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22 愛の劇場
しおりを挟むやっぱり直談判しかない。というか婚約者候補から降ろして欲しい。危険な公爵令嬢より、アンドレアス殿下の方がまだましだろうか。しかしあれから親睦のお茶会の予定は入っていない。
朝の登校時にそれとなく階段付近を見張ってみたが、登校するのを見たことがない。王族は公務とかもあったりして忙しいらしいが。
思い余って保健室でのお茶会の時にルックナー先生に聞いた。
「あのう、王族の方はどちらから登校されるのでしょうか」
「ああ、それは違う門があるのですよ。そちらから出入りされているようです。一般人には分からないようになっているとか」
王族専用の通用門があるらしい。一般生徒は通れないようになっているとか、登校も毎日ではないし、時間もまちまちに登校されるそうだ。
これは、殿下が校内にいる時に追いかけ回すしかないかしらと、危ない事を考えていたらレギーナ様が教えてくれた。
「わたくし、図書館に用事があった時に殿下がそちらの方に行かれるのを見たことがありますわ。後姿をチラッと見ただけですけれど」
「まあ、ありがとうございます」
レギーナ様の手を握って感謝すると驚かれてしまう。ああいけないわ、嬉し過ぎて地が出てしまった。
それからは図書館に行く道をそれとなく見張っていると、やがて、取り巻きがいないで、ひとりで歩いている殿下を見かけた。最後の時限が始まる前で、図書館のある方へ向かっている。チャンスっと教室をそろっと抜け出し追いかける。彼は学校の寮と図書館の間を抜けて人気のない小道に入って行く。
知らない場所だ。こんな所に抜け道があるとは知らなかった。図書館の前から見ると奥は木立ちが植わって通り抜けられないように見えた。
ちょっとした隠れ庭園みたいに木々の間をそぞろ歩きできるようになっていて、向こうに四阿の屋根が見える。そしてそちらに公爵令嬢ゾフィーアが待っていて、二人はべったりとくっ付いた。
何と、こんな所で内緒のデートをしていたのか。落ち葉舞い散る中、美男美女のカップルは非常に絵になる。しかし、二人は婚約者同士だし内緒も何もいらないと思うのだけれど。
見つからないように木に隠れて窺うと、そこでは第二王子アンドレアス殿下と婚約者ゾフィーアの愛の劇場が始まっていた。
「ああゾフィーア、私はそなたを愛している」
「わたくしもですわ、アンドレアス様」
「しかし、エマというあの女は魅了を使うのだ。私はそなたを愛しているのに、あいつの姿を見ると惹き寄せられるのだ」
(魅了!? そんなものは私には無いのに、大体惹き寄せられたって、いつ?)
「何と、そんなこと許せませんわ」
「ああ、愛しいゾフィーア。しかしあの女が現れると私は……、このままではあの女と母上の言いなりになって婚約してしまう」
「殿下」
王子は額を押さえて苦しそうな顔をする。縋り付くゾフィーア。
「わたくしの愛であの女の魅了を解いてみせますわ」
「頼むぞゾフィーア。では私は次の夜会であの女に『お前を愛することはない』と宣言してやろう」
「まあ、素敵ですわ。大勢の目の前であの女の本性を暴きましょう」
「では次の夜会に──」
どうしてそういうことになるの。私が何をしたというの。どうして一方的に悪者にされなければいけないの。公爵家と王家の権限を振りかざして、苛めているのはそっちなのに。私は何も言えないのに。
何かもう腹立つな。この世界に私の味方なんか、ただのひとりもいないんじゃないか。絶望と虚無感が押し寄せる。
(エマはスキル『決め台詞』「みんな死んじゃえー!」を覚えました)
えええーーー!? うわあ、なんてものを覚えるのよ。
こんなのを覚えるなんて、さすがにヤバ過ぎるのですが。調子に乗ってとんでもないものを覚えてしまう自分が怖い。
彼らの愛の劇場を横目にすごすごと引き下がった。
とぼとぼと歩いていると、落ち葉を綺麗に掃き清めた小さな小道を見つけた。隠れるように二人掛けのベンチがあって、辺りには誰もいない。風はさやさやと丁度良い具合にベンチに木漏れ日が当たっている。ベンチに座って暫しぼんやりと落ちて来る赤や黄色の葉を眺める。ちょっと疲れたかもしれない。
『ピチュピチュピチュピー!』
「え」
どこかで聞いたような小鳥の声に顔を上げる。灰色の可愛い小鳥が上空を飛んでぐるりと回った。
「鳥さん」
『ピチュ』
灰色の小鳥は一声鳴くとどこかに飛んで行った。
「キリルの鳥じゃないの?」
ベンチから立ち上がって鳥の行った方角を探したが、どこに飛んで行ったのか、もう姿は見えない。
鳥違いだったのか。どうして私はこんな所に居るんだろう。みんなに苛められて、爪弾きにされて、ひとりぼっちだ。ポロンと涙が転がり落ちた。
まるっきりのひとりぼっちじゃない事は分かっている。侯爵家の皆も親切だ。
学校でも苛めたりするのは公爵令嬢の一派だけだ。彼女の勢力が強大で後ろに王子もいるから、皆恐れて遠巻きにして様子を窺っているのだ。私がもう一方の旗頭になればいいのだけれど、私はよそ者の渡り人で小心で臆病なオバサンだった。
私は自分の殻からまだ抜け出せないままだ。
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