上 下
192 / 358
第九章 グンマー連合王国

第192話 リーダーの使命

しおりを挟む
 ――一月二日。

 大晦日、新年の大騒ぎも終わり、キャランフィールドは、早くも通常営業だ。

 俺も執務に精を出す。
 執務室で書類を片付けていると、ルーナ先生と黒丸師匠がやってきた。

 俺は仕事の手を止めて、二人を応接ソファーに案内する。

 ルーナ先生が、いつにも増してジトッとした目で真面目に話し出した。

「大事な話がある」

「伺いましょう」

「新年を寿ぐ宴は、いつ?」

「一月十五日を予定しています」

 この異世界にも暦はある。
 一年を十二の月に区切り、一月は三十日だ。

 そして、フリージア王国では、一月に王宮で『新年を寿ぐ宴』が開催される。
 フリージア王国の貴族が集まり、社交が行われるのだ。

「では、国王の退位やグンマー連合王国の発足は、その場で?」

「はい。新年を寿ぐ宴で、発表します」

「アンジェロ。リーダーの使命が何かわかる?」

「えっ!? リーダーの使命ですか!?」

 リーダーの使命ね……。
 あまり考えたことがなかった。

 チラッとルーナ先生と黒丸師匠を見るが、かなり真面目な顔をしている。
 いつもの冗談ではなさそうだ。

 ちゃんと答えておこう。

「うーん……。良い政治を行う……でしょうか?」

「それは国王の仕事。私の問いは、リーダーの使命」

「リーダーの使命……」

 抽象的だな。
 何だろう?

「決断するとか……、判断するとか……?」

「それはリーダーの仕事」

 俺はしばらく考えたが、答えを思いつかなかった。

「降参です。リーダーの使命とは何でしょう?」

「リーダーの使命は、進むべき道を示すこと」

「進むべき道ですか?」

「そう。アンジェロは、グンマー連合王国の総長、みんなのリーダーになる。私たちが進むべき道を示す」

「道を示す……」

 うーん、ルーナ先生の言うことは、何となくわかるが、それでも抽象的だ。

 ルーナ先生と黒丸師匠が、俺のことを心配して、大事なことを伝えに来たのはわかった。
 それが、リーダーの使命なのかな?

 しかし、これまでの話では、具体的に何をすれば良いのかわからない。
 進むべき道と言われてもなあ……。

 俺が考え込んでいると、黒丸師匠が話し出した。

「アンジェロ少年。我々の戦闘を思い出すのである」

「我々の戦闘? 『王国の牙』のですか?」

「そうである。我々の戦闘指揮はルーナである。ルーナは、戦い方を決めてあるのである」

 俺たちの基本的なパターンは、黒丸師匠が前衛で魔物を引きつけ、俺とルーナ先生が魔法で仕留める。

「ええ。黒丸師匠が前へ出ますよね?」

「そうである。それがしは、前へ出て敵とガンガン打ち合えば良いのである。戦闘の方針が決まっているので、迷うことがないのである」

「なるほど……」

 言いたいことが、わかってきたぞ。
 進むべき道とは、国の方針とか、基本的な考え方のことだな。

「わかりました。つまり、お二人はグンマー連合王国発足を発表するまでに、みんながどうすれば良いか悩まないように、国の基本方針などを定めておけと?」

「そうである。手足となって動くのは、じい殿やシメイ殿、第二騎士団の面々がいるのである。アンジェロ少年は、彼らが何をすれば良いか、わかりやすくしてあげるのである」

 そう言うと黒丸師匠は、ニッコリと笑った。
 弟子に物を教える優しい師匠の顔だ。

 俺の受け持つ範囲――領土や領地は広範囲になった。
 最初に北部王領を開発していた頃のように、気心の知れたメンバーとこまめに話し合いながら領地経営を進めるのは難しいだろう。

 俺が転移魔法であちこち移動するとしても限界がある。
 ルーナ先生と黒丸師匠が言う進むべき道を示し、その方針にそって現場で判断実行してもらわなければ。

 けれど、ルーナ先生と黒丸師匠が言うことは難しくないか?

「しかし……それって、難しいですよね?」

 俺が腕を組んで唸りながら質問をすると、ルーナ先生が優しい口調で答えてくれた。

「難しく考えることはない。アンジェロが、『国をこうしたい』と思ったことを言葉にすれば良い」

「じゃあ、例えば『ガンガン戦争をして、大陸を統一する』とか?」

「アンジェロがそうしたければ、そう言えば良い」

「……」

 俺はかなり物騒な発言をしたのだが、止めないのだな。

 俺がどうしたいか?
 そうだな……。

「戦争は……、もう、遠慮したいですね。沢山人が死にましたし、俺も沢山殺しました」

 降りかかる火の粉は払うが、アレクサンダー大王やチンギスギスハンじゃあるまいし、『地の果てまで征服する』なんて野望を、俺は持っていない。

 俺は言葉を続ける。

「平和にみんなが仲良く暮らせる国になると良いですねえ……。それで商取引がバンバン増えて、みんな儲かって、食べたいものを食べて、欲しい物を買って……。クリスマスみたいなイベントも増やしたいですね」

 そうすれば、この世界が文化的に向上するだろうし、女神ジュノー様に頼まれた『この世界のポイントをアップする』になる。
 女神様たちからの頼み事も達成できる。

 ルーナ先生と黒丸師匠は、目を細めた。

「とても素敵。私も、そんな国に住みたい」

「良いのであるな。アンジェロ少年に力を貸した甲斐があるという物である」

 そう言ってもらえると嬉しいな。

「ルーナ先生、黒丸師匠。ありがとうございました。新年を寿ぐ宴までに、もう少し考えて、具体的な形にしてみます」

 俺の宿題が増えた。
 それも急いで片付けなければならない宿題だ。

 けれど、俺は悪くない気分だった。


 *


 その晩、ルーナ・ブラケットと黒丸は、食堂で酒を酌み交わした。

「新しい国に!」

「アンジェロ少年に!」

 二人は、自分たちの弟子が建国することに喜び、また、自分たちが建国に関わったメロビクス王大国が滅ぶことに一抹の寂しさを覚えていた。

「ルーナ。メロビクス王大国は、正式に、いつなくなるのであるか?」

「じい殿に聞いた。新年を寿ぐ宴で、メロビクス王大国の解体が発表される」

「そうであるか……。メロビクスは残念だったのである」

 黒丸は木製のカップに入ったワインを飲み干す。
 ルーナは、食堂のテーブルにのせられたツボから、黒丸のカップにワインを注ぐ。

「新しい国は、どうなるであるか?」

「支配領域が広い。メロビクス王大国よりも広いのだから、統治が大変」

「ふむ……。そこでアンジェロ少年の連合王国構想であるな」

「そう。良いと思う。あとは、技術開発が進めばもっと良い」

 今度は、ルーナが木製のカップに入ったワインを飲み干した。
 黒丸がツボから、ルーナのカップにワインを注ぐ。

「次は、何の技術であろうか?」

「アンジェロとちょっと話したら、世界を狭くすると言っていた」

「世界を狭く? それは魔法の話であるか?」

「違う。アンジェロいた世界では、グースのような飛行機が沢山飛んで、ケッテンクラートのような自動車が沢山走っていたらしい」

「ニッポン国であるな」

「そう。それで移動時間が短くなって、自分の行きたい所へ、誰でもすぐ行けるようになった」

「それが世界を狭くするという意味であるか!」

「そう。楽しみ。行ったことがない国に行く」

「それは楽しみであるな!」

 二人は、他愛のない話を続けながら杯を重ねた。
 これから平和で楽しい時間が続くと、長命種の二人は喜ぶのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転移は分解で作成チート

キセル
ファンタジー
 黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。  そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。  ※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。  1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。  よろしければお気に入り登録お願いします。  あ、小説用のTwitter垢作りました。  @W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。  ………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。  ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

転生獣医師、テイマースキルが覚醒したので戦わずしてモンスターを仲間にして世界平和を目指します

burazu
ファンタジー
子供の頃より動物が好きで動物に好かれる性質を持つ獣医師西田浩司は過労がたたり命を落とし異世界で新たにボールト王国クッキ領主の嫡男ニック・テリナンとして性を受ける。 ボールト王国は近隣諸国との緊張状態、そしてモンスターの脅威にさらされるがニックはテイマースキルが覚醒しモンスターの凶暴性を打ち消し難を逃れる。 モンスターの凶暴性を打ち消せるスキルを活かしつつ近隣諸国との緊張を緩和する為にニックはモンスターと人間両方の仲間と共に奮闘する。 この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも連載しています。

異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女

かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!? もふもふに妖精に…神まで!? しかも、愛し子‼︎ これは異世界に突然やってきた幼女の話 ゆっくりやってきますー

処理中です...