルごと打ち込み、黒点の成長を阻止しようとするミッションだった。そして、このミッションを成功させる為には、誰かが太陽まで行かなければならなかった。選ばれたのは、身寄りの無い、60歳代の元アメリカ空軍パイロット。もう一人が20歳代の日本人自衛官だった。この、二人が搭乗した「エンデバー号」が2020年7月4日に打ち上げられたのだ。  本作は、太陽活動を題材とし創作しております。しかしながら、このコ○ナ禍で「コ○ナ」はNGワードとされており、入力できませんので文中では「プラズマ」と表現しておりますので御容赦ください。  この物語はフィクションです。実際に起きた事象や、現代の技術、現存する設備を参考に創作した物語です。登場する人物・企業・団体・名称等は、実在のものとは関係ありません。

サクラメント[赦しの秘跡]~楽園15~

志賀雅基
SF
◆アサガオの種が視る夢/1ペタバイトの情報で得た秘跡/続きを俺は抹消する◆ 惑星警察刑事×テラ連邦軍別室員Part15[全48話] 上流階級のみに出回っていた違法ドラッグが広まり始めた。シドとハイファは製造元の星系へ。その製薬会社でシドは六歳の時に宙艦事故で死んだ家族が電脳世界で生きているのを見る。彼らを収めたメディアをアンドロイドに載せる計画だがテラでアンドロイドは製作禁止物。何を以て人とするか。法は、倫理は、そしてシドの答えは……? ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】 【Nolaノベル・小説家になろう・ノベルアップ+・ステキブンゲイにR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

地球の天使、ルミエールと行く、三百年後の未来

Taka123M
SF
孤独な研究者タクミは、大学での理論「SMAI(Super Mind AI)」が認められず、失望と挫折の日々を送っていた。ある日、交通事故に遭い命を落とすが、その直後、量子コヒーレント空間に意識が飛ばされ、そこで天使ルミエールと出会う。 ルミエールは、未来の地球がタクミの理論によって引き起こされた問題に直面していることを伝える。タクミはルミエールとともに三百年後の未来に向かい、問題を解決するために立ち上がる。二人は未来のパリや日本を巡り、ミカミ財団やTOTOとの対決を経て、最終的に平和と調和を取り戻す。 その過程で、タクミは自分の理論と向き合い、トラウマを克服し、ルミエールとの絆を深めていく。最終的に、二人がどうなるかはお楽しみにしてください。

処理中です...