余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
35 / 73
連載

カイザード・アークライト ③

しおりを挟む
 早いもので、フレーベル家へ御者として雇われて半年が経過していた。

その間に僕はフレーベル家の人達を乗せて馬車を走らせた事が何度もあったけれどもやはりそこにアゼリアの姿はなかった。僕は初め先輩たちからフレーベル家の人々がアゼリアを冷遇しているという話を情を聞かされた時、何かの冗談だろうと思っていた。けれども本当に彼等はアゼリアの存在を完全に無視していた事が分かった。それだけじゃない、使用人たちがアゼリアを馬鹿にして虐めていることも知ってしまった。
けれど、僕はまだ一度も彼女と接触もしたことが無かったのでどうすることも出来なかった。そもそも接点が無かった。何故ならアゼリアは決して繋場へ来る事が無かったからだ。

彼女は真っ白なアカデミーの制服を来て、いつもまっすぐ前だけを向いて繋ぎ場の前を通り過ぎて正門目指して歩いていた。僕は為す術も無く、アゼリアを見つめるしか出来なかった。

アゼリアを助けてあげたい…。

日に日にその思いが募っていった―。


****

 それはクリスマスの出来事だった。突然アゼリアが僕らの前に現れたのだ。彼女は繋場に来るなり、頭を下げてきた。

「お願いしますっ!どうか…どうか私を馬車に乗せて下さいっ!帰りの馬車まではお願いしませんからっ!」

その顔は今にも泣きそうで…見ているこっちが辛くなってくる程だった。

「冗談じゃない。何でアゼリア様の為に馬車を出さなきゃならないんですか?」

「通学用の辻馬車を使えばいいでしょう?」

2人の先輩たちは次々に言う。僕だけは…新人で一番年若いと言う事もあり、何も発言出来なかった。それに僕がアゼリアを庇えば、この先輩たちはきっと罰を受けてしまうだろう。フレーベル家では使用人の誰かがミスをすれば、その部署の全員が連帯責任として厳しい罰を受けていた。その現状を何度も目にしてきている。だからこの屋敷では使用人の定着率が悪かった。

「本当にお願いしますっ!もう…時間が無いんです!」

アゼリアの目に薄っすら涙が浮かんでいた。いくらフレーベル家の本当の娘じゃないとしても彼女は伯爵令嬢だ。それなのに使用人に敬語を使って頭を下げている。こんな事…普通じゃ決して許されないことだ。だけど、今の僕は一介の平民に過ぎない。ここで何か事を起こせば今まで12年間努力に努力を重ね…頑張ってきた事が全て水の泡になってしまうかもしれない。

ごめん…!アゼリア…ッ!

もう彼女の顔を見ることも出来ずに、視線をそらせた。

「今夜の仕事はもう終わりだし‥‥クリスマスだから一杯やりにいくか」

ロイ先輩が口を開いた。

「よし、それはいいな。カイ、お前も行くだろう」

トニー先輩が声を掛けてくる。

「あ、ああ…」

僕はどうしようもない罪悪感にさいなまされながら返事をした、その時―。

「お願いですっ!足を…足を怪我して歩けないんですっ!」

その声は涙声だった。

え…?

僕は足を止めてアゼリアをこの時、初めて正面から彼女を見つめた。アゼリアは小刻みに震えながら助けを求めるように僕をじっと見つめている。まるで宝石のように光り輝くグリーンの瞳には涙が浮かんでいた。

…なんて美しいんだろう…

非常事態にも関わらず、僕は頭の片隅で…そう、思った―。


****

 結局先輩たちに猛反対されながらも僕はアゼリアを馬車に乗せることにした。
ごめんさない、先輩達…。
だけど僕はいずれこの国の王になる身。目の前で助けを求めて訴えている少女1人助けられなくて、どうして国王になどなれるだろう?

これで王位継承の資格を剥奪されても悔いはない…。アゼリアを助けてあげなければという気持ちが勝っていた。


「大丈夫ですか?アゼリア様」

アゼリアを馬車に案内する時、彼女は顔が真っ青になっていた。相当足が痛かったのだろう。

「…失礼します、アゼリア様」

僕はアゼリアを抱き上げた。

「キャアッ!」

突然抱き上げられたアゼリアは悲鳴を上げた。

「ご無礼をお許し下さい、足が痛むのでしょう?」

僕はアゼリアを抱き抱えながら馬車に向い、抱き抱えたまま乗り込むと椅子に座らせた。

「ありがとう、カイ…」

アゼリアはうつむきながら小さな声で僕にお礼を言った。その顔は真っ赤になっていた。

フフフ…可愛いな…。

僕はアゼリアを乗せて馬車を走らせた。

アカデミーで開かれるクリスマスパーティーにアゼリアを連れて行く為に…。



そして、この日を堺に僕とアゼリアの誰にも内緒の交流が始まった―。





しおりを挟む
感想 1,474

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。