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第三章
72. ルカの意志
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「それ、俺も飲んでみたい。」
「へ?」
「だって美味いんだろ?さっき味見している時に顔がにやけていた。パーティーでグローブのスパイシーゼリーを食べさせてあげた時と同じ顔だ。体に悪い物ではないのだろう?」
「確かに疲労と体力を回復させる効果のある飲み物なので、害はないですけど。」
「じゃあ、問題ない。」
「私も!私も飲んでみたいです。ライファさんのお料理は美味しいですもの。」
場にそぐわないシンシア様の輝かんばかりの笑顔・・・。
「朝が早かったから疲れたんだよ。ほらほら。」
ロッド様の言葉に押され、残りのジュースを4等分する。レイもルカも疲れているだろうと思ったのだ。最も、残りを4等分したのだから効力など殆どなく、量も二口程度になってしまったのだが。
「どうぞ。」
3人に配った後、少し離れたところにいるルカにも渡す。
「私にも?」
「ルカも疲れているだろうから。効力はあまりないけれどさっぱりするよ。」
「うまい・・・、なんだこれ。ライファ、もっとくれ!」
背後でロッド様のテンションの上がった声がする。もっと、なんてあるわけないじゃないか・・・。
「ロッド様、これはお薬として作ったものですのでもう無いですよ。無理はおっしゃらないでください。」
「本当に美味しいですわ。私もまた飲みたいです。」
シンシア様の天使の笑み。
「・・・シンシア様、では今度シンシア様のためにお作りしますね。時間がある時にイチコの木の実を摘んで参ります。」
「おい、ライファ、俺の時とは随分対応が違うんじゃないのか?」
「気のせいでございます。」
ニコリと微笑んで魔獣の元へと急いだ。背後で「気のせいじゃないだろ!」と叫ぶロッド様の声が響いた。
「どう、様子は?」
魔獣の傍らに膝をついているとレイがやってきた。
「変わらず、ですかね。効力も低いものにしてありましたし目に見えた効果は出ないかもしれません。今回の目的は
体が薬を受け付けてくれるか、副作用が出ないかの確認かなので、2時間経っても変化の無い状態ならばもっと効力を強くした薬を与えようと思います。」
「そうか。」
「レイ、俺らは一度屋敷に戻ろうと思う。ここにいたところで何の役にも立てないしな。」
「ロッド様、私も屋敷に戻りたく思いますので連れて帰って貰えますでしょうか。」
「ジン、お前が返ったら誰が通訳をするのだ?」
「ロッド様のリトルマインをこちらに置いておけば、リトルマイン越しに通訳することも出来ましょう。それに、レイ様達との連絡手段は残しておいた方が良いかと存じます。」
「確かに。それならば問題ないか。ライファ、何か必要な物があればリトルマインで呼べ。」
「承知いたしました。ありがとうございます。あの、早速で言いにくいのですが・・・。」
「何だ、薬材か?」
「・・・あの、食材が欲しいです。ここに長居することになるとは思わなかったので食材をあまり持っていなくて。」
「なるほど・・・。夕方には食材を持ってきてやる。昼は自分たちでなんとかしろ。」
「はい、ありがとうございます!」
「ふぅ~。」
ロッド様、シンシア様、ジンさんが去った後、ようやく久しぶりの3人の時間になった。大きく息を吐き出したルカがドカッと座る。ベルもホッとしたようでレイのもとを離れ私の肩に止った。
「貴族の中での振る舞いって疲れるよね。僕、つくづく魔力が足りなくて良かったと思うもん。」
「私も一応貴族なんだけどね。」
「レイは別。友達だから。」
と、友達、を強調していると魔獣がのっそりと起き上がった。ふらふらと体を揺らしながらどこかへ行こうとする。
「ちょっ、大丈夫ですか?」
思わず話しかけながら後を付けて行くとなんとも言えぬ匂いのする部屋に入っていった。トイレだ。お腹が下っているものすごい音を響かせて用を足すと魔獣はよろよろとまた寝床に戻る。便には体を知る為のヒントがあるはずだ。恐る恐る覗くと真っ赤な血の混ざった便が水たまりのようになっていた。
薬を飲んでから一時間か・・・。摂取した水分量よりも排出した水分量の方が多い気がする。やはり体内に吸収しやすくなる薬材が必要だな。吸収させる薬材はあるからその吸収がどこに作用すべきものなのか、それを定めないと。そんな風に導いてくれる薬材などあるのだろうか。ルカに薬材について聞いてみよう。薬材の売買を生業にしているハンターなら薬材についても詳しいだろう。
「ルカ、体の内側に効く薬材を何か知らない?」
「体の内側って・・・。随分ざっくりだな。」
「ん~、食べた物や飲んだもの消化、吸収を助けたいと思っているんだ。体内に吸収されずに食べた分排泄されるようでは、治癒の為のパワーがなくなっちゃうから。」
「なるほどね。なんかあったかな・・・。」
ルカは上の方を見ながら暫く、うーん、と唸った。
「内臓系にプラス作用を及ぼすような薬材がいいな。」
「内臓系ねぇ。ペタンコ花は?空腹効果のある花なんだけど。」
ペタンコ花・・・空腹効果・・・。どこかで聞いたことが。あ、そうか、ゴードンの薬材屋さんで見たんだった。レイが食いしん坊な私にぴったりだと言ったあの花か。空腹効果。お腹が減るということは消化を促進するのではないだろうか。確か、食べた分はちゃんと太るとゴードンが言っていたはずだ。
「いけるかもしれない。それにしてみる。」
欲しい薬材を決めるとリトルマインを使ってロッドにお願いした。食料と一緒に夕方には持ってきてくれるらしい。
2時間が過ぎ、薬による異常が現れなかった魔獣に再度体力と疲労が回復する薬を調合した。今度は効力を3まであげたものだ。先ほどと同じように飲ませると魔獣は全部飲み、また横になった。排泄はまたもや一時間後。先ほどと何も変わらない。このままで良いのだろうかと不安がよぎる。だが、直接的に効く薬ではなく魔獣の持つ治癒能力を引き出すための薬だ。そう簡単に変化は出ないだろう。
・・・悪化していないだけマシか。
その後も汗をかいている魔獣の体を拭いたり、呼吸を確かめたり、脈を測ったりして過ごした。途中、魔獣のお世話をルカと交代して簡単な昼食を作り食事をした。
「ねぇ、なんでライファは薬の効力が分かるの?正確な効力を知る為には薬品使って実験みたいなことしてやっと分かるんだよね?」
「え?あ、勘。勘だよ。」
「経験に基づいた勘ってやつだよね。」
レイのフォローに、うんうん、と頷く。ルカになら私のスキルがバレてしまっても大丈夫なのではないかという考えが頭を過るが、情報はどこからどう漏れるか分からない。自分の身を自分で守る自信がない以上、用心に越したことはないのだ。そう思いつつもそんな自分に少し寂しい気持ちになった。
「大丈夫?」
レイがそう言って私の顔を覗き込むようにする。
「私たちは調合の知識がないからライファ頼みになってしまってライファにばかり負担をかけてる。」
「命が相手なぶん、全然大丈夫だよっては言えないけど負担だなんて思ってないよ。私は自分に出来ることがあるといこうことが嬉しいんだ。何もできないのはもう嫌だから。」
「・・・あのさ、二人がこうして旅をしているのってターザニアが滅んだことと何か関係があるの?」
唐突にルカが切り出した。正直に答えるべきか迷ってレイと顔を見合わせる。ターザニアが滅んだことに関係があると言えばルカはどんな関係があるのかと聞いてくるだろう。ルカの性格と大切な人がターザニアに上陸したのを最後にいなくなったという状況を考えれば、知りたいと思うのは当然のことだ。私たちが話すべきかどうすべきかを迷っているとルカがもう一度口を開いた。
「もしも二人が旅していることがターザニアに関係しているのだというのなら僕にも協力させてほしい。僕に何ができるのかをずっと考えていた。彼女が何に巻き込まれたのか真実を知りたい。」
「何があったのかを知りたいだけなら、先日ライファが話したことが真実だよ。一緒に旅をする必要はない。」
「レイ、僕は馬鹿じゃない。魔獣が勝手にやったにしては不自然なことが多すぎる。だいたい、そのおびただしいほどの数の魔獣たちは一体どこから来たんだ?人間が関わっているとしか思えないんだよ。」
ルカは私たちを真っ直ぐ見て言葉を続けた。
「何も出来ないなんて嫌なんだ。」
「命の保証はできないよ。」
「そんなこと分かってるさ。」
ルカの目に宿る意志を逸らすことは、私たちにはできなかった。
「へ?」
「だって美味いんだろ?さっき味見している時に顔がにやけていた。パーティーでグローブのスパイシーゼリーを食べさせてあげた時と同じ顔だ。体に悪い物ではないのだろう?」
「確かに疲労と体力を回復させる効果のある飲み物なので、害はないですけど。」
「じゃあ、問題ない。」
「私も!私も飲んでみたいです。ライファさんのお料理は美味しいですもの。」
場にそぐわないシンシア様の輝かんばかりの笑顔・・・。
「朝が早かったから疲れたんだよ。ほらほら。」
ロッド様の言葉に押され、残りのジュースを4等分する。レイもルカも疲れているだろうと思ったのだ。最も、残りを4等分したのだから効力など殆どなく、量も二口程度になってしまったのだが。
「どうぞ。」
3人に配った後、少し離れたところにいるルカにも渡す。
「私にも?」
「ルカも疲れているだろうから。効力はあまりないけれどさっぱりするよ。」
「うまい・・・、なんだこれ。ライファ、もっとくれ!」
背後でロッド様のテンションの上がった声がする。もっと、なんてあるわけないじゃないか・・・。
「ロッド様、これはお薬として作ったものですのでもう無いですよ。無理はおっしゃらないでください。」
「本当に美味しいですわ。私もまた飲みたいです。」
シンシア様の天使の笑み。
「・・・シンシア様、では今度シンシア様のためにお作りしますね。時間がある時にイチコの木の実を摘んで参ります。」
「おい、ライファ、俺の時とは随分対応が違うんじゃないのか?」
「気のせいでございます。」
ニコリと微笑んで魔獣の元へと急いだ。背後で「気のせいじゃないだろ!」と叫ぶロッド様の声が響いた。
「どう、様子は?」
魔獣の傍らに膝をついているとレイがやってきた。
「変わらず、ですかね。効力も低いものにしてありましたし目に見えた効果は出ないかもしれません。今回の目的は
体が薬を受け付けてくれるか、副作用が出ないかの確認かなので、2時間経っても変化の無い状態ならばもっと効力を強くした薬を与えようと思います。」
「そうか。」
「レイ、俺らは一度屋敷に戻ろうと思う。ここにいたところで何の役にも立てないしな。」
「ロッド様、私も屋敷に戻りたく思いますので連れて帰って貰えますでしょうか。」
「ジン、お前が返ったら誰が通訳をするのだ?」
「ロッド様のリトルマインをこちらに置いておけば、リトルマイン越しに通訳することも出来ましょう。それに、レイ様達との連絡手段は残しておいた方が良いかと存じます。」
「確かに。それならば問題ないか。ライファ、何か必要な物があればリトルマインで呼べ。」
「承知いたしました。ありがとうございます。あの、早速で言いにくいのですが・・・。」
「何だ、薬材か?」
「・・・あの、食材が欲しいです。ここに長居することになるとは思わなかったので食材をあまり持っていなくて。」
「なるほど・・・。夕方には食材を持ってきてやる。昼は自分たちでなんとかしろ。」
「はい、ありがとうございます!」
「ふぅ~。」
ロッド様、シンシア様、ジンさんが去った後、ようやく久しぶりの3人の時間になった。大きく息を吐き出したルカがドカッと座る。ベルもホッとしたようでレイのもとを離れ私の肩に止った。
「貴族の中での振る舞いって疲れるよね。僕、つくづく魔力が足りなくて良かったと思うもん。」
「私も一応貴族なんだけどね。」
「レイは別。友達だから。」
と、友達、を強調していると魔獣がのっそりと起き上がった。ふらふらと体を揺らしながらどこかへ行こうとする。
「ちょっ、大丈夫ですか?」
思わず話しかけながら後を付けて行くとなんとも言えぬ匂いのする部屋に入っていった。トイレだ。お腹が下っているものすごい音を響かせて用を足すと魔獣はよろよろとまた寝床に戻る。便には体を知る為のヒントがあるはずだ。恐る恐る覗くと真っ赤な血の混ざった便が水たまりのようになっていた。
薬を飲んでから一時間か・・・。摂取した水分量よりも排出した水分量の方が多い気がする。やはり体内に吸収しやすくなる薬材が必要だな。吸収させる薬材はあるからその吸収がどこに作用すべきものなのか、それを定めないと。そんな風に導いてくれる薬材などあるのだろうか。ルカに薬材について聞いてみよう。薬材の売買を生業にしているハンターなら薬材についても詳しいだろう。
「ルカ、体の内側に効く薬材を何か知らない?」
「体の内側って・・・。随分ざっくりだな。」
「ん~、食べた物や飲んだもの消化、吸収を助けたいと思っているんだ。体内に吸収されずに食べた分排泄されるようでは、治癒の為のパワーがなくなっちゃうから。」
「なるほどね。なんかあったかな・・・。」
ルカは上の方を見ながら暫く、うーん、と唸った。
「内臓系にプラス作用を及ぼすような薬材がいいな。」
「内臓系ねぇ。ペタンコ花は?空腹効果のある花なんだけど。」
ペタンコ花・・・空腹効果・・・。どこかで聞いたことが。あ、そうか、ゴードンの薬材屋さんで見たんだった。レイが食いしん坊な私にぴったりだと言ったあの花か。空腹効果。お腹が減るということは消化を促進するのではないだろうか。確か、食べた分はちゃんと太るとゴードンが言っていたはずだ。
「いけるかもしれない。それにしてみる。」
欲しい薬材を決めるとリトルマインを使ってロッドにお願いした。食料と一緒に夕方には持ってきてくれるらしい。
2時間が過ぎ、薬による異常が現れなかった魔獣に再度体力と疲労が回復する薬を調合した。今度は効力を3まであげたものだ。先ほどと同じように飲ませると魔獣は全部飲み、また横になった。排泄はまたもや一時間後。先ほどと何も変わらない。このままで良いのだろうかと不安がよぎる。だが、直接的に効く薬ではなく魔獣の持つ治癒能力を引き出すための薬だ。そう簡単に変化は出ないだろう。
・・・悪化していないだけマシか。
その後も汗をかいている魔獣の体を拭いたり、呼吸を確かめたり、脈を測ったりして過ごした。途中、魔獣のお世話をルカと交代して簡単な昼食を作り食事をした。
「ねぇ、なんでライファは薬の効力が分かるの?正確な効力を知る為には薬品使って実験みたいなことしてやっと分かるんだよね?」
「え?あ、勘。勘だよ。」
「経験に基づいた勘ってやつだよね。」
レイのフォローに、うんうん、と頷く。ルカになら私のスキルがバレてしまっても大丈夫なのではないかという考えが頭を過るが、情報はどこからどう漏れるか分からない。自分の身を自分で守る自信がない以上、用心に越したことはないのだ。そう思いつつもそんな自分に少し寂しい気持ちになった。
「大丈夫?」
レイがそう言って私の顔を覗き込むようにする。
「私たちは調合の知識がないからライファ頼みになってしまってライファにばかり負担をかけてる。」
「命が相手なぶん、全然大丈夫だよっては言えないけど負担だなんて思ってないよ。私は自分に出来ることがあるといこうことが嬉しいんだ。何もできないのはもう嫌だから。」
「・・・あのさ、二人がこうして旅をしているのってターザニアが滅んだことと何か関係があるの?」
唐突にルカが切り出した。正直に答えるべきか迷ってレイと顔を見合わせる。ターザニアが滅んだことに関係があると言えばルカはどんな関係があるのかと聞いてくるだろう。ルカの性格と大切な人がターザニアに上陸したのを最後にいなくなったという状況を考えれば、知りたいと思うのは当然のことだ。私たちが話すべきかどうすべきかを迷っているとルカがもう一度口を開いた。
「もしも二人が旅していることがターザニアに関係しているのだというのなら僕にも協力させてほしい。僕に何ができるのかをずっと考えていた。彼女が何に巻き込まれたのか真実を知りたい。」
「何があったのかを知りたいだけなら、先日ライファが話したことが真実だよ。一緒に旅をする必要はない。」
「レイ、僕は馬鹿じゃない。魔獣が勝手にやったにしては不自然なことが多すぎる。だいたい、そのおびただしいほどの数の魔獣たちは一体どこから来たんだ?人間が関わっているとしか思えないんだよ。」
ルカは私たちを真っ直ぐ見て言葉を続けた。
「何も出来ないなんて嫌なんだ。」
「命の保証はできないよ。」
「そんなこと分かってるさ。」
ルカの目に宿る意志を逸らすことは、私たちにはできなかった。
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