天才・新井場縁の災難

陽芹孝介

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第十話 窟塚村のカリスマ教祖 前編

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  再び暗い闇……また声が聞こえる。
 「俺はお前たちとは違う……」
  俺の声?
 「何が違うの?貴方にも謎を解く快感があるでしょ?」
  キャメロンの声だ。
 「俺には人の死を……その真相を、ゲーム感覚で楽しむなんて……」
  また俺の声だ。あの頃の夢か……懐かしいけど……胸くそ悪い。
 「クククク……バカだなてめぇらは」
  この声は?
 「何がおかしいの?……ジャン」
  ジャンの声だ。
 「笑えるよ……てめえもエニシも、死の真相だ?そんなものはどうだっていい……」
 「じゃあ、貴方は何を原動力に?」
 「そんなのは決まってる……人間は死んだら終わりだ。生きて始まり、死んで終わる……その間懸命に生きるから、人の死は美しい……」
  ジャン……あいつは昔からそうだった。
  声が遠くなってきた……また闇か……。
  すると、また縁を呼ぶ声がした。
 「縁っ!縁っ!」
  うるせぇな……誰だ?
 「縁っ!起きろっ!縁っ!」
  しつこい……まだ眠い……。
 「縁っ!」
  ここで縁は目を覚ました。


  縁が目を開けると、正面には桃子の顔があった。
 「桃子……さん?」
  縁は寝惚け眼で、桃子に言うと、桃子はほっとした表情で縁に言った。
 「良かった……気が付いたか」
  縁が目線を横にずらすと、先には有村もいた。
  縁はゆっくりと起き上がった。
 「ここは?……俺は確か……」
  桃子が縁に言った。
 「いきなり動くな……」
 「そうか……あの後、気を失って……ここは?」
  畳の部屋に敷いてある布団の上に縁はいた。おそらく来客用の宿舎だろう。天井に付いてる明かりが少し眩しい。
  桃子は言った。
 「今晩我々が泊まる宿舎の2階だ……」
  有村は言った。
 「君が気絶したから、そのまま君の使う予定の部屋まで運んで来たのさ」
  縁は有村に言った。
 「悪いな……有村さん……」
  桃子は縁を心配そうに見て言った。
 「気分はどうだ?」
  縁は額に手を当てて言った。
 「とりあえず水が欲しい……」
  縁がそう言うと、桃子は鞄からペットボトルの水を取り出し縁に渡した。
  縁は水を受けとると、蓋を開けて勢いよく水を飲んだ。
  500mlのペットボトルの水を半分ぐらい飲み、一息ついた。
 「ふぅ……少し、スッキリした」
  桃子は言った。
 「どうしてあんな事に?……何をされた?」
  縁は眉間にシワを寄せた。
 「今のところは……わからない……」
  有村は怪訝な表情で言った。
 「わからない?……まさか、ほんとに精神的プレッシャーとか?」
  縁は言った。
 「まさか……でも、確かにあの目は……何て言うか、全てを見透かしたような……」
  天菜の眼力は相当なものだったようで、縁の表情は冴えなかった。
  桃子は言った。
 「私の時は何もなかったぞ……腹はたったが……」
  縁は言った。
 「それなんだよ……TVでも視たけど、桃子さんの時、見てる限りでは、桃子さんの身体に変化は無さそうだった。だとすれば、どうして俺の時だけ……」
  有村は言った。
 「何かカラクリがあると?」
  縁は頷いた。
 「天菜の言う精神的プレッシャーがイカサマだとすれば……トリックがあるはずだ……。だけど……」
  桃子は言った。
 「だけど……何だ?」
  縁は言った。
 「あの天菜という人間は……人身掌握に長けている事は確かだ……話してみてわかった」
  有村は言った。
 「カリスマ教祖様だからね……」
  縁は言った。
 「とにかく……帰る気は無くなったよ……。もう少し天菜の事を知りたくなった」
  桃子は意外そうに縁に言った。
 「珍しく乗り気だな……」
  縁は言った。
 「このままだと気持ちは悪いだけさ……」
  有村は言った。
 「気持ち悪い?」
  縁は言った。
 「胸の中を掴まれたような……気持ち悪ささ……」
  桃子は言った。
 「縁……」
  桃子は心配そうに縁を見ている。縁は眉間にシワを寄せたままだった。
  少し質問されて、いつの間にか気分が悪くなり、その後倒れた。縁にとっては初体験だった。
  これまでにも緊張感に満ちることは、いくらでもあったが、今回はそれらとは異なる。
  天菜の言う、精神的プレッシャーの正体は?……トリックなのか、それとも本物の超能力なのか……。
  縁は精神的プレッシャーの正体を解明する必要があった。
  それは天菜の質問が的を得ていたのだから……。
  すると、桃子が考え込んでいる縁に言った。
 「縁……少し外を歩かないか?外の空気に触れた方が良い……」
  縁は桃子に言った。
 「何だよ……気ぃ使ってんのか?」
  桃子は浮かない表情で言った。
 「そう言う訳ではないが……」
  これまで縁と桃子が共に行動し、事件に巻き込まれる事はあっても、縁の体調に異変がある事はなかった。桃子はおそらくそれを気にして、浮かない表情をしているのだろう。
  そんな桃子に縁は少し表情を緩めた。
 「らしくねぇぞ……。でも、まぁ……少し散歩でもしますか……」
  縁がそう言うと、桃子の表情は少し明るくなった。
  すると、有村が言った。
 「行ってらっしゃ~い……」
  縁は言った。
 「有村さん、行かねぇの?」
  有村はニコニコしながら言った。
 「僕は遠慮しとくよ……少し部屋でゆっくりしたいからね」
  縁は怪訝な表情で言った。
 「まぁ……いいけど……」
  有村は二人に手を振りながら言った。
 「何かあったら電話してねぇ」
  有村にそう言われると、桃子が言った。
 「行くぞ、縁……。警視殿も何かあったら連絡を……」
  有村は軽い感じで言った。
 「はい、は~い……」
  こうして縁と桃子は少し外を歩く事にした。
  部屋を出るとすぐ廊下があり、窓もある。
 「2階か……」
  縁がそう言うように、窓から伺える景色から、現在地が2階であることが確認できる。
  自然に囲まれた景色から、とても都内とは思えない。
  廊下の突き当たりの階段から1階へ行くと、客室が幾つかと、食堂、厨房などが確認できた。
  来客用の宿舎を出ると、目の前には田んぼが広がっており、白い胴着を着た信者達が、田んぼで作業を行っていた。
  それを見て桃子が言った。
 「彼らは……どういうつもりで、この村にやって来たのだろうな……」
  縁は感慨深い表情で信者達を見つめている。
  縁は呟いた。
 「カリスマ教祖……窟塚天菜……」
  すると、背後から声がした。
 「天菜様は教祖ではありませんよ……」
  声に反応し、縁と桃子が振り向くと、黒の胴着を着た、若い華奢な男性が立っていた。
  桃子が男性に反応した。
 「君は……確か……」
  男性は2人に一礼をして、桃子に言った。
 「先日はどうも……小笠原先生……」
  男性は縁を見て言った。
 「そちらの方は……初めてですね。風間翔かざましょうと申します」
  風間は人の良さそうな、優しい表情をしている。
  縁は風間に一礼した。
 「新井場縁です……」
  風間は言った。
 「天菜様の謁見で、お倒れになられたそうで……」
  風間は縁に対して申し訳なさそうな表情をした。
  縁は言った。
 「いえ……それより天菜が教祖ではない……とは?」
  風間はニコリとして言った。
 「そのままの意味ですよ。この窟塚村は宗教の村ではありませんから……」
  縁は言った。
 「『幸福学会』とは宗教団体では?」
  風間は首を横に振った。
 「世間ではそう言われていますが……この村にいる者は、私も含めて、天菜様に救われた者です」
  桃子が言った。
 「救われた?」
  風間は言った。
 「そう……この村の者は皆、心に傷をおっています。天菜様はその傷を癒す先生みたいなものです」
  縁は言った。
 「心に傷を?」
  風間は言った。
 「この国の社会はストレス社会です……それも年々酷くなっている……この村の者はストレス社会の被害者と言うべきですか……」
  縁は言った。
 「それは……虐めや、各ハラスメントによって、できた傷を……ここの人達は抱えていると?」
  風間は頷いた。
 「はい……それらの傷により、社会不適合になった者のリハビリの場所……」
  桃子が言った。
 「リハビリ施設のようなものか……」
  風間は言った。
 「そうです……この村で心を癒し、立ち直って、再び社会に旅立つ……。この村は、そう言った場所です」
  風間の話だと、この村は社会に貢献しているようにも、聞こえる。
  縁は言った。
 「貴方は自分も含めてと、言ったが……貴方も?」
  風間はニコリとして言った。
 「そうです……私も心に傷をおって、天菜様に救われた1人です」
  桃子が言った。
 「救われたと言う事は、立ち直っているのだろ?何故この村に止まる?」
  風間は言った。
 「私は天菜様の教え子です……天菜様のように人の心の傷を癒したいから、この村にいる……。それではいけませんか?」
  風間は優しい目をしているが、その目はまっすぐ何かを見据えているようだった。それは天菜によく似ていたが、同じ眼力でも天菜とは異なり、風間の目は優しさに満ちているようだ。
  縁は言った。
 「いや……貴方の表情を見ていると、否定はできないよ」
  風間はニコリとして言った。
 「そう言って頂けると幸いです。では私はこれで……じっくり村を見学して下さい。では……」
  そう言うと風間は縁と桃子に一礼をして、去って行った。
  去って行く風間を見て、縁が言った。
 「俺たち……この村に何しに来たんだっけ?」
  桃子は呆れて言った。
 「何を言い出すんだ、縁……窟塚天菜のメッキを剥がしに来たんだぞ」
  縁は桃子を冷たい眼差しで見た。
 「そう言う言い方をすると、悪党にみたいだぜ……」
   桃子はムッとした表情になった。
 「何て事を言うんだっ!」
  縁は言った。
 「でも……彼の言う事が本当なら……この村の活動は、真っ当だぜ……」
  すると、今度は別の声が聞こえた。
 「私は違うと思うな……」
  声のする方を見ると、ラフな格好をした男性二人組が、こちらに近づいて来た。
  見た感じから、この村の住人では無さそうだった。
  男性の1人は色黒で、首からカメラをぶら下げている。もう1人はキャップ帽を被った背の高い男性だった。
  カメラをぶら下げている男性が言った。
 「小笠原先生ですよね?TVで視ましたよ」
  TVというフレーズに、桃子はあからさまに、不機嫌な表情になった。
  男性は不機嫌な桃子を気にせず言った。
 「申し遅れました……私、ノンフィクション作家の金尾かねおと言います」
  すると、もう一人のキャップ帽の男性が言った。
 「私は横瀬よこせと言います……東應出版とうおうしゅっぱんの編集長です……そちらの少年は?」
  横瀬に手を指されたので、縁は言った。
 「新井場縁……高校生です」
  横瀬は興味津々で言った。
 「高校生?小笠原先生とはどういう関係?」
  縁は憮然とした表情で言った。
 「俺の事なんて、どうでもいいだろ……。それより、「私は違うと思う」とは、どういう意味ですか?」
  横瀬はニヤニヤしながら言った。
 「見ればわかるだろ?弱者を利用して金儲けしてるのさ……」
  横瀬の感じの悪い答えに、縁は言った。
 「何故言い切れる?」
  横瀬は両手を、自分の胸の前に上げて言った。
 「これ以上は言えないよ……それに取材の途中だからね」
  桃子も憮然とした表情で言った。
 「捏造記事のための、粗捜しか……」
  桃子も負けじと、感じの悪い言い方だ。
  すると、金尾が言った。
 「酷い言われようだな……私はノンフィクション作家ですよ……捏造なんてしませんよ」
  桃子は吐き捨てるように言った。
 「どうだかな……」
  横瀬が言った。
 「我々は窟塚天菜の、化けの皮を剥ぎに来た同志じゃないですか……仲良くしましょう」
  桃子はさらに不機嫌な表情で言った。
 「一緒にするなよ……」
  金尾が言った。
 「まぁまぁ……そう言わず……私たちもしばらくこの村に滞在しますから……」
  横瀬も言った。
 「そうそう……仲良くしましょう……では、また後程……」
  そう言うと2人は何処かへ去って行った。
  縁は言った。
 「感じの悪い連中だな……」
  桃子は不機嫌な表情のまま言った。
 「あんなのと同列だと思われるのは……不愉快だ。なぁ、縁……」
 「何だよ?」
 「先程の私も……あの2人みたいな感じだったか?」
  縁は笑って答えた。
 「はっ……全然……。桃子さんは天菜にしてやられた悔しさで、この村に来たけど……あの2人は明らかに違う……」
  桃子は言った。
 「そうか……ならいい……」
  縁は言った。
 「でも……なんか嫌な予感がする」
  この後……天菜の一言によって事態は急変することになり、 縁の予感が的中する事になる。
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