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6:月明かりの指示者
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賊の後に現れたのは、純白の騎士服を身に纏った騎兵を筆頭に色も意匠もバラバラな兵士達を従えた混合騎兵団だった。規模はそれほど大きくない。一個小隊と言ったところだろう。
施設の前で騎士たちは馬の足を止める。
ほとんど走り潰されたも同然の賊の馬が施設の前で蹲っている。そんな馬の様子や隠す余裕すらなかった建物へ無理矢理に侵入した痕跡を即座に確認し、騎士たちは賊が施設で立てこもっていると推測したらしい。
それは正しい推測だったが、彼らは賊を追ってすぐに中へ突入するような真似をしなかった。
中心になっている騎士が、ありあわせのような兵士達を迷いなく指揮して施設の周囲を固めていく。
兵士には良い魔力を持っている者が多かったが、騎士達には敵わない。
レイは騎士の中でも飛び抜けて強い魔力を持つ者が誰なのかをすぐに特定した。
それは、この兵団を指揮している騎士だった。
この位置から見えるのは頭ばかりで、その騎士は銀色の髪をしていた。月に照らされる銀糸の髪が闇の中で淡く光って見える。
「ブルギア盗賊団! もう逃げられはしない。大人しく人質を解放し、投降しろ!」
騎士のひとりが賊へ投降を呼びかける。寝る子も叩き起こすような大声は、おそらく空気と声帯に魔法をかけて大きくしたのだろう。
若々しく凛としたその声に威厳は物足りないが、気迫は十分にあった。
しかし、賊はさきほどの狂騒が嘘のように、ひっそりと黙り込んで反応しない。
何度か呼びかけても、反応が無いことは予想していたのか呼びかけている間にも建物の周囲に等間隔に配置された兵士たちが施設に近づいていく。突入の時機を待っているのだろう。
その指示を出すのは投降を呼びかけている者なのか、それとも全体を指揮している騎士なのか。
感覚を研ぎ澄ませたが、兵士たちが注視している相手は賊の様子に、投降の声、指揮官と三方に分かれていて判断が難しい。
やがて、投降を呼びかける声はなくなった。
かなり小柄な騎士が指揮官の騎士に近づく。言葉を交わしている様子に、この一個小隊の隊長と副隊長はこの2人だろうとあたりをつけた。
近くの兵士が数人、町の方へ馬で駆けだす。おそらく彼らが戻るまで膠着状態が続くだろう。
「手のかかることを」
ファラルが淡々と言った。
「建物の構造が分からないし、暗いと賊と人質を間違える危険もあるからね。……突入は夜が明けてからになるのかな」
立てた予想を口にすると、
「では眠れ。明日起こす」
とファラルはマントを広げながら言った。
レイはファラルのその言葉に、
「はーい」
と答えると、ファラルに寄りかかった。
ファラルは先ほどと同じように自らのマントでレイを包む。
無防備になる自分を預けるのに、出会いたての頃のような抵抗感はない。
むしろ、優しく抱きしめられるような心地になるのが、いつものことだった。
施設の前で騎士たちは馬の足を止める。
ほとんど走り潰されたも同然の賊の馬が施設の前で蹲っている。そんな馬の様子や隠す余裕すらなかった建物へ無理矢理に侵入した痕跡を即座に確認し、騎士たちは賊が施設で立てこもっていると推測したらしい。
それは正しい推測だったが、彼らは賊を追ってすぐに中へ突入するような真似をしなかった。
中心になっている騎士が、ありあわせのような兵士達を迷いなく指揮して施設の周囲を固めていく。
兵士には良い魔力を持っている者が多かったが、騎士達には敵わない。
レイは騎士の中でも飛び抜けて強い魔力を持つ者が誰なのかをすぐに特定した。
それは、この兵団を指揮している騎士だった。
この位置から見えるのは頭ばかりで、その騎士は銀色の髪をしていた。月に照らされる銀糸の髪が闇の中で淡く光って見える。
「ブルギア盗賊団! もう逃げられはしない。大人しく人質を解放し、投降しろ!」
騎士のひとりが賊へ投降を呼びかける。寝る子も叩き起こすような大声は、おそらく空気と声帯に魔法をかけて大きくしたのだろう。
若々しく凛としたその声に威厳は物足りないが、気迫は十分にあった。
しかし、賊はさきほどの狂騒が嘘のように、ひっそりと黙り込んで反応しない。
何度か呼びかけても、反応が無いことは予想していたのか呼びかけている間にも建物の周囲に等間隔に配置された兵士たちが施設に近づいていく。突入の時機を待っているのだろう。
その指示を出すのは投降を呼びかけている者なのか、それとも全体を指揮している騎士なのか。
感覚を研ぎ澄ませたが、兵士たちが注視している相手は賊の様子に、投降の声、指揮官と三方に分かれていて判断が難しい。
やがて、投降を呼びかける声はなくなった。
かなり小柄な騎士が指揮官の騎士に近づく。言葉を交わしている様子に、この一個小隊の隊長と副隊長はこの2人だろうとあたりをつけた。
近くの兵士が数人、町の方へ馬で駆けだす。おそらく彼らが戻るまで膠着状態が続くだろう。
「手のかかることを」
ファラルが淡々と言った。
「建物の構造が分からないし、暗いと賊と人質を間違える危険もあるからね。……突入は夜が明けてからになるのかな」
立てた予想を口にすると、
「では眠れ。明日起こす」
とファラルはマントを広げながら言った。
レイはファラルのその言葉に、
「はーい」
と答えると、ファラルに寄りかかった。
ファラルは先ほどと同じように自らのマントでレイを包む。
無防備になる自分を預けるのに、出会いたての頃のような抵抗感はない。
むしろ、優しく抱きしめられるような心地になるのが、いつものことだった。
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