余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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ヨハン・ブレイズ 6

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 < 私の大切な人なのです >

 アゼリアの口から『カイ』と言う青年の名前と、この言葉が出てきた時は正直言って驚いた。アゼリアはマルセル様という婚約者がいたにも関わらず、本当は別の男性に恋していたとは思いもしなかった。だが…アゼリアが白血病になるまで、命がこと切れてしまうかもしれない寸前まで婚約者に見向きもされなければ、別の男性を好きになっても仕方の無い事だろう。

『カイ』…一体どんな青年なのだろう?アゼリアが好きになった相手だ。きっと素晴らしい青年に違いない。もし『カイ』の居場所が分かり、女性の影が周囲に無ければアゼリアに寄り沿って貰えないか頼んでみよう。

アゼリア…君の最後を迎える時は、今まで生きてきて良かったと心から思える人生にさせてあげるよ。それが…「兄」としての僕の役割だから―。


****

 診察待ちの患者さんがいなかったので、今日は18時丁度に診療所を閉める事が出来た。戸締りをしていると、突然電話が鳴り響いた。恐らくベンジャミンかもしれない。小さくため息をつくと電話に出た。

「はい、ヨハン・ブレイズ診療所です」

『ヨハン、俺だ。オリバーだよ』

電話の相手はオリバーからだった。

「オリバーか?一体どうしたんだ?」

『いや…実はお前に謝っておきたい事があって‥』

「僕に?」

『ああ、この間ベンジャミンが新聞社にやってきた時、珍しくあいつが俺の働く部署へやってきたんだよ』

「そうだったのか?」

『結局俺の所へ来たのは大した用事があったわけじゃないんだが…それが運悪くアゼリアのペンダントの写真と20年前の新聞記事を漁っていた時だったんだよ。それであいつが尋ねて来たんだ。何でこんな物を調べているんだって根掘り葉掘り聞かれて…ほら、あいつ弁護士だろう?あんまり黙っていると何かやましい事があるんじゃないか疑われそうでさ…。一応ベンジャミンは俺の勤務先の顧問弁護士だし…」

「それで…アゼリアの事を話してしまったのか…。だからベンジャミンは診療所にやってきたんだな?」

『な、何だってっ?!あいつお前の所に来たのかっ?!』

「ああ、診療時間中に訪ねてきたんだよ」

『すまん!ヨハンッ!あいつめ…』

突然オリバーが電話越しから謝ってきた。

「…別にいいさ。謝らなくても…遅かれ早かれベンジャミンにもアゼリアの事は話すつもりだったから。一度帰ってもらったけど、これから来ることになってるんだ」

『何だってっ?!よ、よし!俺も今から行くぞ!』

「え…?だけどまだ仕事中だろう?」

『そんなの取材に出かけるって言えば平気だ。よし、待ってろよっ!』

オリバーはそれだけ言うと電話が切れた。

「ふぅ…」

受話器を置いて部屋に戻ろうとすると、今度は診療所の扉がノックされる音が聞こえた。

ドンドン

「おや?誰だろう…?時間外の患者さんか…?」

そして扉を開けると、そこにマルセル様が立っていた。え?何故彼がここに?

「すみません。いきなり訪ねてしまって…そこの電話ボックスで電話を掛けたのですが、電話が通じなかったので…」

「何か御用ですか?」

タイミングが悪い。今日のところは申し訳ないが適当に言い訳をしてマルセル様に帰ってもらおう。

「ええ、実はアゼリアと少し話がしたくて…」

「それなら申し訳ないですが、アゼリアは今…」

口を開きかけた時、マルセル様の背後から声が聞こえた。

「こんばんは、ヨハン。言われた通り、やってきたよ。アゼリアと話をさせてくれるんだろう?」

「え?」

マルセル様は驚いたように振り返った。…何てタイミングが悪いのだろう。そこにはベンジャミンがよりにもよってイングリット様を伴って立っていたのだ。

「ベンジャミン…来たのか。それにイングリット様も」

チッ
思わず心の中で舌打ちを打つ。
ベンジャミンは何故彼女をここへ連れてきた?こういう無神経な真似を悪びる事も無く平気でするから…僕は昔からベンジャミンが苦手だったのだ。

「こんばんは、ヨハン先生。ベンジャミンからアゼリアさんの話を聞き、是非お会いしたくて無理を言ってついてきてしまいました」

気合の入った外出着姿のイングリット様は僕に声を掛けてきた。

「一体、どういうことなのです?ヨハン先生」

事情が全く飲み込めないであろうマルセル様が僕を見た。…もうこうなったら彼はおとなしく引き下がらないだろう。

「…分かりました。まとめてご説明致しますから皆さん、取り敢えず中へお入り下さい」

診療所の扉を大きく開け放つと、マルセル様を先頭に、ベンジャミンとイングリット様が入ってきた。そして扉を閉めようとした時…。

「おーい!ヨハンッ!」

石畳の上を自転車を漕いでオリバーがこちらへ向かってやってくるのが見えた。

「オリバーッ!」

良かった!オリバーがいてくれれば何とかなりそうだ。

「す、すまん。遅くなって」

息を切らせながら自転車を診療所に横付けしたオリバーに僕は言った。

「ナイスだ、オリバー。早く中へ入ってくれ。それで悪いけど君が3人を応接室へ案内してくれないか?僕はケリーを呼んでくるから」

「あ、ああ…?別にそれは構わないけど…」

診察室に入ったオリバーはそこに立っている3人の人物を見て固まったのは言うまでもなかった―。


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