上 下
191 / 358
第九章 グンマー連合王国

第191話 餅つき大会とコカトリス雑煮(お正月閑話)

しおりを挟む
 ――年が明けた。

 新年といっても、この異世界には、新年らしいイベントはない。

 あまり文化文明が発展していない為だろう。
 王宮では新年を寿ぐ宴を一月中に開催するが、平民は新年だろうが働く人は多い。

 だが、俺は元日本人!
 正月と聞けば、ジャパンの血が騒ぐ!
 ジャパーーーーン!

 そこで、餅つき大会を開催し、お雑煮をキャランフィールドの人々に振る舞うことにしたのだ。

 準備において満塁ホームラン級の活躍をしたのは、従兄弟の商人ジョバンニだ。

 最初、俺は、小麦を使って餅もどきを作ろうとしていた。
 するとジョバンニが、もち米や醤油など、ジャパンテイスト溢れる食材を持ってきてくれたのだ。

 なんでも、大陸東部にヤシマという国があるらしい。
 このヤシマ国から大陸公路を伝って、米、醤油など、ジャパンテイスト溢れる食材が少量だが輸入されるらしい。
 運良く、年末にヤシマからの荷が、商業都市ザムザに入荷したそうだ。

 ――もち米と醤油。

 ここまで条件が揃ったら、餅つきをやるしかないでしょう!
 俺はキャランフィールドの広場に、主立ったメンバーを集めた。

 臼と杵は、手先の器用な獣人リス族に作ってもらった。

 まず、トップバッターは、ホレックのおっちゃんだ。
 やはり異世界の力持ちと言えば、ドワーフ族だろう!
 筋骨隆々のドワーフなら、餅つきを始めるに相応しい。

 ホレックのおっちゃんは、しげしげと手に持った杵を見つめた。

「変わった形のウォーハンマーだな……。それに木製か……。耐久性はどうだろう?」

「ホレックのおっちゃん。それは杵だよ」

「キーネね。ふむ……試してみるか……。そりゃ!」

 ホレックのおっちゃんは、勢いよく杵を振り下ろした。
 まだ、もち米の入っていない、空の臼なのに……。

 ドカンと大きな音がして、臼が真っ二つに割れてしまった!

「どうだ! みたか!」

「おっちゃん! 何やってるんだよ!」

「えっ!? 何って? ウォーハンマーの試し打ちだが?」

「だから、それはウォーハンマーじゃないよ! 杵! 餅を作る為の、道具なんだよ! 食料加工用の道具だよ!」

「えっ!? そうなのか? いや~。悪い、悪い! お詫びにオリハルコンで、この壊しちまったウッスを――」

「作らないで良いから! 予備があるから! おっちゃんは、オリハルコンを打ちたいだけだろう!」

「バレたか! ガハハ!」

 まったく!
 新年早々、物を壊すなよ!

 人選を誤った。
 ホレックのおっちゃんは、鍛冶場に縛り付けておくべきなのだ。

「アンジェロ! 食べ物のことなら、私に任せる」

「ルーナ先生……と、イセサッキ!?」

「グアアア♪」

 イセサッキにまたがって、ルーナ先生が登場した。
 餅つきにグンマークロコダイルは、不要だと思うが……。

 今度は、まず、俺がやってみせることにした。

「このように、蒸したもち米を臼に入れます。そして、この杵でペッタンペッタンとつきます」

「ペッタン! ペッタン!」

「グア! グア!」

 ルーナ先生に続いて、イセサッキが鳴き声を上げる。
 イセサッキには、関係ないぞ!

「それで、本当は二人でやるのですが、相方が手を水で濡らして、こうクルリと――」

「クルリ! クルリ!」

「グア! グア!」

 俺は臼の中で、もち米を裏返してみせる。

「こんな具合にして、もち米をついて、餅を作るのです」

「なるほど。じゃあ、アンジェロがペッタンする。私がクルリ担当」

 ルーナ先生が腕まくりをして、臼の近くに座って構えた。

「じゃあ、いきますよ! ホッ! ホッ!」

「クルリ!」

「ホッ! ホッ!」

「クルリ!」

 やはり子弟だから、息が合う!
 しばらくすると、餅がつきあがった。

 横で見ていた黒丸師匠が、餅を指で押しながら喜ぶ。

「ほう。これがモッチーであるか。柔らかいパンであるか?」

「そうですね。パンと同じで主食です。祝い事があった時に食べます」

「それはゲンが良いのである!」

「後でお雑煮という料理にします。もっと、餅を作りましょう!」

 今度は黒丸師匠が杵を持って、餅をつく。
 引き続きルーナ先生がひっくり返し役だ。

「ホッ! ホッ!」

「クルリ!」

「ルーナ先生。クルリじゃなくて、ハイで良いですよ」

「わかった」

 この二人も息が合う。
 長年、冒険者パーティーを組んでいた成果が現れているな。

「ホッ! ホッ!」

「ハイ」

「ホッ! ホッ!」

「ハイ」

 また、餅が一つ出来上がった。

 うん! うん!
 お正月感があって、良いね!
 元日本人としては、この光景に満足だよ!

 するとルーナ先生が、意味不明のことを言い出した。

「今度は、イセサッキとお餅をつく」

「イセサッキとですか!?」

 イセサッキは、ワニ型の魔物だから杵を持てない。
 餅つきは出来ないだろう……。
 いや、ひょっとして、口に杵をくわえるのかな?

「じゃあ、イセサッキ……。これが杵だよ」

「グア!」

「えっ!? いらないの!?」

 イセサッキは、首を横に振って杵は不要と意思表示した。

「イセサッキ、いくぞ!」

「グアア♪」

 ルーナ先生とイセサッキコンビによる餅つきが始まった。

「グア♪ グア♪」

「ハイ!」

「グア♪ グア♪」

「ハイ!」

 なんと、イセサッキは、大きい尻尾を杵代わりにして、ペッタンペッタンと尻尾で餅をついている。
 いや、ペッタンペッタンというよりは、ビタンビタンだ。

「おお! イセサッキもやるであるな!」

 黒丸師匠は感心しているが、これ、いいの?
 餅が一つ出来上がると、突然イセサッキが遠吠えした。

「グアアアーーーー!」

 イセサッキが遠吠えすると、マエバシ、タカサキ、ミドリが、グンマークロコダイル部屋から駆けてきた。

 四匹が臼を取り囲むポジションを取る。
 まさか……。

「マエバシ! タカサキ! イセサッキ! ミドリ! グンマーストリーム餅つきをかけるぞ!」

「「「「グアアアア♪」」」」

「あああ! やっぱり!」

 四匹のグンマークロコダイルが、大きな尻尾を上下させ餅をつきだした。

 ビタン!

 ビタン!

 ビタン!

 ビタン!

 尻尾が餅を叩く度に、景気の良い音が響く。

 ビタン!

 ビタン!

 ビタン!

 ビタン!

「ハイ!」

 ビタン!

 ビタン!

 ビタン!

 ビタン!

「ハイ!」

 なんということでしょう!
 あっという間に、餅がつき上がってしまった!

 グンマーストリーム餅つき!
 恐るべし!

「で、では、お雑煮を作りましょう!」

 食堂のキッチンに移動して、お雑煮作りだ。

 俺は前世では東京出身なので、餅は四角い角餅だ。
 餅は一度焼いてから、器によそう。

 お雑煮の具は、昨晩倒したコカトリスの肉を使って鶏肉風にする。

 野菜は、魔の森に生えている野草を使う。
 長ネギに似た野草ギーネを斜め切りにし、ほうれん草っぽい野草パイポをたっぷり入れる。

 醤油で味付けをして、三つ葉に似た薬草を上にのせれば出来上がり。

 早速食べてみると、なんとも懐かしい!
 実家で食べた鶏肉を使ったお雑煮っぽい味がする!

「なかなか旨いのである!」

 黒丸師匠は気に入ってくれたらしい。
 お箸が使えないので、俺以外は木製のフォークでお雑煮をパクついている。
 イセサッキたちも、皿に盛られた雑煮をご相伴だ。

「コカトリス雑煮美味しい。来年も暴走する」

「「「「グアア♪」」」」

「来年は、暴走しませんよ!」

 ルーナ先生から、何気に危険な発言があったので、すぐに打ち消す。

 食堂は大賑わいで、領民たちが振る舞った雑煮を珍しそうに、美味しそうに平らげていく。

 なかなか、平和で幸せな光景だ。
 毎年、この光景が見られるようにがんばろう。

 俺はルーナ先生と黒丸師匠に向くと、居住まいを正し、頭を下げた。

「ルーナ先生! 黒丸師匠! 今年もよろしくお願いします!」

「うん! 今年もよろしく!」

「今年もよろしくなのである!」

「「「「グアアー♪」」」」
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

転生獣医師、テイマースキルが覚醒したので戦わずしてモンスターを仲間にして世界平和を目指します

burazu
ファンタジー
子供の頃より動物が好きで動物に好かれる性質を持つ獣医師西田浩司は過労がたたり命を落とし異世界で新たにボールト王国クッキ領主の嫡男ニック・テリナンとして性を受ける。 ボールト王国は近隣諸国との緊張状態、そしてモンスターの脅威にさらされるがニックはテイマースキルが覚醒しモンスターの凶暴性を打ち消し難を逃れる。 モンスターの凶暴性を打ち消せるスキルを活かしつつ近隣諸国との緊張を緩和する為にニックはモンスターと人間両方の仲間と共に奮闘する。 この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも連載しています。

受験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の成果を見せつける-

haruhi8128
ファンタジー
受験を間近に控えた高3の正月。 過労により死んでしまった。 ところがある神様の手伝いがてら異世界に転生することに!? とある商人のもとに生まれ変わったライヤは受験生時代に培った勉強法と、粘り強さを武器に王国でも屈指の人物へと成長する。 前世からの夢であった教師となるという夢を叶えたライヤだったが、周りは貴族出身のエリートばかりで平民であるライヤは煙たがられる。 そんな中、学生時代に築いた唯一のつながり、王国第一王女アンに振り回される日々を送る。 貴族出身のエリートしかいないS級の教師に命じられ、その中に第3王女もいたのだが生徒には舐められるばかり。 平民で、特別な才能もないライヤに彼らの教師が務まるのか……!? 努力型主人公を書いて見たくて挑戦してみました! 前作の「戦力より戦略。」よりは文章も見やすく、内容も統一できているのかなと感じます。 是非今後の励みにしたいのでお気に入り登録や感想もお願いします! 話ごとのちょっとしたものでも構いませんので!

ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります(アルファ版)

武蔵野純平
ファンタジー
「君は次の世界に転生する。その前にガチャを引いた方が良いよ」 ガチャを引けば特別なスキルカードが手に入ります。 しかし、ガチャに使うコインは、なんと主人公の寿命です。ガチャを引けば次の世界での寿命が短くなってしまいす。 寿命と引き換えにガチャを引くのか? 引かないのか? そして、異世界に転生した主人公は、地獄で引いたガチャで特殊なカードを貰っています。 しかし、そのカードの使い方がわからず、Fランクの冒険者として不遇の日々を送ります。 カードの使い方に気が付いた主人公は、冒険者として活躍を始めます。

処理中です...