313 / 882
それぞれの悪巧み編
episode294
しおりを挟む
1万年も前の世界は、3つの種族、3つの惑星で成り立っていた。太陽を中心として、正三角形を描くように、3つの惑星が取り囲んでいる。
惑星ヒイシはヴィプネン族、惑星ペッコはアイオン族、惑星タピオはトゥーリ族が治めていた。それぞれの惑星には種族の統一国家があり、そして種族間で戦争が絶え間なく起こっていたのだ。
戦争の火種の詳細は、後世にはあまり伝えられていない。
一説によると、火種はアルケラだという。神々と幻想の住人たちが暮らす世界のことだ。
アルケラはどの惑星からも、月のように最も近くに存在し、しかし誰も到達することができない距離にあると言われていた。
月そのものがアルケラだ、という伝承もある。月は各惑星の軌道に存在しているが、それ自体が幻だと言う。3つ惑星で見える月は一つのものであり、各惑星にその姿を写しているだけ。月こそがアルケラだと伝える者もいた。
存在を信じているのに、目に見え、形あるものなのに、手が届きそうで届かない。
人々は神の持つ超常の力に憧れ、欲し、求め続けた。
一番先にアルケラの力を得ることが出来るのは、どの種族だろう。戦争を続けながら、3つの種族は先を競った。
やがて、ヴィプネン族は最大の禁忌を冒す。そのことがきっかけで、アルケラは何処かへ消え去り、各惑星は甚大な被害を被り、多くの生命が失われた。もっとも被害が大きかったのは、惑星ヒイシだった。
それから1万年の時を経て、現在の世界がある。今も、3つの種族と3つの惑星が、世界を形作っていた。
分厚い本を、そっと閉じる。板のように硬い深緑色の表紙には、金の文字で『歴史』とだけ綴られていた。
「我々メリロット王家は、失われた神王国ソレル、ヤルヴィレフト王家の正統なる末裔なのだ」
白の混じった黒い髭をさすりながら、初老の男は厳かに呟いた。
「ハワドウレ皇国などと、どこの馬の骨とも知らぬ輩の興した国などに、いつまでも蹂躙されているなど耐えられぬ」
杖を持つ手がプルプルと震える。男は水晶の床の上にたたずみ、ふと面を上げた。
深い青の空間に、巨大な月が浮かんでいる。その月の明かりを受けて、水晶が波のように柔らかく煌いていた。
「返してもらう。なにもかも」
惑星ヒイシ全土を揺るがすほどの、衝撃のニュースが世界を駆け巡った。
ソレル王国が周辺の小国と連合を組み、ハワドウレ皇国に宣戦布告を発したのだ。
およそ千年前、惑星ヒイシには小国が複数乱立するのみだった。領土争いが絶えず、小競り合い規模の戦争は、毎年のように繰り返されていた。
ハワドウレ国という小さな都市国家を治めていたワイズキュール家が立ち上がり、ワイ・メア大陸をはじめ、モナルダ大陸、ウエケラ大陸、シェフレラ群島、フロックス群島にある国々を併呑し、ハワドウレ皇国というヴィプネン族の種族統一国家を成した。
しかし数十年の時を経て、独自に国を興して離反する者たちも現れ、現在17の小国と5つの自由都市が公で認めらている。
自由都市は他惑星にも存在し、自治が認められ他国の介入を許さない。援助を受けることも出来ないが、支配されることもなく、それは3種族の間で法的に認められていることだ。
小国の場合は自由都市とは違い、長い戦争と外交を経て、ある程度の自治は認められていた。しかしハワドウレ皇国の属国であることに変わりはない。
ソレル王国はモナルダ大陸の一部海岸沿いを治めていて、超古代文明にまつわる遺跡が多く出土することから、学術的な研究員や学生が集い、モナルダ大陸のなかでは賑わいを見せる豊かな国だ。そんな平和とも思える国が、周辺小国と連合を組んで、ハワドウレ皇国に宣戦布告するなど、誰が想像できただろう。
ソレル王国を治めるメリロット王の評判は良く、善政を敷く素晴らしい王だと、国民からも慕われていた。
惑星ヒイシはヴィプネン族、惑星ペッコはアイオン族、惑星タピオはトゥーリ族が治めていた。それぞれの惑星には種族の統一国家があり、そして種族間で戦争が絶え間なく起こっていたのだ。
戦争の火種の詳細は、後世にはあまり伝えられていない。
一説によると、火種はアルケラだという。神々と幻想の住人たちが暮らす世界のことだ。
アルケラはどの惑星からも、月のように最も近くに存在し、しかし誰も到達することができない距離にあると言われていた。
月そのものがアルケラだ、という伝承もある。月は各惑星の軌道に存在しているが、それ自体が幻だと言う。3つ惑星で見える月は一つのものであり、各惑星にその姿を写しているだけ。月こそがアルケラだと伝える者もいた。
存在を信じているのに、目に見え、形あるものなのに、手が届きそうで届かない。
人々は神の持つ超常の力に憧れ、欲し、求め続けた。
一番先にアルケラの力を得ることが出来るのは、どの種族だろう。戦争を続けながら、3つの種族は先を競った。
やがて、ヴィプネン族は最大の禁忌を冒す。そのことがきっかけで、アルケラは何処かへ消え去り、各惑星は甚大な被害を被り、多くの生命が失われた。もっとも被害が大きかったのは、惑星ヒイシだった。
それから1万年の時を経て、現在の世界がある。今も、3つの種族と3つの惑星が、世界を形作っていた。
分厚い本を、そっと閉じる。板のように硬い深緑色の表紙には、金の文字で『歴史』とだけ綴られていた。
「我々メリロット王家は、失われた神王国ソレル、ヤルヴィレフト王家の正統なる末裔なのだ」
白の混じった黒い髭をさすりながら、初老の男は厳かに呟いた。
「ハワドウレ皇国などと、どこの馬の骨とも知らぬ輩の興した国などに、いつまでも蹂躙されているなど耐えられぬ」
杖を持つ手がプルプルと震える。男は水晶の床の上にたたずみ、ふと面を上げた。
深い青の空間に、巨大な月が浮かんでいる。その月の明かりを受けて、水晶が波のように柔らかく煌いていた。
「返してもらう。なにもかも」
惑星ヒイシ全土を揺るがすほどの、衝撃のニュースが世界を駆け巡った。
ソレル王国が周辺の小国と連合を組み、ハワドウレ皇国に宣戦布告を発したのだ。
およそ千年前、惑星ヒイシには小国が複数乱立するのみだった。領土争いが絶えず、小競り合い規模の戦争は、毎年のように繰り返されていた。
ハワドウレ国という小さな都市国家を治めていたワイズキュール家が立ち上がり、ワイ・メア大陸をはじめ、モナルダ大陸、ウエケラ大陸、シェフレラ群島、フロックス群島にある国々を併呑し、ハワドウレ皇国というヴィプネン族の種族統一国家を成した。
しかし数十年の時を経て、独自に国を興して離反する者たちも現れ、現在17の小国と5つの自由都市が公で認めらている。
自由都市は他惑星にも存在し、自治が認められ他国の介入を許さない。援助を受けることも出来ないが、支配されることもなく、それは3種族の間で法的に認められていることだ。
小国の場合は自由都市とは違い、長い戦争と外交を経て、ある程度の自治は認められていた。しかしハワドウレ皇国の属国であることに変わりはない。
ソレル王国はモナルダ大陸の一部海岸沿いを治めていて、超古代文明にまつわる遺跡が多く出土することから、学術的な研究員や学生が集い、モナルダ大陸のなかでは賑わいを見せる豊かな国だ。そんな平和とも思える国が、周辺小国と連合を組んで、ハワドウレ皇国に宣戦布告するなど、誰が想像できただろう。
ソレル王国を治めるメリロット王の評判は良く、善政を敷く素晴らしい王だと、国民からも慕われていた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる