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連載
さわこさんと、春のある朝
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辺境都市トツノコンベもすっかり春になりました。
あのすごい積雪の冬を越して訪れた春だけに、なんだかわくわくしてしまいます。
そんな冬の季節に白銀狐さん達とお友達になれたのはとても嬉しいことでした。
白銀狐さん達は、雪の季節が終わると北へ移動していくのが常らしいのですが、お友達の白銀狐さん達の大半はここに残ってくださっています。
昼間は森の中で野草などを採取して居酒屋さわこさんに持って来てくれまして、そのお礼として私が白銀狐さん達にご飯をつくって差し上げている次第です。
夜は、バテア青空市の一角に集まってお休みくださっています。
そこには、私がアミリアさんからもらってきた藁を敷いてあげているのですが、白銀狐さん達はその寝床を大変気に入ってくださったようでして、毎晩そこでのんびりとお休みになっておられます。
白銀狐さん達の食事として何を提供したものかと、しばらく思考錯誤したものです。
お肉を焼いたり、肉じゃがをお出ししたりとあれこれ試してみたところ……一番気に入ってくださったのが雑炊でした。
特に、焼いたジャッケの身をほぐして加えた焼きジャッケ雑炊を気に入ってくださったみたいでして、これをお出しすると、白銀狐さん達はすごく嬉しそうに鳴き声をあげながらすごい勢いで食べていかれるんです。
そのお姿に、私も思わず笑顔になってしまうんですよね。
◇◇
そんな出会いのあった冬なのですが……
春には別れもございます。
居酒屋さわこさんと契約してくださっていた冒険者の皆さんの多くが、春になったのを機会にトツノコンベを後になさいました。
ジューイさんをはじめ、およそ半数の方々が他の都市へと度だっていかれたのです。
「また、そのうち帰ってくるジュ」
昨夜、お帰りになる際に笑顔でそう言ってくださった皆さんを、私は笑顔で見送りました。
旅立ちに涙はよろしくありませんので必死に我慢したのですが……駄目ですね、夜、ベッドの中で大泣きしてしまいました……
「まぁさ、アタシ達があいつらの分まで頑張るし、それに新しくこの街にやってきた冒険者がいたら声をかけてみるよ」
翌日の夜、お店に来てくださったクニャスさんが笑顔でそう言ってくださいました。
「……私も、冒険者組合で新しい冒険者さんを見かけたら声してみる」
吟遊詩人のミリーネアさんもそう言ってくださっています。
「本当に、ありがとうございます」
クッカドウゥドルの焼き鳥を焼きながら、私は笑顔で頭を下げさせていただきました。
これで、居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者さんは
鬼人のリンシンさん
赤狐人のクニャスさん
熊人のマクタウロさん
人種族のシロイルさん
以上の4名ということになりました。
とはいえ、ここに白銀狐さん達が加わっているようなものですので、実際はもっと大所帯なんですけどね。
他の都市へ旅立っていかれた皆様が戻ってこられるのをお待ちしながら、残ってくださった皆様と一緒にこれからも頑張っていこうと思っております。
◇◇
そんなある日のことでした。
朝、起きだした私が、朝ご飯の用意をする前にお店の回りを掃除しようと思って居酒屋さわこさんの出入り口をくぐった時のことでした。
「……あら?」
玄関の前に、何かが置いてあることに気がつきました。
それは、籠のようです。
いくつもの籠が入り口の前に置かれていたのです。
その中をのぞき込んでみますと……何やらピンク色をしています。
「……これって……ブロロッサムの花びら?」
そうなんです。
その籠には、ブロロッサムの花びらが入っていたのです。
どの籠にも目一杯ブロロッサムの花びらが入っているではありませんか。
……でも、おかしいですね
バテアさんの巨木の家に咲いていたブロロッサムの花は少し前にすべて散っています。
そのため、薄いピンク色の髪の毛をしていたロッサさんも、今では鮮やかな緑の髪の毛に変色しているのです。
……じゃあ、この大量のブロロッサムの花びらはどこからきたのでしょう?
私が籠を前にして首をひねっていると……
……ほれ、やはり困っておるのじゃ
……じゃから、ちゃんと意図を伝えないといかんと言ったのじゃ
……どうする、これから言いにいくかの?
なんでしょう……なんだかそんなヒソヒソ話が聞こえてきたんです。
その声の方へ視線を向けてみますと……居酒屋さわこさんの前の小道が表街道と接している曲がり角、その建物の影から、緑の髪の毛の頭がたくさん見えていたんです。
「……あぁ、そういうことですね」
それを見て、私はやっとすべてを理解いたしました。
このブロロッサムの花びらを持って来たのは、トツノコンベの中央公園に植えられているブロロッサムの木の精霊さん達のようです。
先日、ロッサさんがベル達と一緒に猫集会に遊びに行っていたのですが、その会場が中央公園だったと聞いています。
おそらく、その時にロッサさんが仲間のブロロッサムの精霊さん達に、私がつくったブロロッサム餅のことをお話したのでしょう。
それで、皆さんもブロロッサム餅を食べたくなって、自分達に残っていたブロロッサムの花びらを集めて持って来た、と……
私の様子をチラチラ見つめているブロロッサムの精霊さん達。
そんな皆さんに、私はにっこり微笑みました。
「皆さん、ブロロッサム餅でしたら作り置きがありますので、食べていかれませんか?」
私が笑顔でそう言うと、ブロロッサムの精霊さん達が一斉に姿を現しました。
「なんと! あのブロロッサム餅が食べられるじゃと!」
「さすがさわこなのじゃ!」
「食べるのじゃ!すぐ食べるのじゃ!」
皆さん、嬉しそうな声を上げながら私の元に駆け寄ってきました。
そんな皆さんに囲まれながら、私は居酒屋さわこさんの中へと入っていきます。
精霊さん達は、持参してきてくださったブロロッサムの花びらが入った籠も持って来てくださっています。
そうですね……ブロロッサムの精霊さん達ともこの春出会ったわけです。
この出会いも、大切にしていきたいですね。
「さわこのブロロッサム餅は美味しいからねぇ、私も楽しみ~」
ブロロッサムの精霊さん達の会話の中に……なんでしょう、聞き覚えのある声が聞こえてきました。
振り向いて見ると……そこにいたのは、お隣のツカーサさんでした。
ツカーサさんは、ブロロッサムの精霊さん達と仲良くお話しながら、お店の中へと入ってきています。
そうですね、ツカーサさんもこの世界で出会った大切なお隣さんであり、お友達です。
「せっかくですから、ツカーサさんも食べていってくださいな」
「ありがと~さわこ、だから大好き!」
私の言葉に、満面の笑顔を浮かべておられるツカーサさん。
その周囲ではブロロッサムの精霊さん達が満面の笑顔です。
今朝の居酒屋さわこさんの中は、ブロロッサムの精霊さん達の緑の髪の毛で埋め尽くされていきました。
その色鮮やかな光景を前にして、起きてこられたバテアさんが、
「な、何事!?」
目を丸くなさっていたほどでした。
そんなある春の朝でございます。
ーつづく
あのすごい積雪の冬を越して訪れた春だけに、なんだかわくわくしてしまいます。
そんな冬の季節に白銀狐さん達とお友達になれたのはとても嬉しいことでした。
白銀狐さん達は、雪の季節が終わると北へ移動していくのが常らしいのですが、お友達の白銀狐さん達の大半はここに残ってくださっています。
昼間は森の中で野草などを採取して居酒屋さわこさんに持って来てくれまして、そのお礼として私が白銀狐さん達にご飯をつくって差し上げている次第です。
夜は、バテア青空市の一角に集まってお休みくださっています。
そこには、私がアミリアさんからもらってきた藁を敷いてあげているのですが、白銀狐さん達はその寝床を大変気に入ってくださったようでして、毎晩そこでのんびりとお休みになっておられます。
白銀狐さん達の食事として何を提供したものかと、しばらく思考錯誤したものです。
お肉を焼いたり、肉じゃがをお出ししたりとあれこれ試してみたところ……一番気に入ってくださったのが雑炊でした。
特に、焼いたジャッケの身をほぐして加えた焼きジャッケ雑炊を気に入ってくださったみたいでして、これをお出しすると、白銀狐さん達はすごく嬉しそうに鳴き声をあげながらすごい勢いで食べていかれるんです。
そのお姿に、私も思わず笑顔になってしまうんですよね。
◇◇
そんな出会いのあった冬なのですが……
春には別れもございます。
居酒屋さわこさんと契約してくださっていた冒険者の皆さんの多くが、春になったのを機会にトツノコンベを後になさいました。
ジューイさんをはじめ、およそ半数の方々が他の都市へと度だっていかれたのです。
「また、そのうち帰ってくるジュ」
昨夜、お帰りになる際に笑顔でそう言ってくださった皆さんを、私は笑顔で見送りました。
旅立ちに涙はよろしくありませんので必死に我慢したのですが……駄目ですね、夜、ベッドの中で大泣きしてしまいました……
「まぁさ、アタシ達があいつらの分まで頑張るし、それに新しくこの街にやってきた冒険者がいたら声をかけてみるよ」
翌日の夜、お店に来てくださったクニャスさんが笑顔でそう言ってくださいました。
「……私も、冒険者組合で新しい冒険者さんを見かけたら声してみる」
吟遊詩人のミリーネアさんもそう言ってくださっています。
「本当に、ありがとうございます」
クッカドウゥドルの焼き鳥を焼きながら、私は笑顔で頭を下げさせていただきました。
これで、居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者さんは
鬼人のリンシンさん
赤狐人のクニャスさん
熊人のマクタウロさん
人種族のシロイルさん
以上の4名ということになりました。
とはいえ、ここに白銀狐さん達が加わっているようなものですので、実際はもっと大所帯なんですけどね。
他の都市へ旅立っていかれた皆様が戻ってこられるのをお待ちしながら、残ってくださった皆様と一緒にこれからも頑張っていこうと思っております。
◇◇
そんなある日のことでした。
朝、起きだした私が、朝ご飯の用意をする前にお店の回りを掃除しようと思って居酒屋さわこさんの出入り口をくぐった時のことでした。
「……あら?」
玄関の前に、何かが置いてあることに気がつきました。
それは、籠のようです。
いくつもの籠が入り口の前に置かれていたのです。
その中をのぞき込んでみますと……何やらピンク色をしています。
「……これって……ブロロッサムの花びら?」
そうなんです。
その籠には、ブロロッサムの花びらが入っていたのです。
どの籠にも目一杯ブロロッサムの花びらが入っているではありませんか。
……でも、おかしいですね
バテアさんの巨木の家に咲いていたブロロッサムの花は少し前にすべて散っています。
そのため、薄いピンク色の髪の毛をしていたロッサさんも、今では鮮やかな緑の髪の毛に変色しているのです。
……じゃあ、この大量のブロロッサムの花びらはどこからきたのでしょう?
私が籠を前にして首をひねっていると……
……ほれ、やはり困っておるのじゃ
……じゃから、ちゃんと意図を伝えないといかんと言ったのじゃ
……どうする、これから言いにいくかの?
なんでしょう……なんだかそんなヒソヒソ話が聞こえてきたんです。
その声の方へ視線を向けてみますと……居酒屋さわこさんの前の小道が表街道と接している曲がり角、その建物の影から、緑の髪の毛の頭がたくさん見えていたんです。
「……あぁ、そういうことですね」
それを見て、私はやっとすべてを理解いたしました。
このブロロッサムの花びらを持って来たのは、トツノコンベの中央公園に植えられているブロロッサムの木の精霊さん達のようです。
先日、ロッサさんがベル達と一緒に猫集会に遊びに行っていたのですが、その会場が中央公園だったと聞いています。
おそらく、その時にロッサさんが仲間のブロロッサムの精霊さん達に、私がつくったブロロッサム餅のことをお話したのでしょう。
それで、皆さんもブロロッサム餅を食べたくなって、自分達に残っていたブロロッサムの花びらを集めて持って来た、と……
私の様子をチラチラ見つめているブロロッサムの精霊さん達。
そんな皆さんに、私はにっこり微笑みました。
「皆さん、ブロロッサム餅でしたら作り置きがありますので、食べていかれませんか?」
私が笑顔でそう言うと、ブロロッサムの精霊さん達が一斉に姿を現しました。
「なんと! あのブロロッサム餅が食べられるじゃと!」
「さすがさわこなのじゃ!」
「食べるのじゃ!すぐ食べるのじゃ!」
皆さん、嬉しそうな声を上げながら私の元に駆け寄ってきました。
そんな皆さんに囲まれながら、私は居酒屋さわこさんの中へと入っていきます。
精霊さん達は、持参してきてくださったブロロッサムの花びらが入った籠も持って来てくださっています。
そうですね……ブロロッサムの精霊さん達ともこの春出会ったわけです。
この出会いも、大切にしていきたいですね。
「さわこのブロロッサム餅は美味しいからねぇ、私も楽しみ~」
ブロロッサムの精霊さん達の会話の中に……なんでしょう、聞き覚えのある声が聞こえてきました。
振り向いて見ると……そこにいたのは、お隣のツカーサさんでした。
ツカーサさんは、ブロロッサムの精霊さん達と仲良くお話しながら、お店の中へと入ってきています。
そうですね、ツカーサさんもこの世界で出会った大切なお隣さんであり、お友達です。
「せっかくですから、ツカーサさんも食べていってくださいな」
「ありがと~さわこ、だから大好き!」
私の言葉に、満面の笑顔を浮かべておられるツカーサさん。
その周囲ではブロロッサムの精霊さん達が満面の笑顔です。
今朝の居酒屋さわこさんの中は、ブロロッサムの精霊さん達の緑の髪の毛で埋め尽くされていきました。
その色鮮やかな光景を前にして、起きてこられたバテアさんが、
「な、何事!?」
目を丸くなさっていたほどでした。
そんなある春の朝でございます。
ーつづく
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