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カイザード・アークライト ③
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早いもので、フレーベル家へ御者として雇われて半年が経過していた。
その間に僕はフレーベル家の人達を乗せて馬車を走らせた事が何度もあったけれどもやはりそこにアゼリアの姿はなかった。僕は初め先輩たちからフレーベル家の人々がアゼリアを冷遇しているという話を情を聞かされた時、何かの冗談だろうと思っていた。けれども本当に彼等はアゼリアの存在を完全に無視していた事が分かった。それだけじゃない、使用人たちがアゼリアを馬鹿にして虐めていることも知ってしまった。
けれど、僕はまだ一度も彼女と接触もしたことが無かったのでどうすることも出来なかった。そもそも接点が無かった。何故ならアゼリアは決して繋場へ来る事が無かったからだ。
彼女は真っ白なアカデミーの制服を来て、いつもまっすぐ前だけを向いて繋ぎ場の前を通り過ぎて正門目指して歩いていた。僕は為す術も無く、アゼリアを見つめるしか出来なかった。
アゼリアを助けてあげたい…。
日に日にその思いが募っていった―。
****
それはクリスマスの出来事だった。突然アゼリアが僕らの前に現れたのだ。彼女は繋場に来るなり、頭を下げてきた。
「お願いしますっ!どうか…どうか私を馬車に乗せて下さいっ!帰りの馬車まではお願いしませんからっ!」
その顔は今にも泣きそうで…見ているこっちが辛くなってくる程だった。
「冗談じゃない。何でアゼリア様の為に馬車を出さなきゃならないんですか?」
「通学用の辻馬車を使えばいいでしょう?」
2人の先輩たちは次々に言う。僕だけは…新人で一番年若いと言う事もあり、何も発言出来なかった。それに僕がアゼリアを庇えば、この先輩たちはきっと罰を受けてしまうだろう。フレーベル家では使用人の誰かがミスをすれば、その部署の全員が連帯責任として厳しい罰を受けていた。その現状を何度も目にしてきている。だからこの屋敷では使用人の定着率が悪かった。
「本当にお願いしますっ!もう…時間が無いんです!」
アゼリアの目に薄っすら涙が浮かんでいた。いくらフレーベル家の本当の娘じゃないとしても彼女は伯爵令嬢だ。それなのに使用人に敬語を使って頭を下げている。こんな事…普通じゃ決して許されないことだ。だけど、今の僕は一介の平民に過ぎない。ここで何か事を起こせば今まで12年間努力に努力を重ね…頑張ってきた事が全て水の泡になってしまうかもしれない。
ごめん…!アゼリア…ッ!
もう彼女の顔を見ることも出来ずに、視線をそらせた。
「今夜の仕事はもう終わりだし‥‥クリスマスだから一杯やりにいくか」
ロイ先輩が口を開いた。
「よし、それはいいな。カイ、お前も行くだろう」
トニー先輩が声を掛けてくる。
「あ、ああ…」
僕はどうしようもない罪悪感にさいなまされながら返事をした、その時―。
「お願いですっ!足を…足を怪我して歩けないんですっ!」
その声は涙声だった。
え…?
僕は足を止めてアゼリアをこの時、初めて正面から彼女を見つめた。アゼリアは小刻みに震えながら助けを求めるように僕をじっと見つめている。まるで宝石のように光り輝くグリーンの瞳には涙が浮かんでいた。
…なんて美しいんだろう…
非常事態にも関わらず、僕は頭の片隅で…そう、思った―。
****
結局先輩たちに猛反対されながらも僕はアゼリアを馬車に乗せることにした。
ごめんさない、先輩達…。
だけど僕はいずれこの国の王になる身。目の前で助けを求めて訴えている少女1人助けられなくて、どうして国王になどなれるだろう?
これで王位継承の資格を剥奪されても悔いはない…。アゼリアを助けてあげなければという気持ちが勝っていた。
「大丈夫ですか?アゼリア様」
アゼリアを馬車に案内する時、彼女は顔が真っ青になっていた。相当足が痛かったのだろう。
「…失礼します、アゼリア様」
僕はアゼリアを抱き上げた。
「キャアッ!」
突然抱き上げられたアゼリアは悲鳴を上げた。
「ご無礼をお許し下さい、足が痛むのでしょう?」
僕はアゼリアを抱き抱えながら馬車に向い、抱き抱えたまま乗り込むと椅子に座らせた。
「ありがとう、カイ…」
アゼリアはうつむきながら小さな声で僕にお礼を言った。その顔は真っ赤になっていた。
フフフ…可愛いな…。
僕はアゼリアを乗せて馬車を走らせた。
アカデミーで開かれるクリスマスパーティーにアゼリアを連れて行く為に…。
そして、この日を堺に僕とアゼリアの誰にも内緒の交流が始まった―。
その間に僕はフレーベル家の人達を乗せて馬車を走らせた事が何度もあったけれどもやはりそこにアゼリアの姿はなかった。僕は初め先輩たちからフレーベル家の人々がアゼリアを冷遇しているという話を情を聞かされた時、何かの冗談だろうと思っていた。けれども本当に彼等はアゼリアの存在を完全に無視していた事が分かった。それだけじゃない、使用人たちがアゼリアを馬鹿にして虐めていることも知ってしまった。
けれど、僕はまだ一度も彼女と接触もしたことが無かったのでどうすることも出来なかった。そもそも接点が無かった。何故ならアゼリアは決して繋場へ来る事が無かったからだ。
彼女は真っ白なアカデミーの制服を来て、いつもまっすぐ前だけを向いて繋ぎ場の前を通り過ぎて正門目指して歩いていた。僕は為す術も無く、アゼリアを見つめるしか出来なかった。
アゼリアを助けてあげたい…。
日に日にその思いが募っていった―。
****
それはクリスマスの出来事だった。突然アゼリアが僕らの前に現れたのだ。彼女は繋場に来るなり、頭を下げてきた。
「お願いしますっ!どうか…どうか私を馬車に乗せて下さいっ!帰りの馬車まではお願いしませんからっ!」
その顔は今にも泣きそうで…見ているこっちが辛くなってくる程だった。
「冗談じゃない。何でアゼリア様の為に馬車を出さなきゃならないんですか?」
「通学用の辻馬車を使えばいいでしょう?」
2人の先輩たちは次々に言う。僕だけは…新人で一番年若いと言う事もあり、何も発言出来なかった。それに僕がアゼリアを庇えば、この先輩たちはきっと罰を受けてしまうだろう。フレーベル家では使用人の誰かがミスをすれば、その部署の全員が連帯責任として厳しい罰を受けていた。その現状を何度も目にしてきている。だからこの屋敷では使用人の定着率が悪かった。
「本当にお願いしますっ!もう…時間が無いんです!」
アゼリアの目に薄っすら涙が浮かんでいた。いくらフレーベル家の本当の娘じゃないとしても彼女は伯爵令嬢だ。それなのに使用人に敬語を使って頭を下げている。こんな事…普通じゃ決して許されないことだ。だけど、今の僕は一介の平民に過ぎない。ここで何か事を起こせば今まで12年間努力に努力を重ね…頑張ってきた事が全て水の泡になってしまうかもしれない。
ごめん…!アゼリア…ッ!
もう彼女の顔を見ることも出来ずに、視線をそらせた。
「今夜の仕事はもう終わりだし‥‥クリスマスだから一杯やりにいくか」
ロイ先輩が口を開いた。
「よし、それはいいな。カイ、お前も行くだろう」
トニー先輩が声を掛けてくる。
「あ、ああ…」
僕はどうしようもない罪悪感にさいなまされながら返事をした、その時―。
「お願いですっ!足を…足を怪我して歩けないんですっ!」
その声は涙声だった。
え…?
僕は足を止めてアゼリアをこの時、初めて正面から彼女を見つめた。アゼリアは小刻みに震えながら助けを求めるように僕をじっと見つめている。まるで宝石のように光り輝くグリーンの瞳には涙が浮かんでいた。
…なんて美しいんだろう…
非常事態にも関わらず、僕は頭の片隅で…そう、思った―。
****
結局先輩たちに猛反対されながらも僕はアゼリアを馬車に乗せることにした。
ごめんさない、先輩達…。
だけど僕はいずれこの国の王になる身。目の前で助けを求めて訴えている少女1人助けられなくて、どうして国王になどなれるだろう?
これで王位継承の資格を剥奪されても悔いはない…。アゼリアを助けてあげなければという気持ちが勝っていた。
「大丈夫ですか?アゼリア様」
アゼリアを馬車に案内する時、彼女は顔が真っ青になっていた。相当足が痛かったのだろう。
「…失礼します、アゼリア様」
僕はアゼリアを抱き上げた。
「キャアッ!」
突然抱き上げられたアゼリアは悲鳴を上げた。
「ご無礼をお許し下さい、足が痛むのでしょう?」
僕はアゼリアを抱き抱えながら馬車に向い、抱き抱えたまま乗り込むと椅子に座らせた。
「ありがとう、カイ…」
アゼリアはうつむきながら小さな声で僕にお礼を言った。その顔は真っ赤になっていた。
フフフ…可愛いな…。
僕はアゼリアを乗せて馬車を走らせた。
アカデミーで開かれるクリスマスパーティーにアゼリアを連れて行く為に…。
そして、この日を堺に僕とアゼリアの誰にも内緒の交流が始まった―。
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