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04 ロンダリングで美少女になりました
しおりを挟む窓の外が明るくなっている。朝かと思いながら起き上がった。昨夜は酷い目に遇った。頭をポリポリすると何だか感触が違う。
「ん? 髪が長い。色が違う。何で?」
髪の毛を掴んで見ると淡い桜色の髪だ。綿菓子みたいにクルクルフワフワの甘やかなピンクの髪がくるくる巻いたまま、顔へ肩へ胸へと流れ落ちている。まだピンクの髪かと思ったが大分大人しめ仕様の色だ。髪を掴んだ手が白くて細くて白魚のような指だ。
「ん?」
ベッドから飛び降りて壁の鏡を見る。
「なんか若返っている。ロンダリングって若返るの?」
髪が違う。肌が違う。顔が違う。瞳の色が違う。
唖然として鏡を見ていると、目眩のような感覚と共に、耳元で突然カランカランという商店街で福引が当たった時に鳴るような音が響いた。
(エマは異界の芥を洗い流して、あるべき姿に戻った。
神気が解放されます。
魔力が解放されます。
スキルが解放されます。
固有スキルが解放されます。
ギフトが解放されます)
「ふえっ!?」
鏡の中の惹き込まれそうなブルー。ほんの少し緑が入った碧い瞳。
その瞳を所々遮るように、甘いピンクの綿菓子のような髪がほわほわくるくると胸の辺りまで舞い降りている。
何かすげえ綺麗な子だな、オイ。すべすべの頬にピンクの唇。出る所は出て締まる所は締まった細身の身体、肌はムチムチすべすべ。
これってヤバくない? 歩くそばから狼が寄って来そう。若返って嬉しいとか綺麗になって嬉しいより先に、危機感が襲って来るオバサン仕様の私。
私はしかめっ面で鏡の中の私を見ながら腕を組む。鏡の中の美少女が上目遣いで腕を組んでいる。ちょっと拗ねた感じが凄く可愛い。自分の姿に見惚れてしまう。コレ、自分なんだよね。鏡の所為じゃないよね。
白い部屋の人に聞きたい事は沢山あったが、ここはあの白い部屋ではないし、さらばじゃとか言っていたな。
そういや、最後になんか付けるとか言ってなかったか。今つらつらと並べ立てられたスキルがそうなのだろうか。こんな重要な事を流すように言わないでじっくりひとつひとつ説明して欲しかったが、とにかく神気と魔力は聞き取れた。
チラと鏡を見る。鏡の中の美少女が瞳をキラキラさせてこちらを見ている。
この美少女を自分と言われても、全然無理だ。
うーん、オバサンは心配性なのだ。召使いもいるし、いきなり顔が変わるのも不味いんじゃないの? ほら、私をこんな所に捨てた国に報告されて、連れ戻されても嫌だし、隠蔽とかないの?
(エマはスキル『隠蔽』を覚えました)
「ほえ?」
これ、ゲームなんかい。乙女ゲームは遊んでないけど、数々遊んだRPGなら任しとき。
「ステータスオープン」
しかし、ステータスは出なかった。うーん、RPGじゃあないのかな。でもでも、せめてコレはあって欲しい。
「【アイテムボックス】」
おお、今度は出た。何か四角い枠だけの表示が目の前に浮かぶ。一番上にこの世界の言語でアイテムボックスと書いてあって、右端に番号が(一)と振ってある。つまり、何も入っていない。見事に空っぽだ。
(そうだ、金貨入れとこう)
片手で袋を持って「【アイテムボックス】に入れる」と言えば、金貨二袋がそのままひとつの枠に表示される。
これ、開いたまんまだな。「閉じる」でいいのか。おお、消えた。
【アイテムボックス】はあった。他のスキルは何かないだろうか。
その時コンコンとドアがノックされた。チラリと鏡を見る。
『隠蔽ー昔の姿』
何かが身体全体に覆いかぶさった感じがして、昨日までのオバサンの姿になった。鏡の中の昨日までの自分に頷いて、ドアに向かって返事をする。
「はい」
召使いのメアリがボールと水差しを持って現れた。ベッド横のテーブルに置いてくれたので洗顔する。洗顔が済むと部屋のクローゼットから衣装を出して着替え。その後椅子に座って髪を整える。隠蔽で髪は前の肩までの長さに見えるようだ。軽く整えて終わりにしてくれた。
朝食は食堂でパンに野菜サラダとベーコンにチーズ、そして野菜スープだった。レイラが世話をしてくれていた時とあまり変わらない。
渡り人ってよく来るのだろうか。いや、あのロンダリングをしてくれた神様みたいな声は『お前は、あちらの世界に間違って生まれたのじゃ』と言った。間違って前の世界で生まれて、こちらに戻って来たんなら戻り人じゃないんかい。
どっちでもいいけど、小説が流行るくらいには居るのかしら。手際が良すぎるし、システムが出来上がっている感じだ。
その日は家の周りを散策して過ごした。若い身体は快適で、少し走ったくらいでは息も切れない。気分も若返ったような気がする。
屋敷は古いが綺麗に清掃されていて、客室も応接室もリビングもあるし、召使の部屋もある。ひとりで暮らすには部屋数が多い。
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