【改訂版】特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第一部 『特殊な部隊始まる』

橋本 直

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不吉なる演習場

第81話 過去の物語

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「なんか……私の席、神前君から遠くない?」

 不服そうに抗議するパーラだが、カウラとかなめからの殺気を帯びた視線を浴びると仕方ないというように静かにうなだれた。

「小夏!アタシの酒!」

 かなめが叫ぶと、店の奥からラム酒のボトルを持った藤色の和服を着たこの店の女将の家村春子いえむらはるこが現れた。

「すみませんね……いつもごひいきに。西園寺さんの『レモンハート』。まだまだケースであるわよ」

 女将らしい女性はそう言ってラム酒のボトルをかなめのカウンターの上に置いた。

「ケースで頼むとは……西園寺。貴様は飲みすぎだぞ」

「うるせえんだよ!」

 たしなめるようなカウラの言葉に明らかに嫌な顔をしながらかなめはこたえた。

「じゃあ、いつものコースでいいわよね」

 アメリアはそう言って一同の顔を見回す。注文を待つ焼き鳥の調理場のおじいさんの隣に現れた春子がニコニコ笑顔を浮かべていた。

「俺!豚串追加で。前回足りなかったんで」

 島田がタバコをくゆらせながらつぶやいた。

「神前、レバーはやるわ。アタシあれ、苦手だから」

「はあ」

 かなめの言葉にレバーがあまり好きではない誠も命が欲しいのでうなづくしかなかった。

「分かったわ。源さん!盛り合わせ7人前に豚串!」

 春子はそう言って奥の冷蔵庫に向かった。

「毎回ここですね……」

 誠はとりあえず一番話題を振らないとめんどくさそうなかなめに話しかけた。

「ここが一番サービスが良いの!チェーン店の焼鳥屋はラム酒置いてねえだろ?」

「意地でもラム酒を頼む貴様がどうかしてるんだ」

「なんだと!」

「お二人とも……抑えて」

 両脇のカウラとかなめのいさかいにおびえながら誠はそう言った。能天気なサラは春子から渡されたビールの中瓶を隣のカウラに手渡した。

「私は運転してきているんだ。飲まないぞ」

 そう言うとカウラはビール瓶を誠に手渡す。

「じゃあ、注いでよ。誠ちゃん」

 背後からやってきた小夏からグラスを受け取ったアメリアはそう言って誠にビールを注ぐように促した。

「じゃあ注ぎますね」

 誠はそう言ってビール瓶を手にアメリアに向き直った。

「ちゃんと『ラベルは上』にして注ぐのよ。それがうちのルールだから」

 笑顔のアメリアは相変わらずの糸目で誠からはその考えているところがよくわからなかった。

「烏龍茶……は、パーラさんとカウラさんだけ?」

 春子が烏龍茶の入ったグラスをパーラとカウラのカウンターに並べる。パーラはビールをサラのグラスに注ぎながら静かに頭を下げていた。

「そう言えば、隊長達は来ないんですか?」

 それとなく誠が隣のカウラに尋ねる。カウラは一口、烏龍茶を口にすると真顔で誠に向き直る。

「隊長は小遣い三万円だ。普段はこんな店に来る金があるはずがない」

 カウラはそうはっきりと断言した。

 誠は嵯峨が高校生並みの小遣いで、どうやってオートレースの資金を捻出しているのか不思議に思いながらかなめに目をやった。

「ああ、叔父貴?あのおっさんはやたら運がいいのか、読みが鋭いのか、結構勝ってるみたいだぞ。まあ当然負ける時もあるみたいだから隊の連中に借金しているときもあるけどな。そんなだから給料全部娘に取り上げられて小遣い制にされるんだよ」

 乾杯を待たずにラム酒のグラスを傾けるかなめの言葉に、少しばかり嵯峨と言う上司の寂しい背中が思い出される誠だった。

「じゃあ、注ぎ終わったことだし!乾杯しましょう!」

 アメリアの言葉で全員がグラスを上げた。

『乾杯!』

 軽くグラスを合わせていると、春子と小夏がシシトウの焼き物の載った皿を配り始めた。

「いいねえ……夏だねえ……」

 かなめはそう言いながらシシトウをつまみに酒を飲む。

「でも……この中で普通の人間て……男子だけなんですね」

 そんな何気ない一言を言った誠の頭をアメリアがはたいた。

「何よ!私達が人間じゃないって言いたいわけ?確かに地球の一部の国は私達を人間として認めてないところもあるけど、私は人間。意思もあるし、心もある。しかも笑いにはうるさい。寒いアメリカンジョークしか言えない外人が人間扱いされてるのになんで私達『ラスト・バタリオン』が人間じゃないって決められてるわけ?変でしょ?」

 思い切り誠に顔を寄せてくるアメリアにたじろぎながら誠はシシトウを口に放り込んだ。

 それは『当たり』だった。

 口の中に火が付いたような辛みが広がって誠は思わずむせながらビールをあおった。

「人をメカ呼ばわりするからそうなるんだ。それにだ。オメエも島田も遼州人だから、地球人の遺伝子は継いでねえんだ。その点、ここにいる女子はみんな地球人の遺伝子を継いでる」

 ラムを舐めながらそう言ってかなめは笑った。

「西園寺さんのお父さんかお母さんが地球人なんですか?」

 何とか口の中の辛みが取れ始めた誠はそう言ってかなめのたれ目をのぞき見た。

「アタシの親父が地球系だな。『甲武国』っていうアタシの生まれた国はほとんどが地球人だから。そこで政治家をやるには地球人である方が好都合ってわけ」

 笑いながらかなめはシシトウをかじった。

「お父さんが政治家……もしかして、西園寺さんは貴族なんですか?あそこの政治家は全員貴族って聞いてるんで」

 誠はそう言って恐る恐る残ったシシトウを口に運んだ。

「神前。貴様の社会常識の無さは致命的だな。西園寺の父親は甲武国宰相、西園寺義基。こいつは宰相令嬢ってわけだ」

 カウラは『当たりのシシトウ』を口にしたらしく顔をしかめながらそう言った。

「宰相令嬢!?お嬢様!?なんでそんな偉い人がうちみたいな『特殊な部隊』で女ガンマンやってるんですか?」

 思わず誠は叫んでいた。昨日の出来事で、この『特殊な部隊』が死と隣り合わせの危険な仕事なのは誠にも分かっている。そんなところに自分の娘を置いておく権力者の父の気持ちが誠には理解できなかった。

「神前……てめえはしょせん庶民だな。だからこそ……自分の娘だからこそ死地に置かなきゃいけねえ。それが『貴族主義国家』の『貴族精神』って奴だ。それにアタシはどうもお上品なのが苦手でね……貴族出身武官のお高く留まったのとは距離を置きたいの!」

 そう言うかなめの手に高そうな葉巻が握られていることに誠は驚きつつ、当たりではないシシトウを飲み込んだ。

 宰相令嬢らしいところは高そうな葉巻を悠然とくゆらせているところくらい。きっちりとシシトウをかじりながら酒を舐めるかなめの姿に、誠はただ理解不能な存在を見つめる目で眺めていた。

「あのー西園寺さん。本当に偉い人の娘なんですか?なんでサイボーグなんですか?」

 誠の当たり前の問いにかなめはひとたびくゆらせていた葉巻を灰皿に置いた。

「馬鹿だなあオメエは。一応、この東和共和国でもサイボーグ化しないと一命にかかわる事故を負うと保険で民生用の義体を支給されるけど、甲武国では人間が増えっからそんな制度ねえんだよ」

「え!じゃあ、庶民が事故に逢ったら……」

「金持ってねえと死ぬしかねえの!あの国は!地球だって採算に合わないからサイボーグ保険なんて金持ちのみの特権なんだから。アタシがサイボーグなのはアタシが金持ちの貴族だからに決まってんだろ?それともテメエはそんなにアタシが下品だと言いてえのか?」

 かなめはそう言いながら右手を左わきのスプリングフィールドXDM40に伸ばした。

「違いますよ!でもそんなにVIPだったら怪我なんて……」

 そこまで誠が言ったところでかなめは右手を再び葉巻に向けた。

「うちはな。代々政治家の家なんだよ……しかも、何人も宰相を輩出したクラスのな」

 かなめはしんみりとした調子でそう言いながら春子が差し出した焼鳥盛り合わせを受け取ってカウンターに並べた。

「二十五年前の第二次遼州戦争の最中だ。アタシの爺さんは戦争反対の論陣を張る前宰相……つまり政府の目の上のたんこぶだったんだ……レバーやるわ」

 自分の焼鳥盛り合わせからレバーを取ると誠の皿に移しながらかなめは言葉を続けた。

「その朝、爺さんとアタシ、それに叔父貴のかみさんはそれなりにいい店で朝食を食ってたんだ。まあ、戦時中にそんな贅沢していること自体あまり褒められたもんじゃねえが……爺さんも負け戦をひた隠しにしてばかりの軍部に対する嫌味のつもりでそんな暮らしを続けてたんだろうな……」

 誠は不意にシリアスな表情を浮かべているかなめの言葉についていけずにただ黙り込んでいた。

「そこで軍部の仕掛けた爆弾がドカン。それで終了だ。アタシは脳と脊髄以外の体の大半を失い、叔父貴のかみさんは……死んだ」

 かなめはそこまで言うと葉巻を置いてネギまを口にくわえた。

「隊長がバツイチって……」

 誠はようやくここでかなめに声をかけることができた。そしてその内容があまりに深刻なモノだったので言葉を続けることができなかった。

「そう、叔父貴がバツイチなのは死別……まあ、その時、実は叔父貴のかみさんに間男がいたってのが救いだがな」

「それ……全然救いになってないですよ」

 誠もかなめの果てしなく救いのないボケにそうツッコまざるを得なかった。

 誠はなぜどんな悲惨な話にも意地でも落ちをつけるのかと不思議に思いながら目の前のご令嬢であるかなめに目をやった。

 かなめはネギまを食べ終えると、悠然と葉巻をふかしラム酒を口にした。

「まあ、『大正ロマンの国』の政治家の最期なんてみんなそんなもんさ。オメエは日本史苦手だから知らねえだろうけど、日本の『大正時代』もテロと騒乱事件の歴史なんだぜ。何人首相が暗殺されたと思ってんだ。現役の首相が暗殺されなかっただけましだろうが」

 そう強がるかなめの言葉にはどこかいつもの力が無かった。

「結局アタシは親父が大枚叩いてこんな体になった。3歳の時から見た目はおんなじ。まあ、ふつうグレルわな」

「今でもグレてますね。銃を抜き身で持ち歩いてるし」

 誠のさりげないツッコミにかなめはあきらめたような笑みを浮かべた。

「こんな平和なだけが自慢の東和共和国の庶民にはアタシの気持ちなんてわかんねえよ。いつ、オヤジの政敵である貴族主義の連中が首を取りにくるかわかんねえんだ。だから銃は手放せねえの。つまり護身用……まあ、マガジン入ってねえからいいだろ?」

「よくないですよ」

 かなめは銃を抜くとそのグリップの下を指さした。そこには弾丸を入れるマガジンが刺さっているところだがそこには何も入っていなかった。
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