22 / 73
連載
マルセル・ハイム 14
しおりを挟む
「しかし…余程アゼリアは我々に気を遣っているのだろうな?マルセルとの婚約を破棄して欲しいと訴えてきたのだから」
父は腕組みをしながらため息をつく。
「ええ、自分の命が限られているからと言って…それにしても驚いたわ。マルセルからその話を聞かされたときは」
母が険しい顔で俺の顔を見る。
「貴方も驚いたでしょう?病気の事でアゼリアが婚約破棄を言い出すとは思わなかったのではなくて?」
「…」
しかし、俺は母の問いにはすぐに答えられなかった。アゼリアが俺から婚約破棄を言い出して貰いたいという理由は疑問どころか心当たりしかなかったからだ。もう、俺はこれ以上黙っている事は出来なかった。アゼリアが死ぬ前に何故俺と婚約破棄をして欲しいと願い出て来たのか本当の理由を言っておかなければ、彼女が死んだ後…多分俺は一生後悔し続けて生きていくことになるだろう。
「父さん…母さん…聞いてください。アゼリアが何故…俺と婚約破棄をしたいと申し出て来たのか‥本当の理由を…」
「何?病気の事以外、他になにかあるのか?」
父がこちらを見た。
「マルセル…ひょっとして何かやましい事でもあるかしら?」
母の俺を見る目が…すわっていた。
「じ、実は…」
俺は意を決して2人に告白した。婚約が決まってから2年間、俺が今までアゼリアにどの様な扱いをしてきたのかを―。
****
1時間後―
「ふぅ…」
父と母に散々説教をされて、ようやく俺はソファに深く座り込んでため息をついた。それにしてもあれ程に父と母が感情を露わにするとは驚きだった。母は俺とフレーベル家い対し激しい怒りをぶつけ、父は俺がもっとアゼリアを気に掛けていればこんな事にはなってはいなかったと怒鳴られたのだ。そして俺に罰が下された。
『接近禁止令』
情けない事に俺は両親から、アゼリアの許可なしには彼女に勝手に会ってはいけないし、姿を見せる事もしてはいけないと命じられてしまったのだ。
父と母曰く…
『マルセルがそばにいるとアゼリアは安心して病気の治療に専念出来ない』
と判断した為だった。さらにアゼリアが俺との婚約破棄を望んでいるなら、潔く受け入れろと2人に釘を刺されてしまった。
そして今、俺は1人リビングに残されている。先程父と母はアゼリアのいる病床へ向かった。恐らく、2人の口からアゼリアに婚約破棄を受け入れたと話をしに行くのだろう。
「アゼリア…」
俺はポツリとアゼリアの名を口にした。いつからだろう?4年前、初めてあったばかりの頃のアゼリアは物静かで知性と理性に溢れた美しい少女だった。たまに母が屋敷に連れてくると、その度に3人でテーブルを囲んで会話をしたが、アゼリアは俺と目が合うだけで、頬を染めて視線を逸らすような少女だった。
2年前に母が俺とアゼリアの婚約者にしたいと持ちかけてきた時は、断る理由は何所にも無かった。彼女となら良い家庭を築けるだろう…俺はそう思っていた―。それに自惚れでは無く、きっとアゼリアも俺の事を好いてくれているだろう。そう思っていたのだ。
それがいつの日だろうか…気付けば俺を見る彼女の目に感情が伴わなくなっている事に気付いたのは…。
「俺がもっと早くアゼリアを気に掛けていれば‥アゼリアは病気になる事も‥悪化する事も無かったのか…?」
俺は1人、深いため息をついた―。
****
点滴のお陰ですっかり身体が楽になった私はケリーと今後の事について色々話をしていた。
「アゼリア様、体調が良くなったら何かしてみたい事はありますか?」
ケリーが言いながら皮をむいて切り分けたリンゴをフォークに差して渡してくれた。
「ありがとう。」
早速リンゴを口に入れてシャクシャクと咀嚼した。甘いリンゴの味が口の中に広がる。
「リンゴ、とても美味しいわ。ありがとう」
「いいえ、とんでもありません。それで先程の話しの続きですけど…」
ケリーが言いかけた時、扉のノックの音が聞こえた―。
父は腕組みをしながらため息をつく。
「ええ、自分の命が限られているからと言って…それにしても驚いたわ。マルセルからその話を聞かされたときは」
母が険しい顔で俺の顔を見る。
「貴方も驚いたでしょう?病気の事でアゼリアが婚約破棄を言い出すとは思わなかったのではなくて?」
「…」
しかし、俺は母の問いにはすぐに答えられなかった。アゼリアが俺から婚約破棄を言い出して貰いたいという理由は疑問どころか心当たりしかなかったからだ。もう、俺はこれ以上黙っている事は出来なかった。アゼリアが死ぬ前に何故俺と婚約破棄をして欲しいと願い出て来たのか本当の理由を言っておかなければ、彼女が死んだ後…多分俺は一生後悔し続けて生きていくことになるだろう。
「父さん…母さん…聞いてください。アゼリアが何故…俺と婚約破棄をしたいと申し出て来たのか‥本当の理由を…」
「何?病気の事以外、他になにかあるのか?」
父がこちらを見た。
「マルセル…ひょっとして何かやましい事でもあるかしら?」
母の俺を見る目が…すわっていた。
「じ、実は…」
俺は意を決して2人に告白した。婚約が決まってから2年間、俺が今までアゼリアにどの様な扱いをしてきたのかを―。
****
1時間後―
「ふぅ…」
父と母に散々説教をされて、ようやく俺はソファに深く座り込んでため息をついた。それにしてもあれ程に父と母が感情を露わにするとは驚きだった。母は俺とフレーベル家い対し激しい怒りをぶつけ、父は俺がもっとアゼリアを気に掛けていればこんな事にはなってはいなかったと怒鳴られたのだ。そして俺に罰が下された。
『接近禁止令』
情けない事に俺は両親から、アゼリアの許可なしには彼女に勝手に会ってはいけないし、姿を見せる事もしてはいけないと命じられてしまったのだ。
父と母曰く…
『マルセルがそばにいるとアゼリアは安心して病気の治療に専念出来ない』
と判断した為だった。さらにアゼリアが俺との婚約破棄を望んでいるなら、潔く受け入れろと2人に釘を刺されてしまった。
そして今、俺は1人リビングに残されている。先程父と母はアゼリアのいる病床へ向かった。恐らく、2人の口からアゼリアに婚約破棄を受け入れたと話をしに行くのだろう。
「アゼリア…」
俺はポツリとアゼリアの名を口にした。いつからだろう?4年前、初めてあったばかりの頃のアゼリアは物静かで知性と理性に溢れた美しい少女だった。たまに母が屋敷に連れてくると、その度に3人でテーブルを囲んで会話をしたが、アゼリアは俺と目が合うだけで、頬を染めて視線を逸らすような少女だった。
2年前に母が俺とアゼリアの婚約者にしたいと持ちかけてきた時は、断る理由は何所にも無かった。彼女となら良い家庭を築けるだろう…俺はそう思っていた―。それに自惚れでは無く、きっとアゼリアも俺の事を好いてくれているだろう。そう思っていたのだ。
それがいつの日だろうか…気付けば俺を見る彼女の目に感情が伴わなくなっている事に気付いたのは…。
「俺がもっと早くアゼリアを気に掛けていれば‥アゼリアは病気になる事も‥悪化する事も無かったのか…?」
俺は1人、深いため息をついた―。
****
点滴のお陰ですっかり身体が楽になった私はケリーと今後の事について色々話をしていた。
「アゼリア様、体調が良くなったら何かしてみたい事はありますか?」
ケリーが言いながら皮をむいて切り分けたリンゴをフォークに差して渡してくれた。
「ありがとう。」
早速リンゴを口に入れてシャクシャクと咀嚼した。甘いリンゴの味が口の中に広がる。
「リンゴ、とても美味しいわ。ありがとう」
「いいえ、とんでもありません。それで先程の話しの続きですけど…」
ケリーが言いかけた時、扉のノックの音が聞こえた―。
70
お気に入りに追加
9,042
あなたにおすすめの小説
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。