英華女学院の七不思議

小森 輝

文字の大きさ
上 下
15 / 53

英華女学院の七不思議 15

しおりを挟む
 3年生の写真撮影を見た後の放課後、私と雛ノ森さんは二人で学食に来ていた。
「どう、しましょうか……」
「どう、しますかね……」
 私はコーヒーを、雛ノ森さんは紅茶を飲みながら、思考が壁にぶつかっていた。
 学食は昼間だけでなく、朝や放課後も開いている。もちろん、開いているのは場所だけではない。定食のような料理はないものの、サンドウィッチのような軽食、ちょっとしたお茶請けなんかも置いてある。しかも、全てタダ。それで採算はとれるのかと私も思っていたのだが、そこはこの学校の特色と言うべきか。ここの生徒はほとんどが親がお金持ちのお嬢様で、そして全員女性。タダだからと暴飲暴食するような生徒はいないというわけだ。おかげで、私と雛ノ森さんとの間には10枚程度のクッキーが盛ってある。ただ、二人ともまだクッキーには手をつけられずにいた。
「やっぱり、2年生だったんでしょうか?」
 最初に口を開いたのは雛ノ森さんの方だった。
「それだと3年生の鞄を持っていたって言うのがね……たまたま持っていたなら話は変わってきますが……」
「いえ、いつも同じ鞄でした」
「なら、やはり2年生や1年生ではないと思うんですよね」
 姉のお古を使っているなんてことはまずないだろう。なんと言っても、ここはお嬢様学校。鞄の代金をケチるような親はいない。
「じゃ、じゃあ、退学とかは……」
「それもないでしょうね」
 入学時に学費を全て支払っているので、退学はあり得ない。
「転校はどうでしょうか? 親が海外に住むことになって日本に居られなくなったとか」
「それもないでしょうね。親がいろんな場所に仕事へと行くことを想定した全寮制ですから」
 この学校は全寮制。つまり、生徒全員寮生活をしている。しかも、寮は校内にある。全寮制であるから学食がタダ。そして、お嬢様生徒を安心して預けられるように全寮制で外にでる必要をなくし、さらに、女子校にする事によって悪い虫が付くこともない。親にとっては最高の隔離施設となっているのだ。これが全寮制の女子校なんていう時代錯誤な高校が存在している理由。着任してすぐのころは、ここの生徒はかごの中の鳥だと思っていたのだが、生徒自身は親から離れて生活することを喜んでいたりする。実際、雛ノ森さんも私が想像しているお嬢様とは違い、活発で明るい女子高生というイメージで、伸び伸びと生活している。悩みがなければ、の話だが。
「雛ノ森さんの先輩が何学年かというのも大事ですが、もう少し、先輩のことを教えてもらえませんか?」
「先輩のことですか?」
「はい」
 3年生にはいなかった。2年生とは考えにくい。すぐに解決すると思っていたのだが、案外、手強いので、もう少しその先輩について知っておく必要がある。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

学園ミステリ~桐木純架

よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。 そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。 血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。 新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。 『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。

死験場

紅羽 もみじ
ミステリー
出口のない部屋にそれぞれ閉じ込められた7人の男女。 試験官と名乗る謎の人物。 7人がこの部屋から出たければ、試験官から指名され、出題される問題に正解しなければならない。 正解できなければ、想像を絶する罰=死。 試験官から出されるヒントは一つ。 「生きたければ、自身の罪を晒し出せ。」

リアル

ミステリー
俺たちが戦うものは何なのか

そんなお前が好きだった

chatetlune
BL
後生大事にしまい込んでいた10年物の腐った初恋の蓋がまさか開くなんて―。高校時代一学年下の大らかな井原渉に懐かれていた和田響。井原は卒業式の後、音大に進んだ響に、卒業したら、この大銀杏の樹の下で逢おうと勝手に約束させたが、響は結局行かなかった。言葉にしたことはないが思いは互いに同じだったのだと思う。だが未来のない道に井原を巻き込みたくはなかった。時を経て10年後の秋、郷里に戻った響は、高校の恩師に頼み込まれてピアノを教える傍ら急遽母校で非常勤講師となるが、明くる4月、アメリカに留学していたはずの井原が物理教師として現れ、響は動揺する。

ウェブ小説に狂った男

まるっこ
ミステリー
担当する事になったウェブ小説作家は、 気持ち悪い異様な男だった……。 男は、自らの創作論を得意気に語る。 「趣味であれば好きに書き、好きを詰め込めばいいのですね」 「自己満足で書いておりますので読まれなくても気にならないのですね」 「アマチュアは好きに書くんじゃああ!好きを詰め込むんじゃああ!」 そう言いながら、作品を必死で宣伝しまくった。 果ては「拙作の〜君は、こんな魅力がありまして……」 と、自分の作品の解説までをも実行した。 男は書いた。狂ったように書いた。 そして読者は必ず去って行った。 男は、すでに狂気の世界に住んでいた。 その狂気の果ては……。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。 もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。 ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。 なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。 リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。 主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。 主な登場人物 ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。 トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。 メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。 カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。 アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。 イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。 パメラ……同。営業アシスタント。 レイチェル・ハリー……同。審査部次長。 エディ・ミケルソン……同。株式部COO。 ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。 ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。 トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。 アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。 マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。 マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。 グレン・スチュアート……マークの息子。

処理中です...