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連載
カイザード・アークライト ②
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この屋敷の筆頭執事の男性にエントランスで少し自己紹介しただけで僕は採用され、すぐに同じ御者仲間の先輩が現れて繋場へと連れて行かれることになった。
「よろしくな。俺はロイ。28歳だ。お前名前は?」
僕の前を歩きながら自己紹介する先輩に僕は挨拶した。
「僕はカイです。18歳です」
「そうか、カイって言うのか。よろしくな。でも助かったぜ。こんなに早く御者が見つかって。大体このフレーベル家の使用人たちは定着率が悪いからな~」
「え?」
その言葉が気になった。
「おっと、何でもない。聞かなかったことにしてくれ。何、この屋敷の旦那様と奥様、それとモニカお嬢様に気に入られれば居心地が良い働き場所になるはずさ」
「…はい」
僕は返事をしたが…ふと思った。ひょっとするとフレーベル伯爵家は格下の人間を見下す貴族なのではないだろうか―と。
繋場に到着した僕は他にもう1人の赤毛の先輩を紹介されて挨拶をした。彼の名前はトニー。年齢は25歳だった。2人の先輩は気さくな性格で、これから4年間一緒に働くには、そう悪くないかもしれないだろう。
その後、僕はこの町の地図を見せられフレーベル家の人達が良く行く場所などを教えて貰ったり、馬の世話や馬車の掃除等々…採用初日からいきなり仕事をする事になるのだった―。
****
夜8時―
使用人専用の食堂で食事を終えた僕はようやく自室に入って休むことが出来た。
「ふぅ…いきなり採用された日から働かされるとは思わなかったな…」
ドサリとベッドに横たわるとため息をついた。
僕にあてがわれた部屋は木のベッドが1台、小さなテーブルに椅子が1脚、そしてクローゼット付きの部屋だった。南向きで日差しも良く当たるし、一介の使用人にあてがわれた部屋としてはまぁまぁの処遇と言えるかも知れない。
「労働時間が24時間の8時間で交代制か…そして3日おきに回って来る当直…」
天井を見ながらポツリと呟く。
御者は普通の使用人達とは違い、屋敷の主たちから命じられればいつでも馬車を出せる用に待機していなくてはならない。なので当直の場合は繋ぎ場の隣にある仮眠室で寝泊まりする事が義務付けられていた。
「当直手当が1回につき、500オルトか…」
この金額が妥当かどうか、まだよく分らないが、4年間これから雇って貰うのだから精一杯お勤めしよう。
だけど、一つ気がかりな事があった。
『大体このフレーベル家の使用人たちは定着率が悪いからな~』
ロイ先輩の言葉が頭に蘇る。あの言葉は一体どういう意味なのだろうか…?
だけど、僕はその言葉の意味をいずれ身を持って知る事となる―。
****
この屋敷の御者として働き始めて、早いもので一月が経過しようとしていた。仕事にも大分慣れた僕は、今日も朝から厩舎で馬の世話をしていた。
「おい、カイ。一緒にこっちへ来てカードゲームでもやらないか?」
トニー先輩が僕を手招きした。
「いえ、遠慮しておきます。今は勤務時間なので」
馬に餌を与えながら答えると先輩がつまらなそうに言った。
「何だよ、つまんねー奴だな。どうせ俺達御者なんて殆ど仕事が無いんだからよ」
「そう言えば、確かにそうですね。御者は毎日ご主人様達を乗せて目的地へお連れするのが役目だと思っていたのですが」
それは採用された次の日から疑問に思っていた事だ。
「ああ、そうなんだ。旦那様のダミアン様は屋敷内で仕事をしているし、奥様もモニカお嬢様も殆ど屋敷から出ないしな。せいぜい毎日出かけているのはアゼリア様だけだが、あの人は別だからな」
「え?アゼリア様って…誰ですか?」
「あ?ああ。お前は新入りだからまだ知らなかったんだな。アゼリア様はフレーベル家の長女さ。最も血の繋がりは無いけどな。だから旦那様達から酷く冷遇されてるんだよ…って。あ、噂をすれば何とやら…だ。アゼリア様が現れたぞ」
トニー先輩が厩舎の外に目を向けた。
「え?」
言われた僕は先輩の視線を追い…初めて彼女を見た。遠目からだったからよく分らなかったけれど、栗毛色の長い髪が印象的な少女だった。そして真っ白な制服。あれは…。
「もしかして…アカデミーの生徒…?」
僕の呟きが聞こえたのか、先輩が頷いた。
「ああ。そうらしいな。でもそもそもアカデミーって言うのがどういう場所なのか俺は知らないけどな」
そうか、中にはアカデミーすら知らない市民がいてもおかしくない。アカデミーは全国各地にあり、頭の良い人でなければ入学出来ないのだ。でもそこに通っていると言いう事は相当頭が良いのだろう。
アゼリアは此方を見向きもせずにスクールバックを持って、正門へと向かって歩いている。
「…一体何所へ行くつもりなのだろう?」
僕が首を傾げるとトニー先輩が言った。
「は?何言ってるんだ。アカデミーに行くに決まってるじゃないか?」
「え?だったら何故僕達御者がいるのに使わないのですか?」
「当り前だろう?旦那様達からはフレーベル家の馬車を使う事を禁じられているし、俺達だってアゼリア様を乗せる事を禁じられているんだから。そういや、お前に言い忘れていたな」
トニー先輩は僕を見ると言った。
「いいか、カイ。絶対にアゼリア様を馬車に乗せるなよ?どんなに頼まれてもだ。もし乗せたことがばれたら…俺達全員ただじゃすまないからな?いいか?この屋敷で働いていたいなら…絶対にアゼリア様を無視するんだ。分ったな」
僕はその言葉に息を飲んだ―。
「よろしくな。俺はロイ。28歳だ。お前名前は?」
僕の前を歩きながら自己紹介する先輩に僕は挨拶した。
「僕はカイです。18歳です」
「そうか、カイって言うのか。よろしくな。でも助かったぜ。こんなに早く御者が見つかって。大体このフレーベル家の使用人たちは定着率が悪いからな~」
「え?」
その言葉が気になった。
「おっと、何でもない。聞かなかったことにしてくれ。何、この屋敷の旦那様と奥様、それとモニカお嬢様に気に入られれば居心地が良い働き場所になるはずさ」
「…はい」
僕は返事をしたが…ふと思った。ひょっとするとフレーベル伯爵家は格下の人間を見下す貴族なのではないだろうか―と。
繋場に到着した僕は他にもう1人の赤毛の先輩を紹介されて挨拶をした。彼の名前はトニー。年齢は25歳だった。2人の先輩は気さくな性格で、これから4年間一緒に働くには、そう悪くないかもしれないだろう。
その後、僕はこの町の地図を見せられフレーベル家の人達が良く行く場所などを教えて貰ったり、馬の世話や馬車の掃除等々…採用初日からいきなり仕事をする事になるのだった―。
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夜8時―
使用人専用の食堂で食事を終えた僕はようやく自室に入って休むことが出来た。
「ふぅ…いきなり採用された日から働かされるとは思わなかったな…」
ドサリとベッドに横たわるとため息をついた。
僕にあてがわれた部屋は木のベッドが1台、小さなテーブルに椅子が1脚、そしてクローゼット付きの部屋だった。南向きで日差しも良く当たるし、一介の使用人にあてがわれた部屋としてはまぁまぁの処遇と言えるかも知れない。
「労働時間が24時間の8時間で交代制か…そして3日おきに回って来る当直…」
天井を見ながらポツリと呟く。
御者は普通の使用人達とは違い、屋敷の主たちから命じられればいつでも馬車を出せる用に待機していなくてはならない。なので当直の場合は繋ぎ場の隣にある仮眠室で寝泊まりする事が義務付けられていた。
「当直手当が1回につき、500オルトか…」
この金額が妥当かどうか、まだよく分らないが、4年間これから雇って貰うのだから精一杯お勤めしよう。
だけど、一つ気がかりな事があった。
『大体このフレーベル家の使用人たちは定着率が悪いからな~』
ロイ先輩の言葉が頭に蘇る。あの言葉は一体どういう意味なのだろうか…?
だけど、僕はその言葉の意味をいずれ身を持って知る事となる―。
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この屋敷の御者として働き始めて、早いもので一月が経過しようとしていた。仕事にも大分慣れた僕は、今日も朝から厩舎で馬の世話をしていた。
「おい、カイ。一緒にこっちへ来てカードゲームでもやらないか?」
トニー先輩が僕を手招きした。
「いえ、遠慮しておきます。今は勤務時間なので」
馬に餌を与えながら答えると先輩がつまらなそうに言った。
「何だよ、つまんねー奴だな。どうせ俺達御者なんて殆ど仕事が無いんだからよ」
「そう言えば、確かにそうですね。御者は毎日ご主人様達を乗せて目的地へお連れするのが役目だと思っていたのですが」
それは採用された次の日から疑問に思っていた事だ。
「ああ、そうなんだ。旦那様のダミアン様は屋敷内で仕事をしているし、奥様もモニカお嬢様も殆ど屋敷から出ないしな。せいぜい毎日出かけているのはアゼリア様だけだが、あの人は別だからな」
「え?アゼリア様って…誰ですか?」
「あ?ああ。お前は新入りだからまだ知らなかったんだな。アゼリア様はフレーベル家の長女さ。最も血の繋がりは無いけどな。だから旦那様達から酷く冷遇されてるんだよ…って。あ、噂をすれば何とやら…だ。アゼリア様が現れたぞ」
トニー先輩が厩舎の外に目を向けた。
「え?」
言われた僕は先輩の視線を追い…初めて彼女を見た。遠目からだったからよく分らなかったけれど、栗毛色の長い髪が印象的な少女だった。そして真っ白な制服。あれは…。
「もしかして…アカデミーの生徒…?」
僕の呟きが聞こえたのか、先輩が頷いた。
「ああ。そうらしいな。でもそもそもアカデミーって言うのがどういう場所なのか俺は知らないけどな」
そうか、中にはアカデミーすら知らない市民がいてもおかしくない。アカデミーは全国各地にあり、頭の良い人でなければ入学出来ないのだ。でもそこに通っていると言いう事は相当頭が良いのだろう。
アゼリアは此方を見向きもせずにスクールバックを持って、正門へと向かって歩いている。
「…一体何所へ行くつもりなのだろう?」
僕が首を傾げるとトニー先輩が言った。
「は?何言ってるんだ。アカデミーに行くに決まってるじゃないか?」
「え?だったら何故僕達御者がいるのに使わないのですか?」
「当り前だろう?旦那様達からはフレーベル家の馬車を使う事を禁じられているし、俺達だってアゼリア様を乗せる事を禁じられているんだから。そういや、お前に言い忘れていたな」
トニー先輩は僕を見ると言った。
「いいか、カイ。絶対にアゼリア様を馬車に乗せるなよ?どんなに頼まれてもだ。もし乗せたことがばれたら…俺達全員ただじゃすまないからな?いいか?この屋敷で働いていたいなら…絶対にアゼリア様を無視するんだ。分ったな」
僕はその言葉に息を飲んだ―。
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