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219話「母と子」(視点・ヒロヤ→メグミ→ヒロヤ)
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「よく話してくれたな」
昼過ぎ、俺とカズミはそれぞれ自宅に帰って両親に告白した。前世の記憶がある事、その前世の父さんと母さんも今の父さん母さんと同じ顔、性格をしていた等、あとはクランでみんなに話した内容を父さんと母さんにも話した。
「父さんは、色々と気が付いてたんだよね」
「まぁ、似たような境遇のヤツを知ってるからな……」
「それ、ヴァンの事よね?」
あれ? 母さんは知らないんじゃなかったっけ?
「そんな驚く事? ヴァンって、ちょっと世間知らずなところあったし……なんか意味不明な事言ったりしてたしね。ミリアと『別の世界の人だと考えたら腑に落ちるよね』って、いつも話してたんだよ?」
驚いて固まっている父さんに向かって、カラカラと笑って話す母さん。
「わたしもそういう前例を知ってるから、ヒロヤの話も理解出来たんだけどね」
一瞬、母さんが遠くを見るような表情になった。
(──違うよね……母さん……『自分も経験がある』からだよね?)
「父さんから言える事は……どんな事情があれ、お前は父さんと母さんの息子である事は変わらない。そして、ヴァンの言う様に……その『力』というのはなるべく使わない方がいい。それと……」
俺に微笑みかける父さん。
「カズミくんの事が気になるのだろう? ミュラー殿には、一応説明はしておいたから取り乱すような事はないはずだ」
「俺とカズミが転生者だって事?」
「あぁ。おそらく……と前置きはしておいたけどね」
「カズミちゃん……心が29歳なんだよね……母さんと変わんないんだ。嫁というより、友達として接しちゃいそうだわ」
なんか嬉しそうに微笑む母さん。
「あ、そうだ。いつか言ってた『手合わせ』しない?」
俺は母さんにそう提案する。──目の前にいる母さんが、前世の母さんなのかどうか確認する為に。
「望むところよヒロヤ」
「父さんは、ミュラー殿に話があるから出掛けるよ」
そう言って席を立つ父さん。「無茶はするなよ?」と母さんに声を掛けてから。
◆
「愛用の大剣と同じサイズが無いのが不満なんだけどね」
そう言いつつ、自分の身長ほどの長い木剣を構える母さん。
「俺も、いつもの木刀じゃないから」
愛用の木刀と似たような長さの木剣を手に取って、左腰に構える。
「ヒロヤは速いらしいから……母さんからいこうかしら」
ニコッと笑って木剣を上段に振り上げる母さん。
(あっちの父さんに貰った力……使わなきゃね)
最初にドールの魂を見た時に感じた『じんわりと心の中が熱くなる感覚』の後、母さんが俺に向かって来た。
突っ込んでくる母さんの実像にダブって、大上段から木剣を振り下ろすイメージが映る。
(母さんの動きが予知できてる……のか?)
そのイメージを信用して、ギリギリで躱せる様に半身を逸らしてみる。
直後、剣圧を感じるぐらいの近さで木剣が振り下ろされた。
「──!」
驚きを隠せない母さん。が、直ぐに俺に対して木剣を横薙ぎにする『イメージ』。
俺は左腰から抜刀し、その横薙ぎを跳ね上げた後に母さんの喉元ギリギリに突きを入れた。首の左側スレスレを掠める俺の一撃。
「──まいった。凄いねヒロヤ」
「そりゃ無敵の『尾武夢想流』だからね」
俺の呟きを聞いて、再び驚愕する母さん。
「まさか──浩哉……なの?」
「そうだよ。向こうの父さんに貰った『力』でズルしたから勝てた」
■□■□■□■□
ヒロヤの告白を聞いて、
(ひょっとして……)
とは思っていた。というか、以前この子の『丸太斬り』を目撃してその切り口を見た時から。
(この技は、尾武夢想流……わたしの大切な夫と息子が身につけていた剣術)
そして、こうやって実際に『手合わせ』して確信した。かつて、どうしても勝てなかった『あの人』と同じ動き。完全にこちらの動きが『予知』されている感覚。
気づいたら、涙が溢れて止まらなかった。
「浩哉……浩哉ぁ……」
幼い我が子を抱きしめる。大切なあの人とわたしの宝物……
■□■□■□■□
「そっか……じゃあ紳士さんは独りぼっちになっちゃったんだね……」
「うん。それはほんとに申し訳なくて……謝ったら『お前は向こうの世界でしっかりと生きろ』って言ってくれた」
「眠ってる間に、向こうのお父さんに会えたんだね。──いいなぁ……」
お互いに座り込んで話をする。そして空を見上げて微笑む母さん。
「……ごめんねヒロヤ……まだ小さかったのに、あなたとお父さんを残して……」
「仕方ないよ。そういう役目を背負ってたんだから」
母さんはそれまで様々な世界で『勇者』の同行者としての役目を果たしてきたという。そして、最後だった筈の『向こうの世界』で、惚れ抜いた父さんと一緒になった。
「この世界は、向こうの世界と近いみたいだから、なんとか帰ろうと努力したんだけどね……」
色々な世界を巡った母さんでも、こんなに『別の世界』で知っている人と似た人がたくさん居る世界は初めてだったらしい。おそらく次元的に近い世界かも。と帰る方法を必死に模索していたらしい。
「帰れない事は覚悟してたけど……実際そうなった時は絶望しちゃった。でも、この世界にも『シンジさん』が居た事は、ほんとに救いだった。一緒になって、あなたが産まれた時は……本当に嬉しかった。向こうの世界で産んだ『浩哉』とそっくりだったんだもんね。──そっか……交通事故で死んじゃって、また母さんのお腹に戻ってきてくれてたんだね」
俺の頭を愛おしいそうに撫でる母さん。
「俺も……死んだと思ってた母さんにまた会えて、とても嬉しいよ」
「紳士さんは元気にしてた?」
「まぁ、俺が死んだ日の父さんと意識がシンクロしたからなぁ……とても元気には見えなかったけど」
「そっか……そうだよね……」
「でもね……」
俺は手を伸ばして、母さんの頭を撫でた。
「父さん、泣いてたって。──俺を連れ戻しに来てくれた女淫魔のドールが言ってた」
「女淫魔《サッキュバス》のドール……そういやアズラデリウスの側近にそんなのが居た気がする……大丈夫なの?」
「あぁ。いいヤツだよ彼女は」
心配そうな母さんに俺は笑顔で答えた。
「そのドールがね……父さんが『そっちの世界でも、私と所帯を持ってくれたんだな』って涙を流してたって言ってた」
頭を撫でる俺の手を取り、胸に抱き締めて──母さんは大きな声で泣いた。
◆
「シンジさんには言ってあるのよ。『ここに来る前の世界に大切な人たちを残してきた』って。シンジさんはね……『その人の代わりとしてでもいい。俺を愛してくれないか?』って言ったの。男前でしょ?」
泣きやんだあとに、まさかの惚気ですか母さん。
「最初は確かに紳士さんの代わりと思ってた。でもね……やっぱり母さん、シンジさんも好きなんだ」
まだ涙の残る瞳を輝かせる母さん。
「とはいえ、紳士さんも大好きだからなぁ。……会いたいなぁ……」
そう言って、俺を見ていたずらっぽく笑ってこう続けた。
「たくさん恋人がいるヒロヤなら分かるでしょ? 母さんの気持ちが」
「ぐっ……!」
「でも……そっか~カズミちゃんとは前世から好き同士だったのか~。なんかロマンチックだね」
「かなぁ。でもこっちの世界で……その……恋人同士になれて……ほんとに良かったよ」
「カズミちゃん、大事にするんだよ」
「うん」
「あと、ほかのみんなも」
「わ、わかった」
俺の返事に、いつものように俺の頭をワシャワシャする母さん。
「ほんと、モテモテなのも紳士さんやシンジさんとおんなじなんだからこの子は」
とても眩しい笑顔のこの女性は、俺の大切な『たった一人の』母さんなんだ。
昼過ぎ、俺とカズミはそれぞれ自宅に帰って両親に告白した。前世の記憶がある事、その前世の父さんと母さんも今の父さん母さんと同じ顔、性格をしていた等、あとはクランでみんなに話した内容を父さんと母さんにも話した。
「父さんは、色々と気が付いてたんだよね」
「まぁ、似たような境遇のヤツを知ってるからな……」
「それ、ヴァンの事よね?」
あれ? 母さんは知らないんじゃなかったっけ?
「そんな驚く事? ヴァンって、ちょっと世間知らずなところあったし……なんか意味不明な事言ったりしてたしね。ミリアと『別の世界の人だと考えたら腑に落ちるよね』って、いつも話してたんだよ?」
驚いて固まっている父さんに向かって、カラカラと笑って話す母さん。
「わたしもそういう前例を知ってるから、ヒロヤの話も理解出来たんだけどね」
一瞬、母さんが遠くを見るような表情になった。
(──違うよね……母さん……『自分も経験がある』からだよね?)
「父さんから言える事は……どんな事情があれ、お前は父さんと母さんの息子である事は変わらない。そして、ヴァンの言う様に……その『力』というのはなるべく使わない方がいい。それと……」
俺に微笑みかける父さん。
「カズミくんの事が気になるのだろう? ミュラー殿には、一応説明はしておいたから取り乱すような事はないはずだ」
「俺とカズミが転生者だって事?」
「あぁ。おそらく……と前置きはしておいたけどね」
「カズミちゃん……心が29歳なんだよね……母さんと変わんないんだ。嫁というより、友達として接しちゃいそうだわ」
なんか嬉しそうに微笑む母さん。
「あ、そうだ。いつか言ってた『手合わせ』しない?」
俺は母さんにそう提案する。──目の前にいる母さんが、前世の母さんなのかどうか確認する為に。
「望むところよヒロヤ」
「父さんは、ミュラー殿に話があるから出掛けるよ」
そう言って席を立つ父さん。「無茶はするなよ?」と母さんに声を掛けてから。
◆
「愛用の大剣と同じサイズが無いのが不満なんだけどね」
そう言いつつ、自分の身長ほどの長い木剣を構える母さん。
「俺も、いつもの木刀じゃないから」
愛用の木刀と似たような長さの木剣を手に取って、左腰に構える。
「ヒロヤは速いらしいから……母さんからいこうかしら」
ニコッと笑って木剣を上段に振り上げる母さん。
(あっちの父さんに貰った力……使わなきゃね)
最初にドールの魂を見た時に感じた『じんわりと心の中が熱くなる感覚』の後、母さんが俺に向かって来た。
突っ込んでくる母さんの実像にダブって、大上段から木剣を振り下ろすイメージが映る。
(母さんの動きが予知できてる……のか?)
そのイメージを信用して、ギリギリで躱せる様に半身を逸らしてみる。
直後、剣圧を感じるぐらいの近さで木剣が振り下ろされた。
「──!」
驚きを隠せない母さん。が、直ぐに俺に対して木剣を横薙ぎにする『イメージ』。
俺は左腰から抜刀し、その横薙ぎを跳ね上げた後に母さんの喉元ギリギリに突きを入れた。首の左側スレスレを掠める俺の一撃。
「──まいった。凄いねヒロヤ」
「そりゃ無敵の『尾武夢想流』だからね」
俺の呟きを聞いて、再び驚愕する母さん。
「まさか──浩哉……なの?」
「そうだよ。向こうの父さんに貰った『力』でズルしたから勝てた」
■□■□■□■□
ヒロヤの告白を聞いて、
(ひょっとして……)
とは思っていた。というか、以前この子の『丸太斬り』を目撃してその切り口を見た時から。
(この技は、尾武夢想流……わたしの大切な夫と息子が身につけていた剣術)
そして、こうやって実際に『手合わせ』して確信した。かつて、どうしても勝てなかった『あの人』と同じ動き。完全にこちらの動きが『予知』されている感覚。
気づいたら、涙が溢れて止まらなかった。
「浩哉……浩哉ぁ……」
幼い我が子を抱きしめる。大切なあの人とわたしの宝物……
■□■□■□■□
「そっか……じゃあ紳士さんは独りぼっちになっちゃったんだね……」
「うん。それはほんとに申し訳なくて……謝ったら『お前は向こうの世界でしっかりと生きろ』って言ってくれた」
「眠ってる間に、向こうのお父さんに会えたんだね。──いいなぁ……」
お互いに座り込んで話をする。そして空を見上げて微笑む母さん。
「……ごめんねヒロヤ……まだ小さかったのに、あなたとお父さんを残して……」
「仕方ないよ。そういう役目を背負ってたんだから」
母さんはそれまで様々な世界で『勇者』の同行者としての役目を果たしてきたという。そして、最後だった筈の『向こうの世界』で、惚れ抜いた父さんと一緒になった。
「この世界は、向こうの世界と近いみたいだから、なんとか帰ろうと努力したんだけどね……」
色々な世界を巡った母さんでも、こんなに『別の世界』で知っている人と似た人がたくさん居る世界は初めてだったらしい。おそらく次元的に近い世界かも。と帰る方法を必死に模索していたらしい。
「帰れない事は覚悟してたけど……実際そうなった時は絶望しちゃった。でも、この世界にも『シンジさん』が居た事は、ほんとに救いだった。一緒になって、あなたが産まれた時は……本当に嬉しかった。向こうの世界で産んだ『浩哉』とそっくりだったんだもんね。──そっか……交通事故で死んじゃって、また母さんのお腹に戻ってきてくれてたんだね」
俺の頭を愛おしいそうに撫でる母さん。
「俺も……死んだと思ってた母さんにまた会えて、とても嬉しいよ」
「紳士さんは元気にしてた?」
「まぁ、俺が死んだ日の父さんと意識がシンクロしたからなぁ……とても元気には見えなかったけど」
「そっか……そうだよね……」
「でもね……」
俺は手を伸ばして、母さんの頭を撫でた。
「父さん、泣いてたって。──俺を連れ戻しに来てくれた女淫魔のドールが言ってた」
「女淫魔《サッキュバス》のドール……そういやアズラデリウスの側近にそんなのが居た気がする……大丈夫なの?」
「あぁ。いいヤツだよ彼女は」
心配そうな母さんに俺は笑顔で答えた。
「そのドールがね……父さんが『そっちの世界でも、私と所帯を持ってくれたんだな』って涙を流してたって言ってた」
頭を撫でる俺の手を取り、胸に抱き締めて──母さんは大きな声で泣いた。
◆
「シンジさんには言ってあるのよ。『ここに来る前の世界に大切な人たちを残してきた』って。シンジさんはね……『その人の代わりとしてでもいい。俺を愛してくれないか?』って言ったの。男前でしょ?」
泣きやんだあとに、まさかの惚気ですか母さん。
「最初は確かに紳士さんの代わりと思ってた。でもね……やっぱり母さん、シンジさんも好きなんだ」
まだ涙の残る瞳を輝かせる母さん。
「とはいえ、紳士さんも大好きだからなぁ。……会いたいなぁ……」
そう言って、俺を見ていたずらっぽく笑ってこう続けた。
「たくさん恋人がいるヒロヤなら分かるでしょ? 母さんの気持ちが」
「ぐっ……!」
「でも……そっか~カズミちゃんとは前世から好き同士だったのか~。なんかロマンチックだね」
「かなぁ。でもこっちの世界で……その……恋人同士になれて……ほんとに良かったよ」
「カズミちゃん、大事にするんだよ」
「うん」
「あと、ほかのみんなも」
「わ、わかった」
俺の返事に、いつものように俺の頭をワシャワシャする母さん。
「ほんと、モテモテなのも紳士さんやシンジさんとおんなじなんだからこの子は」
とても眩しい笑顔のこの女性は、俺の大切な『たった一人の』母さんなんだ。
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