血の契約

吉村巡

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 朝日が昇り始める頃、自分の感覚のほとんどを遮断していたレイは、体を揺すられた気がして深く沈めていた意識を浮上させた。
 目を開けると、レイをマントの中に入れて抱きしめていたファラルが上からレイを覗き込んでいる。
 うっすらと明るんできた中で見るファラルの髪と瞳は、紫紺色になっていた。

「おはよう、ファラル」

 起きがけにしてはしっかりと覚醒した様子で、レイはファラルにそう声を掛けた。

「ああ。おはよう」

 ファラルもそう返して、マントの中で抱きしめていたレイの体から手を離した。

 レイは目を覚ましたことで動かせるようになった体を動かし、寄りかかっていたファラルの体から起き上がる。
 そして、自分以外には分からない深く眠っていた名残を払うために、研ぎ澄ませた感覚を体に馴染ませた。
 指先から足先まで意識的に伸びをすることでで、思考と体を繋げたあと、体に向けていた意識を薄くさせる。

 面倒な作業だが、楽な体を手に入れたいとは思わない。

「準備を始めているようだな」

 レイを起こして立ち上がっていたファラルは鐘楼の柱に背を預け、陰から下の様子を探って得た情報を口にする。
 
「賊は眠れなくて疲弊しているし人質に子供が多いなら、この時間だと疲れきっているから変に抵抗しないって判断かもね」
「ああ」

 レイも下に居る騎士たちの様子を見るため、堂々と立ち上がった。
 ファラルのように柱の影からではなく、手すりを持って下を覗き込むようにして観察する。

 灯台代わりにもなる鐘楼は、周囲の様子が観察しやすい分、周囲からも見えやすい場所にある。
  わざわざ危険な場所に賊が潜むと思っていない下の騎士たちは、鐘楼を監視対象から外しているらしく、朝になってもレイたちの存在に気が付かなかった。

 見つからない一因に、昨夜のファラルの細工もある。魔力で光に干渉することで、レイたちの姿は周囲から見えにくくなっているのだ。
 とはいっても、夜闇の中と朝日の中ではその細工の効力にも限界がある。

 それを分かっていながら、無防備かつ悠々と観察にいそしんでいるレイを、ファラルは止めなかった。

 けれど、あまりにも無警戒な振る舞いが過ぎたのか、下に居た騎士のひとりがふと鐘楼の方を見上げた。
 遠くからでも分かる見上げてきた騎士の金色の瞳と、レイの目とが間違いなく合わさった。
 
(昨日の指示を出してた銀髪の人)

 銀髪の騎士はレイを見て驚いたように目を見開いていたので、はっきりと見えた金色の瞳に興味をそそられていた。そのせいで、髪のことに気づくのが一瞬だけ遅れてしまったのだ。

(感覚が完全に戻ってないのかな)

 自身の不甲斐なさを反省しつつも、別段焦りもせず、一歩後ろに下がって銀髪の騎士の死角に入ったレイは、

「見つかっちゃった」

 と、悪びれる様子もなくファラルに伝えた。







 
 


 


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