十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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もふ死ね 2/2

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 その善意なるものは、通過してきて、焼きつけてくる。
 目をそらさせてくれない。
 相手がどう思っているのか、痛いくらいにわかってしまう。
 相手を他種としてみることができない。姿かたちが違っても、互いが互いに同じものでもあるのだと。
 いっそ、自分でさえあるように感じてしまう。

「あぁ、でも殺させるのも辛い。まるで自分の身を削るようなことだってわかってしまうから」
「殺されるのも辛いんだ。だってそれは自分から切り離されることでもあるから」
「しかし間違いなく安らぎでもある」

 ここでいうならば、人だった。
 人。人間の彼女が基礎となった。人間という種がここで特別だったという訳ではない。世界で核となるような、左右するような、そういう種、動物が他にこの場所には存在しなかったからというだけの話。
 そして、平にされたのだ。平等に均された。
 ここにいる全ての動物たちが、動物たちに、動物たちを。経験させられた体感させられ叩きつけられた。

「でももう生きて居たくもない」
「でももう永遠の苦痛の中に漂っていたくもない」
「だからチャンスが自分にしかない」
「どうして押し付けるんだ! 彼女だって辛いだろうが!」
「ああ、辛い辛い辛い辛い。わかるよ、とても辛いんだ。可哀そうだね、貴方

 それはこうなった今ならわかるが、本来はおそらく動物だけではすまない――植物や無機物の気持ちでさえ理解させられるものだろう。
 それら全てが――互いに愛と、良心と、共感を抱くように。
 それは悪意によって行われるものではない愛であり良心であり、善意だった。

「でも生きている限り、自分他人自分貴方たちを苦しめるから」
「だから死のう。もう、風が流れるように死んでいこう」
「殺されよう。即座に殺されていこう。優しさからの反抗を、また優しさから無為に帰そう」

 人はよくいう言葉通りの現象と結果。
 他人自分の気持ちを理解しましょう。

 つまりは、良心と善意の上、平等な知識と知恵と体験を持った上に理解させられ過ぎた結果だ。
 お互いが、お互いを想いあいすぎた結果の一つなのだ、このざまというのは。

 正義も悪も、この場にいる動物たちにとってこの良心に共有されるまではただどうでもいい、どちらにせよ自分勝手な人の概念でしかなかったのに。
 辛く浸るに苦しい易い、甘い蜜に侵されてしまった。

「最後に一人残るあなたわたし、それは申し訳ない事だけど」
「全部受け取って、二度とないようにしてほしいんだ」
「不幸せの量を、もう増やさないために。誰も傲慢にこれ以上なら無いために。誰の良心も作用しないように。誰の悪意も生まれないように」

 次々聞こえるあなた彼女自分をばらばらにしていく。
 次々殺す命《わたし》が彼女《あなた》をばらばらにしていく。
 それでも彼女はその手を止めない。
 もうそうせずにいられないから、ただただ殺し続ける。

「大丈夫、だからわたしひとつになろう」

 良心に従って殺す。
 善意で殺さなければならないと思う。
 優しさがそうしないと辛い気持ちを伝えてくる。
 生きてるこそこそ不平等、不幸せ、従属隷属等々の踏みつけられることの始まりなのだからと頭をおかしてくる。

 だから、これは正しい事なのだ。
 正しくなければならない。

 そうでなければ――全て同じ事ではないか。
 知ることの幸福と。
 知らない事の不幸と。
 知ることから始まる不幸せと。
 知らない事で手に入る幸せ。

 あぁ。あぁ。
 なんということだろう。
 全ては同じことであるなら、どうして我々は生きているのだろうか。

 善意によって知らないまま知らされたものたちは生に惑い疑わずにいられなくなってしまった。
 全ては輪の如く、グルグルその場で空転する。
 何の動力でも風車も水車も気にすることはない。ただ回されるだけなのだから。
 壊れているのと何が違うのか。ただ、困るだけだ。自ら――それ以外の者たちが。

 何より、自分たちで殺してしまわねば、続いていくことがわかってしまう。
 『わかりあいきったものたち』のままで他の生物とまた接触すれば、それは延々続くのだ。これはそういうものだとわかるのだ。
 楽園が永遠に広がりますように、と。

 命が終わるのは辛い事だから、わかりあったものたちが離れ離れになるのは苦しい事だから。
 それ以外わかりあえないをまた食いつぶすように接触して、わかりあう傲慢を押し付けに次々食いつぶすものとなっていく事がわかるのだ。
 このままなら、永遠の苦痛を共有しなければならなくなる。

 だから、殺すことこそが良心。わかりあいきった者たちは、そういう結論にいきつく現象。

 もしも、何を殺そうが何も感じないだとか、いっそ快楽に感じるようなものであれば楽にいれただろう。
 だが、それは不可能だ。そのような、ある種救いのようなものはこれには発生しない。元々そうであろうが、そうでなくなるのだ。
 そうできないようにされている。それは、悪意だからだ。ここには、善意と良心しかなかったのだ。始まりがそうだから、悪意の救いは残り続けることはできなかった。

 例えば、ただ傲慢で独善の正義でもあればよかったかもしれない。
 しかし、それも彼女の持ち物の中にはないもの。壊れるような感情の嵐の中で、傘も持たずにやるしかない。

 本来なら、それは無駄なことだ。その決心さえ。
 殺すことさえわかりあう範疇に過ぎないのだからだ。命をもってわかりあうという。
 なぜなら、そう望んでいる。消えたがってることを叶えるというわかりあいから来るもの。だから、離れられない。わかりあいきった塊の一つになったままなのだ。殺したとしても消え去ったりできやしない。
 それでも殺し合う事はやめられないだろう事が、更なる苦痛を生み出すことしかないだろう。

 だが、ここでは違う。今なら違う。
 意味がある。それには意味があるのだ。
 だから、彼女は自壊しながらそれを続けている。
 だから、彼女は壊れながら止めることができないままでいる。

 不純物。
 システムわかりあえない異物の介入手引き

 それが、彼女がする本来無意味にしかならない行動を意味があるものにしてしまっている。
 わかりあいながら、ずれている。
 彼女だけが、ずれることができる。わかりあい殺し無為救いにできる。

「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
(誰か叫んでいる。いや、私だろうか)

 彼女が殺したものは彼女に帰属する。
 あぁ、なんということだろう! 知って動物たちは歓喜した。
 彼女に殺されたのならば、その中にありながらわかりあっていないものを感じ取ることができるのだ。
 支配されることができるのだ。全て自分であり、そうし続けることから解放されるのだ。

 それだって、完全に抜け出すことにはならない。けれど、今のままよりよほどましなのだ。
 支配下になれば、その感情を強制的に別にすることもできるし、隔離することもできる。遮断することだってできるのだという事が彼女動物たちにはわかるのだ。
 だから、行動は良心。

 そうしたって、結局彼女は、抜け出せないけれど。
 それ以外は、今の苦痛よりはマシな状況になることができるから。
 外ではできない。ここでしかできない。1になる事。1にすること。
 1犠牲に。

 その数は多い。
 多すぎる。
 ただ多いだけだ。

 殺すたびに彼女は強化されていくのだから、良心から反撃してくれるものも結局意味はなく。
 しかし一気に多くを殺すなんてことはできず。ただ1つ1つの自分に丁寧に刃を通して。その刃を使うしかない。
 もう、拳の一撃で、足を振り下ろすことで、誰もかれもミンチのように粉砕できることはわかるけれど。
 それだと、見ていて自分あなたが苦しいから。恐怖を与えて受け取ってしまいすぎるから。
 ただただ、心臓を止める感覚を受け取り続けている。

 その間にはどうしたってかえって浴びる血がある。
 殺しすぎて返り血が渇く。その色は斑の黒。
 身を包んでいる黒とは神聖な色である。
 身を包んでいる黒とは悪意の色である。
 身を包んでいる黒とは悼む色である。
 身を包んでいる黒とは攻撃の色である。
 身を包んでいる黒とは慈悲の色である。
 身を包んでいる黒とは敗北の色である。
 身を包んでいる黒とは勝利の色である。
 身を包んでいる黒とは全ての集合体
 全てを塗りつぶしていく虚無安らぎ終着点である。

 1に還るのだ。そうすれば、少なくとも他者への苦痛は今よりずっとましだろう。
 優しさで還ろう。優しさで還そう。

 これ以上、存在するだけでただただ死にたくなるくらいに他者自己を傷つけないモノになるのだ。
 そのためには、どうしてもやらないといけないことがある。
 やらなければいけないものが出てしまう。

 それは、もう彼女しかできないのだ。
 だから、やるのだ。
 自己他者のために。
 弔うような黒に身を包んで。
 壊れそうな決意と、善意と、良心。優しさでもって、自分に命令するようにそれだけ繰り返す。

 死を悼み喪服ながら皆を殺せ死ね

「ごめんね」
「ごめんよ」
「ごめんなさい」
「ありがとう」

 消えていく。
 消えていく。
 だんだんだんだん確実に減っていく。
 彼女自分がいなくなっていく。
 自分他者がどんどん減っていく。

 続く、続く。
 それは壊れ切って動けなくなるか、やがて1人になるまでか。

 壊れそうになる己を推しとめるためにか、彼女は気付けば掲示板に書き込んでいる。
 安らいでいた気がするから、書き込むことをやめられないのだ。
 よく認識できないまま頭に浮かんだことを書き込む。上手く書き込めているのか確認はしない。流れに視線を向けても、もうよくわからない。読んでいるふりでしかない。

 それでも良かった。彼女にとって、それはありがたかった。
 ただそこに、他者を感じることができる。
 自分以外を感じることができる。
 わかりあえない、互いが互いを知らな過ぎる、でも、それでも除外されない特別。当たり前だった、これとは違う優しさと楽しさがあった場所。

 それが、幸せで最後の綱だった。
 顔も知らない、文字だけの。本当にいるかどうかも疑わしい。だからこそ自分ではないと確信できるような。
 細い細い、糸のような。

「いいよ、ばいばいおかえり

 呟いて、誰にでもなく、幸せを願った。
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