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シニョリーナ・エスコート・トラベル編

女豹の使い魔ーその③

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トミーが両手を挙げ、孝太郎に降伏の姿勢を見せようとした時だ。
頭の中に車の中で聞いた昌原道明の言葉が過る。
『いいか、我々の修行には乗り越えなければいけないものがある、それは困難だよ、困難というのは、ジャーナリストであったり、被害者の会を名乗る加害者の会であったり、或いは国家権力なのかもしれない、我々には敵が多い、それは我々の宇宙究明の道が、どれだけ国家権力が恐れているのかの証明になるんだよ、だから、分かったのなら、戦おうじゃあないか、我々の究明を知らしめるためにッ!突き進めッ!我が宇宙の戦士たちよッ!」
その言葉を思い起こすなり、トミーは大きな唸り声を上げた。
「どっ、どうした!?」
孝太郎は自分の声が震えている事に気がつく。
「昌原会長が言っていたんだ……宇宙究明学会は国家権力から弾圧されていると、オレが……オレが……助けなければッ!」
と、トミーは武器保存ワーペン・セーブから、M16を取り出し、孝太郎にその銃口を向ける。
「死ねェェェェェェ~!!! 」
孝太郎は自分の防御の魔法である鋼鉄の将軍ジェネラル・オブ・スティールを使い、M16の弾を弾いていく。
「全ては昌原会長のためだッ!」
そこにいたトミーはまさに「狂人」という言葉がピッタリと似合うほどの男になっていた。目は真っ赤に充血し、荒い息を何度も何度も吸っては吐き、吸っては吐くという行為を繰り返していた。
(昌原……一体トミーに何をしたんだ?)
孝太郎はトミーが心酔している新興宗教宇宙究明学会の教祖昌原道明に憎悪の念を送る。



「今頃、トミー・モルテは中村孝太郎を始末しているでしょうか?我々の仲間が調べたところ、彼は刈谷阿里耶の逮捕だけではなく、前白籠市の市長たる自由三つ葉葵党の本多太郎を検挙しており、また先の横須賀軍基地の騒動においては、彼がテロリストグループを壊滅に追い込んでおりました」
村西秀夫の原稿を棒読みするような色気のない声が、会長の瞑想室に響き渡る。
だが、そんな村西の言葉を聞いても、昌原は大きく口元を横に歪めながら、不安そうに語る村西とは対照的に満足気な笑みを浮かべながら聞いていた。
「会長! 笑っている場合ではありません! このまま本格的に警察が敵に回った暁には、白籠市のアンタッチャブルは必ず我々に目を向けてくるでしょう! 」
そんな、村西の必死な声を落ち着かせ、昌原は教祖の机の上に置いてあった赤色の錠剤を村西に見せてやる。
「会長、これは?」
村西は昌原の思わぬ行動に目を丸くしながら、尋ねた。
「これはな、中では一番協力な幻覚剤でな、コイツは遅い時に……つまり、対象相手の体が一番緊張した時に反応するのだよ、ふふふ、そう死をも恐れない兵士になるのだよ」
昌原の説明に村西はひれ伏して答える。
「流石は会長です! まさにオシリス神と聖なる主イエス・キリストがお遣わしになった使徒! 我々には容易に製造できぬ薬まで作れるとはッ!」
「フフ、まぁ対象者がどうなるのかは翌日のニュースの結果で知ろうではないか……」
昌原は満足気に椅子に体を埋めていた。



「オレは……オレは信徒だッ!聖なる愛の戦士……宇宙の戦士……昌原会長の教えこそが、全ての真理……」
トミーは狂ったように(実際に狂っているので、このような表現は適切ではないと思うが)何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
「オレは宇宙の戦士だッ!」
トミーは今度は拳を振り上げて、孝太郎に襲い掛かってくる。孝太郎はトミーの拳を左に交わし、トミーはその勢いのままに、公園の茂みへと突っ込んで行くのだが、突っ込んだ先に孝太郎がいない事を悟ったのだろうか、こちらの方に向きを変える。
今度は両手の拳を振り上げながら、孝太郎の元に向かってくる。
「ウォォォォォォォォォ~~!!! 」
孝太郎は何とか、トミーの拳を自分の手のひらで押さえつけ、動きを食い止める。
「クソッ!トミーッ!お前なんだろ?正気に戻ってくれッ!」
だが、トミーは聞く耳を持たない。それどころか、ますます孝太郎へと向けている拳の力を強めていく。
「いい加減にしろよ、お前ッ!」
孝太郎は何とか、トミーは後ろに押し倒し、トミーの動きを抑える。
だが、トミーは依然として興奮状態のままだ。このまま、コニーがこの状況に恐怖して、ヒステリーでも起こさなければいいのだが……。
孝太郎は目をチラリと、コニーの方へと向ける。
コニーは今の所、目こそ涙ぐんでいるのだが、ヒステリーを起こす様子はなさそうだ。
(良かった、後はあいつだけか……)
「オレは宇宙の戦士……昌原会長の邪魔者は殺す……」
トミーは今度はポケットから三枚の金、銀、銅の三枚の硬貨を取り出し、それを孝太郎に向かって投げつけた。
孝太郎はその硬貨が飛んでくる順番を見た。まず、最初に銅の硬貨が飛んでくるのが見えた。
これは、まるで手慣れた職人がその物を慣れた手先で作り上げるように孝太郎は自分の右腕で銅貨を破壊する。
次に飛んできたのは、金色の硬貨。つまり、金貨だ。孝太郎はこれも先程と同様に簡単に破壊しようとしたが、今度はそういう訳にもいかなくなった。何と、肝心のトミー・モルテ自身が孝太郎の懐へと潜り込まんと突進してきたのだから。
孝太郎は金貨を破壊した後に、トミーを迎え撃たんと、両手の拳を振り上げて、トミーを迎え撃とうした。
だが、トミーは孝太郎に接近するよりも前に、最後の硬貨。
つまり、銀貨を投げ飛ばしたのだ。先程と同様の距離ならば、孝太郎も避けられたのだろうが、今度はそうもいかない。
なんせ、トミー・モルテは目と鼻の先でその銀貨を投げ飛ばしたのだから。
孝太郎は鋼鉄の将軍ジェネラル・オブ・スティールに切り替える間もないと考えたのか、咄嗟に体を右方向に逸らし、銀貨の直撃を免れたが、左の脇腹に大きな痛みを感じた。
そして、更にトミーの右ストレートをくらい、その場に倒れこんでしまう。
「孝太郎さん! しっかりして! 」
コニーは慌てて駆け寄ろうとしたが、それを右手で静止させ、孝太郎はフラフラの状態にも関わらずに起き上がる。
「オレは……宇宙の戦士……」
トミーは相変わらずに狂ったように呟き続けるだけだ。
「参ったな、完全に頭が逝っちまてるよ、まるでデビル・ヘブンを使っているかのように……」
孝太郎はその言葉にピンときた。『デビル・ヘブン』それは幻覚剤の中でも特に依存性の高いもので、時間差があり、尚且つある条件を満たさないと、効果がでない事から、悪質度はどの幻覚剤よりも高いと言えるだろう。
そして、それを使用した人間は周りからは悪魔のように思われるが、本人は天国に行ったように感じる事から、そう呼称されており、現在日本共和国ではこの薬物は危険薬物として認識され、製造輸入が禁止されているはずだが……。
トミーは何故これを使っているのだろうか。考えられるのはボルジア家でこれが使われている可能性と、宇宙究明学会が無許可で製造している可能性だ。
だが、この場合は前者はあり得ないと言ってもいいだろう。
何故なら、薬物を使用している。いや、この場合は「使用された」と言うべきだろうか。ともかく、トミー・モルテは宇宙究明学会独特の言葉を使っていた。ボルジア家が日本のカルト団体の言葉を使わせるとは考えられないために、孝太郎は後者だと断定した。
(不味いな、あの野郎を何とかしないと、あのままじゃあ、アイツはこれから、あんな危機があるたびに、あんな状態になっちまうぜ)
孝太郎はトミー・モルテをために、この右腕を使おうと心に決めた。
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