11 / 63
王弟一家(2)
しおりを挟む
「トロージ、落ち着け」
「貴様誰に物を言っているっ! 僕の名前を呼び捨てにするなんて……!」
呼び捨てにされただけで、領主の息子のトロージは血管が切れそうなほど怒っている。人垣の中から進み出たアイラを射殺さんばかりに睨みつけ、こう続ける。
「貴様、僕のことを知らないのか? 街の人間ではないな? けれど知らないからと言って許されるわけではない。貴様は即刻処刑……」
トロージはそこで細い目を丸くしてアイラを凝視した。
「貴様……。え? ……あれ?」
何度もまばたきし、目をこする。
「似てる、けど……いや、そんな……髪型も違うし。ズボン穿いてるし……。だが、他人の空似にしては似過ぎて……」
「久しぶりだな、トロージ」
しかしアイラのその一言によって、混乱していたトロージは相手の正体に確信を持ったようだった。
口元をピクピクと引きつらせて冷や汗を垂らすと、トロージはくるりと体を反転させた。
「お、おい、帰るぞ」
そしてぎこちなく騎士たちを先導して、来た道を戻っていく。
「なんだ、あいつ。せっかく会ったのに」
「ライア!」
男装している時の偽名で呼ばれて振り返ると、買い物を終えたらしいルルが荷物を持ってこちらに走ってきた。
そしてみんなの注目を浴びているアイラの手を取り、人垣の奥へと連れて行く。
「何やってるんです! さっきのトロージ様でしょう? 彼に声をかけるなんて! 絶対にアイラ様だと気づかれましたよ」
「だってトロージが調子に乗ってたから……」
「とにかく今日はもう戻りましょう。注目を浴び過ぎです。ベンチで待ってるよう言ったのに。数は少ないでしょうが、追手の騎士だっているかもしれないんですから」
「うん……。だってトロージが調子に乗ってたからさ」
「分かりましたから。……アイラが出ていかなければあの親子はどうなっていたか分かりませんしね。仕方ないです」
叱られてアイラが少ししょぼんとしてしまったので、ルルは彼女の行動を肯定することにした。何だかんだで甘いのだ。
そして二人は尾行に警戒しながら山へと戻って行ったのだった。
「ところで、ベンチで待ってる時に男が三人声をかけてきたんだ。私に金を渡そうとして、『今晩どう?』って言ってたけど、あれは何だったんだろう?」
「今度そんな男が来たら問答無用で顔面を殴っていいです」
「ううん……」
朝、アイラはベッドの中でもぞもぞと動いた。このベッドはただでさえ狭いし固いのに、ルルがいつもアイラを抱きまくら代わりにしてくるから、さらに寝心地が悪い。
「奴隷のくせに……」
寝ぼけながら悪態をつく。ルルにくっついていると温かいし、いい匂いがするけど、やはり不自由だ。城の広いふかふかベッドが懐かしい。
狭い、と呟きながらルルの拘束から逃れようとするが、半分寝ている状態で抵抗してもすぐに捕まってしまう。
「うぅ……」
目をつぶったまま眉間にしわを寄せ、猫のように唸る。すると頭上からフッと笑い声が落ちてきた。ルルが笑うと胸が僅かに振動するので、それでアイラもやっと完全に目を覚ます。
「おはようございます、アイラ」
ルルはカーテン越しの朝日を浴びて爽やかにほほ笑んだ。金色の髪がきらきらと輝いている。
ルルはアイラを抱きまくら代わりにしているからか、毎日よく眠れているようだ。
「……髪、戻ってる」
「ええ、アイラも戻っています。また魔法をかけ直さないといけませんね。でも思ったより持ちました」
兄弟だという設定で通用するように二人とも黒くしていた髪が、お互い金と銀に戻っていた。
「さぁ、起きましょう」
「うん」
アイラは目をこすりながら起き上がる。
トロージと会って三日経っていたが、アイラたちの生活に特に変化はなかった。トロージが何か行動を起こすかもとルルは心配していたが、昨日までにトロージや公爵家の騎士たちがこの山小屋にやって来たりすることもなかった。
「トロージ様はアイラとあまり関わりたくないのかもしれません」
顔を洗って着替えた後、ルルはエプロンを付けて朝食の用意をしながら言う。アイラは寝ぼけ眼で朝食が出来上がるのを待っていたが、その視線は窓の外へと向いていた。
「どうかしましたか?」
「馬が元気ないんだ。ちょっと見てくる」
今日のようにポカポカと晴れて天気がいい日は、普通の馬なら芝生の上で寝転がったり、元気にその辺を駆けたりしていてもおかしくない。しかしアイラの馬は木に繋がれているわけでもないのに、木陰に立ったまま首を下げてじっと動かない。
というか、そもそもこの馬が駆ける姿なんて見たことがなかった。いつもじっとしているか、やたらと食べているかだ。
改めてそれに気づいて、アイラはこの馬は病気なのでは? と不安になった。
「トロージー!」
馬の体調を心配したアイラは翌日、ルルと共にアイリーデの街に下り、その外れに建っている豪邸――アイリーデ公爵の屋敷を訪れた。
馬の飼料のことはよく分からなかったが、公爵家では飼っている馬にきっと栄養豊富な餌を与えているだろうと考え、それを分けてもらいに来たのだ。
ちなみにルルは全てを諦めてアイラの好きにさせている。
「おーい! トロージ!」
遊ぼー、と言いそうな気軽な雰囲気で、アイラは屋敷の門の前に立っていた。
しかしすぐに門番二人がやってきてアイラをきつく睨む。
「おい、お前! 先程から何のつもりだ。トロージ様の名前を呼び捨てにするなど許されないぞ。捕まえて檻に入れてやる」
門番の騎士はそう言ったが、もう一人の騎士が彼をすぐに止めた。
「お、おい、待て。こいつ……」
「あ、お前」
アイラも彼のことをどこかで見た顔だと思ったが、街の食堂で会ったくせ毛の騎士だ。
「門番だったのか。ここを開けろ」
「そ、そんなことできるわけねぇだろ! お前のような物騒な奴を入れたら、俺が罰を受ける」
くせ毛の騎士はアイラにちょっと怯えつつ言う。門を開けることは拒否されたので、アイラは「仕方がないな」と呟いて力を使うことにした。
片手を構え、鍵がかかっている鉄製の門を魔力で押す。堅かったが、ガタガタと細かく振動した後で門は壊れた。衝撃音と共に吹っ飛んだのだ。
「開いた。トロージー!」
アイラは堂々と敷地内へと入っていく。くせ毛の騎士は顔を引きつらせた後、自分は何も見なかったという顔をしてアイラと関わるのを避けたし、他の騎士たちも得体の知れない魔法を恐れて戦おうとはしない。
結局、騎士たちは公爵たちに報告に行くため、屋敷の中へ駆けて行くだけだった。
「トロージー! どこだー!」
「……今のアイラを見ていると、昔読んだ恐怖小説を思い出します」
ルルは小さく呟く。狙った獲物を殺すために殺人鬼が家に侵入して、扉に鍵をかけようが隠れようがどこまでも追いかけてくる話だ。
そしてアイラが屋敷の中に堂々と入り込むと、そこでやっと屋敷の主人が慌ててやって来た。
「ア、アイラ! トロージから街で見かけたとは聞いていたが、まさか本当に……」
アイリーデ公爵は中央の階段を駆け下りてきて、息を切らせたままアイラに近づく。
「やぁ、叔父上。元気そうだな」
「アイラ。本当にアイラなのだな?」
公爵は複雑な表情をして言った。アイラが無事に生きていることに感動しているのとは少し違う反応だ。
招いていない客に訪ねてこられて困っているのだろう。
「アイラ様!」
夫に続いてやって来た公爵夫人も同じような顔をした。
二人とも黒髪で、息子と同じくぽっちゃりしている。アイラの兄は太り過ぎてパンパンなので硬そうに見えるのだが、彼らはいい感じに柔らかそうだとアイラはいつも思っていた。
やがてトロージも「来てしまったか……」という嫌そうな顔をしてアイラのもとにやって来た。
けれどアイラはトロージのことはそれほど嫌いではなかった。アイラの兄と違って、トロージはアイラにベタベタ触れてきたりしないからだ。
彼が弱い者に暴力を振るっていると、イラッとして嫌悪感を持つこともあるけれど。
「とにかく応接間に行こう。こんなところでもしも王都の騎士たちに見つかったら、我々も追及される」
開いたままの大きな玄関扉を見て公爵は言う。そしてアイラとルルを奥の応接間へと連れて行った。
「それで、うちには何の用で来たのだ?」
公爵は応接室のソファーに座ると、早速こう切り出した。アイラはその向かいに座り、ルルはアイラの後ろに立って黙っている。こういう場で奴隷はもちろんソファーに座れないし、発言することも許されないのだ。
「ここで匿え」と言われるのではと思っているのか、公爵たちはおどおどと眉尻を下げている。嫌だけどそう言われたら断れないし、と思っているのだろう。
公爵たちは強きに媚びて弱きをくじくタイプの人間だ。アイラが地位と権力を失った今、くるりと手のひらを返してひどい態度を取ってきてもおかしくはなかったが、それをしないのはアイラの力を恐れているからだろう。
「実はうちで飼っている馬が体調不良でな。元気がないんだ」
アイラは真剣に話し出した。
「だから馬の餌を貰いに来た。お前のところは良い餌を馬にやっているだろうと思って」
「そ、それだけか……?」
公爵も夫人も戸惑っている様子だった。トロージも困惑しながら言う。
「というか、アイラ様は今、どこで生活しておられるのですか?」
「山小屋」
「山小屋っ!?」
「そうだ。着替えも半分くらいは自分でしてる。半分はルルに手伝ってもらってるけど……。でももうボタンは上手にとめられるようになったし、それにお風呂も一人で入ってる。ルルに石鹸の泡立て方を教えてもらったから。最初にちょっと水で濡らすのがコツなんだ。知ってたか?」
「えぇ!?」
トロージたちは、落ちぶれたのか成長したのか分からないアイラの変化に驚いたのだった。
「貴様誰に物を言っているっ! 僕の名前を呼び捨てにするなんて……!」
呼び捨てにされただけで、領主の息子のトロージは血管が切れそうなほど怒っている。人垣の中から進み出たアイラを射殺さんばかりに睨みつけ、こう続ける。
「貴様、僕のことを知らないのか? 街の人間ではないな? けれど知らないからと言って許されるわけではない。貴様は即刻処刑……」
トロージはそこで細い目を丸くしてアイラを凝視した。
「貴様……。え? ……あれ?」
何度もまばたきし、目をこする。
「似てる、けど……いや、そんな……髪型も違うし。ズボン穿いてるし……。だが、他人の空似にしては似過ぎて……」
「久しぶりだな、トロージ」
しかしアイラのその一言によって、混乱していたトロージは相手の正体に確信を持ったようだった。
口元をピクピクと引きつらせて冷や汗を垂らすと、トロージはくるりと体を反転させた。
「お、おい、帰るぞ」
そしてぎこちなく騎士たちを先導して、来た道を戻っていく。
「なんだ、あいつ。せっかく会ったのに」
「ライア!」
男装している時の偽名で呼ばれて振り返ると、買い物を終えたらしいルルが荷物を持ってこちらに走ってきた。
そしてみんなの注目を浴びているアイラの手を取り、人垣の奥へと連れて行く。
「何やってるんです! さっきのトロージ様でしょう? 彼に声をかけるなんて! 絶対にアイラ様だと気づかれましたよ」
「だってトロージが調子に乗ってたから……」
「とにかく今日はもう戻りましょう。注目を浴び過ぎです。ベンチで待ってるよう言ったのに。数は少ないでしょうが、追手の騎士だっているかもしれないんですから」
「うん……。だってトロージが調子に乗ってたからさ」
「分かりましたから。……アイラが出ていかなければあの親子はどうなっていたか分かりませんしね。仕方ないです」
叱られてアイラが少ししょぼんとしてしまったので、ルルは彼女の行動を肯定することにした。何だかんだで甘いのだ。
そして二人は尾行に警戒しながら山へと戻って行ったのだった。
「ところで、ベンチで待ってる時に男が三人声をかけてきたんだ。私に金を渡そうとして、『今晩どう?』って言ってたけど、あれは何だったんだろう?」
「今度そんな男が来たら問答無用で顔面を殴っていいです」
「ううん……」
朝、アイラはベッドの中でもぞもぞと動いた。このベッドはただでさえ狭いし固いのに、ルルがいつもアイラを抱きまくら代わりにしてくるから、さらに寝心地が悪い。
「奴隷のくせに……」
寝ぼけながら悪態をつく。ルルにくっついていると温かいし、いい匂いがするけど、やはり不自由だ。城の広いふかふかベッドが懐かしい。
狭い、と呟きながらルルの拘束から逃れようとするが、半分寝ている状態で抵抗してもすぐに捕まってしまう。
「うぅ……」
目をつぶったまま眉間にしわを寄せ、猫のように唸る。すると頭上からフッと笑い声が落ちてきた。ルルが笑うと胸が僅かに振動するので、それでアイラもやっと完全に目を覚ます。
「おはようございます、アイラ」
ルルはカーテン越しの朝日を浴びて爽やかにほほ笑んだ。金色の髪がきらきらと輝いている。
ルルはアイラを抱きまくら代わりにしているからか、毎日よく眠れているようだ。
「……髪、戻ってる」
「ええ、アイラも戻っています。また魔法をかけ直さないといけませんね。でも思ったより持ちました」
兄弟だという設定で通用するように二人とも黒くしていた髪が、お互い金と銀に戻っていた。
「さぁ、起きましょう」
「うん」
アイラは目をこすりながら起き上がる。
トロージと会って三日経っていたが、アイラたちの生活に特に変化はなかった。トロージが何か行動を起こすかもとルルは心配していたが、昨日までにトロージや公爵家の騎士たちがこの山小屋にやって来たりすることもなかった。
「トロージ様はアイラとあまり関わりたくないのかもしれません」
顔を洗って着替えた後、ルルはエプロンを付けて朝食の用意をしながら言う。アイラは寝ぼけ眼で朝食が出来上がるのを待っていたが、その視線は窓の外へと向いていた。
「どうかしましたか?」
「馬が元気ないんだ。ちょっと見てくる」
今日のようにポカポカと晴れて天気がいい日は、普通の馬なら芝生の上で寝転がったり、元気にその辺を駆けたりしていてもおかしくない。しかしアイラの馬は木に繋がれているわけでもないのに、木陰に立ったまま首を下げてじっと動かない。
というか、そもそもこの馬が駆ける姿なんて見たことがなかった。いつもじっとしているか、やたらと食べているかだ。
改めてそれに気づいて、アイラはこの馬は病気なのでは? と不安になった。
「トロージー!」
馬の体調を心配したアイラは翌日、ルルと共にアイリーデの街に下り、その外れに建っている豪邸――アイリーデ公爵の屋敷を訪れた。
馬の飼料のことはよく分からなかったが、公爵家では飼っている馬にきっと栄養豊富な餌を与えているだろうと考え、それを分けてもらいに来たのだ。
ちなみにルルは全てを諦めてアイラの好きにさせている。
「おーい! トロージ!」
遊ぼー、と言いそうな気軽な雰囲気で、アイラは屋敷の門の前に立っていた。
しかしすぐに門番二人がやってきてアイラをきつく睨む。
「おい、お前! 先程から何のつもりだ。トロージ様の名前を呼び捨てにするなど許されないぞ。捕まえて檻に入れてやる」
門番の騎士はそう言ったが、もう一人の騎士が彼をすぐに止めた。
「お、おい、待て。こいつ……」
「あ、お前」
アイラも彼のことをどこかで見た顔だと思ったが、街の食堂で会ったくせ毛の騎士だ。
「門番だったのか。ここを開けろ」
「そ、そんなことできるわけねぇだろ! お前のような物騒な奴を入れたら、俺が罰を受ける」
くせ毛の騎士はアイラにちょっと怯えつつ言う。門を開けることは拒否されたので、アイラは「仕方がないな」と呟いて力を使うことにした。
片手を構え、鍵がかかっている鉄製の門を魔力で押す。堅かったが、ガタガタと細かく振動した後で門は壊れた。衝撃音と共に吹っ飛んだのだ。
「開いた。トロージー!」
アイラは堂々と敷地内へと入っていく。くせ毛の騎士は顔を引きつらせた後、自分は何も見なかったという顔をしてアイラと関わるのを避けたし、他の騎士たちも得体の知れない魔法を恐れて戦おうとはしない。
結局、騎士たちは公爵たちに報告に行くため、屋敷の中へ駆けて行くだけだった。
「トロージー! どこだー!」
「……今のアイラを見ていると、昔読んだ恐怖小説を思い出します」
ルルは小さく呟く。狙った獲物を殺すために殺人鬼が家に侵入して、扉に鍵をかけようが隠れようがどこまでも追いかけてくる話だ。
そしてアイラが屋敷の中に堂々と入り込むと、そこでやっと屋敷の主人が慌ててやって来た。
「ア、アイラ! トロージから街で見かけたとは聞いていたが、まさか本当に……」
アイリーデ公爵は中央の階段を駆け下りてきて、息を切らせたままアイラに近づく。
「やぁ、叔父上。元気そうだな」
「アイラ。本当にアイラなのだな?」
公爵は複雑な表情をして言った。アイラが無事に生きていることに感動しているのとは少し違う反応だ。
招いていない客に訪ねてこられて困っているのだろう。
「アイラ様!」
夫に続いてやって来た公爵夫人も同じような顔をした。
二人とも黒髪で、息子と同じくぽっちゃりしている。アイラの兄は太り過ぎてパンパンなので硬そうに見えるのだが、彼らはいい感じに柔らかそうだとアイラはいつも思っていた。
やがてトロージも「来てしまったか……」という嫌そうな顔をしてアイラのもとにやって来た。
けれどアイラはトロージのことはそれほど嫌いではなかった。アイラの兄と違って、トロージはアイラにベタベタ触れてきたりしないからだ。
彼が弱い者に暴力を振るっていると、イラッとして嫌悪感を持つこともあるけれど。
「とにかく応接間に行こう。こんなところでもしも王都の騎士たちに見つかったら、我々も追及される」
開いたままの大きな玄関扉を見て公爵は言う。そしてアイラとルルを奥の応接間へと連れて行った。
「それで、うちには何の用で来たのだ?」
公爵は応接室のソファーに座ると、早速こう切り出した。アイラはその向かいに座り、ルルはアイラの後ろに立って黙っている。こういう場で奴隷はもちろんソファーに座れないし、発言することも許されないのだ。
「ここで匿え」と言われるのではと思っているのか、公爵たちはおどおどと眉尻を下げている。嫌だけどそう言われたら断れないし、と思っているのだろう。
公爵たちは強きに媚びて弱きをくじくタイプの人間だ。アイラが地位と権力を失った今、くるりと手のひらを返してひどい態度を取ってきてもおかしくはなかったが、それをしないのはアイラの力を恐れているからだろう。
「実はうちで飼っている馬が体調不良でな。元気がないんだ」
アイラは真剣に話し出した。
「だから馬の餌を貰いに来た。お前のところは良い餌を馬にやっているだろうと思って」
「そ、それだけか……?」
公爵も夫人も戸惑っている様子だった。トロージも困惑しながら言う。
「というか、アイラ様は今、どこで生活しておられるのですか?」
「山小屋」
「山小屋っ!?」
「そうだ。着替えも半分くらいは自分でしてる。半分はルルに手伝ってもらってるけど……。でももうボタンは上手にとめられるようになったし、それにお風呂も一人で入ってる。ルルに石鹸の泡立て方を教えてもらったから。最初にちょっと水で濡らすのがコツなんだ。知ってたか?」
「えぇ!?」
トロージたちは、落ちぶれたのか成長したのか分からないアイラの変化に驚いたのだった。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
連帯責任って知ってる?
よもぎ
ファンタジー
第一王子は本来の婚約者とは別の令嬢を愛し、彼女と結ばれんとしてとある夜会で婚約破棄を宣言した。その宣言は大騒動となり、王子は王子宮へ謹慎の身となる。そんな彼に同じ乳母に育てられた、乳母の本来の娘が訪ねてきて――
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】無能に何か用ですか?
凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」
とある日のパーティーにて……
セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。
隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。
だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。
ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ……
主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる