上 下
260 / 343
連載

さわこさんと、ブロロッサム餅

しおりを挟む
 古代怪獣族のベル
 クリスマスツリーの付喪神のエンジェさん
 白銀狐のシロ
 ブロロッサムの精霊のロッサさん

 気がつくと、バテアさんの家の中におチビさんの姿が多くなっていました。
 そうは申しましても、見た目はおチビさんなエンジェさんとロッサさんは私よりも相当年上なんですけどね。

 エンジェさんは天然の木を使って作成されているクリスマスツリーですので、その木の年齢がかなりだったみたいですし、ロッサさんも然りなんです。

 ……一応そのはずなのですが

「ロッサちゃんも猫集会に行くニャ!」
「ふむ、何やら楽しそうじゃの」
「そうよロッサ、とっても楽しいんだから!」
「シロも!」

 リビングに集まってワイワイ楽しそうにお話しながら、連れだって近くの公園で開催されている猫系亜人種族の子供達の集まりに出かけていく4人の姿を見ておりますと、なんだかほっこりしてしまいます。

「ホント、仲良しよねあの4人ってば」
「そうですね。見ていてなんだか癒やされます」
「……うん、とっても癒やされる」

 バテアさん、私、リンシンさんが思わず笑顔になってしまうのも、仕方ありませんよね。
 何しろあんなに可愛い後ろ姿を見せられているのですもの。

 お出かけした4人ですが、そんな4人が戻ってきた時のおやつでも作っておいてあげましょう。

 準備したのは、ブロロッサムの花と葉っぱの塩漬けです。
 これ、ロッサさんが巨木の家の木に咲かせてくださっていた花と葉っぱを採取しまして、塩漬けにしておいたものなんです。
 花の方は、その後で塩抜きしてシロップにしてあるのですが、いいピンク色に染まっています。

 居酒屋さわこさんの厨房へ移動した私は、花と葉っぱを保存している瓶を取り出しました。
 葉っぱの方は少し早いかなって感じなのですが、なんとか使えそうです。

 ブロロッサムの花のシロップに道明寺粉を入れてしばらく放置。
 これで、道明寺粉がほんのりピンクに染まります。
 
「へぇ……綺麗ねぇ」
「……うん、すごく綺麗」

 それを見ていたバテアさんとリンシンさんも、楽しそうにその色合いを眺めておいでです。

 さぁ、その道明寺粉を蒸し器で蒸らしていきます。
 一度蒸らしたあと、個数分に小分けしてから再度蒸し上げまして、同じく小分けにしたこしあんを加えて包んでいきます。
 最後に、塩漬けの葉っぱで巻いて……はい、桜餅の完成です。
 使用した材料からすると、ブロロッサム餅といった方がいいのかもしれませんね。

「へぇ、ピンクで可愛いじゃない」
「うん、小さくてかわいい」
「よかったら試食してみられますか?」

 私の言葉に、バテアさんもリンシンさんも大きく頷いておられます。
 そうですね……おチビさんチームもいないことですし……

 そう思った私は、棚に並んでいる日本酒の瓶を眺めていきました。
 ほどなくして、その中の1本を手にとりました。

 高清水の、その名もずばり「辛口純米」です。
 喉越しがきれていて、それでいて上品でとってもふくよかな味を楽しめるお酒なんです。
 辛口の純米酒って、和菓子といいますか餡子系のお菓子との相性がとてもいいんです。

 ブロロッサム餅と、日本酒を注いだグラスをバテアさんとリンシンさんの前に並べていきまして、

「さ、お召し上がりくださいな」

 私はお2人に笑顔を向けました。

「じゃあ、遠慮なく」
「……いただき、ます」

 お2人はそう言うと、

 バテアさんはお酒から
 リンシンさんはブロロッサム餅から

 それぞれ口になさっていきました。

「うん、すっきりしてていいわね、この喉越し。ホント美味しいわ」
「……甘い……美味しい……幸せ」

 バテアさんもリンシンさんも嬉しそうに笑顔を浮かべておいでです。


 そして今度は

 バテアさんがブロロッサム餅を
 リンシンさんがお酒を

 それぞれ口になさいました。

「うん! 良いわね。お酒で口の中がさっぱりしたところに、甘みが広がる感覚がなんとも言えないわ!」
「……美味しい……すごく美味しい……幸せ」
「ちょっとリンシン、もう少し変わった感想は出来ないわけ? ブロロッサム餅の感想もお酒の感想もほとんど同じじゃない」
「……どっちも美味しい……仕方ない」
「まぁ……確かにそうなんだけどさ」

 ニコニコなさっているリンシンさん。
 そんなリンシンさんを前にして、バテアさんは苦笑することしか出来ない感じです。
 
 そんなお2人の様子を、私も笑顔で見つめていたのですが……

「さわこ、私にも!」

 リンシンさんの隣で右手をあげたのは……他ならぬツカーサさんでした。
 そうですね……みんなで試食をしていたわけですので、お見えになるのではないかと、心のどこかで思っておりました。
 そんなわけで……

「はい、ツカーサさんの分もございますよ」

 私は1個余分に準備しておりましたブロロッサム餅をツカーサさんの前にお出ししました。
 お酒も、新たにそそいでいます。

「うんうん、すごく美味しそうな匂いがしてたから来てみたんだけど、やっぱりすごく美味しそう!」
「匂いって……あんた、居酒屋さわこさんからはいつも美味しそうな匂いがしてるでしょう?」
「そうなんだけどぉ……新作の時の匂いはなんか違うのよ、バテア。じゃあいただきま~す!」

 バテアさんの言葉に満面の笑顔で答えたツカーサさんは、大きなお口をあけて、ブロロッサム餅をほおばられました。

「うん! やっぱりすっごく美味しい! これ、最高よ! というわけでお替わり!」

 そう言うが早いか、ツカーサさんは私に向かって空になったお皿を差し出しておられました。
 そんなツカーサさんに苦笑しながらも、私はお替わりの準備をしていきました。

 おチビさんチームの分がなくなってしまいますので、これで最後にしていただかないと、ですね。

◇◇

 その夜……

 居酒屋さわこさんでも、追加で作成したブロロッサム餅を提供してみました。

「ふむ……この餡子はなかなか美味いな」

 いつもぜんざいしかお召し上がりにならないゾフィナさんが、ブロロッサム餅をお食べになられています。
 どうも、餡子とブロロッサムの匂いが気になられたようでして、
『さわこ、そのピンクのお餅を1つもらえないか?』
 そう申し出てこられたのですが……私も最初びっくりしてしまいました。

 カウンター席で、美味しそうにブロロッサム餅をお食べになっているゾフィナさん。

 すると……

「さわこさん、こっちにもそのブロロッサム餅をくれるかい?」
「こっちにも頼むよ」
「あのぜんざいしか食べないゾフィナが、あんなに美味しそうに食べてるんだ……きっと美味いに違いない」

 そんな声がお店のあちこちからあがっていったのでございます。
 ゾフィナさんがぜんざい以外の物をお食べになっているのもあれですが、とっても美味しそうな笑顔でブロロッサム餅をお食べになっているのが、みなさんの気を引いたのでしょうね。

「はい、喜んで」

 皆さんに笑顔で返事を返しながら、私は新しくブロロッサム餅を準備していきました。

 ちなみに……

 猫集会から帰って来たおチビさんチームの4人も、このブロロッサム餅をとっても喜んで食べてくれたんですよ。
『美味しいは正義にゃ!』
『そうねベル、私もそう思うわ!』
『うむ、妾も賛同するのじゃ』
『シロも!』

 そう言いながら、嬉しそうな笑顔を浮かべていた4人。
 その笑顔を思い出しながら、私は思わず思いだし笑いを浮かべておりました。


ーつづく

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。